90話 生ける屍!?
メル達が酒場へと戻る途中、シルフは慌てて彼女達の元へと来た。
そして、彼女が伝えた事は……居るはずもない魔物の存在で、それはイアーナにあふれかえっているという事だった。
「リラーグは無事、だけど……イアーナにゾンビが……生ける屍が溢れてるって……」
メルはシルフの話を聞きながらそれを皆へと伝える。
「『実は私達が門を壊したことで龍に抱かれる太陽へ依頼が出されたらしいの』」
「当然ね……門を壊すって事は魔物に怯えて暮らさなきゃいけないんだから……」
メルもそれは十分に理解していた。
だからこそ魔法で穴を閉じ、安全を確保したつもりだったのだ。
「でも、それなら門を塞いだはずだろ? メルの魔法がそんな簡単に――」
「シルフの言う事ではその向かった冒険者は街の門が壊れてて塞がれてなかったって……言ってたらしいの」
でも、確かに私は魔法を使った。
それは皆が見てる……つまり……。
「多分、ディ・スペルだと思う……でも、何でそんな事に」
ゾンビ……つまり、アンデッドはこの世界にもう存在するはずの無い魔物。
それを見たと言う事が不自然なのだ。
そもそも、不死者を見た者はリラーグの者と言えど数が限られる。
それなのに、何でそれがゾンビだって分かったの?
そもそも、そんな事簡単にばれるような事……
「でも、不死の親玉はユーリさんが倒した……オレの親もその手伝いをしたんだ間違いはない!」
「ん? どういう事なの?」
疑問を浮かべるライノ……その疑問に答えたのは――。
「タリムは死体を自由に操る魔物に支配されたんだ……だが、それは月夜の花に倒された。つまり、もうそんな魔法存在しないはず……」
「あ……そっか、リアスは知ってるんだ?」
メルがそう言うとリアスは微笑み――。
「ああ、……タリムが故郷だからな……それに――」
「それに?」
「……今思えばそう言う事だったのか……あの人がしてくれたことを忘れることは無い……」
「……リアス?」
その言葉の意味はどいう事なのか?
今度はメルが疑問を浮かべるが――リアスはそれ以上、その話を続ける気は無い様で……。
「今はそれよりもイアーナだ……なんで存在しないはずのゾンビが出て来たんだ?」
会話を戻すとメルや仲間達へと視線を向けた。
「それは……分からない、そもそも本当にゾンビなのかな?」
「おい、メル……どういうことだ? またタリムの王のような奴が生まれたのかもしれないだろ?」
リアスの言葉にメルはゆっくりと首を振る。
それもそのはず、彼女はうーんっと唸りつつ考え始めた。
ユーリママが言ってた事では元々ネクノって人は好きだった人を助けるために研究をしていた。
だけど……それがねじ曲がってその結果黒の本が出来て、死体を動かせるようになったとか……詳しい話は分からないって言ってたけど……。
「ゾンビを作るのは王の力じゃなくてアーティファクトの力……ユーリママが言うには恐らくそのアーティファクトの精霊が居ないと無理だって……でも、その精霊は――」
「ユーリさんが呪いを解いて滅したんだ……だから、個人の力でゾンビは作れない」
メルの言葉に続きシュレムはそう答えると――。
「でも、メルお姉ちゃん……そのアーティファクトを作ればいいんじゃ?」
エスイルは疑問を浮かべるが……メルは首を振る。
その理由はメルにははっきりと分かっていたからだ……。
「魔法を作るにはその事を詳しく知ってなきゃいけないの、簡単に作れるならリリアちゃんの目を治す治癒魔法だって出来るし、勿論死人を生き返らせたりする魔法も出来るの……でも、実際はそうじゃない」
そう、魔法を作るにはメルが言った通り、最初に作るその者がその現象に理解が無ければいけない。
「一度見たからって死体が動く原理とか分からないよ……」
「じゃぁ、タリムの王が持ってたのはどうやって作ったって言うんだ? だって、現に俺達は……」
「考えられるのは諦めず研究した結果……偶発的に生み出したって事だけど……だからこそ、イアーナに居るのがゾンビなのか分からないの……」
彼女は尻尾を立て、眉を寄せる。
そして、暫く考えた後に……。
「やっぱり、見てみた方が早いよね……」
それに、嫌な予感が……収まらない……。
「見てみるって今からイアーナに行くつもりか?」
眉を寄せるリアスに首を横に振って答えるメル。
そう、彼女にはたった一つ行かないでも見る方法があった。
「精霊の……瞳を借りるの、私の目の力で出来るみたいだから……でも……」
「でも……何か問題があるのか?」
リアスの言葉に今度は首を縦に振るメル。
「それを使うとメルは酷く疲れるんだよ、酷い時はぶっ倒れたりするんだ……」
「メルはただでさえ怪我をしてるんだ、無理は――」
「でも、見ないといけないの……だって――ゾンビなんて……居るはずが――」
まって、もし……本当にゾンビが居たとしたら?
ううん、居なかったとしても、居ると思わされたら?
もしmそうなら絶対にユーリママはリラーグから出て来る……。
そうなったら、ゾンビ何て敵じゃない、寧ろゾンビだとばれてたら意味が無い。
イアーナの事は私達が調べる前にはもうママ達に知られてたみたいだし、すぐにばれてもおかしくないんだから……。
何より、街の人全員を殺すなんて出来るの? もし、なにかあったなら一人や二人リラーグやリシェスに逃げてきた人が居てもおかしくない。
なのに、シルフから伝えられた情報の中には逃げて来たなんて無かった。
「メルちゃん?」
「メルお姉ちゃんどうしたの?」
ライノとエスイルは黙り込んだメルの顔を窺う……そんな中メルは目を見開き――。
ゾンビを倒す方法があるのはユーリママだけじゃない!
付加魔法での直接的な攻撃やナタリアの太陽の槍……ゾンビが居るならママ達はきっと街から出る前に倒すはず――!
そう……ゾンビが見えたなら……ママ達はきっとタリムの王の残党だと思うはず……。
「シルフ! すぐにママ達に動かないでって伝えて! それとイアーナに居る精霊……シルフ以外で外に居る子は誰が多い?」
メルは慌ててそう相棒へと尋ねると――。
『う、うん……イアーナにはやっぱりドリアードかな?』
「分かった、シルフはすぐに向かって!」
『任せて!』
そう言ったメルは部屋に置いてある植物へと目を向ける。
そこには一人ちょこんと座っているドリアードの姿があり、彼女はメルと目が合うと嬉しそうに近づいて来た。
『私は見せれば良いの?』
「うん、お願い!」
「メル……まさかさっきから話してるのは精霊か? だとしたら、また無理を――」
「う、うん……メルお姉ちゃんは精霊達と話してるよ」
リアスの質問に答えたのはエスイルで……その少年は不安そうな顔で姉と慕う少女を見る。
「ライノさん、前の苦い薬用意しておいてくれますか?」
「疲労回復のね? すぐに用意するわ」
「じゃぁ……ドリアードお願い……」
彼女はライノに薬を頼んだ後、すぐにドリアードへと向き直り――そう告げた時、腕を誰かに捕まれ振り返る。
「リアス?」
「メル、無理をし過ぎだ……少しは休んだ方が、ゾンビ相手ならユーリさんがどうにかしてくれるんだろ?」
リアスの言葉を聞きメルは真剣な表情を作り答える。
「それは……無理……」
「なんで――」
「ゾンビ何て……死んだ人が動くなんてありえないからだよ。私の予想があってるかは分からないでも……イアーナに居るのは間違いなく人だと思うから」
メルの告げた言葉はシルフが語った物とは別物。
精霊は嘘をつくことは無い。……そう言ったのならば、フィーナは本当にそう聞いてメルに伝えるようにいったのだろう、だが……。
「幻影魔法は人の瞳にもかけられる……魔法が苦手でも魔力さえあれば使える物もあるの……だからこそ、イアーナに足を踏み入れた人にほんの少しの間、幻を見せるなんて簡単なの……」
「じゃぁ……」
リアスはメルの言葉を聞き、まさかという顔を浮かべ――。
「じゃぁ、街の惨状って言うのは――」
「これから起こるのかもしれない……」
「だけどさ、メルが見ればそれが解決できるんだろ?」
シュレムのその言葉にメルは笑みを浮かべ答える。
「うん、大丈夫……踏み入れて発動するなら、最初からいれば意味が無い、精霊の目なら普段通りの姿が見えるはず」
ただ……もう一つ問題があるんだよね……。
それは――今までそこまで遠くの場所を見たことは無い、成功するかしないかなんて分からない。
でも、これが出来るのは私だけなんだ!!
メルはそう意気込むと再びドリアードへと向き直り――。
「ごめんね、待たせちゃって……お願いドリアード、目を貸して!」
『うん、良いよメル……役に立てれば良いんだけど』
願いを聞き入れてくれたドリアードに感謝しつつメルは自身の瞳の中に流れる様に入り込む景色を睨み始めた。




