89話 言葉の意味
買い物の途中、メルは何故かからかわれたり、複雑な気持ちになったりしていた。
しかし、なんとか買い物を終わらせたメル達は食事へと向かい……。
後は酒場に戻るだけだ。
メルはようやく二人っきりではない事にホッとしつつも少し残念な気持ちになるのだった。
食事を終えたメル達は宿屋へと戻る為に街中を歩いていた。
会話もまともに出来なかったメルだったが食事からは何気ない会話を出来る様になったが……。
き、緊張してご飯の味なんて分からなかったよ……。
やはり何処か落ち着きが無い様で、メルはそわそわとしていた。
そして、宿までもう少しと言う所まで来たところ……。
彼女達の間を割って入るように通り過ぎる男、メル達は慌てながらも当然それを避ける。
その時――。
「暢気なものだな……お前達の所為だっていうのに……」
「……え?」
その囁きはメルにはしっかりと聞え、慌てて振り返るも声の主はもうすでにそこには居ない。
「何かあったのか?」
「う……うん……また、私達の所為だって……」
その言葉はメル達にあてられたものなのだろうか?
だが、何通もの手紙、今の男の言動……メルには自分達に向けた物だとしか思えず。
『メル――――!!』
「シルフ?」
その精霊は叫ぶようにメルの名を呼び現れる。
いつもの様子と違う事にまさかと思うメルの顔は見る見る内に青くなっていき……。
「ま、ま……さか、リラーグ……が?」
「メ、メル!?」
その場にがくりと膝を付くメル。
そんな彼女を支えるリアスもまたメルの名を呼ぶ、だが……。
『違うよメル! リラーグは無事だけど、だけど』
「え?」
リラーグが無事と聞き一瞬その顔が嬉しそうに歪んだが、メルはすぐにまた表情を戻した。
素直に喜べないのだ……リラーグが無事というのは嬉しい。
だが、その代わり何処かの街には何かがあった……シルフのその表情で彼女は理解し……。
『イアーナが……ゾンビの巣窟になったって、逃げて帰ってきた冒険者が言ってたって……フィーが言ってた……』
「イアーナ?」
その街の名は忘れることは無いだろう……なにせメルが門を壊して脱出すると言う犯罪まで犯している所なのだ。
だが、それも首飾りを狙う者達に買われた人達から逃げる為であり、街にも被害を及ばぬようにしたはずだった。
だというのに――。
「メル? もしかしてシルフが戻ってきたのか?」
精霊が見えぬリアスは彼女に問い、メルはその問いに頷く。
「シ、シルフどうしてイアーナが? それにゾンビって……もう」
もう居るはずの無い魔物……。
メルも話に聞いた事がある生ける屍、それは母ユーリが倒したタリムの王が持つアーティファクトである黒本ネクノの力が無ければ作れない。
そして、そのネクノと言うアーティファクトはもうすでにこの世にないのだ。
それはユーリ意外にもしっかりと確認したものが居り、間違いはない。
『分からない、でも酒場の冒険者が飛んで見に行ったみたいなの! そうしたら門が壊れれて話に聞くゾンビが居たって……一応その冒険者も街の外で見張ってるみたいだけど……』
「そんな……だ、だって門は――」
直したはず……魔力も込めたし、時間経過で魔法が解けたとしても新しい門を作る位は出来る。
術者である私が直接見て解除するかディ・スペルぐらいしか……でもディ・スペルなんて使える人が殆どいないのに……。
「メル!! 何が遭ったんだ?」
「あ……」
メルの肩にリアスの手が乗り、彼女は思わず声を漏らす。
そして、彼の方へをおずおずと視線を向けると――。
「み、皆にも話した方が良いから……まず宿に向かおう?」
「え? ああ……そうだな、その方が良いかもしれない」
「ご、ごめんね?」
メルは申し訳なさそうに上目遣いでリアスを見ると彼は目を背け……。
「い、いや……俺達だけで話しても駄目だろう、早く戻ろう」
「うん!」
メルはリアスに差し出された手を握り、宿へと急いだ。
「あら、お帰りなさい、意外と早かったのね?」
「「メルお姉ちゃん」」
部屋へと戻るとライノが出迎え、リリアとエスイルの二人はメルの方へと駆け寄ってきた。
「ただいま、エスイル、リリアちゃん」
メルは二人の名を呼ぶと、二人は笑みをこぼすが……メルの顔は綻ばず……。
「何かあったのか? まさかリアスお前――」
彼女の様子に気が付いたシュレムは眉を吊り上げ、リアスへと詰め寄る。
だが、メルは慌ててシュレムを手で制する。
「違うの、その……シルフが帰って来て……」
その事を口にするとシュレムはその顔を途端に青ざめさせ、慌ててメルの両肩を掴み……前後に揺らす。
「まさか、なぁ? 嘘……だろ!? だってユーリさんもフィーナさんもナタリアさんだってオレの親だっているんだぞ!? そんな簡単に――」
「ちょ、ちょっとシュレム!?」
「メル、なぁ……嘘だろ! メル!!」
まだ何も口にしていないと言うのにシュレムは勘違いをする。
それも当然だろう、手紙を読み、最初にその事を恐れたのはメルの目の前に居る少女シュレムだ。
自身の両親達の危機だと思い込んだ彼女はメルの方に置く手に力を籠め……。
「痛!? シュ、レム……話を……」
「なぁ……メル……」
メルの顔が痛みで歪むと、シュレムの腕は誰かに掴まれた。
シュレムはその腕の先を睨みつけ、吼える。
「何だよ!!……リアス……」
「落ち着け……」
「落ち着けだ? これが落ち着いていられるか!! メルもだおかしいぞ! メルは皆が大好きだったはずだ! なのになんで泣いてないんだよ!!」
その怒りはメルにも当然のように向けられて、リアスはその事に溜息をつく……。
「俺も詳しい話は聞いてない、でもメルの状態からしてリラーグに何かがあった訳じゃない……だからって良い訳じゃないから、こうやって皆に話そうとしてるんだろ?」
「…………そんなの聞いてなきゃ分からないだろうが!!」
「だから、それを良く分かってるのはお前だろ? それにエスイルはどう思う?」
リアスはシュレムを落ち着かせようとしているのだろう、メルを良く知るであろう少年へと話を振る。
するとその少年エスイルは首を縦に振り――。
「僕も、そうだと思う……もしリラーグに何かあったら、メルお姉ちゃんここに戻ってこないでリラーグに向かってると思うんだ……」
「そう、だよ……リラーグは大丈夫だから……」
エスイルの言葉に頷き、痛みを堪えつつもなんとかそれをシュレムへと伝えるメル。
すると、シュレムはその視線を床へと向けると息を長く吐き出し――。
「よ、良かった……じゃぁ、なんでもなかったんだな? びっくりさせるなよ」
「そうでもないんじゃない?」
「は? でもリラーグは……」
「話はまだでしょう? メルちゃん話して……」
ほっとするシュレムとは違い、ライノは険しい顔でそうメルに言葉を促す。
メルは頷きつつ、シルフへと目を向ける。
カルロスさんは居ないけど、今は早くみんなに伝えた方が良いよね。
そう考えその口をゆっくりと動かし始め――。
「実は……シルフからの情報でイアーナが……イアーナに動く死体……ゾンビが溢れかえってるって……」
その事を語り始めた。




