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86話 策にはまったメルとリアス

 メルが受け取った紙、そこにはやけに小さい文字が書かれていた。

 それはデートを楽しめという言葉であり、ライノからの伝言だろう……。

 メルはようやくライノが何を企んでいたのかを知り、顔を真っ赤にしながら慌て始めたのだった。

 ライノに言われた買い物を済ませたメル達は防具店へと辿り着いた。

 目的は勿論、リアスのフードローブを新調するためだったのだが……。


「服って言うから防具店じゃないと思ったよ」

「それでも良いんだが、やっぱり防具店の物は素材が違う、それだけ丈夫だからな」

「ああ、そうだね、それを考えるとやっぱりこっちの方が良いよね」


 でも、普通の服を着ても似合うと思うんだけどな。


「うーん、ここにあるのでリアスに似合いそうなのは……」


 メルは防具を一つ一つ見ていくが、そこにある殆どの物は……。

 重そうなフルプレート、は絶対に似合わないし、軽装なライトアーマーもなぁ。

 ……そもそもリアスって鎧を身につけてはいないから、多分そう言うのは好んで身に着ける事は無いはず、だよね?

 とするとやっぱり……。


 メルの目に映ったそれは何故かあまり人気が無いローブ。

 それもそうだろう、リアスが言った通り普段着よりは丈夫ではある。

 だが、冒険をするにはどうしても不安なのだ。

 重い物がどうしても苦手な者か、よっぽど身のこなしに自信がある者でなければ着ないだろう。


 現にシュカさんも軽装だけど胸当てとかはちゃんとしてるのを選んでるし……その方が私も安心なんだけどな。


「ねぇ? この軽装とかはどうかな?」

「ああ、悪くはないんだが……」


 メルの提案に一回は頷いたリアス。

 だが、すぐにその表情を困らせる。


「え、えっと……駄目だった?」

「ああ、俺はローブの中に色々仕込んでるからな、音が鳴ってしまうんだ」


 その答えにメルははっとした。

 人相手なら勿論、魔物相手にも気が付かれるのはリアスにとって不利だ。

 その事に気が付いたメルはがっくりと項垂れ……。


「そ、そうだね……」


 そう答えると、名残惜しそうに鎧から目を逸らすのだが……。


「あ……」

「どうした?」

「これ、皮の鎧!」


 メルが指を指すのは彼女が言った通りの革製の鎧。

 安いがそれほど丈夫ではなく、軽い金属が発見されてからというものの次第に店から消えていった物……。


「珍しいな……タリムですら、あまりなかったのにリシェスにはあるのか……」

「だね、リラーグにも無かったよ、これならローブの下に着れるんじゃないかな?」

「そうだな、後はローブか……」


 リアスはローブの方へと目を向け、メルもつられてそちらへと視線を動かす。


「うわぁ……」


 そして、彼女は思わず顔を引きつらせ声を出す。

 そこにあるのは紫、ピンク、金色などの色とりどりのローブ。


「白とか紺色なら分かるけど、何でこんなに……」

「はは、は……」


 リアスも同意見だったのだろう、顔を困った様に歪めて笑う。

 すると――。


「今、街の女の子に人気なんだよ……」


 店主らしき男性は二人の傍へと来るとそう告げながらポリポリと頭をかく……。


「「そ、そうなんですか……」」


 メルとリアスは声をそろえそう言うが、どう見てもそこにあるローブは……。


「売れ残ってるし、街中でそんな子を見つけた覚えはないな……」


 リアスは引きつった笑みを浮かべ、ローブを指差しそう口にした。


「うるせぇほっとけ! この前、来たいけてる嬢ちゃんらが色付きが無いなんて遅れてるって言ってたんだから間違いはねぇ!!」

「ご、ごめんなさい……」


 怒鳴られてしまい、メルは慌てて謝ると店主は鼻を鳴らし顔を逸らす。

 それ以上の言葉が無い事にホッとしたメルは改めてローブを見て……。


「うーん、でも目立つ色はリアスは避けたいよね?」

「そうだな、流石にこの色は俺には似合わないな……」


 メルは色とりどりのローブをリアスが来ている所を想像したのだろう、その顔は引きつり……。


「あ、ははは……」

「メル、今想像したろ?」

「う、うん……」


 彼女は手に持ったローブを手に頷き、そのローブをリアスへと手渡す。


「これが一番かな?」


 メルが渡したものは彼が今見に付けている物と同じ黒いローブ。


「結局それに落ち着くみたいだな……」

「え、えっとごめん……折角選んでって言われたのに……」


 メルは申し訳なさそうに彼に伝えると、笑みを浮かべたリアスは――。


「いや、助かったよメルが居なければ鎧も見つからなかった」

「えへへ……そうかな? そうだと嬉しいな」


 余程彼の言葉が嬉しかったのだろう、メルはへにゃっと笑みを浮かべ……。

 そんな彼女の顔を見てリアスは顔を赤くし、顔を逸らした。


「リ、リアス?」


 突然顔を逸らした彼に対し、メルは不安そうに名を呼ぶが――。


「い、いや……その、何時までもここに居たら悪いだろ、支払いを済ませて来る……ちょっと時間が掛かるけど待っててくれ」

「うん……良いけど、支払いで時間が掛かるの? あ、着替えるの?」


 支払い自体には時間が掛からないと思ったメルは彼に尋ねるが、リアスは首を振り……今自身が身に付けているローブを摘まむ。


「これと同じようにしてもらうんだ、自分でやるとどこかしら脆くなったりするからな、こういうのは店に頼む方が良い」

「そっか、分かった、じゃぁ待ってるね?」


 少し首を傾げたメルは尻尾をゆらゆらと揺らし、そう答える。

 するとリアスはまたも顔を赤くし――今度はメルも釣られ、その顔を赤くした。


「じゃ、じゃぁちょっと待っててくれ」


 彼はそう言うと支払いと話をするためだろう店主との会話を始めると……。


「じゃぁ、そこの部屋で話を聞く、おい! 店番変わってくれ!!」

「はいはい! 今行くから待っとくれよ!」


 店主の声に答えた女性は奥から現れ……。

 彼女の姿を目にしたメルはその大きな瞳を丸め、驚いた。


「マ、マリーさん!?」

「ん? アンタ……誰だい?」

「あ、いえ……そうだよね、マリーさんは此処には……」


 そこに居ないはずの女性を思い出しつつ、メルはそっくりなその女性へと目を向ける。


「所でお客さん」

「は、はい……」

「何を買うんだい?」


 出てきた女性にそう言われメルは慌てて両手を胸の前に出し左右に振るう……。


「わ、私はその……」

「ああ、さっきのボウヤの仲間か――」

「は、はい!」

「彼女さんって所かい!」


 そう口にした女性は笑い声を上げるが、メルは――。


「か、彼女!? 彼女って……あの、あの……」


 慌て始め今度は手の代わりに真っ赤な顔と尻尾をぶんぶんと振りはじめた。


「あはははははは!! そんな慌てなくてもいいじゃないかい!」

「あぅぅ……」


 そして、両手をだらりと力なく下げ、その顔も床へと向ける。

 だが、尻尾だけは相変わらず振られており……。


「どうやら、まんざらでもなさそうだね?」

「なんか、恥ずかしいのでやめてください……」


 メルの訴えに女性はまたも大きな笑い声を上げた。

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