85話 策略
買い物へと向かう事になったメルとリアス。
しかし、その目的はどうやら準備をするというだけではなさそうだ。
ライノの仕組んだ策略は着実に進んでいたのだった……。
「ぅぅ……ライノさんって時々怖いよね……」
メルは街中をリアスと共に歩きながらそう呟く。
勿論、その声は彼へと届いており……。
「そ、そうだな、とはいっても少しは息抜きが必要とも言ってるような気もしないでもない……」
「それは……それもあるだろうけど……」
先程のシュレムの姿を思い出し、メルは思わず苦笑いを浮かべる。
シュレムがあんなに怯えるなんてナタリアとシアさん位だったよね……。
「所で何を買うんだ?」
「えっと……調合に使う道具みたい……後は……」
紙を取り出したメルはそれを読み始め。
「後は?」
「えっと、なんか文字が小さい――なっ!?」
細かく書かれた文字は読みづらく、メルは何故こんな小さな文字でと疑問に思いつつも読んだところでピタリと動きを止める。
急に止まった彼女を気にし、リアスも足を止め彼女の方へと振り返り……。
「メル?」
「~~っ~~~っ!?」
彼に声を掛けられたメルはその身体を跳ねあがらせ、顔を朱へと染めながらも紙を鞄に押し込む……。
メルは平然としたつもりだったが、相手にはそれがおかしく見えたのだろう。
「メ、メル……だ、大丈夫か?」
「だ、だだだだだ……」
顔を真っ赤にしたメルの目はぐるぐると回り、大丈夫だと言いたいつもりなのだろうが、その言葉は紡がれることはなく……。
「だ、大丈夫って言いたいのか? でも大丈夫には見えないぞ?」
ラ、ララララ……ライノさん、な、なななんでて、紙にリリ、リアスとデェ……トなんて……。
「ぅぅ……な、なんか……は、恥ずかしいよ……」
誰にも聞かれないような小さな声で彼女は自分を落ち着かせようと深呼吸をしていると、リアスは顎に手を当て……。
「そうだ……」
リアスは一回頷いた後、メルの様子を伺いながら会話を切り出す。
「な、なに?」
ようやく落ち着きを取り戻したメルは彼に尋ねる。
すると、笑みを浮かべたリアスは――。
「良ければ俺の買い物にも付き合ってくれないか?」
「ふぇ!? そ、それって!?」
「ああ、このフードローブもうボロボロだし、改めて考えるとやっぱり怪しい……新調したいんだ」
「あ、ああ……そう言う事……」
頷きかけたメルは先程の紙の事を思い出し、再び硬直をするとその首を立て付けの悪い扉の様に動かし……。
「そこで、ちょっと前に相談したらライノがメルに選んでもらった方が良いんじゃないかって言って来てな?」
「わ、私に?」
ってまたライノさん!? だ、だからあんな事を紙に!?
「俺が選んでも、顔まで覆う物ばっかりだし、頼めないか?」
「う……」
リ、リアスの服を選ぶ?
そ……それってまるっきり……。
「突然だよな、やっぱり自分の服位は自分で選んだ方が良いか」
「え、えええ選ぶ、選ぶよ!?」
メルは彼が若干寂しそうな笑みを浮かべた事に気が付くと、慌てて返事をする。
すると、メルの答えを聞いたリアスは元の笑顔へと戻り――。
「助かる」
「う、うん……」
メルはそれに恥ずかしそうに首を縦に振るのだが……。
何か分からないけど、あの顔はずるい……絶対にずるい……。
だ、だってあんな寂しそうな顔されたら誰だって、誰だって!!
「お、おい……」
ぅぅ……何か私リアスに弱い気がする。
それに、リ、リアスが喜んだ姿は見てみたいし……。
「ル……」
それに……えへへへ……。
彼女は不意に笑みを浮かべると自身の夕日髪を彩る髪飾りへと触れる。
それはイアーナと言う街で買った物であり。
私はリアスが買ってくれたカルロスさんのお手製髪飾り……それにリアスは私が選んだ服を……。
「えへへ……」
彼女は良く分からないまでも嬉しくなっていき心の中でだけ呟いていた笑みを声に出す。
メルは何かに夢中になっているせいで気が付いていなかったが、すれ違う人の中には彼女の愛らしい笑顔に目を奪われる物も多く……。
「メル?」
リアスはその視線を気にしつつも、彼女の名を再び呼ぶ。
そして、そして! いずれママ達お揃いの指輪を……って私は何を考えて!?
「メル!!」
「ひゃい!?」
メルの妄想がようやく一区切りついた所でリアスの声が耳元で聞こえたメルは思わず可愛らしい悲鳴で返事をした。
「どうしたんだいきなり……」
「い、いきなり? って何がいきなりなの?」
メルの質問に呆れた顔を浮かべたリアス。
彼は溜息をつきながら……。
「急に黙り込んだと思ったら、顔を赤くして両手を大きく振ったり」
「…………ぇ」
それはメル自身は気づいていなかったが、紛れもなくメルがたった今していた事。
「ようやく止まって髪飾りに触れたかと思ったら、にやけたり、声に出して笑ったり……」
「ま、ままままま待って、待って!?」
メルはそこまで聞くと今度は本人の意思で両手を大きく振る。
だが、それも虚しく。
「最後には顔を覆って頭をぶんぶんと振ってたよ」
「ま、待ってって……言ったのにぃぃぃぃぃ……」
彼女はがっくりと項垂れ、訴えるような声を絞り出した。
「わ、悪い……」
「ぅぅ、良いよ私も悪かったし……そろそろ行こう?」
メルは項垂れたままリアスへと伝えるとゆっくりと顔を上げる。
だが、彼女の尻尾は力なくだらんと垂れ下がっており、そんな彼女を目にしリアスは申し訳なさそうに頬をかくと……。
「そうだな……行こうか」
「うん」
ぅぅ……恥ずかしいよ。
そう言えば私、顔に出やすいってリアスに言われたんだった。
「次から気をつけないと……」
「ん? なにをだ?」
「なんでもないよ!?」
「そうか」
思わず出た呟きを聞かれ、メルは再び慌てるとリアスは首を傾げ先へと進んで行く……。
そんな彼に何処か寂しさと安堵を得たメルは彼の後を追いかけるように歩いて行った。




