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私の夢は冒険者だったのにっ!!  作者: ウニア・キサラギ
1章 冒険者になりたいっ!
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8話 ご機嫌なメル

 盗まれた鞄を取り戻したメルはすぐに老婆の元へ戻り鞄を手渡す。

 すると、その老婆が怪我をしている事に気が付き、魔法で治し家まで送るとどうやら冒険者と勘違いをしたのだろう、お金を渡して来た老婆。

 メルは受け取れないと言い、その場を去り向かったのは……?

「おじさん! 肉巻き一つ頂戴!」


 老婆と別れた後、メルは屋台へと向かいそこに居る店主に銀貨一枚を渡すといつも通りの注文をする。


「おっ! メルちゃんいらっしゃい、はいよ! 肉巻きお待たせ!!」


 メルは出来立てのそれを受け取ると口へと頬張り、いつもの味を楽しみつつぼんやりと待ちゆく人を眺めていた。

 今日は良いことをし、メルは気分が良かった……まだまだ未熟であると実感したのは昨日の事だ。

 しかし今の実力でも人助けが出来る事も実感出来た。


「なんだメルちゃん、今日はえらく機嫌が良いじゃねぇか!! ついに冒険者になって良いって言われたのか?」


 メルは好物である肉を食べている時は大抵機嫌が良いのだが、人にも分かる位に尻尾を振っていた所為だろう店主にまで気づかれ。

 にっこりと微笑むメルに釣られて店主も笑顔になっていた。それを見た彼女は先ほど行った善行を誰かに伝えたい! と言う気持ちが膨らみ……。


「えへへ、それはまだなんだけど……実はねーさっき」


 店主にそう切り出した直後だった……。


「泥棒だ!!」


 メル達の耳に聞こえた大きな声は街中にも響いたんだろう……周りはざわつき、メルは溜息を一つ漏らし呟いた。


「また泥棒? 今日は多いなぁ……」


 また誰も助けないようなら、自分が動くしかない。そう思いつつ振り向くと、其処にはメルの方へと指を向ける少年の姿見え……。


「憲兵さん! あの女が俺の鞄を!!」


 メルは彼の顔は知らなかった、だが着ている物には見覚えがあったのだ……そう、彼は――。


「さっきの……?」

「ど、泥棒だって? メルちゃんを指差してやがるよな? なんかの勘違いじゃねぇのか?」


 メルに向けられた指の意味に気が付いたのだろう、呆れた様にな声を上げ周りの人々も指を向けられたのがメルだと気が付くと途端に興味が失せたような顔になり、いつも通りの買い物を楽しみ始めた。


「なんだよ! アイツが俺の鞄を!! 本当なんだ!!」


 それを見た少年は赤い髪を揺らしつつ、彼の声を聞き駆けつけた憲兵にそう訴え続ける。


「お、おい……メルちゃん、なんか面倒なのに目を付けられたな」

「う、うん……」


 メルが辺りを見回すとその異常さに気持ち悪さを覚えた。

 彼ははっきりと泥棒と言ったのだ……だが、ユーリとフィーナの娘だと知ってだろうか? 微塵も疑うそぶりが無い街人、それ所か――。


「あれ、なに? って言うかユーリさんとこの子だろ? あの子がそんな事するかよ……」

「そう言えばさっきお婆ちゃんを助けてたよ? あっちの少年は見た事無い奴だし貧乏人の妬みじゃない?」


 偶々、メルの近くでそんな会話をしつつ通り過ぎる。


「憲兵さん! 早く!」


 確かに目の前の少年は真っ黒で襤褸(ぼろ)の服をまとっていて、身なりは良くない。

 だが、周りの様子からあの場所に居た人は居ないのだろう……だとしたら――。


「確かにあの子が悪いんだけど……そこまで言わなくても良いんじゃ……」


 メルは思わずそう呟いた。

 確かにメルは泥棒なんてした覚えはなく、目の前の少年が泥棒だったのだが、周りの声はその事実を知るメルでさえ不機嫌にさせるのには十分な物だった。

 更にそれに拍車をかける事になったのは憲兵だ。

 ……メルにとっては運が良い、だが少年はその逆であり、彼が呼んだ憲兵の顔を見てメルは「はぁ……」と溜息をつく……。


「ええっと、君? あの子は……」


 呼ばれた憲兵はメルを見るなり困った様にボロフードの少年に歯切れの悪い言葉を告げる。

 そう、彼が読んだ憲兵はメルが幼い頃から知っている人であり、彼女がそんな事をするはずが無いと思う人物の一人でもあった。


「ノルドお兄ちゃんだ……」

「あいつも運が無いな……」


 母の知り合いでもあるノルドをリラーグの住民ではないボロフードが知るはずもなく……。


「あいつが俺の鞄を盗ったんだよ!!」


 必死にそう訴え、叫び声を上げた。

 流石にそう言われては仕事をせざる終えないのだろう、ノルドは困った表情のままメルの方へと歩み寄ってきた。


「メルちゃん、お話を聞かせてもらっても良いかい?」

「話もなにも……」


 メルが話を切り出そうとした所、メルの目の前に指が突き立てられ少年の怒鳴り声が響く――。


「そのガキが俺の鞄を盗んだんだ!! あのジ……婆は知り合いなのか!! どうなんだよ!!」


 先ほどの街の人達の態度で不機嫌になっていた所をガキと言われ、頭に来たのだろうメルは尻尾を立てると突き付けられた指をどかし、顔を近づけ――。


「あのね、お婆ちゃんの鞄を盗って怪我させたのはどこの誰!? あのお婆ちゃん泣いてたんだからね!!」


 そう声を上げると、周りからは先程と同じ様に「やっぱりか」などの声が上がる。

 さっきは嫌な気分になった言葉だったが、メルはなんで泥棒にあんな事をと思い直し、眉を吊り上げたまま口を閉ざし、ノルドの方へと顔を向けた。


「メ、メルちゃん……落ち着いて……えっと君? この子はこの街の英雄の娘でね、その……物を盗むなんて事はしないと思うんだ……」

「って言うかしてないよ!」

「あったり前だろうがよ! メルちゃんがそんな事をするはずが無いだろうが!!」


 メルの言葉に加勢するのは肉巻き屋の店主だ。

 彼はガタイの良い身体相応の大声を出し、ノルドも思わずたじろいでしまったのだが……。


「なんだよ、それ……英雄の娘だか何だか知らないけど、そんなの理由にならないだろ!! 大体何の英雄だよ!!」


 メルは彼の言葉を聞き、やっぱりリラーグの人じゃないんだ……と思い浮かべた。

 もし、そうであればメルの事は知っているだろうし、何よりリラーグでの盗みはしないだろう……。


「世界を救った女性の娘だよ、龍に抱かれる太陽がある屋敷の持ち主でもある」

「屋敷? なんだよ、それが盗まない理由だってか!? ふざけるなっ!! 俺は大事な荷物を盗られたんだ!! 世界を救っただとかどうでも良い、重要なのはそいつが荷物を盗ったって事だ!」

「どうでもいいって……」


 そんな言い方しないでも……メルはそう呟きながら目の前の少年の言っていることに憤りを覚え――。


「盗ったのは自分の癖に!! 人を傷つけておいて、更に人を泥棒扱いまでしてきた男にそんな事は言われたくないよ!」


 メルは思わず叫びながら少年にそう告げると、眉を吊り上げた赤髪の少年は歯をむき出しにし怒りをあらわにする。


「なんだと!!」

「なにって言った通りでしょ!」


 メルと少年は互いに眉を吊り上げ、近づくとまるで目と目の間に火花が待っているかのように睨み合う。

 暫くそれが続いた後、先に口を開いたのは少年だった。


「俺はな荷運びなんだよ!! あれは大事な荷物なんだよ!」


 少年は声を張り上げる。

 その言葉にメルは今作ったにしては良い嘘だと思うが、彼女は実際に老女が鞄を盗られ怪我までしたのをその目で見ていた。

 だからこそ――。


「嘘ばっかり!」


 一言で返す。


「嘘じゃねぇ!! 鞄を返せこのガキ!!」


 だが、少年の方も引く気はないのだろう、掴みかからん勢いで再度詰め寄った少年に対し、思わずメルは一歩後ろへと下がる。


「ガ、ガキってそう変わらないでしょ!」


 だが、負ける訳にはいかないと彼女が足を前に運ぼうとした時――。


「メルちゃん、ちょっと待ってくれるかい?」


 二人の間には沈黙を保っていたノルドが割って入った。


「え? なんで……」


 彼女の耳に届いた言葉は予想外の物でメルは思わずそう聞き返す。

 すると、困った様な笑顔のまま――。


「ごめん、僕はこの少年が嘘を言っている風には見えない、必死みたいだしね、調べた方が良い」

「へ……?」


 再びメルの予想とは違う言葉が聞こえ、彼女は一言を発した後、呆然としてしまった。

 すぐにハッと意識を取り戻し――。


「ノルドお兄ちゃん!! 私が嘘を言ってるって思ってるの!?」


 メルは余程驚いたのだろう……以前呼んでいた様に彼を呼ぶ。


「そうは言ってないしメルちゃんが嘘を言うなんて微塵も思っていないよ。だけど……泥棒がわざわざ憲兵を呼ぶかな? それに外から来たとして、それこそこのリラーグで盗みをするとは思えない。なにせここは空の上だ逃げ場が少ないと言っても良い」

「この人魔族(ヒューマ)だよ! そんなの魔法が使えれば!!」

「ユーリさんの様に自由に動き回れるなら、デゼルトが襲ってきたとしても逃げれるだろう、だけど他の人はそうはいかない」


 それは確かにノルドの言う通りだった。

 娘であるメル、師であるナタリアどちらも魔法が得意ではあるがユーリの様に自由に空を飛び回れる訳ではなく、当然他の魔法使いはメル達にも劣るものもいる。

 空を自由に舞う天族(パラモネ)同等……いや、寧ろそれ以上に飛べるユーリの様な人間はそう居ない。

 そして、デゼルトの事もだ……。


「でもあの子を……デゼルトを見てもするかもしれないよ!?」

「だけど街に入る前にあの子を目にしてそれだけで恐れて萎縮する人が殆どだ……実際ドラゴンと対等に空を動けるのはユーリさん位だ」

「……ぅぅ~」


 ノルドのその言葉にメルは気分を害した……。

 それは初めて街に来た者が口をそろえて言う事でもある、ドラゴンが怖い、恐ろしいと言う言葉と同じ物で……メルはそれが嫌だった。

 幼い頃からデゼルトと一緒で良く懐き、ぐるぐると喉を鳴らす様は彼女にとってとても可愛らしいと思っていたからだ。


「そういう訳だから一応確かめてみよう、ね? メルちゃん」


 だが、メルはノルドに優しそうな顔を向けられ暫く「ぅぅ」と唸り声を上げた後に尻尾を垂らしがっくりと項垂れ――。


「分かったよ……」


 渋々そう答えた。

 だが一つ彼女は疑問を浮かべた、調べるというと難しくなる。

 彼が嘘をついているかどうか調べる方法はあるにはあるのだが……。

 それをしてしまえば、彼の嘘はすぐにバレてしまう、それを若干気の毒に感じた彼女はノルドへと疑問を尋ねた……。


「どうやって調べるの? まさかとは思うけど……」

「決まっているだろう? ナタリアさんに聞くんだ」

「………………ナタリアさん?」


 ああ、やっぱり……メルはそう心の中で呟いた後、疲れた顔を浮かべ――。


「分かった、でも少しでも変な動きしたら魔法使うからね」


 盗人を睨んだ後、すぐにノルドの方へと向きそう告げた……。

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