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私の夢は冒険者だったのにっ!!  作者: ウニア・キサラギ
4章 犠牲者は追手に
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83話 傷だらけの少女

 魔物の一件とメルの傷。

 その両方の対処をするためにリアスは店主アイビーと共に医師、憲兵の元へと向かう。

 事情を説明した所、憲兵は快く話を聞き入れてくれた。

 一方……。

 リアス達が憲兵へと報告している一方メルは……。


「貴女ねぇ……」

「あは、あははは……」


 呆れ顔の女性にメルは乾いた笑いを浮かべ……。


「痛ぅ……」


 リアスが連れて来た医師の治療を受けていた。

 だが、彼女は眉を吊り上げ、痙攣させると溜息をつき――。


「この怪我、軽い物じゃないわよ?」

「は、はい……」

「いい? 私に出来るのは緊急の処置だけ……明日は朝早く婆ちゃんの所に行ってきて……地図と一筆書いて置くから、あまり無理はしないでね」


 呆れ顔の女性はそう言うと持ってきた薬を取り出し――。


「もう少し気の利いた薬があれば良いんだけど……」


 そう呟いた。


「気の利いた薬……ですか?」

「ええ、リラーグの薬を一回でも使ってしまうとどうもね」


 彼女の一言でメルはその薬が誰の物なのか予想が付き――。


 確かにシンティアさんの薬は別格だけど……。


「でも安心して、変な薬ではないから」


 逆に心配を産みそうな言葉を発しながら彼女は傷の処置をしていく……。

 そんな中、メルはぼんやりと考えごとをしていた。


 リシェスって大きな街なのに薬はそこまでじゃないのかな?

 確かにリラーグは昔から医療の街でもあったみたいだけど……。

 なら、もしかして……この街でならライノさんの薬が――。


「ひぅ!?」

「これ、かなり染みるから我慢してね」

「~~~~~~~!?」


 メルはあまりの痛さに悶絶をし、その声無き叫びは部屋に響いた。






 メルの治療が終わり、元の部屋で仲間達と休みつつもリアス達の帰りを待つ。

 暫くし、憲兵を引き連れた二人が部屋の中へと戻り――。


「では、私達は問題の部屋へと失礼します――店主案内を頼めますか?」


 彼らのその言葉でアイビーは去って行き、メル達は部屋の中に残される。


「リアス?」


 そんな中、メルを心配そうに見つめるリアスの視線に気が付いた彼女は彼の名を呼んだ。


「あまり無理はするなよ?」

「う、うん……お医者さんにもそう言われた……」

「とにかく、メルちゃんがこれじゃ……やっぱり暫くはこの街に滞在ね?」


 ライノもメルを気にしているのだろう、その瞳には心配の色が強く出ていた。

 その視線からメルは逃げるように顔を動かすのだが……。


「そうだな、もし駄目って言うならオレは残る」


 シュレムもまた当然だと腕を組み、頷いている。


「オイラは戦えないしな……何も言えない」


 カルロスは何処か自嘲めいた事を言いつつぽりぽりと頭をかきながら、笑う。


「メルお姉ちゃんも、ライノお兄ちゃんも治ってからの方が良いと思う……」


 エスイルさえそうリアスに告げた。

 だが――リアスは困ったような表情へと変えた。


「なぁ、流石にこの状態で旅立つなんて言わないからな?」


 その笑顔を引きつらせながらも彼はそう答えた。






 それから数日が経ち、メルは部屋の中でリリアと共に過ごしつつ、シルフへと語り掛けていた。


「ねぇ、ママ達は何か言ってた?」


 彼女がそう聞く理由は一つだ。

 あの魔物たちの会話……それを聞いたというシルフの言葉に関して母達に尋ねていたのだ。


『う、うん……それがね……話をしたとたん、ユーリが驚いて……』

「……」


 話を聞いていたと言う事は恐らくシルフは実体化させられたのだろう。

 そして、リリアが持っていた手紙にユーリが驚く理由……それはもう答えと言っても良い物だとメルは理解した。


『でも……ユーリ達は知らないって、だからリリアの事も……』

「そう、分かったやっぱり自分でなんとかしてみるよ……でも、ママ達の方は大丈夫だよね?」

『うん、気を付けるって言ってたよ』


 シルフの報告を聞きメルはようやくほっと息をついた。

 楽観的と言われるかもしれないが、これで母達なら大丈夫だろうと感じたからだ。

 だが、それは同時に彼女達の身は自分で守るしかないという物だった。


「私達はどうやってやり過ごすか……だね?」

『うん、それなんだけど……ナタリアが言うには情けなく弱いでも頭は回るから必ず目の前に引きずり出せって』


 なんとも祖母らしい言葉にメルは引きつった笑みを浮かべると乾いた笑い声を発し……傍に居るリリアを見る。

 相変わらず不安そうなその表情を見て、頭を撫でようとしたメルは申し訳なさを感じその手を止めた。

 

 事実なら……リリアちゃんは私の家の事で巻き込まれた。

 これ、何て言ったら良いんだろう……ごめんなさい、で済むはずがないよね?


「お姉ちゃん……?」


 だが、メルのその躊躇はリリアには不安を産んだのだろう、ゆっくりと顔を上げた少女は今にも泣きそうな顔でメルを見つめた。


「ご、ごめんなさい」

「な、なんで急にリリアちゃんが謝るの?」

「だって……メルお姉ちゃん悲しい感じだった……」

「か、悲しい感じ?」


 メルが訪ねるとリリアは迷うことなく頷く。

 その瞳は何も捕らえていないはずであり、メルの表情を見る事は出来ないというのに……。

 だが、数日前操られ襲って来たこの少女は盲目になってからメル達を救ってきたのも事実。

 メルとしては謝る理由は合っても謝れる理由はもうないと思っていた。

 だからこそ、今度はしっかりと頭へ手を乗せると優しくなで始める。


「んぅ……」


 気持ちよさそうに目を細める少女に何処か儚げな笑顔を見せた。


「ごめんね、不安にさせて……でも、リリアちゃんが謝ることは無いの……寧ろ私が謝らないと……私の家の事に巻き込まれたかもしれないんだから……」


 そして、彼女にそう伝えながらメルは……。


 エスイルは勿論……リリアちゃんも守らないと……もう、過去にママとなにが遭ったかなんて関係ない。

 こんな優しい子の性格を捻じ曲げて従える魔物を使うなんて……絶対におかしい! そんな人に首飾りも渡す訳には行かない、二人は勿論皆でなら――きっと!!


 彼女が心の中でそう決意をした時だ。


「メルちゃん!!」

「「『きゃあ!?』」」


 乱暴に開け放たれた扉に二人の少女と一人の精霊は驚き声を揃え、互いに抱きつきつつ来訪者の方へと顔を向ける。


「ラ、ラララライノさん?」

「そうよ! そう! 話を聞いて!!」


 彼は入って来るなり、目を輝かせ声を躍らせる。


「もしかして――!」


 その理由にピンと来たのだろうメルは一つの事を尋ねかける。

 すると、頷いたライノは――。


「ええ、この前来た憲兵が気を利かせてくれたのよ! 特別に固定の場所で店を開いて良いって言われたわ!」

「良かった、これで路銀はなんとかなりそう――」


 ライノの報告にホッとしたメルは笑みをこぼすが――対するライノは興奮冷めやまぬようで……。


「それだけじゃないのよ!」

「え? それだけじゃないって……?」

「この前来たお医者さんとお婆ちゃんの方、アタシの薬を見てくれて使いたいって!」

「ほ、本当ですか!?」


 思わぬ朗報にメルは喜ぶ……が、すぐに――。


「ぁ……でも、それじゃ……」


 医者の眼鏡に適った……それは確かに嬉しい事だ。

 だが、それが意味するのはと考えたメルは一つの結論に行きついた。

 それは――。


「……残念だけど」

「そう、だよね……」


 ライノさんここに残る方が良いよね……別れるのはやっぱり寂しいな。


「ってなんでメルちゃん? 何か勘違いしてないかしら?」

「へ?」


 か、勘違い? いやでも……勘違い何てしてないと思うけど……。


「あのね、確かにありがたいお話よ? でも、私は貴女達の保護者としてついて来たの、ましてやまた小さい子が一人増えた訳でしょ? カルロスじゃ頼りにならないわよ!」

「そ、それじゃ……でも!」

「それに、メルちゃんもシュレムちゃんもリアスちゃんだって生傷が絶えないのだから、アタシが居ないと不便でしょ」


 ライノは笑みを浮かべ、メルにそう言うと片目を瞑る。

 そんな彼に対し、メルは困ったように表情を変えると……少し笑い。


「そうだね、ライノさんが居ないと傷の手当て出来るの私ぐらいだよ……」

「でしょ? 勝手に別れるなんて決めつけないの!」


 まるで少し叱る様に言ったライノはすぐに笑いだし、メルもつられて笑う。

 二人の笑い声を聞き、リリアも楽しくなってきたのだろう笑い始めた――暫く、笑い声が聞こえていた部屋に再び乱暴に扉が開けられる音が響き――。


「メル!! だ、旦那もここに居たか!! リアスは何処だ! カルロスとエスイルは!?」


 ライノとは違い焦った様子のシュレムが部屋へと飛び込み……流石に二回目で少し驚いたメルは彼女の方へと向く。


「な、なに? リアスは買い出し、エスイルも一緒だよ? カルロスさんは確か……」

「馬の世話ね? それよりもどうしたのそんな血相を変えて……」

「こんなのが、オレの前に飛んできたんだ!!」


 シュレムは一枚の紙を広げメル達にそれを見せる。

 それには何か文字が書かれており――。


「この街の今現在の惨状の全ては……お前達の所為だ……って何かしら?」

「分からねぇよ!! とにかくメル! 連絡だフィーナさんでもユーリさんでも良い! クルムさんでもとにかくリラーグに何かあったんじゃないか!?」

「リ、リラーグって……」


 メルはシュレムの勢いに押されつつも傍に居るシルフへと目を向ける。

 だが、彼女は首を横に振り――。


『いつも通りだよ? 私が実体化したのもほんの少し前だから間違いないよ! それにフィーナは何も言って来ないし!』

「うん……」


 街に何かあれば連絡があるはずなのは確かであり、シルフが言っている通りメルには何も伝えられていない。

 何しろ実体化したと言う事は景色を見れたと言う事なのだ、ほんの少しの間にリラーグに何かあったとは考えづらいだろう……。


「リラーグは大丈夫みたいだよ?」

「な……よ、良かった……こんなの誰の悪戯だよ……」


 メルの言葉を聞き安堵をしたシュレム……。

 だが――。


「「メル(メルお姉ちゃん)!!」」


 再び部屋の中に彼女の名が響いた……。

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