77話 狙いは……?
言葉の意味はリリアへと告げられたものではなく、リアスへと告げられたもの?
謎は深まるばかりだが、メルは一つの可能性を見出す。
それは、タリムが出身であり幼い頃目が見えなかったリアスへと向けられた言葉であるのなら……タリムの王が関係しているのではないか? と……しかし、合成魔獣……キメラであるとすればあのミミズと人の形をした異形は昼間動けるはずがないのだ。
「ちょ、ちょっと待ってくれ……」
メルが考える中、リアスの声が部屋の中に響く……。
「待つって何をだよ? もしかして相手をどうにかする良い手でも思い浮かんだのか?」
彼の方へと目を向けたシュレムはエスイルとリリアを見るとどこか心配そうな表情を浮かべ、そう口にした。
「そうならできれば早めに何とかして欲しい……オイラは街の外を移動するならずっと手綱を握ってるんだからさ……」
自身は狙われていないと言っても気が気ではないのだろう、カルロスは疲れた様子を隠すことなくそう言うと続くであろうリアスの言葉を聞き逃さないために身を少し前へと持っていく。
「いや、それも考えないと駄目だが……凱旋ってなんだ? しかもタリムに行った時って……」
「ん?」
メルはリアスの言葉に首を傾げるが、すぐに母の事だと理解すると表情を変え――。
「えっと凱旋って言うか、タリムの王を倒しに行った時に……タリムの人になんか神様だか、エルフの使いと間違われて、凄く恥ずかしかったって言ってたよ?」
「た、タリムの王だって? じゃぁ……」
「な、なるほど……王様に顔が利く訳だ……」
その名を知らぬものは恐らくメルン地方ではいないだろう……。
空に分厚い雲を作り、見た事も無い魔物を放ち――死人を操る魔物の王。
そして……もうこの世には存在しない魔物。
「じゃぁ……メルの母親って……」
「ん?」
「……月夜の花……その仲間なのか?」
その名を聞き、メルは思わず苦笑いを浮かべ……シュレムは何処か困った様に視線を迷わせる。
「どうやらユーリさんはそう呼ばれて、うちの親が持ち上げたみたいだな……返ってきた後、暫くは親父に対する態度が若干不機嫌だったぞ?」
「あはは……あのまま喧嘩しちゃうんじゃないかって心配だったよね?」
二人はそう語りあい、それを聞くリアス達は呆然としていた。
タリムの王はその力を当時冒険者の街と呼ばれていたタリムを瞬く間に滅ぼした。
それもあり、冒険者の中にはあえて手を出さない者も多かったのだ。
いや、殆どがそうだったと言っても良いだろう……。
元凄腕冒険者のゼルを始めとし、月夜の花の冒険者であったフィーナ、バルド……ゼルの仲間であるマリー、ナタリアなど、名のしれた冒険者達がその消息を絶ったこともその理由だった。
だというのに、ある時――。
「確か死んだと思っていた者達が酒場の跡地から出てきたのよね? それがメルちゃん達の親だったって事?」
その事にメルは頷き――。
リアスとリリアを見つめると申し訳なさそうな顔を浮かべ尻尾をベッドの上にだらりとたらした。
「うん、ただ……死んだんじゃなくて隠れてたんだ……その時はやっとユーリママがタリムの王を倒す術を手に入れたから……」
「……そうか、じゃぁ……あの時の人も――」
「と、とにかく、その話は良いだろ? それよりも黒いミミズだ」
シュレムはリアスを警戒するような瞳へと変えると仲間達にそう告げる。
「そうか……だとしたら、妹を……リリアを狙った奴はタリムの王の配下って事なのか?」
「…………はぁ!?」
だが、構わず話を続けるリアスの言葉にシュレムは不機嫌そうな顔で声をもらす。
「分からない……でも、その可能性はある……でも、もしあの魔物なら昼間は苦手なはずなのに……」
メルは申し訳なさそうにそう告げる。すると……リアスはゆっくりと考えるようなそぶりを見せ……。
「……なら、夜である今が奴らの本当の狙いか?」
「……え?」
メルは思わず目を丸くし、リアスを見つめた。
彼がそう言う理由は何かと模索していると――。
「……強力な魔物、そんな物を従えてるだけで人には脅威だ……だが奴は分厚い雲を空に放った……それが何なのか分からなかったが……メルの言ってる通り昼間が苦手なら、より活動的になれる夜を待つ……そうじゃないか?」
それはその場にいる全員が揃い、恐怖と緊張に瞳を震わせる言葉だった……。
「じゃ、じゃぁ昼間狙ったのはワザと? 狙いは……」
「オイラ達を警戒させて……体力を奪う為か!?」
カルロスがそう叫んだ時――。
「キャァァァァァアアアアア!!」
「――――っ!?」
女性の悲鳴が聞こえ、メル達は身構える。
その悲鳴の後、バタバタと扉が開く音がし……。
「お姉ちゃん……」
リリアはメルの胸へとその顔を沈める。
「だ、大丈夫……皆が居るから、ね?」
彼女はそう言うがその声は明らかに震えており……。
ゆ、幽霊……じゃないよね? 私達を襲ってきた人だよね!?
だ、だとしたら、今の悲鳴……一体誰の……。
「見に行ってくる……」
「リ、リアス!?」
部屋の外へと向かおうとするリアス。
そんな彼に驚いた声を発したメルは――。
「あ、危ないよ……」
「それは、そうだが……俺達のいざこざに巻き込まれたかもしれないんだぞ?」
「だ、だから皆で……」
その言葉にカルロスやエスイルは頷くが、ライノとリアスは静かに首を振る。
「広い場所ならともかく、屋内じゃ逆に動き辛い……皆で行く方が危険な場合もある」
「そ、そうだよね……」
いつものメルと違う事に気が付いたリアスは首を傾げつつ――。
「心配するなライノと一緒に行く……良いな?」
「ええ、勿論よ」
二人が頷き合うのを見て何も言えなくなってしまったとメルは涙目で訴えていると……。
「そうか、メルは幽霊とかが苦手なんだっけ?」
「シュレム!?」
突然の暴露にリリアを抱く腕に力を入れつつ振り向く。
「幽霊何て居ないだろ? 動く死体も元凶はもういない訳だしな」
「そ、そうじゃなくて、怖いんじゃなくて……もし居たらどうやって戦えば良いのか分からないだけだよ!?」
「いや、それを怖いって言うんじゃないのか?」
カルロスは呆れたようにそう言うが、リアスは少し考えるそぶりを見せると――。
「なら、俺とメルで一緒に行った方が良いか?」
「へ?」
「メルは今剣を使えない、魔法だけだ……よくよく考えれば強力な魔法は仲間が沢山いる所じゃ使い辛い……なら俺と一緒に行った方が良いかもしれない」
「……アタシは此処に残っても大丈夫だから安心して?」
微笑むライノ、そしてリアスを交互に見てメルは小さく首を縦に振り……。
「一緒に行く……」
そう答えた。




