76話 言葉の意味
突然現れた黒いミミズ。
リアスとライノはその犯人を捜すべく隣の部屋へと向かう。
そこで目にしたのは封風石と壁の穴をふさぐ板、そして奇妙な文字だけだった。
その文字が示すのは一体どういう意味だろうか?
やっぱりついて行けば良かったかな……。
メルは数分の間に不安を覚え、そう頭に思い浮かべていた。
だが、そんな彼女の不安は杞憂であり……。
「どうやら、隣の部屋から虫を入れられたみたいね」
「どうやったのか分からないが穴は釘で打ち付けられてた……音も無しに出来るのかあんな事……」
彼らは部屋へと戻ってくるとそう口にし……無事な姿を見たメルはほっとした……のだが……。
「リアス?」
リアスの顔が何処か険しい事に気が付き、彼の名を呼ぶ。
すると彼はメルの方へと顔を向け――リリアへと目を向ける。
「リリアちゃんの目は見えてないわよね?」
「え?」
そして、ライノはそんな事を口にし、メルは思わず首を傾げた。
それは彼女が寝る前にもう分かっている事なのだ。
ライノも知っているはずであり、何故急にそんな事を言い始めたのか?
そう思いつつメルは――。
「隣の部屋に何があったの?」
「その目は見えているのか? あの女の仕業か? そんな事が書かれてたわ」
「目? 目って……リリアちゃんは」
そこに居る少女を見下ろし――。
「リリアちゃんは……」
まだ、目が治ってない……あの蟲の特徴……お医者さんも言ってたんだから間違いない。
つまり、目が治るって事を考えてた?
でも……性格がまるで違うリリアちゃんが態々危険を冒して隣の部屋に行く? いや、例え見えてても行かないはず。
だとしたら――。
「それって、誰にあてた言葉なの?」
「………………」
メルはどう考えてもそれがリリアに対する言葉には思えなかった。
確かに現状で目が見えないのはリリアだけだ……。
だが、その少女はメルの腕の中で震えているほどに弱い。
それならばその言葉は別の者への言葉と彼女は考えたのだが……。
「そう言ってもよ……オイラ達の中に目が見えない奴なんて一人しか――」
「居ないよな? メルが言ってるけど誰宛なんだ? とてもじゃないがリリアが隣へ行くとは思えない」
「うん、ずっとメルお姉ちゃんにくっ付いてるし……」
それは他の仲間も理解したのだろう……そこから導き出された答えは――。
「つまり、あれは俺達じゃない、誰か宛てだってのか?」
リアスがそう出したが……。
「お兄ちゃん……」
消え入りそうな声でメルの腕の中で怯える少女は答えた。
「……………」
「え? お兄ちゃん? お兄ちゃんって……」
少女が兄と言うのは一人しかいないだろう……その事に気が付いたメルは少年へと瞳を向けるが……彼の目が見えていないなんて事は信じられなかった。
「……それは昔の事だ。それに俺の事言ってるならなんでリリアを狙ってる?」
「……え? じゃぁ本当に目が?」
メルは初めて聞く事に狼狽するが……少女は少年の声の方へと顔を向け答える。
「お兄ちゃんは小さい時、目が見えなかった……私にご飯くれて……どんどん見えなくなってた。目に包帯を巻いててずっと辛そうだった」
「……そう、だったんだ……」
「だから昔の話だ……偶々来てくれた薬師が見てくれて……でもそれと今回の件は――」
関係ない……そう彼は答えようとしたのだろう、だが――。
「お兄ちゃんが目がちゃんと見えるようになったの……私は知らないよ?」
少女の口から告げられた言葉はその場にいる者達の言葉を失わせた……。
「何言ってるんだ? ……リリアは居たろ? 俺はその時確かに――」
「だって、あの時お兄ちゃん、顔までは分からないって言ってたから……多分、私が襲われた後……治ったんだと思う」
リリアの言葉に黙り込むリアス。
そして、二人の様子を見てメルは首を傾げつつ口にする。
「つまり、その言葉はリアスへの言葉だったって事?」
でも、なんでリアスに? リリアちゃんを狙っていたのは間違いない。
だけど、気付かれる事にに気付いていた?
でも、リアスが昔目が見えなかったって言うなら、リリアちゃんじゃなくリアスに宛てた言葉でも辻褄は合う……でも、じゃぁあの女の仕業かって言うのは誰の事?
手紙を持って行ったって事はママへの言葉? リアスとユーリママは知り合い?
いや違う、リアスが死にかけたあの時そんな事は一切言ってなかった……状況が状況だもん、もしユーリママの知り合いを死なせかけたなら、もっと何か言われるはず。
だけど、原因が分かっていなかったとしたら……目を治せるなんて事を出来るのはユーリママだけ……。
それも、ママを知ってる人なら回復魔法の使い手だなんてすぐに調べられる。
つまり……黒ミミズを放ってきてる人は――。
「…………私は勿論、ママを知ってて、リアスの事も知ってる人が犯人?」
「ん? ユーリさん? メルなんでユーリさんなんだ?」
「だって……」
メルは先程思い浮かべた事を仲間達に伝える。
すると一人眉を寄せた少年は……。
「そうは言ってもな……メル、俺はユーリさんと初めて会ったのはリラーグだ……」
メルの考えからしてもそうなのだろう……だが、メルはある事を思い出しもしかしたら二人共覚えていないか、出会った事すら知らないのではないか? とも考えていた。
何故ならその時彼は――。
「小さい時、リアスは目が見えてなかった……包帯をしていて相手からもちゃんと顔が見えなかった……」
そう、お互いに見えなかったのだ。
そしてもう一つ、もしかしたらと思った理由――。
「リアス前にタリムに着いたら任せろって言ってくれたよね? あれって……なんで?」
「なんでって言われてもな……生まれ故郷だとしか言いようがない……」
「タリムが生まれ故郷……そ、そうか! 師匠が言ってた確かタリムに行った時勇者ご一行の凱旋を受けたって! つまり、ガキん時にその中にリアスが居た?」
シュレムの言葉に頷いたメルはようやく何が襲ってきているのかがうっすらと見え始めた。
いや、それは確信なのかもしれない……。
「多分、ユーリママが倒したキョウヤって言う不死者の王の配下……それがリリアちゃんをあんな目に遭わせて私達を襲った犯人……あの変な魔物も合成魔獣なら、話がつくよ」
でも、疑問は幾つか残ってる……あの後、もう置いて行かないよね? って私が何度も言った時……。
ユーリママは確かこう言ったんだ。
『あの人には配下も居ない……多分、力と恐怖で押さえてたから……もう誰かが後を継ぐなんて事は無いよ。だから僕はもうメルやフィーと離れたりしないから』
メルはその言葉を思い出し、尻尾を揺らす……。
母が言っていた事は嘘ではないだろう……だが、彼女の予想が外れていたと言う事は十分あり得るのだ。
そしてもう一つの疑問は――。
だけど……あれが本当にキメラだとして……なんで太陽の下で活動できるの?
と言う事だった……。




