73話 可能性
盗られたものはリリアの持つ手紙だった。
他にはないか探したメル達だったが、不思議な事に無く……宿の主人であるアイビーは申し訳なさそうな顔を浮かべた。
そんな彼女にメル達は部屋を一緒にしてもらえるように頼むのだった。
食事も終わり、新たに案内された部屋で休むメル達。
「じゃぁ、交代で見張る事にしよう」
相談をし、そう決まったことでメルは確認の為に口にする。
「そうだな、じゃぁさっきの話通り――メルと俺、シュレムとライノが交代で起きていよう」
「オイラ達は本当に寝てて良いのか?」
「組み分けに納得は行かないが、戦えない奴を見張りに立たせる訳にはいかないしな……」
彼女の不貞腐れた態度を見て笑みを浮かべたライノ――彼はにっこりと微笑むと……。
「私も薬を撒く時に他の子よりもシュレムちゃんなら盾で自分で庇えるから助かるわよ?」
「分ってるって旦那ぁ……」
その事は理解しているのだろう、シュレムはがっくりと肩を落とし答え、恨めしそうにリアスを睨む。
そんな中、一行の中で一番年の若い少年はおずおずと手を上げ――
「でも、僕達だって見張りぐらい……」
そう訴えると続く様に少女が口を開いた。
「できる……」
と続きを口にするとエスイルは頬を膨らませる。
「……………」
そんな少年の様子に気が付いたのだろう、メルは首を傾げ……。
「エスイル?」
少年の名を呼ぶが、何故かぷいっとそっぽを向いてしまい、その事に驚いた彼女は。
「エ、エスイルが……反抗期に……」
心から悲しそうな表情と声……尻尾と耳はだらんと力なく垂れ下がってしまった。
「あらあら……エスイルちゃんも男の子なのね?」
だが、何かに気が付いたらしいライノはエスイルの頭を撫で、そう言うと小さく笑い。
「何も笑う事なんてないもん!」
少年はライノに向かってそう口にし、布団の中へと潜って行き……その様子にメルはますます気を落ち込ませた。
「エスイル……」
「大丈夫よ、すぐに元に戻るわ」
ライノの言葉を聞き、少し表情が明るくなったメル。
「そういうものですか?」
と聞くと、何かに合点が行ったのだろう、カルロスは手を合わせ音を立てると……。
「ああ、つまり大好きな――ぶはっ!?」
何かを言いかけた所、顔面へと枕がぶつかり言葉は止められた。
「エスイル!! 駄目でしょ!?」
「まぁまぁ、今のはカルロスちゃんが悪いわ」
「ああ、今のはカルロスが悪いな……」
二人の男性の言葉に疑問を浮かべたメルは首を傾げる。
だが、ライノは笑みを浮かべたまま再び口を開き――。
「寝る前に試すのよね?」
――とだけ口にした。
試す……それはメルが出来る事をやると思って行っているのだろう……勿論、彼女自身、寝る前にやるつもりだった事であり、ライノの質問に頷いた。
「リリアちゃん」
盲目の少女へと声を掛けた。
「……ん?」
名を呼ばれた事で少女はメルの元へと近づこうとするが、途中椅子に足を取られ転びかける。
「っ! 危ない!」
メルはそんな彼女を何とか支える。
やっぱり……目は見えてない……。
演技には見えないし、じゃぁどうやってリアスと偽物を見分けたの? ううん、今はそれより……。
彼女は考えるのを止め、リリアを椅子に座らせる。
「今からね? 少し特殊な魔法を使うよ?」
「――――っ」
魔法と聞いて少女は明らかに怯え、息を飲む……当然だろう、魔法と言えば破壊の力と言っても良い物であり、それが普通なのだ。
だが、ここでメルが使う魔法は一つ……その普通からかけ離れた物……。
「その魔法でもしかしたら、目が見えるようになるかもしれない……あくまでかも、だけど……」
「魔法で……見える……ように……?」
繰り返された言葉にメルは答えられなかった。
あくまで可能性、それも奇跡に近い可能性……ユーリママなら、きっと治せる。
でも……私で治せるの? 分からない……でも、ここで何もしないって言うのは出来ない。
彼女は黙ったままリリアの瞳を右手で覆い。
「我が友の傷を癒せ、ヒーリング……」
……答えの代わりに魔法を唱えた。
突然使われた魔法に思わず身を引くリリアだったが、それが攻撃の為の物ではないと理解したのかすぐにおとなしくなり、メルの魔法に身をゆだねる。
暫くし、メルは彼女の顔から手を放し訪ねた。
「ど、どうかな?」
「…………?」
メルの言葉に反応し瞼を持ち上げたリリアは辺りをキョロキョロと見回すが、すぐにしゅんっとしてしまう……。
その理由は一つしかないだろう事を知るメルもまた尻尾を垂らし悲しそうな顔を浮かべたが……。
「ほら、そんな一回で諦めないの! 何度も続けてれば治る可能性は高いでしょ?」
「なんでそう言い切れるんだライノさん……」
「そ、そうですよ……」
その言葉に疑問を訴えたのはメルとリアス……だが、彼は言葉を撤回するつもりはないのだろう微笑み――。
「メルちゃんの魔法は傷を治す魔法、ならあのミミズに傷をつけられた目の神経は治せるはずよ? それに今の魔法が無理なら作ってしまえば良いんじゃない?」
「そ、そんな作るなんて無理ですよ! この魔法はユーリママが土壇場で完成させた魔法なんです! それより強力なのを私に何て……」
出来る訳が無い……その言葉をメルは飲み込んだ。
リリアに不安そうに服を引っ張られたからだ……彼女は見えない瞳ですがる様な視線でメルを見つめ……。
「リリアちゃん……」
そうだ、この子は今目が見えない、どうにか出来るとしたら私の魔法かユーリママの魔法だけ……。
でも回復魔法……ヒーリングはもっと違う魔法になるはずだったってユーリママが言ってた。
この魔法はユーリママが唯一ちゃんと作れなかった魔法……それを作る?
無理だ……だけど……治すんじゃなくて見える様にするなら……どうかな? でも……ううん、他に方法が思いつかない……。
「でも今日はそろそろ休みましょう? メルちゃん達は先に休んで欲しいわ」
「え? あ、はい……」
ライノにそう言われメルは答えるとリリアをベッドへと連れて行く……。
……でもどうやって目って物を写してるんだろう?
目が見えにくい人に眼鏡ってあるけど……あれが関係あるのかな? ライノさんだったら知ってるかもしれない。
「あのライノさん」
ベッドへリリアを寝かしたメルは振り返り、訪ねようとライノの名を呼ぶが――。
「今日は休んでおいた方が良いわ」
「ライノさんの言う通りだ……メルは怪我をしてるんだ。ちゃんと休んでおいた方が良い」
気になるけど……聞いたら聞いたで式を考えたりで寝れなくなりそうだし……皆に心配をかけたくないし、今日は休んでおこう
「わかりました、おやすみなさい」
メルは仲間達へとそう伝え、彼女自身もベッドの中へと入って行った。




