72話 盗られた物は……
宿へと戻ったメル達を迎えたのは店主であるアイビーだった。
しかし、彼女はメルが今度は仲間と共に戻って来たと言い、少し前に一人で忘れ物を取りに来たとも告げる。
当然メルが一人で戻って来れるはずもなく、彼女達は何か盗られていないか確認を始めたのだが……貴重品はその手に持っており、唯一無くなっていた物はリリアの持っていた手紙だけだった……。
メル達は他に盗まれた物が無いかを確認したが、やはり手紙以外は手を付けられておらず。
ならば部屋に何か置いてあるのでは? と探してみるも……。
「特に変な物は置いてない……水もウンディーネが住めるぐらいだし、あの蟲や毒とかは心配しないでも大丈夫みたい」
「そうか……でも、なんで手紙だけなんだ? とは言っても他に金目の物は無いけどさ」
「分からない……でも、それだけ重要な事が書かれていたのかもしれない……」
そもそもなんで、ユーリママの名前が書いてあったのかも分からない。
うぅ……こんな事になるならその場ですぐに見ちゃえば良かったよ。
すぐに読まなかった事を後悔しつつも、彼女は立ち上がるとリリアの手を引きゆっくりと立ち上がらせる。
「メル?」
「あっちの部屋も大丈夫か聞きに行こう?」
「分かった……」
三人が部屋から出ようとした所、ノックが部屋の中に響く――一瞬身構えたメル達でだったがその警戒はすぐに解いた。
見ればリリアが怯える事はなく、なにより……。
「メル、何か取られた物は無いか?」
それは心配するリアスの声の物だった。
メルはその声にほっとすると扉を開け、彼へと伝えた。
「手紙が無くなってた……」
「手紙? 手紙って確か……」
「メルちゃんのお母さん宛の物だったわよね?」
ライノの言葉にメルは頷くが……。
「でも、手紙だけなのか?」
「はい、そうみたいです……」
カルロスの言葉にそう答えたメルは不安そうに尻尾を揺らす。
「ユーリさんもママも……大丈夫かな? リラーグでなにか悪い事が起きてるんじゃ……」
そんなメルを見て不安を募らせたエスイルは自身の服を掴み呟くと――。
「大丈夫だ、ユーリさんにはフィーナさんもナタリアさんも居る。勿論親父や師匠だって……そう簡単にリラーグがどうこうなんて事は無いだろ」
「うん、それは心配してないんだけど……」
メルはシュレムの言葉には頷くものの不安はぬぐえなかった。
ママ達は強い……そう簡単に負けるはずはない。
だけど、私達は違う……この宿に泊まっているのもすぐにばれてた訳だし……いつでも襲ってくる事が出来る。
これでリリアちゃんを守るなんて私達に出来るの? それにアイビーさんだって次は狙われるかもしれない。
かと言って宿を変えてもアイビーさんが安全になるなんて限らないし……。
「……ねぇ」
メルは遠慮がちに口を開き……仲間達は彼女へと視線を向ける。
「アイビーさんに頼んで部屋を相部屋にしてもらおう?」
「メル!? 何を言って……旦那やエスイルはともかく――」
「でも部屋が分かれてたら襲われた時に不利だよ? 私は今あまり戦えないし……」
それなら皆と一緒の方がリリアちゃんが安全だよね?
シュレムは頼りになるけど一人で私たち二人を庇うのには無理があるよ……。
「……そうだな、他の二人には悪いけどメルが良いって言うなら食事の時にアイビーさんにお願いしてみよう」
「うん、ありがとう」
メルはリアスにそう伝えると食事を取る為に仲間を引き連れて移動をし、アイビーの元へと尋ねると彼女は申し訳なさそうな顔を浮かべ……。
「大丈夫だったかい?」
と尋ねてきた。
それに対しメルは苦笑いをし……。
「貴重品は持って行ってましたから……ただ……」
「た、ただ?」
「手紙が無くなってたみたいで……」
それを聞いた彼女はこめかみ辺りを指で押さえ、溜息をついた。
「それはすまなかったね……重要な物だったのかい」
「それが、分からないんです……元々リリアちゃんが持っていた物で彼女は途中で合流しましたし、中身は見ていなかったみたいですから……」
「そうかい……わざわざ化けてまで盗りに来たんだ。重要な物だったんだろうね……本当に申し訳ないね……私がしっかりしてれば……」
ますます落ち込んで行く店主にメルは慌てて片手と首を振る。
「いえ、私達も持って行ってれば良かっただけなので……それに」
「そ、それに?」
「さっきもメルが言ってたけど、貴重品というか大事な物は殆ど持って行ってた。それに俺達だって騙されかけた位似ていたんだ……貴女が気に病むことは無いよ」
メルの言葉に続くリアス、彼が言った事に対しメル達はそう思ったのだろう頷き――。
「ああ、元々手紙があるって言う時に持って行こうと言わなかったしな」
「それもそうね、そこまで重要とは思ってなかったから店主さんは悪くないわ」
「僕もそう思うよ?」
「オイラもあんまり事情を知らないしな……とにかく、誰も怪我とかしなくてよかったんじゃないか?」
その声が聞こえたのだろう、リリアもおずおずと頷きメルはアイビーへと微笑んだ。
「だ、そうですよ?」
「あんた達ね……人にやさしいのは良いけど……」
「でも、本当にそうですし……それよりも一つお願いがあるんです」
困ったようで何処か嬉しそうなアイビーに対しメルがそう言うと彼女は笑みを浮かべ――。
「お願い? 良いよ大抵の事は聞いてあげる。他の宿が良いってんなら紹介ぐらい――」
「いえ、大きな部屋を一つ……皆で休める部屋へ変えて欲しいんです」
「み、皆ってメルちゃん!? 男女同じ部屋って言う事?」
彼女は驚き声を上げるがメルは思わず首を傾げた。
確かに男女別の部屋と言うのは彼女にとっても嬉しい事だ。
だが、冒険者という職業の人々はお金が無い内は大体が相部屋……それが嫌な冒険者は同性同士で組むことを好むだけ。
それは宿に泊まる際も同じであり、別に驚く事ではないのだが……。
「どうかしたんですか?」
「い、いや……う~ん、本人が納得してるなら良いか……分かったすぐに用意するよ、食事をして待ってな」
彼女は腕を組んで考えた後にそう言うと奥の部屋を指差し、メル達が来た方へと向かって行く……。
「ありがとうございます! アイビーさん」
メルはそんな背中にお礼を告げ――。
「ご飯食べよう?」
先程アイビーが指示した部屋へと向かう。
扉を開け、中に入るとそれはすぐに彼女の鼻孔をくすぐり……。
「お、美味しそうな匂いが……」
「どうやら気を遣わせちゃったみたいね……美味しそうね? エスイルちゃん」
「うん!僕もうお腹減っちゃた」
ライノはそれを見てエスイルの方へと笑顔を向けた。
「うわぁぁ、お肉だ……しかも分厚いよ?」
メルもその臭いの正体に気が付いたのだろう……机に盛られた料理の中、一つの皿を指差し仲間達に向かって笑顔で伝えると――。
「確かに……後で店主さんにお礼言っておかないとな」
リアスもまたそれに釘付けになりつつも答えた。
「こんなの酒場でも出てこなかったような気がするぞ……」
「というか……詫びの品がコレってメル達は一体なに者なんだ? まさか本当に王様の知り合いだったのか?」
ただ一人、わなわなと震えるカルロスはメルに尋ねるが――メルは頬をかき、尻尾を小さく揺らしながら――。
「はい、言った通りです」
と答えた。




