70話 宿へと
魔物はリリアが目的だった。
その事を知ったメルは彼女を守ろうとするのだが、敵は他にもいて……。
魔法を駆使し何とか逃げる事の出来たメル達は宿へと向かうのだが?
メル達は宿へと向かい、大きな道へと出た所だ。
彼女の瞳にやけに慌ただしく走り回る人達が見えた。
「あれは……」
それはメルには見覚えのある人物たちだ、しかし彼女は……。
どうしよう、さっきのリアスの件もあるし……迂闊に近づけないよ。
もし、また変身だったら今度は逃げ切れない。
でも、宿まではもうちょっとある……みたいだし……。
「お姉ちゃん?」
「い、行こうか?」
リリアの声を聞きメルはそれだけ返すと人通りの多い道を進もうと歩き始めた――だが――。
「お兄ちゃん達……置いて行くの?」
少女から聞こえた声にびくりと体を震わせた。
「リリアちゃん?」
そう言えば、さっきも見ても居ないのにリアスじゃないって事を見破って……。
もしかして、本当にナタリアと同じ……ううん、そんな事より……。
「……リリアちゃん、教えて」
「…………?」
「今、近くに居る人は間違いなくリアス達なの?」
彼女がそう尋ねると腕の中で疑問を持ったような声が聞こえ――。
「分らない、けど……怖い人じゃない、と思う……でも、何でそんな事聞くの?」
それは先程の疑問を口にしたかのような言葉で……メルは仲間達へと視線を動かす。
「……そうだね、そもそも変身でそっくりに化けれる人は少ない……そう何人も居ないよね」
メルはそう呟くと傍に居る精霊シルフへと瞳を向けた。
「シルフ、エスイルに伝えて……近くなら案内出来るよね?」
『うん! 分かったよメル!』
風の精霊は笑みを浮かべ人混みの中に紛れて行き――メル達はその場で待つ事にした。
暫くするとシルフが消えた人混みから人影が見え――メルは警戒するようにリリアの方へと瞳を向けたが――。
特に怯えたりはしてない……。
じゃぁ、皆は本物って事だよね?
「って何処に居るんだメルもリリアも……居ないじゃないか!」
「シルフが言うにはここだって言ってたけど……」
辺りを見回すリアスに対し、エスイルはふとある空間へとその視線を止める。
それに気が付いたのだろうシュレムは少年へと問いかけ――。
「エスイル、そこに居るのか?」
「そこに居るってなにも無いように見えるぞ?」
カルロスは首を傾げて手を伸ばしかけた時――ゆっくりとメル達の身体は姿を現した。
「うぉぉおお!? で、ででででで!?」
だが、それはあまりにも突然であり、当然カルロスは驚き跳ね上がる。
「え、えっと……驚かせちゃってごめんなさい……」
カルロスの反応に驚きつつ、メルが謝ると――。
「そんな事は良い、それよりもメル平気か!? その魔法を使ってたって事は襲われたんじゃないのか!?」
「う、うん……何とか逃げられたから大丈夫だよ……それより、確かめたい事があるの!」
メルは震えるリリアの頭を撫でつつそう伝えると、仲間達はその顔に疑問を浮かべ……。
「確かめたい事……?」
「もしかして私達が本物か、とか?」
メルはその言葉を聞き自分達へ変身した偽物が彼らの所に行っていた事を確信し、慌てて手と頭を振って否定をした。
「ううん、そうじゃなくて……とにかく宿に戻ろう?」
彼女はそう提案するのだが……。
「…………」
リアスは難しい顔を浮かべ、黙ってしまった。
「どう、したの?」
「今宿に戻れば、追手が来るかもしれない……宿の人を巻き込むわけにはいかない」
「……ぁ」
そうだ……このまま戻ったら、もし見つかったりしたら……。
アイビーさんに迷惑が……でも、あの手紙の内容が気になるし……もし、ママ達にユーリママに何かあったら……。
「どうしたら……」
「……何かあったのかメル」
メルの呟きに真剣な表情で問うシュレム、そんな姉に対しメルは頷き。
「えと、私を襲って来た……ううん、目的はリリアちゃんだったんだけど……」
「リリアが? だってこいつは――」
リアスはメルの言葉を聞きリリアの顔へと視線を向ける。
そこには仲間達に合流できたからか震えが小さくなってきている少女が居て、彼女は顔を見られている事が分かっているのか首を傾げていた。
「目が見えないんだぞ?」
「……うん、確かに目は見えてない、みたい……だけど」
「で、そいつら……多分オレ達の所に来た仲間がどうしたんだ?」
「うん……なんかユーリママをしてって……」
メルの言葉にびくりと体を震わせたリリア、そしてそれを目にしたリアスは――。
「メル……リリアから離れろ」
「なんでそんな話になるの? この子は記憶もないし目が見えないんだよ!? 誰かが支えて上げないと!」
「そうだな、だけど……本当に記憶が無いのか?」
疑うような瞳でリリアを睨むリアス……そんな彼から彼女を護る様にメルは抱き寄せ――
「リアスはお兄ちゃんなんでしょ? なんでそんなに……」
「……例え兄でも、仲間を襲って来た敵を警戒しない訳が無いだろ? そいつに記憶があってメルや皆に刃を振るう可能性だって残ってるんだ」
それは、そうなんだろうけど……でも、リリアちゃんがそうだとは思えないよ。
「もし、そうだとしたら……逸れた時点で刺されてるよ……私は今剣を握れる自信が無い……魔法だって詠唱する隙が無いと意味が無い」
「…………」
「それに、私達の所に来たリアスが偽物だって教えてくれたのはリリアちゃんだよ、疑う必要ないよ」
メルはリアスの瞳から自身の双眸を外すことなく告げると――。
「それに、折角再開出来たんだから……そう怖い顔しないであげてよ……」
「…………はぁ、記憶があれば自分が助かる為に裏切る可能性だって――」
「リリアちゃんが記憶を持ってても持ってなくても、操られてたのは間違いない……裏切るなら追手はリリアちゃんを狙う必要はないよ、だけど狙ってるし、ママにも何かしようとしてる」
それにはシュレムは頷き、メルへ一歩近づくと彼女の肩へと手を置き――。
「シュレム?」
「……なら、尚更リリアは守らないといけないなメル」
「あのな、シュレム!」
リアスが制するように名を呼ぶが、シュレムからは大きな溜息が吐き出され心底面倒くさそうな表情を浮かべた彼女は振り返る。
「あのな、リアスお前なにそんな頑なになってるんだ?」
「確かにシュレムちゃんの言う通りね? メルちゃんを助けてくれたんだし、もうちょっと柔らかくなっても良いんじゃない?」
「今は無害だってのはオイラにだって分かるぜ?」
「うん……僕もそう、思う……」
仲間達から一斉にそう告げられた彼もまた溜息をつき口を開きかけたのだが――。
「とにかく危ないってのは何となくだが分かる、だけどよ……狙われてる以上このままじゃリリア殺されるぞ?」
「いや、そのシュレム、狙われてるって言ってもリリアちゃんをまた操ろうとしているみたいなの」
そうなのか? と振り返ったシュレムは呟いたが意見を変えるつもりはない様で再び、口を開いた彼女は――。
「どっちにしろ、メルを助けたのは事実なんだろ? だったらオレは妹の恩人を助けるまでだ――悪いがリアス、手伝わなくてもお前にはついて来てもらうぞ? 不本意だがお前に何かあったらメルが悲しむ……」
「……お姉ちゃん」
内心また喧嘩になるのではっと考えていたメルは姉の言葉に心から安堵したのだろう、嬉しそうに尻尾を振る。
対し、リアスは頭を抱え――。
「妹だから……襲ってきた時とまるで違うから手を下したくないんだろうが……」
辛そうな呟きは小さく……それでも周りには聞こえたのだろう。
「そん時は責任とってオレが何とかする……今はどうする?」
「……分かったよ、それで良い……メルは宿に戻りたいんだよな?」
「うん! でも、その前に――」
追手をどうにかしないと……でも街中じゃ皆を巻き込む事に……外に出られればいいけど……。
「俺達を分けてまで街中で襲って来たって事は今度は奇襲を仕掛けるために街の人に化けてくる可能性もある……」
「そうだね、それは分かってるよ」
私は魔法しか使えない、リリアちゃんとカルロスさんも戦えない。
どうしても先に気付く必要が――気付く?
「…………お姉ちゃん?」
「そっか――気づく事は出来るかもしれない……」
「なんですって、だって高度な魔法だったわよ!?」
驚くライノに頷き、メルは自身を助けてくれた少女の頭を撫でる。
「お願いリリアちゃん、私達が危ないって思ったら教えて?」
「リリアってメル、その子は……」
「でもさっきメルお姉ちゃんを助けたって……」
シュレムの言葉を遮るエスイル……そんな少年の言葉を聞き、カルロスは身を乗り出し――。
「なるほど、目は見えない、でも何かが見えてるんだな!?」
「どいう事だ? リリアにはそんな眼は無かったはず……」
後天的な眼? そんなの聞いた事無いよ……でも、今奇襲される可能性が高い以上、リリアちゃんの力は頼りになる。
「……お姉ちゃん達が守ってくれるの?」
「うん、守るよ」
メルの言葉に少し沈黙をしたリリアだったが――。
「頑張る……」
何も捉えていないはずの瞳はメルをしっかりと捉え、言葉は告げられた。




