67話 視力を失った少女
無事、診てもらう事が出来たメル達。
ほっとしたのも束の間、リリアどうやら寄生虫の所為で瞳の神経を傷つけられ視力を失ったとの事だった。
治す方法はないのか? そうとうメルに対し医師が口にした答えは無理という言葉だった。
医者からの帰り道、メルはふと右腕を掴む少女へと目を向ける。
そこには目が見えないというのに笑顔を浮かべるリリアの姿があり、一見するとその瞳が何も捕らえて無いように見える。
だけど、この子には何も見えてない。
黒いミミズの所為で……もし、お医者さんの言った通り、身体の中……目の神経が傷ついてるならユーリママなら……
シルフに頼めばきっと来てくれる……だろうけど、あの手紙が――。
「きゃ!?」
「――っ!! リリアちゃん!?」
考える中、隣から聞こえる悲鳴に慌てて声を上げ――腕から離れた彼女を慌てて支える。
「――てぇな……」
「ごめんなさい……」
リリアに怪我が無かった事に安堵しつつメルは痛みを訴える男性の声に答え視線を向ける。
「ごめんなさい? ごめんなさいで済むかよ……」
当やって威嚇するように唸る男性はぶらぶらと察せている手をもう片方の手で指し――。
「腕折れちまったけど?」
「…………はい?」
その言葉と行動にメルは思わず声を上げてしまった。
当然だが折れたようには見えず、小首をかしげ疑問を浮かべた為か尻尾は大きく一回揺れた。
首を傾げつつ彼女は今一度、相手の腕を見てみるが……。
どう、みても……腕は折れてないよね?
「はい、じゃぁねぇよ!!」
「どうしたんだよ、なにか問題か?」
叫び声に釣られて来たのだろう、男性の知り合いらしき人は男性の肩を叩くと――。
「痛ぇ!! おい揺らすな!」
「おいおい、これもしかして折れてるのか?」
そんなやり取りが聞こえたのだろう。
「嘘だ……」
リリアの口からは小さな声でそれが紡がれ、それを聞くメルも当然そうだと理解をしていたが……。
なんか、変なのに捕まった? のかな?
「おい! どぉすんだよ!!」
「ええと……折れ、てる……なら慌てますけど……その……折れてませんよね?」
「ああ!?」
メルの言葉に威嚇をするが、メルとしてはますます困惑するだけだ。
それもそのはずだ誰が見たって腕は折れてはいないのだから……。
「折れてないだと!? 現に折れてんだよ!!」
ぶらぶらとさせる左腕を指す男から、右腕にくっ付いているリリアへと視線を向けるメル。
余りにも分かりやりやすいその嘘にどう答えたものか? と一瞬考えたがすぐにリリアが震えている事に気が付いた彼女は――。
「この子は私の右腕に捕まってました、なら当たったのは右腕ですよね?」
「ぁあ?」
「でも折れてるって訴えてるのは左腕……それに本当に折れてたら今みたいに元気なわけがないですよ?」
メルはその事を告げると呆然とする男達――。
暫く続く沈黙の後、メルはリリアをしっかり立たせると辺りを見回す。
皆来てくれないと思ったら……逸れちゃってたんだ。
とにかく、宿に戻らないとそれぐらいならシルフに聞けば――。
メルがシルフの名を呼ぼうと口を開き――。
「うぉぉぉおお痛ぇぇえ! 右腕がぁぁああ!」
かけた時に突然響く、叫び声……。
それに大きなため息をついた彼女はだったが……。
「あ、あれ?」
いつの間にか彼の元に数人の男達が集まっており――思わず苦笑いを浮かべた。
これって、もしかして……マズイ、よね?
目の前に居るのは見た所、そこまで強いとは言えそうにない男達だ。
だが、メルは傷を負っており、リリアという少女を連れている。
多勢に無勢、というかど、どうしよう……。
「お姉ちゃん……」
メルが内心焦っていると不安そうに服を掴むのは盲目の少女。
そんな彼女を見て、メルは自身を奮い立たせるように頭を振り、尻尾を立て――男達を睨んだ。
しかし、そんな事をすれば当然――。
「おいおい、人に怪我させておいてなんだ? その態度は……」
メル達を囲むように動き始めた男達は笑みすら浮かべている。
だが――。
「何をしている」
彼女達を囲み切る前に声が響き――男達はビクリと身体を震わせた。
何が起きたのかとメルは疑問に思い声の主を探すと――。
「冒険者?」
にしては綺麗な鎧を着てるし、でも……素人って訳でもなさそう……。
「――っ」
メルがそんな事を考えているとリリアはメルに抱きつくようにし、震え始め――。
「リリアちゃん?」
疑問に思いつつもメルはそっとリリアの頭を撫で始める。
「テメェ! 何の様だよ!!」
「男が大勢集まって子供相手に何をしている……相手なら僕がするけど?」
余裕の笑みを浮かべる男をリリアを慰めつつ見るメル。
そんな彼女に気が付いたのか、男はにっこりと微笑むと――。
「お嬢さんたち、ここは僕に任せて」
「あ、ありがとうございます……」
突然現れた男にそう言われ思わずお礼を言ったメルはリリアを連れその場から離れる。
その男の横を通り過ぎると言う時に――。
「おい待て!」
ぶつかってきた方の男の声が響き、リリアはビクリと身体を震わせ……歩みを止めそうになるが……。
「大丈夫、ね?」
メルはそう言い慰めると彼女は震えながらもなんとか足を動かした。
途中シルフに道案内を頼み暫く歩みを進めた頃、メルは隣に居る少女へと目を向ける。
そこには振るえ、青い顔をし、汗を流すリリアが居り……。
「リリアちゃん?」
なんだろう……なんで、こんなに震えて……もうあの人たちの所からは離れたのに……。
「……っ……!!」
「もう、大丈夫だから……あの人達は――」
メルがそう言いかけるとリリアは小さく首を左右に振る。
「ん?」
彼女の行動に首を傾げるメルだったが……。
『メル、もう少しで宿だよ!』
「……う、うん」
シルフの言葉に頷く少女は先ほどの事を思い出す。
そういえば、リリアちゃんが怯え始めたの……ううん、ここまでになったのはあの冒険者? の人が来てから?
という事はあの人の事を知ってる? でも、この子私達と出会う前の記憶が無いって……。
メルは少女の様子を今一度確認するが、見えない瞳で辺りをうかがう様にきょろきょろと見回している。
そして、彼女が後ろを向いた時――その顔は歪み。
「きゃ!? リ、リリアちゃん!?」
メルの胸へ目掛け、体当たりをするかのように抱きメルは思わず後ろへと下がってしまう。
い、一体……なにを見急に抱き着きてきたの?
彼女の様子に慌ててメルは辺りを見回すが――。
「……?」
別に変な所はない……もし何かあるなら……。
「メル!!」
辺りを見回す中、聞きなれた声が響き――彼女はそちらへと目を向ける。
「リアス! もう、何で皆先に――」
メルがそこまで言いかけるとリリアは彼女の身体を押すような仕草を見せる。
「リリアちゃん?」
それはまるで彼女をリアスから遠ざける様に――何故、そんな事をするのか疑問に思った彼女はリアスへと瞳を向ける。
何処か変わった様子もなく、いつも通りの彼だ。
さっきまでは一緒だったんだ……あれがリアスだって分かればリリアちゃんも安心するよね?
「リアスだよ、だから――」
メルの言葉を遮る様にリリアは首を振り――。
「お兄ちゃん……じゃ、ない……違う」
「え?」
「声も……姿も一緒……でも違う!」
はっきりと紡がれた言葉と共にメルの方へと向く双眸、それは何処も捉えていない様に見える瞳。
…………この子、まさか心が読める……とか?
でも、見えてないのに分かるなんてナタリアぐらいしか……ううん、今は――。
「どうしたんだ? メル」
メルは優し気に語り掛けるリアスを睨み――右腕をゆっくりと動かした。




