66話 リシェスの医者
リリアの持っていた手紙はメルの母ユーリ宛ての物だった。
それを知り、リアスはやはりリリアを連れて行けないと言うのだが、メル達はそれでも彼女が心配だと告げ、放って置く事は出来ないと口にした。
メルは一人で彼女を医者の元へ連れて行こうと考えるが、その方が危険だとリアスに言われ結局仲間達全員で医者の元へと足を運ぶことにしたのだった。
街の中歩くメルは困惑をしていた。
「あ、歩きにくいよ?」
苦笑いをしつつそう訴える彼女の左手にはエスイル、右腕にはリリアがしっかりとくっ付いており今訴えた様に彼女はよたよたと歩いている。
「ふ、二人共? メルちゃんは怪我してるのだから他の人と手を繋いだ方が良いんじゃないかしら?」
ライノの声に反応したのかメルの右では否定をし首を振るリリアの髪が揺れたのメルは感じ……リアスへと瞳を向ける。
するとリアスは大きな溜息をつきその瞳をリリアへと向け――
「リリア、メルが困ってるだろう?」
と告げるも、少女は今度は先程よりも大きく首を振り答える。
「……や…………」
それを見たシュレムも困ったような表情を浮かべると――
「うーん、せめて一人にしておいた方が良いだろうな……エスイル……オレが手を繋ぐよ」
とシュレムが優しい声を掛けるも少年は手に力を籠め――
「…………」
黙り込んでしまった。
一向に離れる様子の無い二人へと視線を向けると小首をかしげ……
「え、ええと……あははは……」
困り果て笑い声を上げた。
「リリア――」
「いいよ、リアス……不安なんだろうし、安心できるなら、少しぐらい歩きにくいのはね?」
「そうは言うけどメル? 少年も手を放そうとしてないぞ?」
カルロスの言葉を聞き、エスイルの方へと目を向けると其処には頬を膨らませた少年の姿があり……
そんな弟の姿を見たメルは微笑むと――
「大丈夫、二人共引っ張ったりはしないし……転ぶようなことは無いよ」
それに今、私は戦えない……それなら皆が動ける方が良いよね?
そう考えメルはぎこちなく歩みを進める。
ただ、ちょっと傷が痛いかも?
街人に聞き、医者の元へと辿り着いたメル達……
「天族の兄ちゃんは傷は酷かったみたいだけど、まぁ治りかけだ薬をちゃんと塗って激しく動かなければ大丈夫だ」
紹介された老婆の医者はイアーナの時の様に門前払いすることなく……ライノと共に部屋から出てくるとそう告げた。
そして、メルへと優しそうな瞳を向けると部屋へと招き入れ――
「次は嬢ちゃんだね……どうしたんだい?」
椅子へ座る事を手で促しつつそう聞いてくる。
「ええっと……そのナイフで……」
メルが傷口を見せると――
「うーんかなり深くやっちゃったね……場所もギリギリ、助かったのは運もあるし処置が良かったみたいだね……これは何日も放っておいたのかい?」
青い顔をして聞いてくる老婆のその言葉にメルは思わず苦笑いをする。
それもそうだろう……傷口は確かにまだ開いており、針も糸も無かったので血が止まる事も無かった……だが、傷口は少しだけ治っていたのだ。
魔法を自分でかけてたからなんだけど……これは黙っておいた方が良いよね?
「その、良い傷薬があってそれを塗っていたんです。一回血は止まったんですけど……」
「若いからって余り無茶をするもんじゃないよ……すぐに処置をしようか……」
老婆は険しい顔を浮かべそう口にすると、針と糸を取り出した。
「それにしても……」
痛みを軽減するためだろう塗り薬を取り出した老婆は笑みを浮かべ呟き、メルはそちらへと瞳を向ける。
「いやね、昔この街にお嬢ちゃんに似た娘が来てね……あんたと同じで可愛らしい子なのに傷ばっかり負って来たんだよ、いつか死んじまうよ! って脅したんだけどね……聞いてるのか聞いてないのかふんわりとしててね……」
「そ、そうなんですか……」
それって……間違いなく、フィーナママだよね?
「……あの子は元気かい?」
「え?」
「そこまで似てるんだ……他人の空似と言う事はないだろう?」
「……はい、ママは元気ですよ」
メルの答えに嬉しそうに頷いた老婆は処置を進め――
「!? ~~~~!!」
メルはあまりの痛さに暴れるも――
「こんな所まで似ているなんてね……」
笑みを浮かべたままの老婆の手は止まることは無かった……
「はい、次の人どうぞ」
部屋の中で横になるメルはそのまま老婆の医者は最後の一人を診るべく声を掛けた様だ……
痛みに堪えつつもメルはシュレムと共に不安そうに入ってきた少女を見つめる。
「おや?」
少女を見るなり怪訝な表情を浮かべた老婆はメルの方へと瞳を向ける。
「その子……目が見えなくなってしまって……」
メルがそう呟くと其処に居ると分かったのだろうリリアは危なっかしい足取りでメルへと近づき、手で何かを探すような仕草をし始め――
「リ、リリアちゃん?」
その様子にメルは彼女の名を呼ぶ。
どうしたんだろう? さっきはすぐに私を見つけてたみたいなのに……もしかして少しは見えてたのかな? だとした今はもう――
彼女がそんな不安を思い浮かべていると、リリアの手はメルの顔へと触れ――ようやく見つけたと笑顔を浮かべる少女は――
「おねえちゃん……」
と呟き、その場にゆっくりと座り込んでしまった。
「急に眼が見えなくなった、ね……人では初めてだね……」
「人では? ってどういう事だよ……」
老婆の言葉に質問を返したのはシュレムだ。
彼女も何かがおかしいと思ったのだろう……顔は険しい物となっていた。
「いやね、もし同じだとしたら最近この街で良く出る寄生虫さ……動物に宿って凶暴になってしまってね……獣医の言う事じゃ気絶か……何かを見せると耳の当たりから大きな黒いミミズが出て来るって言ってたよ」
「く、黒いミミズですか?」
エスイルが言ってたのも確か……黒いミミズだったよね?
「それ、オレ見たぞ……確かにこの子から出てきた! って待てよ……それなら目だけってよく考えればおかしいんじゃないか? 耳から出てきたのに聞こえてるみたいだぞ」
シュレムの言葉に老婆は頷き……
「不思議だけど、耳は大丈夫みたいだね……それも動物の時と同じ、ただ寄生虫は外に出ちまえば以前の様に大人しくなるけど、視力が無くなってしまうみたいでね」
そう答えた老婆の視線はメルから外れ、メルがそれを追うとそこには笑顔を浮かべる少女の姿が映る。
「……治す方法はないんですか?」
メルはリリアから瞳を逸らさずに老婆に問う。
部屋の中には沈黙が流れ――
「恐らく神経をやられてるんだ……無理だね……」
やがて老婆の声だけがその部屋に響いた――




