65話 メル達とリリア
無事宿へと着いたメル達はフィーナの知り合いという女性アイビーの用意してくれた部屋へと入る。
そこであたらめてライノによる診断をしたリリアだったが、やはりその瞳は何も見えていない様だった。
一度本職の者に診てもらった方が良いと結論が出たもののメル達にお金はなく困っていたところ、リリアは自身のお金を使うよう提案する。
メルは悪いと思いつつも彼女の鞄の中を見る……その時彼女は一通の手紙を目にしてしまうのだった。
「これなら、二人が見てもらえそうね? でも良いの? かなりの大金よ?」
「…………」
無言で頷くリリアに対し、ライノはにっこりと微笑み、メルへとその視線を向ける。
そして、彼女の表情に気が付いたのだろう……
「メルちゃん?」
「…………」
あの手紙の宛名……なんで……
「メルちゃん!!」
「ひゃい!? ――――痛っ!?」
ライノに大声で名を呼ばれ、メルは思わず返事を返しびくりと身を震わせる。
その際に傷に響いてしまったのだろう、傷口辺りを押さえ苦悶の表情を浮かべた。
「ご、ごめんなさいね?」
「い、いえ、だ、大丈夫……です」
痛みのあまりか笑みも上げる事も出来ず、辛うじてそう答えたメルに対し首を傾げたシュレムは――
「どうした? 具合でも悪いのか?」
「い、いや……怪我をしてるんだから、具合は悪いだろ……それよりも何かあったのかメル」
「ええと、その……」
メルはリアスの言葉に困った様に笑うと言葉を詰まらせる。
隣に居るリリアの方へとちらちらと視線を向けた。
本人の同意があったとはいえ、人の鞄を探ったわけだから……素直に言えないよね?
後でこっそり……でも、あれを言ったらリリアちゃんとリアスの関係悪くなったりしちゃわないかな?
ぅぅ……
「もしか、して……鞄、なにか、入ってた?」
彼女がそう考えていると隣に居るリリアはおずおずと言った様子でメルの方へと声を掛ける。
まるで不安を感じた子供の様にメルの袖を引っ張っているその姿は年相応のものだった。
「えっと……」
不安なのかな? でも……この子が全部悪い訳じゃない……
だけど、私達と戦ったのは覚えてるみたいだし……あの手紙になにが書いてあるのか分からないけど、宛先が誰か分かったら……
「わたし、やっぱり……居ない方が……」
「そ、そうじゃなくて!? ――――ぁぅぅ……」
しゅんとした様子の少女に焦るメルは再び声を上げ、痛みに顔を歪める。
だが、何かを決意したかのように顔を引き締めると――
「この子の……リリアちゃんの鞄に手紙があった……たまたま見えたんだけど……」
「手紙ってそれだけならおかしくはないと思うよ?」
エスイルは二人の様子を見て頬を膨らませつつそう言い、メルはその様子に首を傾げ答える。
「うん、手紙ってだけなら怪しくない、でも――」
「でも、なんだよ?」
「その手紙の宛名……ユーリママの名前が書かれてたの……」
メルはそれを仲間達へと伝え、するとそれまで袖を掴んでいたリリアは手を放し一歩後ろへと下がる。
「ユーリママって……メルのお母さんだよな? なんで……」
「分からない、でも……この子に依頼をした人はママを知ってる……かもしれない」
そう口にした彼女はリリアの方へと近づき、少女はそれから逃げる様に後ろへと下がり続ける……
「ぁ……ぁぁ……」
「なら、なおさらリリアの事は心配だけど、置いて行った方が……こいつには金があるんだ……暫くは大丈夫だろう」
部屋の中にリアスの小さな呟きが聞こえると同時に――
「――っ!?」
少女は何かに躓き、その身体を揺らす……
転びかけたリリアを目にしたメルは慌てて身体を支えると傷の痛みに顔を歪め――
「あ……」
「それは出来ないよ……」
「だけどな、何が理由かは知らないけどメルの両親は凄腕の冒険者なんだろ? 詳しくは聞いた事が無いが、メルの様子を見れば良く分かる」
「……でも! この子目が見えないんだよ!? 今だって転びそうに!!」
リリアがしっかりと立った事を確認したメルは手を放し、リアスへとそう告げるも彼はゆっくりと首を横に振った。
「だからこそ、足手まといになる……金で護衛、そして世話役を雇わせればいい」
「……でもよリアス、金が尽きたらどうするんだよ」
リアスの言葉にシュレムは苛ついた様子を見せ、彼女の言葉にリアスは黙り込む……
「だな、オイラもそう思うぜ流石に金が無い状態じゃこの子にくっ付いてるってのは無理だ」
「そうね……何かしら稼ぐ手段があるならともかく、今の状態じゃ以前の仕事も出来なさそうよ?」
シュレムの言葉に続く様にカルロス、ライノもそう言葉にし……エスイルさえリアスの服を引っ張ると――
「足手まといなら、僕だって一緒だよ?」
「い、いや……エスイルは――」
少年の言葉にリアスは口を開くが途中で止め、リリアへと目を向ける。
警戒しての事だろうだが、その目はやけに鋭く……メルはリリアの目の前に立つと――
「もし、置いて行ったら依頼主に見つかった時にこの子何をされるか分からないよ? ううん、それだけじゃない、目が見えないし変な人に目をつけられてもおかしくないよ?」
「…………」
「手紙の事は後で考える……とにかく、私の意見は変わらないよ……」
リアスから目を離さず、彼女はそう告げるとリリアの手を取り――
「お医者さん行こうか?」
笑みを浮かべそう少女に告げる……
すると、後ろからは溜息が聞こえ――
「メルに連れて行かれたら、それこそ危ない気がする……俺も医者にはついて行く」
「あぶ、ない……?」
「………………ぅぅ、せ、精霊達に聞けば迷わないよ? 憶えててくれてると思うし、戻る分には」
「はぁ……言っておくけどメルちゃん普通にしてるみたいだけど、傷塞がってるわけはないのよ? まぁ、アタシも自分を診てもらわないとね」
信用が無いとでも言うかのように続くライノの溜息にメルは顔を赤らめると、尻尾を垂らし……それは力なく揺れる。
だが、そんな彼女の方へと瞳を向ける少女は危ないという意味に合点が行ったのだろう、くすくすと笑い始めると――
「あり、がと、う……」
つたない言葉遣いでそうメルへと告げ、握られた手を握り返し――
「え、あ……う、うん……」
この子、普通に笑うと可愛い……私も可愛い妹が欲しかったなぁ……
弟と言ってもフォルもエスイルも血は繋がってないし……
「おねえ、ちゃん……?」
メルがぼんやりと考えていると目の前の少女は首を傾げどうしたの? とでも言いたげな表情を浮かべる。
「な、なんでもないよ?」
お姉ちゃん、か……さっきはちょっと怯えてたみたいだけど気を許してくれたのかな?
「じゃぁ皆でお医者さん行こう」
尻尾を揺らし、メルは笑顔で改めてその言葉を口にし、仲間達へと視線を送る。
頷いた皆を連れ、宿を後にした彼女達は――リシェスの街を歩き始めるのだった。




