64話 リシェスの宿へ
メルが目を覚ますと其処には仲間以外に先ほど襲ってきた少女の姿もあった。
警戒をするメルだったが、彼女が操られていた事を知り、その瞳が何も捕らえてない事を知ると心配をし始める。
しかし、リアスはまだ操られている事を考え連れて行かないと言うがメル達はリアスを説得するのだが、彼はただ分かってる……とだけ繰り返すのだった。
メル達は辿り着いた宿へと足を踏み入れる。
「いらっしゃい! 話は聞いてるよ」
すると宿の女主人はメルをその瞳に捉えるとにっこりと笑みを浮かべ、彼女達を出迎える。
「アンタがメアルリース……メルちゃんだね? 私はこの宿を仕切ってるアイビー、まぁ狭い宿だけど好きに使ってよ」
「は、はい……初めましてアイビーさん、母がいつもお世話になっております」
メルは頭を下げ女主人にそう言うと彼女は笑い声をあげ――
「あははは!! フィーナの娘さんだって聞いたけど、礼儀正しい子だね? お父さんに似たのかな?」
「え、ええーと……」
その言葉にはメルは思わず引きつった笑みを浮かべた。
事実だから仕方が無いのだが、彼女には父は居ない。
いや、居る事には居るのだが……その人は女性であり、メル自身は両親だと言い張れるが人にはどう説明したら良いのか分からなかったのだ。
「あれ? 聞いたらいけない事だったかな?」
「い、いいえ……その、ええっと――」
困惑する主人に対し、悪いと思ったのだろうメルは説明を試みるが……
どういって良いのか分からず――
「ええっと父と言いますか、その――母? と言いますか……」
というものの、伝わるはずが無く……
「メル、それよりもだリアスの妹、休ませねぇと」
困惑するアイビーにますますどう説明したら良いのかとメルが考えていると、彼女の背中にかけられた声はシュレムの物で……
「ごめん、手間をかける……」
「大丈夫だよ! お姉ちゃん達は心配してるだけだよ!」
そんなやり取りにクスリと笑みを浮かべたライノはメルへと目を向けると――
「ほら、ここに立ってたらメルちゃんの事も心配だから、ね?」
「そ、そうですね……アイビーさん、早速部屋を借りたいのですけど……」
「うーん、色々と気になるけどその為に来たんだからね、部屋は二階の手前側だよ、鍵はこいつで二部屋用意しておいたよ」
頷くアイビーはメルの手に二つの鍵を手渡すと再び笑みを浮かべ――
「さっきも言ったけどこの宿は狭い、でも食事を取ることぐらいなら出来るよ、別に外で食べて来ても大丈夫だけどどうする?」
「なら、此方でお願いします」
メルはそう答えるとリリアの傍へとより彼女の手を引く――
その行動にびくりと怯えたような表情を浮かべた彼女に微笑んだメルは――
「転んじゃうといけないから、ね?」
そう優しい声を掛けると、先ほど宿の奥へと向かい――
「メ、メル!? そっち階段じゃないぞ!?」
「へ? うわゎ!? 先に言ってよ!!」
彼女は慌てて声を上げつつもリリアが転ばぬようゆっくりと歩みを進めた……
「なん……で?」
そんな時、少女から発せられたのは疑問の声。
それに気が付いたメルは尻尾を一回大きく揺らし振り返る。
「なんで? ってどうしたの?」
「なんで……? わたしは貴女を……殺そうとっ――」
小声だが、はっきりと告げられた言葉にキョトンとしたメルは微笑むと。
「だって、それリリアちゃんの意志じゃなかったんでしょ? なら、私がリリアちゃんに何か言う必要はないよ」
当然の事の様にそう告げる。
いや、メルにとってはそれは当然だが……それはあくまで彼女も仲間も無事だったからだ。
そして、メルが思うに彼女は――
多分、人を殺してる……恐らく私達を襲った時と同じように……
だとしたら、この子……本当にどうすればいいの? この子自身は何も悪くなくても事実は変わらないよ……
その事を考えるとメルの中にふつふつと湧き上がる感情があった。
それは怒りや憎しみではなく……
どうにかしないと、精霊達やエスイルの事もそうだけど……
このままじゃこの子が殺される……本当に操られてただけならどうにかして、助けないと――なんとかしないと……
ただ隣に居る少女を助けねばという想いだった。
部屋へと辿り着いたメル達は荷物を置くと隣に居るライノの所へと尋ねる。
目的は勿論、盲目の少女リリアの事だ。
「どう、なんですか?」
メルが聞くもののライノは首を横に振り溜息をつく――
「目立った外傷は無し、でも目は見えないみたいね……」
ライノがリリアの様子を見てそう呟くのに続きリアスも頷き――
「一度医者に診てもらった方が良い、んだが……」
その視線をメルへと動かし、彼女は思わずびくりと震え、耳と尻尾を硬直させる。
「あ、あはは、はは……」
やがて困ったように笑うと――リアス達は揃って溜息をつき――
「アタシが言えたことじゃないけど、メルちゃん我慢してるでしょ?」
「ぅく……」
中でもライノが額を手で押さえその事をメルに告げ、彼女は変な声を上げ顔を歪める。
事実彼女は我慢をしていた。
今は立って歩いているとはいえ、痛みが引いてくれた訳ではなく……
「で、でも私は動けるし――」
「メルが動けないのは困る……診てもらった方が良い……」
そう言うリアスは何処か困った様に眉を歪めている。
その理由はメルは何となくだが理解が出来――
「うーん……お金が少ないもんね?」
彼女達の手持ちは少ない。
医者にライノを含めた三人を診てもらえば底を尽きるどころか借金をしなければならないぐらいには少ないのだ。
「金……かぁ……」
「カルロスお兄ちゃんのお店にお薬を置いてもらうとかは?」
「それは良いがすぐに金になる訳じゃない」
もっともな事を言われエスイルはがくりと項垂れ、メル達も困っていると……
「あ、あの……」
おずおずとした声が辺りに聞こえ――彼女達は声の主の方へと振り返る。
「リリア?」
「お金、多分……ある……」
そう言って彼女は近くに居るメルの服を掴み――
「え?」
「鞄……」
とだけ呟く――メルは困った様にリアスの方へと視線を向けたのだが……
「リリアがそう言ってるんだ、鞄の中にあるなら一度見て来てくれるか?」
「う、うん……」
メルはそう答えるとリリアの手を取りゆっくりと立たせると、共に自分達が借りる部屋へと向かう。
「じゃ、じゃぁ見るよ?」
彼女は遠慮しつつ鞄の中を探り、一つの布袋を取り出し……思わず「重い」と口にしたが、そんな彼女の瞳にある物が目に映った。
それは一枚の手紙、封を開けたようでもなく気になり、手に取ると――
「え?」
メルは其処に書いてある宛名を見て、目を丸めた。
「…………?」
彼女の雰囲気を悟ったのか少女は不思議そうに虚空を見つめ……
「なんでもない、戻ろう?」
慌ててそう答えると手紙を元の鞄に入れ、布袋をリリアの手に渡すと再びライノ達の部屋へと向かう――
なんで、なんで……あの手紙に書かれてる名前って……
部屋と部屋、短い間を歩く彼女の隣にはリリアと言う盲目の少女……そして、操られメル達を襲った者でもある彼女に対し、メルは一つの疑問を持った。
この子は……一体誰に操られていたの……?




