63話 リリアという少女
メルの手当てをし、馬車へと乗せようとしたリアス達。
その時、捕らえた少女……リアスの妹であるリリアに異変が起き、耳から黒いミミズの様な魔物が現れ、それは塵となって消えた。
シュレムはそんな少女を放って置く事は出来ないと連れて行くことを決め、馬車へと乗せ一同はリシェスへと向かうのだった。
「ん……っぅ……」
馬車が大きく揺れ、メルは体に走る激痛に顔を歪めるとゆっくりとその瞼を開いた。
「メル!!」
それに気が付いたのだろうシュレムは彼女の方へと声を上げ寄ると肩を掴み……
「――痛っ!?」
揺らされたメルはより一層の激痛を感じそれだけを口にする。
「シュレムちゃん!? さっき手当てしたばっかりなんだから!」
「ああ、そうだった……!」
ライノに注意されたシュレムは慌てて揺らすのを止め、申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「だ、大丈夫……それよりも、皆は?」
「無事よ」
メルはライノの言葉を聞きほっと胸を撫で下ろす。
しかし――
「ただ……」
ライノは何処か困った様な表情を浮かべ顔を動かす。
メルはそれに気が付きゆっくりと視線を動かすと、そこには――
「……っ!!」
「………………」
先ほどの少女が馬車の隅で座り込み、メル達へと視線を向けている姿だった。
思わず身体をこわばらせるメルだったが――すぐに彼女がどこかおかしい事に気が付いた。
「……あれ?」
少女は確かにメル達に視線を向けているはずであり……それはメルも分かったのだが……
その瞳は何を捕らえているのかが分からないのだ。
「そのね……」
「リリアはどうやら目が見えてないみたいだ」
リアスは何処か辛そうな表情で少女の横へと座り、その視線だけをメルへと向けた。
「リリア?」
「……ああ、こいつは俺の妹だ……」
「……え?」
メルは少女の顔を良く見てみると、確かにリアスに似ている。
妹と言うのは嘘ではない分かったのだろうが……一つ疑問があった。
「なんでリアスの妹が襲って……」
「それがね、何を聞いても覚えてないって言うのよ……その小さな頃から急にさっきの戦いのこと以外は記憶が無いって……」
「どういうこと? それじゃまるで自分の意志が無かったみたいに……」
「多分そうなんだろう、操られてた……って言うのか? でもそんな魔法はない」
リアスは顔を歪めそう告げるが、それはメルも知っている事だ。
人の精神、記憶に作用する魔法なんて言う物は無い。
ましてや操る魔法という物は存在しないはずなのだ……
「それが、あの女の子の中から黒いミミズが出てきたんだ……あれがシュレムお姉ちゃんは何処かで聞いたって言うんだけど……」
「そう、ええっと何かさ、なんかエスイルが今言ったけど聞いた覚えがある様な……メルは覚えてないか?」
シュレムは首を傾げ、悩むそぶりを見せ……メルも同じように考えると……
「……確かに、でも――」
メルは一つ思い当たる話があったが、言葉を渋った。
確かに昔聞いた事がある。
だけど、確かあれって魔物に――でも確か――
「微弱な魔力を送り自由に動かす魔物?」
「そう! それだ!!」
「何を言ってるの? そんな魔物いる訳が無いでしょ?」
「そうだな、聞いた事が無い」
二人は確かにそうなのだろう。
だが、メルとシュレムは確かに聞いた事があるのだ……
……確かユーリママがそんな魔物が居るかもしれないって言ってたような?
なんか、その魔物に関して研究? 模してた気がする。
でも、人に寄生するなんて聞いてない! ユーリママだって元になった生物は人に寄生しないって言ってた……
彼女はそう考える中、外が騒がしい事に気が付き――
「そういえば、リシェスへ着いたの?」
「ああ、着いたぜ! 今は馬車小屋のある宿を探している所だ」
「や、宿? 酒場じゃなくて?」
カルロスの言葉に思わず聞き返すメルに対し、頷いたのはシュレム。
彼女は笑みを浮かべると――
「どうやら、フィーナさんの知り合いが宿を始めたらしいんだ」
「ママの? そんな話聞いてなかったけど……」
「うん、でもシルフは確かにそう言ってたよ?」
メルはエスイルの言葉を聞き首を傾げつつも、精霊は嘘をつくはずが無いという事を思い出し、ほっとした表情を浮かべた。
「そこにはどの位で着くんですか?」
「もう少しだ!」
カルロスの返事にほっとしつつメルは少女の方へと再び目を向ける。
そこには何処かを見つめる少女の姿があり……彼女は黙ったまま、その場に佇む。
先ほど感じていた殺意は今は無い様だ……
「リリアちゃん……だっけ?」
メルが少女の名を呼ぶとそれまで黙っていた彼女はビクリと身体を震わせ怯えた表情でメルへとなにもとらえていない瞳を向けた。
「ねぇ? 貴女はこれからどうするの?」
「どう……する?」
メルの言葉を繰り返す少女はその後黙り込み……
「リリア……悪いがお前を連れて行くことは出来ない」
「……っ…………」
彼女の兄であるリアスはその場から動かず声だけを発する。
「何があったのかは分からない、だが……」
リアスは言葉を続け、表情を恐怖から絶望へと変える少女はリアスへと這い寄り――
「や、だ……おに……ちゃ……」
「なんか、置いて行くってのは辞めた方が良いんじゃないか?」
その様子を見てシュレムはリアスに告げ――
「僕も……そう思うけど……」
エスイルも同意見を上げる。
だが――
「いや、リリアがまだ操られてる可能性は十分にある……安全面を考えたらこれが妥当だ」
「……でも」
置いて行かれることの恐怖だろうか? 少女は震え、兄の服を掴みすすり泣く……
その姿にメルはかつて自分が倒れた母にすがり泣いていた事を思い出した。
「でもは無い……俺達には安全が求められるんだ」
「なら……頼もうよ」
だからこそ、メルは彼女を放って置くことは出来ず……リアスへとそう告げる。
「ナタリアに頼めば――」
「心まで支配するなら、意味が無い……」
その言葉にメルは黙り込む――
そう、それではナタリアの思考透視も意味が無い。
「そ、それはそう、なんだろうが……もし、もう大丈夫なら、この妹は行く所無いだろ? どうするんだよ!!」
リアスの言葉にシュレムは怒鳴り声を上げ告げると――
「…………」
リアスは押し黙ってしまった。
暫く続く沈黙の中――
「着いたぞ……」
カルロスの声が馬車の中へと投げられ、メルはリアスの顔をしっかりと捉え伝える。
「……ねぇ、やっぱり置いて行くなんて私には無理だよ……この子操られてたんでしょ? シュレムの言う通り、この子何処にも行く所ないよ?」
「……分かってる」
メルの言葉に小さくつぶやくリアスは視線を下げ――
「分ってる……」
同じ言葉を繰り返した。




