58話 リシェスへの道のり
イアーナを脱出したメル達。
しかし、メルは合成魔法の影響で体力魔力を共に失い。
眠りに落ちた……次に目を覚ました時、彼女はリアスに魔法の事を聞かれ正直に話すと……
一人の時は使うなと言われ約束をするのだった……
「カルロスさん、次の街までどのぐらいですか?」
揺れる馬車の中、メルは御者であるカルロスに尋ねる。
「ああ、途中小屋がある……でも街、リシェスまでは後四日と言った所か……でも――」
「街に入っても大丈夫なのかしら……」
カロン、イアーナと続き問題が起きた事でライノが呟いたその言葉に一同は黙り込む……
次の街リシェス……そこでも同じように手が回っている可能性があったからだ。
「なぁ……」
そんな中、沈黙を破ったのはシュレムだった……
「次の休憩所の小屋に鳥小屋あるよな?」
「ああ、手紙は受け取れるはず……でも、鳥小屋がどうした?」
カルロスは振り返らずに答えるとシュレムは難しい顔のまま仲間へと告げる。
「だったら……ユーリさん達に頼めないか?」
「ママ……に?」
「確か、リシェスにはフィーナさんの行きつけの酒場……あったはずだろ? ここまで手が回ってるんだ一筆頼むぐらいなら王様も文句ないんじゃないか? どっちにしろカルロスの事言わないといけないだろ?」
シュレムの言葉に顔を跳ね上げたのはメルだ。
「そうだ! それだよ! 宿のお金は払うんだし、それ位なら大丈夫かも!」
そう、それはメル自身もフィーナからは勿論、リーチェやナタリアに聞かされていた事だ。
昔タリムがまだ冒険者の街と呼ばれていた頃、彼女の母フィーナはタリム一と呼ばれるほどの冒険者であり、色々な街に出向いていた。
その信頼は確かで拠点がリラーグになっても変わりが無かった。
「なら、メル……お願いできるか?」
リアスはその案に乗る事に同意したのだろう、メルへと尋ね……
彼女が目を向けるとエスイルは勿論、ライノも無言で頷いた。
「カルロスさん!」
「おう!! 今日は寄らない予定だったが……すぐ近くにある! そっちに向かう」
メルの声に答えた青年の商人は手綱を巧みに操ると馬の進行方向を変え走らせる。
「よし、なら手紙書いておくよ」
彼女は荷物からペンと紙を取り出し、母へと向けた手紙を書き始めた……
「もうすぐ着くぞ!」
先ほどの会話から数十分と言った所だろうか? カルロスの声が聞こえ、メルがのぞき込むと小さな小屋が見えた。
冒険者や旅人、商人など様々な人々が旅人の途中で休むために作られた小屋。
勿論手入れされている井戸、鳥、馬車小屋があるその場所を目にするのはメルも何回かあった事だ……
「じ、実際に来るのは初めてだ……」
そう、彼女が目にしたのは空からの姿であり、その理由はデゼルトの力を借りた飛龍船から見下ろしたからだったのだが……
「オ、オレもだ……」
当然シュレムも同じ事を感じたのだろうぼそりと口にした。
「鳥小屋はあっちだ、馬車の近くだから……」
メル達は頷き馬車に乗ったまま移動する。
馬車小屋へと辿り着いた一行の内メルとリアスの二人は馬車から降り、鳥小屋へと向かった。
「いらっしゃい、一羽銀貨一枚だよ」
近づくと、帽子を深く被った顔の見えない気だるそうな声の中年女性はメル達にそう告げる。
「二羽貸してください」
「はい、じゃー銀貨二枚ね?」
メルは自身の財布の中から銀貨を取り出すと手渡す、すると女性は頷き……
「何処に飛ばすんだい?」
何枚かの紙を取り出した。
それは訓練していない鳥でも確実に街に手紙を届ける事が出来る位置記憶の魔法陣だろう。
メルはそれを察し――
「大丈夫です、持っていますので」
――断ると女性は「そう」と一言だけ残し紙をしまう。
「じゃ借りますね」
彼女は一言を残しリアスと共に鳥小屋の中へと入り……
「何か傷だらけの鳥が多いな? 飛ぶには問題ないんだろうが……とにかく鳥は俺が見分けるから、メルは手紙と位置記憶魔法の準備だけしてくれるか?」
「うん、すぐに用意するよ」
そう口にしたメルは鞄の中から二枚の紙を取り出し、リアスの連れてきた鳥に手紙を持たせる。
そして、取り出した紙をそれぞれの鳥へと向け魔力を込めると――二羽の鳥は羽音を立てながら飛び立った。
メル達は鳥が飛んでいくのを見守ると小屋から出て、女主人に頭を下げる。すると……
「あ、あんたらちょっと待ちな」
「は、はい?」
「いやね、思い出したんだよ、夕日髪の女の子、ここらじゃ珍しい髪の色だし引っかかってたんだ」
「――――っ!!」
その言葉を聞きメルは息を飲みリアスはメルを守るかのように前へ一歩踏み出すと――
「なんだい、その態度は失礼だね……」
そう言って女主人は一つの手紙を取り出し……
「あんたらが寄ったら渡すように言われてたんだ」
「誰にだ……?」
「さぁ? 私はただの鳥小屋の主人、手紙をつけたまま戻ってきた鳥が居たから調べたらあんたら宛だったって訳だよ……」
女主人が取り出したのは夕日髪の君へと書いてあるが見た目はただの手紙だ。
警戒しつつもそれを受け取ったリアスは手紙をゆっくりと開く、マジックアイテムの中には先に魔力を込めておき、ある一定の行動により発動する物もある……
その事を警戒した彼だったが……
「ん? んん?」
「ど、どうしたの?」
首を傾げたリアスに対し瑠奈は不安になったのだろう、尻尾を丸めつつ彼の服を掴む……
「なぁ……これ……」
「全く面倒だねぇ……こういうのは一切――」
「いや、これ別人宛てだぞ……」
「……へ?」
どういってリアスは顔を上げ、メルは覗き込んでみるとそこには……
「愛しのエルザ、君は今どこに居るのだろうか? 何故僕の元を……って、これって……」
「店主さん、多分この手紙の持ち主は色んな鳥に手紙を持たせて鳥小屋に戻したんだ……恐らく全部の手紙に夕日髪の君へって書いてな」
「な――」
女主人はそれだけ呟くと口を開けたままで固まり、メルはリアスの言葉を聞くと呆然としてしまった。
それもそのはずなんと迷惑な話なのか……夕日色の髪は確かに珍しい、だがメル達以外に居ない訳ではないのだ……
それだけの手がかかりでは手紙を送られた鳥小屋の主人はたまった物じゃないだろう、目の前の女主人は律儀に取っておいたようだが……
「なんて迷惑な……」
ようやく言葉の続きを吐き出した鳥小屋の主人はがっくりと項垂れ……
「とにかく、これはメルへ宛ててじゃない受け取れないな」
「あ、あーうん……それはこっちで処分しておく、そんな何処に居るだか分からない人の為に律儀に取っておいたアタシがバカだったよ」
そんな主人を少し気の毒に思いつつもメルは苦笑いを浮かべると……
「で、では失礼しますね?」
「はいよ、毎度あり」
主人の返事を聞き、二人は改めて歩き出す……
ある程度離れた所だろうか? リアスはメルの耳元で囁く……」
「メル……」
「……んぅ!?」
それがくすぐったかったのだろう、メルは小さく声を漏らしつつ、頷くと――
「シルフ、馬車の中で話してた内容をフィーナママに伝えて」
リアスの様に小さく呟いた。
すると、メルの目の前に現れた精霊シルフはメルの目の前で飛び回り……
『うん! 任せてすぐに伝えて来るよっ』
っと頷き、メルの元から飛び去って行った。
「こ、これで良いの?」
「ああ……この方が確実だからな」
それは馬車の中、手紙を書くメルにリアスが提案した方法……
精霊を頼った伝言だ。
「でも、鳥小屋の人もカルロスさんも怪しい感じは……」
「ああ、あの二人は多分大丈夫だ、だけどどこで見てるか分からないからな……メルを頼ってばっかりになるけど手は打っておくに越したことは無い」
「うん……」
メルは彼の言葉に頷き答えた後、馬車の方へと目を向けた。
すると、御者の商人カルロスは――
「手紙はどうなんだ?」
「ちゃんと飛ばしましたよー」
「カルロス、悪いがリシェスへ急ぎたい」
メルとリアスはそれぞれそう告げると馬車へと乗り込み――
「分かったって……皆居るな?」
カルロスは確認の為だろうそう馬車の中へ声を掛ける、が――
「シュ、シュレムお姉ちゃん大丈夫?」
「あ、ああ……メルが……オレのメルが……」
「若いって良いわね?」
馬車の中の騒がしさが答えだと思ったのだろう、馬を走らせ始めた。
「リシェスってどんな街なのかな?」
「昔はタリムとリラーグを繋ぐ大きな街だった、でも冒険者も多い事から今も変わりないみたいだな」
「そうなんだ……そうなると、やっぱり警戒しないと……だよね?」
メルの問いに頷くリアス、そしてライノ……
彼らの様子を見てメルは尻尾と耳を垂らし、はぁっと大きく溜息をついた。
「メルお姉ちゃん、ごめんね? 僕の――」
「エスイルの所為じゃないよ、エスイルの事を守るって決めたのは私なんだから、ね?」
申し訳なさそうに長い耳を垂らす弟の頭を撫でつつメルはそう答えた。




