57話 イアーナからの脱出!
メル達はどうやら重罪人といううわさを流されてるらしく……
追手だけではなく街全体が敵となっていた。
しかし、罪なき街人を必要以上に傷つける事は出来ない。
メルは魔法と体術を駆使し、門兵を退け門を壊し仲間達と共にイアーナを脱出するのだった。
「おっしゃぁ!! 脱出だー!!」
メルの耳を通る歓喜の叫び、それは姉であるシュレムの物だった。
疲れの所為で霞む瞳の中、閉じられた門を見るメルはぐらりと揺れ――
「っと、お疲れメル……」
そう呟いたリアスに支えられ、彼は彼女にもう一言告げる。
「ゆっくり休んで……」
「うん……」
その言葉に頷いたメルは瞳を閉じると――
「テ、テメェ! リアスッ! オ、オオオオレの嫁に何を――!?」
「騒ぐなって……カロンでもイアーナでもメルのお蔭でなんとかなってるんだ……休ませてあげないと……」
「そうよ? 二人を探してた時から今までメルちゃんはずっと頑張ってたんだから、今日ぐらい、ね?」
目を閉じたメルにはそんな会話が聞こえ――
「あった、リアスお兄ちゃん!」
「助かるよエスイル」
エスイルは毛布を出してくれたのだろう、温かい布に包まれいよいよ眠気に抗う事が難しくなってきた彼女はまどろみの中――
「オ、オレのメルが……」
「さっきから聞いてるが……あっちのお嬢ちゃんって兄ちゃんの彼女だろ?」
「違う! メルは、メルは……」
その言葉にはメルもリアスに悪いと思い否定しようかと思ったが、それは眠気に負けてしまった彼女には出来ぬことで――
「すぅ…………すぅ……」
少女は寝息を立て始めた。
メルが目を覚ましたのは真夜中、流石に暗闇の中を進むと言う事はしなかったのだろう……
いつの間にか馬車は止まっており、外からはパチパチと言う音が聞こえる。
その音が気になったメルは馬車から降りると、夕焼けの様な明かりがゆらゆらと揺れていた。
「起きたのか」
「う、うん……」
メルがそう答えるとリアスは一瞬微笑み、鍋を火にかけ古木をくべる。
そんな彼の近くに腰を下ろしたメルは首を傾げ――
「リアスは寝てないの?」
「いや、今交代した所だ……流石に寝ずの番はしないよ」
そう口にしたリアスは大きな欠伸をし、メルはもしかしたら嘘を言っているのでは? と思い自身は寝ていた事に若干の罪悪感を感じつつもリアスを見つめる。
すると、視線に気が付いたのだろう少年は笑みを浮かべ――
「起きたばっかりで腹減ってるだろ? スープが温まるまで待ってくれ」
鍋を火にかけ、リアスは食事の準備を始める。
「あ、ありがとう……」
メルはようやく自身が空腹であった事に気が付き、彼女達を照らすのが炎である事に感謝をしつつ顔を赤く染めリアスに礼を言う。
「いや、それはこっちが言うべきだな」
「え?」
「リラーグでは俺はメルを泥棒扱いした……」
「でも、それは本当だったし……」
出会った時の事だ、忘れる事も出来ない最悪な出会い。
それを思い出したのかメルは耳を垂らす。
「なのに荷を取り返してくれた上に命まで救われた、カロンでもそうだ……そして――」
「そ、そして?」
「イアーナでも皆が……メルが居なかったら今頃殺されてたかもしれないな」
そう口にするリアスは自嘲気味に笑いつつ古木を一つ手に取ると炎の中に放り込む。
「そんな事、だってリアスは強いよ……」
「俺もそう思ってた、だから元は一人でやるつもりだったんだよ……だけど、今考えたら例えエスイルが戦えたとしても全然安全じゃなかったな、なんとかなってるのはメルがついて来てくれたからだ」
そうリアスはメルに言葉を告げ顔を向けて来る。
メルが目にした炎に照らされたその顔は今まで見た彼のどの表情よりも優しく……今までにない位顔に熱を感じたメルは慌てて下を向くが――
リアスはそんなメルに小さく笑った。
「な――な、何で笑うの?」
笑われた事に更に恥ずかしくなった彼女はゆっくりを顔を上げる。
すると笑みを見せるリアスはある一点を指差し答える。
「いや、ごめん……メルは分かりやすいなって思ってさ」
「……へ?」
指を向けられた場所へとメルは当然の様に目を向け――
「な――!?」
彼女自身気づかなかったが彼女の尻尾は嬉しそうに左右に振られていた。
「あああぁぁぁ……」
こんなにも簡単に見抜かれてしまう事を察したメルは落ち込み――
「い、いや、そんな落ち込むなって……本当にメルのお蔭なんだ……」
「私のお蔭って……元々は――」
「メルが居たからエスイルは任された、シュレムだってメルについて来ている……腕が確かな薬師であるライノさんに見込まれたのもメルだ……カルロスもメルが居なかったら接点すらなかったはずだろ?」
リアスはそう語るがメルはそう思わなかった。
自身が居る事でリアスは龍に抱かれる太陽の情報を得られなかった。
エスイルはクルムの息子、本来ならばユーリ達が動くはずであり今よりもずっと安全は増していたはずだ……とメルは何度も思っていたのだから……
だが――
「もし、冒険者を雇ってたら、相手も早い段階で腕利きを雇う……と俺は思ってる」
「……え?」
「子供だから大したことが無い、相手がそう勝手に思ってくれたからこっちの戦力はここまでばれなかった」
そう、メルもシュレムも子供でありながら実力だけは冒険者とそう変わらない。
更に言えば以前はメルも持っていた絶対的な自信……それが失わたのは彼女達のとっては逆に幸運だった。
「だけど、次からは違う……あいつらは何処かで見てるはずだ……」
「…………」
「メルのお蔭でここまで来れたそれは間違いない。だが今までは相手も油断していた……だから聞いておきたいんだ」
リアスはそう語ると真剣な顔へと変えメルを見つめ――
「あの魔法はなんだ? あんなの聞いた事も無い……切り札にはなるかもしれない。でもメルが倒れたら話にならないぞ?」
声からして彼が怒っているのではなく疑問を浮かべ、心配をしているのだとメルは気づきゆっくりと唇を動かす……
「あれは合成魔法……万全なら倒れるってことは無いよ、ただ凄く疲れるし魔力も余計に消耗するみたいなんだ」
「そう、か……分かった」
リアスはそれだけ聞くと頷き――メルは驚いた表情を浮かべた。
「え、えっと、それだけでいいの?」
「ああ、ただ約束して欲しい……」
「約束?」
メルは驚いたまま尋ねるとリアスはゆっくりと口を開く――
「一人の時は使うな」
「え?」
その口調は厳しい物で、メルは思わず一言だけを発した。
「な、なんで?」
「今回の様に倒れる可能性がある……傍に居れば助けられるかもしれない、でも違えば勿論助けられない」
リアスの言葉にメルは言葉を失った。
そう、あの時少しでもメルが居た場所がずれていたら……彼女は馬に蹴られ死んでいただろう――
そしてそれはメルの立場が変わっただけで母に告げられた「仲間だって死ぬかもしれない……」という言葉そのものでもあった。
「今回は偶々助かった……あの魔法も切り札だと考えれる。だけど、それだけの為にメルが死んでは意味が無い」
「…………」
「エスイルをヴェンローラまで護衛して連れて行くのが俺達の仕事だ……だけど、その為に犠牲を払うのは……」
リアスが口にしている事は綺麗事だとメルは理解していた。
だが、同時に――それが可能ならば彼女自身そうしたいと思っていた。
だからこそ、旅について来たのだから……
「分かった……なるべく使わない、使うとしても皆が居る時にするよ」
「ああ、ありがとうそうしてくれ」
そう思う彼女だからこそ、リアスのその言葉は嬉しく……素直に受け入れられた。
「ん?」
「どうしたメル?」
「何か、ジュージュー言ってるような?」
会話が終わったからだろうか? やけに回りがうるさく感じメルは首を傾げつつ音の正体を探る……すると――
「ス、スープ吹きこぼれてる!?」
「へ? ああ!? すぐに降ろさないと鍋が焦げる!」
メルの言葉でそれに気が付いたリアスは慌てて鍋を火から遠ざけ――残ったスープをメルへとよそうのだが……
「こ、焦げ臭い……」
「ごめん、話をする前に降ろした方が良かったな……」
メルは臭いが移ってしまったスープを啜りながら、尻尾を垂らした。




