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56話 門を開けろっ!

 門の元へと向かったメルとリアス。

 しかし、門兵はメル達を通す気はなかったのだろう……彼女達を犯罪者と呼ぶ。

 身に覚えのない言葉にメル達は戸惑いつつも門を開ける為――行動を開始するのだった。

 メルはリアスが投げた小瓶の事は聞いていた。

 だからこそ指示通りにし、息を止めたのだが……


「むぐぅ!?」


 少し遅かったのか、メルは涙目で悶えた。


「メルごめん! 少し我慢してくれ!!」


 だがすぐに封風石を使う訳にもいかずリアスはそう口にする。

 勿論異臭は彼にも襲い掛かっており、顔を歪めてはいるが……


「な、なんだこの臭い!?」

「クセェ!?」


 リアスが小瓶を投げたのは後方……追手達はその臭いに思わず立ち止まり――


「悪いな……寝ててくれ」


 少年の手から放たれた針は追手に吸い込まれるように飛び――


「なっ!?」

「お、おい!? どうし――――」

「あのガキ何を――」


 次々に倒れていく追手達は次第にその顔色を変えて行く、当然だろう。

 倒れた男は皆、口をだらりと開け目を開けたまま気絶をしているのだ。

 何かをされたのは間違いなく、針を撃たれたのも見れば分かるが……それに毒を盛られたように見えたのだろう……


「ひ、ひぃぃぃ!?」

「こ、ころ、殺しやがった!!」


 リアスがワザと狙わずにいた気弱そうな男二人は腰を抜かし、身を這いずり慌てて去る。

 だが当然、その針には毒など盛っている訳ではなく――


「起きた時にはむしろ健康になってるだろうな……」


 彼は小声でそう言うと封風石を取り出し、風を起こす。


「――ぷはっぁ!?」


 ようやく満足に呼吸が出来る様になったメルは新鮮な空気を求め、何度も深呼吸しようとするが――


「うぇぇぇ……まだ臭いよぉ……」


 慌てて呼吸をしたのがいけなかったのだろう、残り香に苦汁を飲まされることになった。


「だ、大丈夫か?」

「う、うん……平気……ぅぅ」


 リアスの問いに答えたメルは涙目のまま、門を守る様に立つ兵士へと目を向ける。

 勿論、兵がただ門を守っている訳では無い事は彼女達には分かった。

 出ていく事を伝えられてしまったのだろう、兵達には明らかな敵意が見られたのだ。


「一体どんな情報流されてるんだろう……」


 殺意すら感じる兵の視線に傷ついた様子のメル、そんな彼女に対しリアスは――


「少なくとも穏やかな話じゃないな……」


 ため息交じりにそう伝え、メルは尻尾から力を抜いた。

 しかし、立ち止まっている訳にはいかず……


「……行こう、リアス」


 メルはリアスへとそう言うと自らを奮い立たせるように尻尾を立てる。


「ああ……」


 一歩また一歩と門へ近づく二人、彼女達に対し兵は――


「止まれ!」


 と叫ぶが――睨み殺気まで感じさせる彼の声は震えていた。


「と、止まれと言っている! お、お前達は王都リラーグで裁かれなければならない! ここから出る事は――」


 声を上げ叫ぶ兵はメルの事を当然知っている訳が無く……だが、その言葉でリアスの先ほどの答えは正しかったのだとメルは確信をした。

 そして同時に彼らが追手ではなく――


「追手も門兵さんも……街の人なんだね……」


 そう予想すると隣にいる少年へ聞こえるように呟く……


「多分、な……」


 中には冒険者も居ただろう、だがメル達には敵わなかった。

 だからこそ逃げた男達も兵も怯えたのだろう。

 そして、そうならばメル達は必要以上に相手を傷つけることが出来ない。

 本当の相手()もそう思っていたのだろう……


「なるべく怪我はさせたくないけど……難しいなぁ……」


 思わずそう呟いらメルの顔は困り果てたものであり、その呟きを聞いたリアスもまた……


「だな……あっちは上手くやってくれてると良いんだけどな……」


 メルと似たような表情を浮かべた。


「く、来るなぁ!!」

「なら門を開けるからそこから退いて!!」


 兵にそう叫ぶが、武器を構えたままの兵は首を横に振る。

 当然だ……彼もまた街を守るために居る。

 恐らくは捉える相手が子供だと知り、油断をしていたのだろう……

 ましてや、先ほどリアスが割った小瓶はまるで自滅にしか思えなかったのだろう……

 だが、メル達はただの子供ではなく――


「そう、じゃ……ごめんなさい!!」

「……は?」


 実力のある子供。

 メルはその場から駆け出すと兵へと近づき、首筋に手刀を落とす。

 一瞬とは言えないにしろ、あまりの速さに兵は追いつけず呆気なく地に伏せると―ー


「我が意に従い意思を持て……」


 メルは詠唱を唱え――


「マテリアルショット」


 魔法を発動させると兵士を移動させる。

 門の前、それでは馬車に引かれるかもしれず、門を壊した時に万が一の事があってはいけないそう思ったからだ。


「よし、後は――」

「あいつらが来るのを待つだけだな」


 メルは近くからリアスの声が聞こえた事に気が付くと彼の方へと顔を向ける。


「そうだね……って……え?」


 するとそこには、リアスの周りには倒れた人が何人も居た。


「人混みの中に隠れててな……一体幾ら積まれてるんだ……」


 倒れた者達は一見、武器を持っていないかと思われたが手には筒の様なものを持って居る者が数人おり……


「ふ、吹き矢?」

「だな……」


 もしリアスが居なかったら、そうメルは想像し顔を青くした。

 だが、遠くから大きな音が聞こえるにつれメルは表情を硬くすると門へと向き直る……

 そこには木製の門が立っており、この門を開けるには壁の上に上らなければならない。

 魔法で空へと飛ぼう、メルはそう考えたのだが他にも吹屋を持っている者がいればリアスだけでは対処できないだろう、なら壊すか? 門は木製だ火の魔法でならばすぐに壊せるだろう事は分かっていた。


「でも馬が怖がるよね……」


 メルがぼそりと言った言葉はリアスには聞こえなかったのだろう――


「メル馬車が来てるぞ!」


 彼はその事を告げ――


「リアスは先に乗って! すぐに門を壊すから!」

「分かった……気をつけろよ?」


 リアスの言葉に頷いた彼女は尻尾を揺らし、再び門へと目を向ける。


 あれ……使うと疲れるんだよね……でも、仕方ないか……


「すぅ――」


 メルは息を大きく吸い、ゆっくりと詠唱を紡ぎ出す……

 ただの火の魔法では扉は燃えるが下手をすれば火が大きくなることも考えられる、かといってメルの使える魔法では門を壊す事が不可能なのだ。

 いや、正しくは壊せる……だが、その残骸の所為で行く手を阻まれる事は明らかだった……

 だが、それでもメルが壊すと言った理由、それは――


「焔の風よ……狂い吹け、我が敵を焼き払えっ!!」


 メルは自身の体の中から魔力が減るのを感じ、それだけではなく体力まで奪われるのが分かった。

 それは嘗てリラーグを襲ったというゴブリンの軍勢をたった一つの魔法で追い払った母ユーリが編み出した秘術。

 二つ以上の魔法を一つの魔法へと変換させる合成魔法――


「フレイム……ストーム!!」


 焔は風の導きに従い門へと向かう、そして巨大な門をすべて焼き払うと――その業火は風に乗って散って行った。

 だが――


「や、やっぱ結構疲れる……」


 魔力は問題は無い、だが体力が持っていかれた事によりふらつくメルは何とか馬車に乗ろうと振り返るが――


「……あ、あれ?」


 これまでの疲れもあったのだろう、目は霞み……


『メル! 馬車がもうそこだよ!!』

「わ、わかって……」


 ぐらりと揺れた――


 あ……駄目だ。

 慣れない事するんじゃなかったな……


 そう頭に思い浮かべたメル――だったが……


「…………え?」


 彼女を襲ったのは浮遊感とは別に腕の痛み。

 何事かと霞む瞳を腕の方へと向けると――


「でかした! リアスやるじゃねぇか!!」

「そ、んなことより、手を貸してくれシュレム!!」


 リアスにより、彼女は腕を掴まれていた……だが、いくら少女とはいえ力の抜けきった身体……彼にかかる負荷も相当な物であり、すぐに力自慢であるシュレムへと助けを求める。


「ああ! 任せて置け!」


 リアスの手からずるずると落ちていくメルは今度こそ馬車へと導かれた。


「メルちゃん! 抜けるわよ魔法を――!!」

「…………っ!!」


 そして、ライノの声で彼女はすべき事を思い出したのだろう――


「具現……せよ、強……固なる、壁ぇ!! アースウォール!!」


 疲労を訴える身体に抗う様に魔法を唱え、右手を門のあった場所へと向ける。

 すると、そこには巨大な壁が現れ、その事に安堵したのかメルは――


「つ、疲れた……」


 と一言を漏らした。

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