54話 メル達の作戦
無事馬車を持つ商人との交渉を終えたメル達。
だが、束の間の安堵も満足に得る事が出来ず、どうやら囲まれてしまっている様だ。
メルはポメグの実を使い、不自然にならないよう仲間を集めると街をどう突破するか策を練り始めたのだが……?
メルとリアスは話し合いの後、シュレム達と別れ行動していた。
「メル……ごめん
街の中、メルの隣で走る少年は息を切らす様子もなくそう告げた。
「どうしたの? 急に謝るなんて」
その言葉にメルは不安になったのだろう……顔を向けずリアスに尋ねる。
「いや、何か別に手を考えてくれようとしたんだろ? 焦る形になってすまない」
そう言って後方を確認するリアスに釣られメルも後ろへと視線を向ける。
そこには追手が迫っており……メルは――
「ううん、仕方ないよ……追われる身なんだから……」
さかのぼる事少し前……
「二手に分かれよう?」
「……は? メ、メルお前何言ってるのか分かってるのか!?」
慌てるシュレムに若干困った表情を浮かべたメルは言葉を続ける。
「勿論、ライノさん、シュレムはエスイルとカルロスさんを連れて馬車を取りに行って? 私とリアスでこっち側の門を開けるから、でももし駄目だった時は――」
「……通れない時はいっそ壊せないか?」
「こ、壊すってリアスお兄ちゃん……もしかして魔法で? それさっきカルロスお兄ちゃんが駄目だって」
その言葉に驚いたエスイルだが、リアスは気にせずに続ける。
今はそんな事を気にしている場合ではないからだ……
「馬車は勿論、逃げ道も必要……でも出掛けるんじゃなく去る以上、出してくれない可能性が高い……メルには出来るんだよな?」
「そ、それは……出来るけど」
リアスから壊すという事を言われ躊躇うメル。
だが、リアスはただメルを見つめ――
「大丈夫、メルはいつも通り人に被害を出さない様に魔法を使ってくれ」
「もしもの時は壊すという発想は変わらないのね? それはそれでこの街が魔物に狙われるかもしれないのよ? それに街から出られなくなるわ」
ライノの言う事は最もだった。
魔物に襲わせないために人々は髙い壁を築き、頑丈な門を作った。
小さな村だと簡単な物しかない場合が多いが……それでも壁や門が無いというのは珍しい。
しかし、空を舞う魔物の恐怖からは逃れられない……だが、それならばどこから来るのか分かっている以上対策のしようがある。
だからこそ門と壁がある。それだけで安心と安全につながるのだ。
「出れ無くなれば当然交易なんかにも支障が出るのよ?」
「それは無いと思う……この街の門は一つじゃないはずだよ」
「ああ、お嬢ちゃんの言う通りだな、この街にはもう一つでっかい門がある。オイラはそっちから来たから間違いない」
外に繋がる門、それがもう一つある事を確認できたメルは安堵した。
……なら人の出入りや馬車の出入りは問題ないだろう……そう考えた彼女が出した答えは――
「もしもの時、壊した門は私の魔法で塞ぎます」
「土壁か……でもユーリさんじゃあるまいし岩の様にするのはいくらメルでも無理じゃないか?」
「それでも新しい門を作るまでの繋ぎにはなるよ、もし私のじゃ駄目でも他の魔法使いが同じ様にしてくれるはず」
問題はどれだけ早く穴を塞げるかだ……とはいえこの作戦には一つの問題があった……
「メルが魔法を使えるのがばれるのは出来れば隠したいんだけどな……」
リアスの言葉に頷くメルは続く様に……
「でも、仕方の無い事だよ、どうにかして先に行かないといけないし、かといってそれで街の人を危険にはさらしたくない……」
ユーリママならきっと安全な手を見つけるだろうけど……私にはこれが限界……
人を傷つける事を嫌う母の事を思い浮かべた彼女は仲間達へと視線を送る。
その中で呆気に取られていた青年の商人は――
「へ? 魔法? ってお嬢ちゃん森族じゃ……」
尻尾と耳へと指を向けて呟き、メルは誇るように告げた。
「私は特別なんです」
その後、メル達は二手に分かれ現在に至る。
「とはいえ……あっちに行っていないかは心配だな……」
リアスの言葉にメルは頷く……
今現在、メル達は追う様について来ている者達の気配を感じていた。
その数は分からないが、追手全員がメルとリアスについているとは限らないだろう……
「二人も警戒するって言ってくれたし……私達はまず確かめないと――!!」
メルはしっかりと前を向き、街の入口へと目を向ける……
そこには木製の大きな門が待ち構えており、門兵たちはメル達を目にすると門を守る様に動き始めた。
普段通りであるはずなのに不安を感じつつ門へと近づくメル達。
すると――
「門に近づくな! 犯罪者共!!」
「え……は、犯罪……者?」
門兵は剣を抜き構えると叫び声を上げた。
そして、それがまるで合図だったかの様に追手達はその足を速め――
「メル! 息を止めろ!」
メルの横でリアスは声を上げ、小瓶を地面へと投げつける――
それを見たメルは慌てて、彼の指示通り息を止めると、手で鼻と口を覆った。
「シュレムちゃん、どう?」
一方馬車の元へと走るライノはエスイルの手を引きながらシュレムへと尋ねた。
「多分、大丈夫だ! ってもオレにメルやリアスの様な感覚を求めるなよ?」
「な、なぁ? それってあの二人のどっちかをこっちに連れてきた方が良かったんじゃ?」
もっともな意見を顔を引きつらせながら言葉にしたのは商人カルロス。
だが――
「駄目よ」
「だ、駄目ってその嬢ちゃんじゃ今言ってた様に……」
「リアスちゃんは上手く立ち回るでしょうけど、メルちゃんの援護に回ってもらった方が良いわ、そしてメルちゃんは狼の森族でしょ? アタシがこれ使ったら倒れちゃうわよ?」
そう言って彼が懐から取り出したのは小瓶……だが、それは――
「それ確か、リアスに渡してなかったか?」
「薄めたものをね? それでもすぐに封風石を使わないとメルちゃんは辛いでしょうね」
「お姉ちゃん……大丈夫かな?」
心配するエスイルににっこりと微笑むライノ。
そんな二人を見て不安に思ったのだろうシュレムは前へと目を向けた……そこには複数の男達が武器を持って待ち構え、こちらの様子をうかがっているではないか……
「チッ!! 追手は来てないみたいだけど……待ちかまえてはいたか……ライノの旦那ぁ!!」
巨大な盾を手にシュレムは吼え、ライノへと伝えた。
「あら……そうみたいね、突破するわよ?」
ライノはそう口にすると手をエスイルから離し、懐を探り木材と樹脂そして厚手の布を取り出した……
「って旦那?」
「薬を作るのは得意なのだけどね……こっちは下手なの、だから素材をそのまま形を変えるか少し変化させるぐらいしか出来ないのよ」
そう口にした彼は頬を緩ませると……
「物質変換……」
錬金術を使い、その形を変化させる……そして出来上がったそれに小瓶を添え――
「って旦那!? それパチンコじゃねぇか!? 子供の玩具じゃんか! せめて弓とか」
「無理よ、コレだってきついのに、弓となると弦を引き絞るにはそれなりの力が必要なのよ? それに小瓶が飛べば問題ないわ」
ならそのままシュレムに渡せばよかったのではないか? そんな空気に包まれる中、気にしていないのだろうライノは小瓶をパチンコで飛ばした。
だが、相手はそれが危険な物と判断したのだろう、待ち構える男達は小瓶に当たらない様に避け――
「割れたらお願いね? シュレムちゃん」
ライノのその言葉と共に音を立て小瓶は割れた――




