53話 契約は成るか?
イアーナへと辿り着いた時に出会った商人の青年。
彼は馬車を持っていると言う……だが、乗せる条件として普通では到底無理な事を要求されたメル達。
しかし、メルはそれに臆することなく、王に伝えると告げるのだった。
果たして交渉は上手くいくのだろうか?
「……は、はい?」
間の抜けた声は小さく、青年は震えながらメルに指を向けた。
「王って……王様だぞ?」
「はい、分かってます」
「……君は子供だろ?」
その言葉に若干むっとしたメルは表情を変えるが――
「子供かどうかと言われると子供ですけど……王と知り合いですから」
ぶっきらぼうになりつつも事実を伝えると、やや頬を膨らませた。
それでも信じてい無さそうな商人の顔を見るや彼女は――
「なんなら、ママ達……エルフの使者にも伝えた方が良いですか?」
母ユーリが聞いたら「その呼び方はやめて!?」っと顔を真っ赤するのが目に浮かぶが居ないこの場なら何を言っても自由だろう。
事実である事は間違いないのだから……
「え、ええと……」
だが、メルはどう見ても子供……それはシュレムやエスイルもそうであり、リアスは少し年上と言った位だ。
当然この場は大人であるライノへと目が向けられ――不安になったのだろう、メルは心配そうにライノへと目を向けると彼はニヤリと笑った。
「断ってくれても良いのだけど、その場合は主様へと鳥を飛ばすわ」
「……は?」
「あら、貴方が自分で上等な服だって言ったのよ? それにお嬢様がおっしゃられたのは紛れもない事実……愛娘のお嬢様に何かあったら温厚なあの方でもどうなるか分からないわよ?」
いつもの様な笑顔のままそう告げるのはライノ……
勿論ライノはメルの住む龍に抱かれる太陽の者ではなく、彼が口にしたのは嘘だ。
だが――
「お嬢様、この商人は馬車に乗せてくれないとの事よ? 鳥小屋に向かいましょう?」
驚くほど自然にライノはメルと商人の間に入り込むとメルへ帰る事を促す……そして商人の方へ振り返ると――
「では、お騒がせしたわね」
そう残し去ろうとした……
「お、おい!?」
メルの耳に商人の声が聞こえ、すぐに振り返ろうとする彼女に対しライノは――
「行きましょう?」
そう告げる。
見ればリアスもシュレムの背を押し歩き始めていて、当然エスイルもついて来ている。
これで良いのだろうか? メルが不安に思っていると――
「ま、待ってくれ! 王に掛け合ってくれるならオイラは文句はない! 馬車に乗せるって……」
慌てた様に青年はメル達の元へと駆け寄り、そう言葉にした。
すると――
「そう? 助かるわ、じゃ、まず契約書を書いてもらうわよ?」
「あ、ああ……」
商人が頷くとライノは筆と紙を取り出し、何やら書いて行く……
メルはそれを覗き込むようにし、見てみるとそこに書かれていたのは――
私はお嬢様の出していただいた案を飲み、条件に馬車に乗せる事を誓います。
とだけ書かれていた。
「はい、名前と血印ね?」
血印はやり過ぎではないだろうか? と考えたメルだったがソレを重要な物であり、メルが重要人物だと勘違いさせるには確かに最適だとも考え口を閉ざす。
そんな彼女の姿を見てだろうか? 商人は名を書き込んだ後、ナイフで自身の親指へと傷をつけ紙へと押し付けた。
それを確認したライノはにっこりと微笑むと――
「はい、メルちゃん無くしちゃだめよ?」
そう言って紙を渡すライノに逆らわない方が良いだろう、そうメルは改めて思い……
「あ、ありがとうございます……」
紙を受け取りつつ、おずおずとそう告げる。
「おま、さっきはお嬢様って……ま、まさか!? う、嘘だったのか!?」
「いや、メルの言ってた事は本当だぞ? ついでにオレの親はメルの親の騎士だ、この一番小っちゃい子の親はメルの親の恩人、ただメルだけじゃなくて王とオレら三人が王と関わり合いがある」
「騙された……」
シュレムの話を聞いているのか聞いていないのか、商人は落ち込み、罪悪感を感じつつもメルは紙へと目を通す。
そこには彼の名前……カルロスと書かれていた。
「えっと、カルロスさん?」
「なんだよ……ああ、大丈夫だ騙された方が悪い……」
「い、いえ、旅が終わったらちゃんと王様……シルトさんには掛け合います。次の街に着いたら鳥も先に飛ばしておきますね」
メルはそう彼に告げ、紙をカバンの中へと納めた。
「はぁ……わ、分かったよ……オイラについてきな」
彼はそう言うとメル達を先導する。
これで馬車は手に入った……そう安堵するメル達だが……
『メル……あちらの影でこちらをうかがっている様ですよ、それに徐々に囲まれている様です』
服の中に隠れていたウンディーネはメルへとそう告げ――
メルはその言葉に視線を動かしそうになるがどうにか堪えると……
「ありがとう、ウンディーネ……皆にも伝える……」
彼女はそう口にすると鞄へと手を入れ何かをつかみ取る。
引っ張り出したものは布袋、その中にある物を一つ取り出すと彼女は口へと放り込んだ。
すると――
「メルお姉ちゃん、僕にも!」
エスイルはそれを見てメルへとそれをせがむ、勿論、それは打ち合わせをした通りであり……
「はい、酸っぱいからもし駄目だったらお水を飲んでね?」
そう言ってエスイルに布袋を差し出すと――
「皆も食べる?」
自然を装いそう告げた。
「ポメグの実か……いつの間に買ってたんだ?」
「乾燥させたのがあったから家から持ってきてたんだよ」
「オレ苦手なんだよな……」
「嫌なら、アタシの薬でも良いわよ?」
メルが取り出した布袋に釣られた様に集まってくる仲間達……
そんな中、名を知ったばかりの青年は――
「ポメグ? オ、オイラも貰っていいか? 中々買えなくてさ」
「はい! 勿論ですよ」
そう口にしたメルはカルロスへと布袋を差し出した。
その間も精霊達は勿論辺りを警戒していて……メルは――声を潜めると
「ウンディーネが怪しい人を見つけたって」
そう告げる。
「そうか……急いだ方が良いな」
「うん、カルロスさん、すぐに出発は出来ますか?」
「え、えええ? ちょ、あ、いいや、すぐには出来る……出来るんだが……」
怪訝な表情を浮かべるカルロスに対し不安になったメルは眉を下げる。
「テメェ、オレ達を騙してるんじゃないだろうな?」
「違う、この街は馬車を置く場所が乗合馬車の近くにあるんだ……」
「ここからは遠いって事ね……」
表情を変えずにライノはそう言いポメグの実を口へと放り込む。
ポメグは疲れを取る効果があると言われているがとても酸っぱい木の実だ。
その様子に凄い人だなっと感心しつつもメルは――
「バレてる事は分かった……急いで馬車を――」
「それは良いけど、門はどうする……俺達の事が知られてるなら閉じられてるはずだ」
「オレ、爆弾持ってるぜ?」
「シュレム……それは辞めようね? でも閉じられてるなら誰かに開けてもらわないといけないし……最悪魔法で……」
メルはそう口にするとカルロスは慌て表情を険しくすると――
「そっちの嬢ちゃんか彼氏さんがやるって事か!? それは駄目だ! 馬の上を魔法が通り過ぎるって事だろ!? いくらなんでも怖がって暴れるぞ!?」
――と最もな言葉を告げられた。
それもそうかとメルは考え込み――もう一つの案を口にした……




