52話 馬車を持つ商人は居るか?
情報屋を買われているのではないか? メル達はそう考え、早々に街を去る事を決意する。
しかし、馬車は無い……そこでメルはこの街に居る商人の中に馬車を持ち、尚且つメル達の情報をまだ知らないものが居るのではないかと考え、広場へと向かうのだった。
メル達は屋台の並ぶ通りまで来ていた。
目的は勿論、馬車を持っている者の協力を得る事……だが――
「悪いね、俺は冒険者雇って来たんだよ。馬車があれば乗せてってあげたいんだが……」
「そう、ですか……」
何度目も交渉を試みたのだがそうそう上手くいくはずもなく……メルはだらんと尻尾を垂らした。
「まさか、冒険者に頼んだり乗合に乗ったという人ばかりなんてな……」
これだけ商人が居るのだ、一人ぐらいにはと思っていたリアスも首を捻り、メルは今度は体全体で落ち込んだ事を見せると――
「でも、これで分かった事があるよ」
と呟いた。
「分かった事って? オレにはさっぱり分からないぞ?」
「……はぁ、あのねシュレムちゃん」
「メルお姉ちゃんが言いたのはこっちの人の方が普通だって事だと思うよ?」
エスイルの言葉に頷いたのはシュレム以外の三人。
そう……今話していた人もそうなのだが、皆メル達に対しての態度が普通だ。
何人かには怒られたのだがその時も――今は商売中だ! んな事聞くなら物買ってからにしてくれ、そうじゃないなら帰った帰った!! などと拒否はされてはいても言われた通り、何かを買えば後から一言を告げられることは無かった。
「じゃ、次は――」
シュレムは次の商人と話すべく、周りを見渡し一人へと目をつける、が――
「その人は駄目、さっきからこっちをチラチラと見てる……ううん、睨んでるって言った方が良いかも……」
「へ? 本当か!?」
メルは自身の力でもある瞳の力を使って相手に気が疲れないよう確かめているからだ。
しかし、メルが精霊の瞳を借りれば頭痛で動けなくなってしまう、そこでシルフ達に見張りをしてもらっているのだ。
とはいえ、シュレムとエスイルはともかく、視覚共有の事を人へとあまり伝えたくないメルだったがリアスやライノに告げなくてはならなくなり……
「なるほどね……確かに心強いわね」
「メルにも精霊達にも助けてもらいっぱなしだな……」
渋々伝えると……二人にぼそりと告げられたメルは照れくさそうに髪をいじった。
「あら、リアスちゃんに感謝されて嬉しいのかしら?」
「へ!?」
突然告げられた言葉にメルは驚き、目を丸くする。
そしてその視線をリアスへと向けると顔から火が出そうな位熱くなり始め……釣られるようにリアスも赤くするとすぐに二人共顔を背けた。
「ど、どうしたんだよ?」
「メルお姉ちゃん、顔真っ赤だよ?」
シュレムとエスイルのそんな言葉が聞こえるが、そんな事はどうでも良くなってしまった彼女は尻尾を左右に振りながら――
「な、なんでもないよ?」
どこか不器用にそう答えた。
すると――
『メル! メル!』
「きゃぁ!?」
メルの前に嬉しそうに声を上げながらシルフが現れ、一点を指差す……
「もう、脅かさないでよ……」
少し拗ねた様にメルが頬を膨らませ訴えるもシルフははしゃぎながら腕をぶんぶんと振り――
『髪飾りの人だよ!』
と告げた。
「……え?」
シルフの指の先にメルが瞳を向けると確かにそこには髪飾りを売ってくれた商人が居る。
彼女の目に映る彼は若い男女に話しかけては商品が売れないのか困ったような笑みを浮かべて頭をかいていた。
「あんま売れないんだなソレ、縁起でも悪いんじゃないか?」
「そんな事無いよ! 可愛いと思うのに……」
シュレムの言葉に口を尖らせながら髪飾りに触れたメルはそう口にする。
事実それはとても手作りとは思えない程の出来でそれにはシュレムも納得しているのだろう……
「悪漢に買ってもらったものじゃなきゃ縁起が悪くないしオレも良いと思うぜ? メルに良く似合ってる」
「なんか俺、酷い言われ方してないか?」
「う、うん僕もそう聞こえた……」
何故姉はリアスを認めないのだろう、そう思いつつメルは青年の方へと向かって行く……
「メルちゃん?」
「彼にも一応話を聞いておこうと思って……」
見れば随分と若い人だ。
馬車を持っていることは無いだろう……そう思った彼女だったが、髪飾りの出来が良い事に賭けてみた。
彼の商品は恐らくこの街に合っていないのではないのか? と思ったのだ。
何せ宝石はついていると言ってもとても小さなもので商品としての価値は精巧な手作りと言う事しかない。
売れる場所では売れてもそう言うのを好まぬ場所では売れないのではないか? そんな期待を胸に青年の屋台へとメル達は辿り着いた。
「いらっしゃ……」
するとすぐに気が付いたのだろう青年はメルの方へと向き――
「君は……」
「あら、可愛いのがいっぱいね」
すぐに隣に立つライノへと目を向けた。
「え? あれ? ……ん?」
先日と違う男性と一緒に居る事が疑問だったのか人差し指をメルとライノの間で遊ばせる青年。
その様子にメルは苦笑いをしつつ、用件を伝えようと口を開き――
「だから! メルはオレの嫁なんだよ!!」
「ってシュレム!? 大声でなに言ってるの!?」
後ろから聞こえた言葉に慌てて振り返り突っ込んだ。
すると表情を緩めてシュレムはメルの元へと歩み寄り、リアスは呆れているのだろう、エスイルと共に屋台へと近づく……
「え、えっと……なんの用でしょうか?」
前とは違い弱弱しくなっている屋台の主の声を聞き、メルは尻尾を揺らし再び振り返ると――
にっこりと微笑み……
「実は――」
と話を切り出した。
「なるほど、つまり街を抜けたいけど馬車が無い……か……」
「ええ、それでここの商人さんなら持っている人が居るかな? って思いまして」
メルの言葉に腕を組んだ青年はうーんと唸り……
「うーん、馬車はある事にはあるんだけどなぁ……」
「本当ですか!?」
その言葉にメルは食いつく様に青年へと近づく。
よほど嬉しかったのだろう耳はピンッと立ち尻尾も激しく揺れ始めた。
「だけど、タダって訳にはいかない」
「……いくら必要なんだ?」
シュレムのその言葉ににやりと笑った青年は――
「うーん、お金じゃ解決できないかな? これでも、勘が鋭くてね……お嬢ちゃん達訳アリだろ?」
「……なんで分かるんだ? まさかナタリアさんと同じ目じゃ?」
「相当珍しいみたいだし、それは無いと思うんだ……シュレムお姉ちゃん……」
エスイルはそう言うがメルも疑ってしまった。
事実、メル達が彼に伝えた事は早く次の街に行きたいけど、馬車が予約されていて動けない。
馬車を持っていたら乗せてくれと言うだけだ……
たったそれだけなのに……なんでわかったの?
「そんな顔しないでも、というか勘が鋭くなくても馬車が予約なんて聞いた事も無い」
「そ、それもそうですね……」
自分達も聞いた事が無い。
それも当然か――そう思うメルだったが――
「ついでに言うと馬車ならちょっと前に出て行った。客も普通に乗せてたからね」
青年はメル達に聞こえる様、小さくつぶやく……
「何だって!?」
「だから、予約ってのは真っ赤な嘘、そうなったら嘘を言われた君達は騙されてるって訳さ……でも、見た所悪人ではない」
彼はそう続けるとにっこりと笑う。
そう、リアスに髪飾りを売った時と同じ笑顔を浮かべたのだ。
「で、何が欲しいんだ?」
リアスは呆れつつ、彼にもう一度訪ねると――
「なに、ここで君らをオイラが逃がしたとばれたら狙われるよね。オイラは一切戦えない……だけど君達を助ける事は構わない、望む物は一生の安全」
青年の商人はニヤリと笑い、言葉を続ける。
「そこで確認の為聞きたい君らは何処までまずいんだい?」
メルの瞳に映る商人の瞳はまるでナタリアの様に見透かされているのではないか? と思うほどの物だった。
その証拠に命の危険に関わるかもしれないという彼の予想はあっており、メルはリアスへと目を向けると……彼は首元を擦る仕草を見せ険しい顔をした。
それを見たメルはゆっくりと商人を瞳で捕らえると――
「……仲間が拉致され毒を盛られたり、怪我をお医者さんに見てもらえなかったり、情報屋を買われるぐらいですね。助けてもらったら貴方が危険にさらされるのはあなた自身が言った通りです……」
首飾りの事を伏せてそれだけ商人へと伝えると、彼はニヤリとした笑みを崩さずに……
「思ったよりだね」
静かに答える。
そして――
「それだと、うーんさっきの条件だけじゃ呑めないかな」
「テメェ調子に――」
「待ちなさいシュレムちゃん」
シュレムの怒号が聞こえたが、それは途中でライノに遮られた。
「――ライノの旦那!?」
「黙って任せましょう……どの道馬車を持ってる商人がそうそう簡単に見つかるなんて限らないわ」
「へへへ、その通り……」
にたりと笑う商人にメルは思わず後ずさりしそうになるのを堪え――
「条件はなんですか?」
「……見ればお嬢ちゃんの彼氏以外は上等な服だよね? 余程のお金持ちじゃなきゃそんな服は着れない」
「お金ですか?」
「いや、さっき言った通りそうじゃない。それは稼げば良い、オイラが欲しいのは店だ……メルン、それも王都リラーグの近くが良いかな? 出来るかい?」
商人の出して来た条件、それは普通では到底無理な条件だ。
つまり、遠回しに彼は言っているのだろう……助けるのは構わない、だが命を張るのは御免だと……
商人の青年はこれで引く、そう思ったに違いない。
だが、彼には誤算があった――
「分かりました、旅が終わったらリラーグの王シルトさんに貴方を協力者として紹介します」
出来るとは限らない、だがそれを伝える事が出来る彼女は臆する事もなくそう口にした。




