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50話 完成した薬

 ライノが作った薬を売ろう……メル達はそうすることを決め材料を集めた。

 そして、ライノの手により傷薬を作ってもらい、後は売りに行くだけだ。

 薬自体の効能は折り紙付き、しかしライノは無名の薬師だ。

 果たしてどの位売れるのだろうか?

 翌日、メル達は予定通りに薬を売りに行くことにしたが、ライノの怪我が心配である彼女はシュレムにお願いし医者に連れて行って貰う事にした。

 しかし、薬を売らない訳にはいかずメルとリアス、そしてエスイルはライノから薬を受け取りそれを売りに行くことにした。

 作った薬は傷薬だと分かる様にしてあり値段も相談済みだ問題は無いだろう。

 そう思って今泊まっている酒場に売り込もうとメル達が店主に声を掛けた所だ……


「ぁあ?」

「で、ですから……その傷薬を……」


 だけど、なぜか威嚇されるような態度でメルは思わず後ずさりしてしまった……


天族(パラモネ)の仲間が傷薬を作ったんだ、買ってくれないか?」

「何でこの店で素人の作った薬なんざ買わなきゃいけないんだ!」


 なぜそんなに怒るのか分からないが、そう言われるのは分かっていた。

 だからこそ値段も相談した訳で――


「おじさん、でもその分安くする……から……」


 エスイルはおずおずと口にする。

 小さな弟を怖い目に遭わせたくないメルは前へと出直すと――


「その、銅貨六枚ではなくて四枚で売っているんです」


 一見して儲けが無い様な金額だ。

 だが、取ってくるのはメル達自身で作るのはライノ……必要な物を差し引いても儲かると計算した値段を口にし小瓶を一つ見せると。


「いらねぇぇぇって言ってるだろ!!」

「「ひっ!?」」


 店主は大声で怒鳴り、メルは怯えてしまったのか耳を垂らし尻尾を丸めると小瓶を持った手を胸の前へと引っ込めてしまった。


「何も怒鳴らなくても良いだろ? ただ薬を売りに来ただけじゃないか」


 怯えたメルを庇う為だろう、リアスは店主と彼女の間に割り込むとそう告げる。


「ウルセェガキだな……良いか? 信用ならねぇ奴からは薬は買わねぇ、それとも何かあったら責任取れるのか! ぁあ!?」


 その言葉にメルは瞳を揺らし、確かに信用できないだろうけど、持ってきた物は傷を治す薬なんだから、そんなに怒る事なのかな? っと疑問を浮かべる。


「……はぁ、話にならないな、メル別の場所に行こう」

「う……うん……」


 リアスに促され、歩き始めたメル達だったが、ここの酒場の店主は怖い人だなっと思った……

 事実カロンでのスレイフも怖い方なのだろうが、ここまででは無かった。


 それに客商売なんだから、もう少し愛想を振りまいても良いと思うのに……


 そう思うメルの背中には――


「ったく、なんだって俺がこんな面倒な……」


 ――そんな愚痴が聞こえて来た。

 エスイルにも聞こえたのか、弟に握られた手には少し力が入ったのを感じた彼女は……心配になって目を向けると、不安そうな顔でメルを見上げていた。


「メル?」


 そんな二人の様子を心配したのだろう、リアスに声を掛けられたメルは……


「う、ううん、なんでもない」


 彼にそう答えるとエスイルの手を握り返し後を追った。




 それから何件かの酒場や宿を回って商品を売り込んだ彼女達だったが……


「全滅だな……」

「うん……」


 突然、薬を売りに来た訳だから怪しいと言われたらそうなんだろう……一応念のためメル達はライノの名前も出し彼が天族(パラモネ)というのも告げたというのに駄目だった……

 断られる内にメルの中では不安が大きくなっていた。

 何故か出向く先でメル達を避けようとしたり、軽蔑したりする言葉を投げられたのだ。


「ねぇ、リアス……何かおかしくない?」

「おかしいって何がだよ?」

「だって、何処も買ってくれないのはまだ仕方ないとしても帰る時に皆一言呟いてるの……面倒とか、例の集団とか、関わり合いになりたくない、とか……」


 メルはそれを自身で口に出すとやはり何処かおかしいと思い、口元に指を当てる。

 初めて来た街で街の者にここまで避けられるものなのか? いや、それは無いだろう髪飾りを売っていた商人は優しく、良い人である事は彼女も覚えていた。

 だというのに、情報屋は二人はおかしくないと言っていたが少なくとも門番も酒場の主人もどこか変なのだ……

 彼女がそんな不安を抱えつつ、あまりにも売れない事に落胆していると……


「……俺がこんな格好をしてるからか?」


 リアスは自身のボロフードローブを摘まみメルへと尋ねる

 確かに彼はメルから見ても怪しいとは思うが……冒険者基準で考えれば装備が買えないと言うのも納得できる。

 つまり、リアスの所為かと言われるとメルはそう思えなかった。


「違うと思う……始めはびっくりすると思うけど、冒険者にはすぐ物をボロボロにする人は居るから……」

「俺達を冒険者と勘違いしているとしてか……そう言われるとそうだな……」


 だが、それでメル達を避ける理由にもならない。

 彼女は不安を大きくすると別れて行動している二人が気になり……


「ライノさん達を探そう? 心配だよ」

「……心配性だな、でもそこまで言うなら迎えに行こう」

「ありがとう、リアス」


 メルは笑顔を浮かべるとリアスに感謝の言葉を伝えエスイルの手を引き、再びリアスの方へと向くと――


「リアス?」


 メルは一回尻尾を大きく揺らし、彼の名を呼び首を傾げた。

 彼女の瞳の先には若干困った様な顔をし頬を赤らめているようなリアスの姿があり、彼は――


「た、確かライノさんは西に医者が居るって言ってたな?」


 頬をかきつつ、メルに尋ねる。


「うん! 行こう!」


 彼女はそんな彼の様子に何処かいつもと違う物を感じつつ再び笑顔を浮かべ答えた。

 あちらにはシュレムも居る、彼女を止めれるライノも居るだから大丈夫だろう……そうは思っても急ぎたいそんな彼女の気持ちを汲んでくれたのか急ぐリアスの後をメル達は追った。







 それからすぐに二人は見つかった。

 しかし、その様子はおかしいとメルは気づいた……近づくにつれそれははっきりとしていき二人が困り果てているのが分かると……メルは先程の不安が大きくなるのを感じた。


「メルの予感当たってるかもしれないな……」


 リアスも二人の様子がおかしい事に気が付いたんだろう、そう呟き更に足を速める。


「シュレムお姉ちゃん!」


 近づいた所でエスイルがシュレムへと声を掛けると、二人はメル達に気が付いたのだが、その顔はどうも浮かない感じだ。


「あら、エスイルちゃん……メルちゃん達も薬は売れたの?」

「いえ、売れませんでした……ライノさんはどうですか? その……」


 なんでこんな所で困り果ててたんだろうか?

 そう思うのも束の間メルには何故そんな顔をしているのか理由が分かってしまったような気がした……


「どの医者も駄目だった、その殆どが今日は予約で一杯なんだとさ、後は傷を見もせずに此処では治療が無理だとか、明らかにおかしい料金提示してきたりな」

「よ、予約……!?」


 メルは思わず、耳と立てると声を張り上げた。

 予約で埋まって治療は出来ないなんて事は聞いた事が無かったのは勿論、どの医者も駄目だったなんて事を聞いたのは初めてだったからだ。


「リラーグだと人一杯でも診てくれるよ? 僕待ってた事もあるし……」

「そうだね、それでクルムさんが待てなくなって家に来たの覚えてるよ……」


 メルは当時の事を今でも覚えていた。

 エスイルを抱え血相を変えて飛び込んできたクルムは酒場の中でユーリの名を叫んだのだ……だが、運が悪い事にその日ユーリ達は依頼で外に行ってしまっていてすぐに戻ってくることが出来なかった。

 そこでシュレムの兄、シウスが走りシンティアを酒場まで連れて来て治療をさせた。

 幸い、屋敷の中に医学に通じたメイドも居た事で事なきを得たのだが……それでもリラーグの医者はまず状況を見て、先に治療すべき患者を優先した。

 つまり、エスイルは後にしても大丈夫だと判断はされたものの、追い返すなんて事は一切しなかったのだ。


「普通は一応待っててくれって言われるはずよね? 私は動けるし、今は血もちょっとしか出てないと思うから優先とまではいかないでしょうけど、追い返されるのは予想外だったわ」

「というか全滅ってのが納得いかねぇ……この街の医者全員まとめて、医者辞めた方が良いんじゃないか?」


 それはちょっと言い過ぎではないか? と思われる言葉にメルは頷いて肯定し考えた――


 相手は医者、ライノさんは患者……そこには勿論金銭の取引がある。どう考えても追い返す意味が無いよね?

 ……商品もだよ、傷薬が一個も売れないのはおかしい。

 いくらまだ無名だからと言っても、ライノさんはこの街に来た事がある人、少なからずどこかの酒場や宿に泊ったはず。

 なのに何処にも売れない、どこも診てくれない……


 そこまで考えるとこの街が薄気味悪く感じたメルは――


「うーん……どうにかして早くこの街を抜ける事、出来ないかな?」


 と提案するも……


「馬車が来ない事には……次の街までそれなりにある、食料の確保が厳しいな」


 予想した答えが返ってくるだけだ。


「メル……やっぱり不安か?」


 リアスにそう聞かれたメルは頷く……彼女には情報屋の時から何となく不安がある。

 何か変だと訴えて来るのだ、だがそれは考え過ぎなのかもしれない……という思いもあり、彼女は難しい顔を浮かべた。


「とにかく、一回酒場に戻りましょう? メルちゃん手当お願いできるかしら?」

「はい、それは勿論です」


 出来れば医者にちゃんと診てもらいたかったんだけど……メルはそう呟きながらも、どこも診てくれないのでは仕方が無いと結論をつける。

 元々、医者に診てもらってもメルは手当てをするつもりだった事もあり、その場から仲間達と共に移動する事を選んだ。





 酒場に戻ってライノの治療をしている中、メルはこの街の事を再び考えていた。


 どう考えてもおかしい……商品が売れないのは……もう、考えない事にしたって目の前に怪我人が居て――


「はぁ、それにしてもカロンじゃすぐにとは言われなかったけど診てもらえたのに、こっちは随分と薄情ね……」

「ん? カロンじゃ診てもらえたのか?」


 ライノの呟きにリアスは反応し……シュレムは不貞腐れた態度で――


「そういや、さっきも言ってたよな? ライノの旦那……やっぱこの街の医者、医者辞めた方が良いな……犯罪者が居るあっちの方がましってなんだよ!」

「僕も追い返したりするの酷いと思う……」


 エスイルも怒っているのだろうぷくりとほっぺたを膨らませている。


「……情報屋はともかく他の連中は確かにメルが言ってる通り変かもしれないな……」

「え?」

「医者ってのは治療すれば金がもらえる、ならライノさんを追い返す理由が無い。無理をしたって診た方が得だ……」

「そうね、それに医者の一人には顔を知られてるはずよ? 薬師と言う事も前に言ったわ」

「え? なら……診てもらえないっておかしいですよね? 知り合いに薬師が居た方が安値で仕入れる事も出来るんじゃ?」


 薬に信用性があるのが条件だが、それは医者が実際に使ったりすれば分かる事……安価で良い薬が手に入るかもしれないのにわざわざ切る理由はない、少なくともメルは自分だったらそんな事はしないと言いきれた。


「ええ、その話出てたんだけどね……無しだな」


 口調が変わったと言う事はライノは怒っているのだろうとメルは察しつつ、治療を続ける。

 すると――


「それより、メルちゃんはお医者っていうか怪我の治療に興味ない? 将来そう言ったお仕事する気なら薬安くしとくわよ?」


 何時もの口調へと戻った彼にメルはそう提案され、そんな道も悪くはないかもっと思ったが、すぐに――


「ありがとうございます、でも私は冒険者になるのが夢ですから」


 そう断った。

 やはりどう考えても両親達の様な冒険者になりたい、それが彼女の夢だからだ。

 そんなメルの答えを聞いてライノは小さく笑うと――


「なら、どっちにしても薬安くしとくわ、将来楽しみにしておいてね」


 怒る事無く、再び話を持ち掛けてくれたことにメルは嬉しくなり。


「はい! その時はお願いします!」


 ライノの背中に笑顔を向け答えた。

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