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47話 馬車の時間

 情報屋に依頼をしたメル達。

 しかし、メル、シュレム、エスイルはその情報屋に不安を感じたのだが、リアスとライノは気になるほどではない様だ。

 彼女達は情報屋に金を払うとその足で宿屋を探し、休息を得るのだった。

「メル、首飾りを渡してくれるか?」


 翌日、馬車の時間を確認しに行こうと部屋から出ようとした時、その言葉はメルに告げられた……


「良いけど……急に何で?」

「万が一、俺達の情報がすでにバレていたら……首飾りはメルが持ってるって言うのも伝えられているかもしれない」


 一応、カロンで襲って来た男は捉えたはずだが、リアスの言う事は最もだとメルは考えた……

 何せあの男もリアスが一人でいない事を知っていたのだ……気づかない内に情報が洩れている可能性は十分考えられる。


「ならオレが持ってた方が良くないか?」

「だからだよ……恐らく奴らも首飾りを別の奴が持つって考えるだろう……俺は戦う場所が限られるし、一人なら逃げ切れるが仲間が居るなら安全とは言い切れない」


 やはり自分は足手まといだろうか? メルは落ち込むも――


「とはいえ、護衛対象がまだ幼い以上、俺一人だと守り切れない……」


 続いたリアスの言葉はメルの考えとは違い――


「奴らはシュレムの戦い方を見たわけじゃない、未知数のはず……だけど、メルは一度戦ってるんだろ?」

「なるほどね……確かにリアスちゃんは魔物の戦いの時も使ってたけど暗器、毒もあるから人が居ると使えない、シュレムちゃんは一切分からず、種族は魔族(ヒューマ)だから、もしかしたら盾を使いつつ魔法を唱えるかもしれない」


 シュレムが大勢の前で戦ったのはリラーグの時だけだ。

 対するメルは何処かで見られていたとしたら対処を考えられているかもしれない。

 だからこそ、今言われた通り戦い方が分からないシュレムとライノに気をつければ良い事に気付き、ますます落ち込んだ。


「私が居るというのが分っていも天族(パラモネ)だから錬金術を使えると思われても相手にとって脅威ではないわ」

「ちょ、ちょっと待ってください、錬金術を使えるなら剣とか大槌を作り出せるんじゃ? それならライノさんの事も」


 メルの知る錬金術師テミスもそうやって戦っている事を知る彼女はライノに告げる。

 ……だから錬金術を使える天族(パラモネ)は脅威ではないとは言い切れない。

 だからこそ錬金術と対峙する際は……手を物質に触れさせない事が大事になってくるのだが……


「確かに作れるわ、でもね? 木を鉄の剣に変える事は簡単じゃないの、やるには相当な年月で勉強、修業するしかないわね、それに……」

「その作った武器を扱えるとは限らない、元々天族(パラモネ)は造る事には長けていても、戦う事は苦手だ」


 だが、メルはこの時まで天族(パラモネ)の弱点を忘れていた。

 知能に長ける彼らは力があまりない、勿論鍛える事でテミスの様に武器を扱えるだろうが……実際には少し強い魔族(ヒューマ)程度なのだ。


「じゃ、オレの出番って訳だな? だったらやっぱりオレが持ってた方が良いんじゃないか?」


 メルもシュレムの言葉に頷いた。

 この場で戦えると言ったら残るはシュレムだけであり、先ほどの話からしても彼女の戦い方は未知数――なのだが――


「いや、そうでもない、魔法を使うにしろその大きすぎる盾を取っ払えば良い……って思われるだろうからな。だけど……」


 リアスは首を振りそれを否定する……


「でも、メルお姉ちゃんは違うって事?」

「エスイル? 私が違うってどういう……」


 弟の言葉に疑問を投げつつも、この中で一番頼りなさそうなのは確かに自分だと自嘲気味に笑う……


「あら、なんでそう思うのかしら?」


 そんなメルを目にしてもライノは陽気な声でエスイルにそう聞き返していて……メルはその理由を聞きたくないと感じた。

 とはいえ、口にするのはエスイルだ。そこまで酷い言われ方はしないだろうと彼女は思いつつもゆっくりと耳を垂らす……


「だって、メルお姉ちゃんは何処でも戦えるよ? 魔法もあるし、魔法の剣もある!」

「エ、エスイル……」


 この子を疑った私はなんて馬鹿なんだろうか? 彼女はそう思い、この少年を弟を絶対に守り抜くと固く誓いを立てた。


「エスイルの言う通りだ。メルは場所に囚われない……魔法が使えないなら剣、広い場所なら距離を取って魔法、そして、体力も足もあるからいざと言う時は逃げ切れる……」

「に、逃げないよ?」

「相手が考えるとしたらの話だよ、さっき首飾りを別の奴が持つって考えるって言ったろ? だけど、結局誰が持ったら安全か? って考えると戦える場所が限られる俺よりも万能なメルか未知数なシュレムのどちらかになる……が――」


 とリアスは語るが、何故それならシュレムに首飾りを持たせないのかやはり疑問だった。

 シュレムは魔法は使えないが強いのはリラーグで証明済み、無鉄砲な性格は弱点になるがそれもカロンでの様な事さえなければ――と考え――


「あ――そっか、シュレムはカロンで……」

「そう、真っ先に捕まってる。情報が洩れてるならそれも同時に伝わっているはずだ。ならメルがそのまま持ってた方が安全だろ?」

「お、おい……それは言わないでくれよ」


 メルはリアスの言葉に真剣な表情で頷くが、シュレムの傷口を開いてしまった様で何処か悲しそうな声が耳へと入った。


「だからあえてこれは俺が持ってる。ライノさんとシュレムはエスイルを守ってくれ」

「えっと、私は?」


 リアスを守るのだろうか? と考えた彼女を待っていたのは――


「自分の身を守ってくれ、勿論俺も守るよ」

「――ふぇ!?」


 と言うリアスの言葉で――

 幼い頃から剣術、魔法、体術と学んでいた彼女はこの日初めて男性に守ると言われ、顔を真っ赤にした。


「という事はリアス、テメェ……メルと二人っきりになろうって魂胆か?」

「ちょ、何を――」

「だってよ、オレ達は首飾りとエスイルを守らなきゃいけない、別々に守るって事はこの街で別々に行動するって事だろ?」


 そう言う事だったのか? いや彼に限ってそんなことは無いよね? とメルは思いつつもおずおずとリアスの方へと瞳を向ける。

 すると、最早見慣れたと言っても良い呆れた様子のリアスは溜息をつき――


「そんな訳ないだろ? 俺とメルはともかく、そっちは下手したらまた捕まって面倒な事になるだけだ……全員で行動していざって時はそれぞれを守る良いな?」

「う、うん……分かった」


 若干、残念な気分になったメルはいつも通りに行ったはずが何処か声が小さく……何かに気が付いたように瞳をリアスへと遠慮がちに向けると――


「でも、なんで突然そんな事を?」

「情報屋、俺やライノさんは特に変だとは思わない、だけど心配なんだろ?」

「あ……」


 そっか、リアスは私の……私達の気持ちを汲んでくれたんだ……でも、本当に情報屋ってあれで普通なのかな? ううん、私達が敏感になりすぎてるだけなのかも……

 と、とにかく、リアスはそうやってくれたんだし、気をつけつつもあまり気を張らない方が良いのかな?


 メルは一人そんな事を考えていると――


「ふふふ……」


 そんな彼女の様子を見てライノは笑みをこぼす。


「な、なんですか? ライノさん」

「さぁ? なんでしょうね?」


 そんなライノに対し、彼女は首を傾げた。







 朝のやり取りの後、メル達はすぐに馬車小屋へと向かう。

 目的は勿論時間を調べるためだ。

 小屋はライノのお蔭ですぐに分かり迷わずに辿り着けたのだが……


「次の馬車は……五日後だね」


 その小屋に居た老人にそう告げられた……

 結構待つ事になりそうだと思いつつもこれで移動できると安心したのも束の間――


「だけどね、予約が入っているから……そうだね君たちが乗れるのは……十五日後って所かね」


 老人から告げられたのは予想していなかった言葉で、驚いた声を上げたのは――


「よ、予約!? そんなのあった事無かったわよね? なんで……」


 ライノだった。


「さぁ、急に言われてお金ももらったからね、仕方ない事だ」

「どうにか出来ないのか?」

「とは言われてもね、さっき言った通りだよ」


 五日で済むはずが十五日となってしまい戸惑うメル達だが、相手も仕事だ……無理は言えないだろう。

 メルはそう理解し、長い空白を埋めるため何かないかと考え――


「ね、だったら簡単なお仕事を探そう? お金も減ってきたし、時間があるなら稼いでおいた方が良いと思う」


 思えばリラーグから旅立ち、食料などを買い足す内にメルだけではなく皆の財布が軽くなっていた。

 このままでは遠くない未来に酒場に泊まる金すらなくなってしまうだろう……

 それだけではなく、今回の様に情報屋を買う事もあるかもしれないのだ。いくらあっても困ることは無いとメルは告げると――


「そうだな、オレはメルに賛成だ! そろそろ肉も食いてぇしな」

「肉はともかく……どうにも出来ない以上、確かに稼いでおいた方が良いな」


 仲間達も同意をしてくれたのだが――


「なら早速酒場で依頼を探しましょう?」

「「「え……」」」


 酒場と言う言葉でメル達は固まった。


「ど、どうしたの? 三人とも変な顔して……ってそう言えば……」


 そんな彼女達を怪訝な顔で見ていたライノははっとした顔に変わると、すぐにその表情を曇らせ……


「三人とも冒険者じゃなかったわね……」


 その方法が使えないと知り、がっくりと肩を落とした。


「はい……そうなんです……」


 酒場の依頼は基本的にその酒場専属の冒険者にあてられる。

 腕と信用、信頼があれば他の酒場の冒険者でも受ける事は可能だ。

 その信用の証が酒場で渡されるアクセサリーだ。

 有名な酒場、メルの実家でもある『龍に抱かれる太陽』等であれば、それなりの仕事が貰えるはずだ。

 とはいえ、これは冒険者であったらの話であり、メル達はあくまで旅をしている一般人――


「なら、この街の冒険者になれば――」


 ならば、冒険者になってしまえば良い! ライノはその事に気付くも――


「そ、それは駄目!」


 メルは強く否定した。


「じゃぁどうするの?」


 一番早く稼ぐのにはそれがメル達にも合っている方法だとは彼女も理解していた。

 だが、両親や祖母、その仲間達に内緒で勝手に冒険者になる事は裏切る様でメルはそんな事は出来ないとすぐに思ってしまったのだ。


「三人の実力なら、冒険者の仕事があってるわよ? だったら――」

「それは……で、でも……」


 お金が無い、そんな非常事にわがままなのかもしれないとメルは思うが……それでも他の酒場の冒険者になる事は躊躇われ……

 そんな彼女の様子を見たシュレムは申し訳なさそうな顔をしライノへと語る。


「リアスはともかくオレらが……特にメルは酒場を経営してる屋敷の娘なんだ……別の店の冒険者にはなれないって……オレもそうなったら親父に怒られるしな……」

「え? そのメルちゃんの親御さんって冒険者でしょ? 酒場を経営してるって……」

「いや、まぁ正しく言うと酒場は別の人なんだけどな? その屋敷が――」

「メルお姉ちゃんのママ達は冒険者で昔の領主様からの贈り物で屋敷を持ってるんだ! それでそこで知り合いの人と一緒に酒場をしてるんだよ」


 何と説明したら良いのか? メルもシュレムも迷っていたが、エスイルが自分の事の様に誇らしげに語り……


「ぼ、冒険者で屋敷って……メルちゃんの両親は凄いのね? 普通凄腕の冒険者でも酒場まで出来る屋敷何て大きなものは……ましてや領主の贈り物なんて……」


 ライノは呆気に取られた様だ。

 それもそのはず、冒険者とは依頼さえこなせば大金を手に入れられるはずだが、屋敷を建てる程の大金はそうそう得られない。

 それこそ、一つの国を救う事やそれに近い事をすれば可能だろうと考えられるが――


「昔、リラーグがまだ地上にあった頃の領主さんの依頼で……奴隷市場を廃止したり、ギルドを追い出したりでそのお礼に屋敷をもらったみたいなんです」

「そ、そうなの……でも困ったわね……流石にそれじゃご両親に内緒で冒険者になる事は出来ないし……冒険者じゃない人に依頼は……」


 受けさせてもらえない……

 つまり、酒場で泊まる事は出来ても依頼自体はメル達が自力で探さなきゃいけないのだ。

 更に言うと……


「冒険者じゃない以上、依頼を受けるのも一苦労だ……」

「リアスちゃんは駄目なの?」

「俺は冒険者には成れないんだよ師匠と約束でな、旅人として世界を見て回れってな」

「旅人って……確か冒険者の元になった人達の事だよね?」


 リアスの言葉にメルは首を傾げ問う。

 彼女は家にあった本を少しは読んでいたのでうっすらと覚えていたが確かそう書かれていたのだ。


「ああ、昔は旅人が冒険者って呼ばれてたんだけどな、酒場が出来て依頼をこなす者を何時しか冒険者って呼ぶようになったらしい」


 メルの問いに答えたリアスはどこか遠い顔をし……その瞳を見ているメルは吸い込まれそうな気になった。


「揃いも揃ってって感じだな、仕方ない何とか仕事を探してみるしかないか……一旦戻ろうぜメル!」


 そんな中、メルはシュレムの溜息交じりの声を聞き、はっとすると――


「そうだね、酒場に戻ろう」


 彼女がそう言葉にすると仲間達は頷く……しかし、メルは帰る途中もどうしたものかと考える。

 冒険者ではなく、ただの旅をしている子供達が稼ぐ方法を……


「何か……ないかな?」

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