4話 メルの冒険?
メルは脱出の経路を探し彷徨う。
途中、警備の者らしき男には遭ったが魔法で難なく抑え、進むと一つの部屋へと辿り着いた。
そこには一人の少女と男が居り……。
メルは少女を救うため、一旦は閉じた扉を開き部屋の中へと飛び込んだのだった……!
「うへぇ……」
水の檻に閉じ込められた男を見てメルは思わず引きつった顔をし声を漏らす。
魔法とはいえ、普通は住みやすい環境が出来たら精霊が集まってくる、だと言うのに目の前の水の塊には精霊が全く寄り付かないのだ。
その理由は――。
「汚い……」
「き、汚いとは――がぼっ!? んだ!!」
中に居る男は暴れ……その度に身体の汚れが落ちているのだろうか? 水がどんどん汚れている。
メルはその汚れきった水を見て、水浴びすらしていないのでは? と考えたらぞ割としてしまった。
同時に……。
今、シンティアさんが作る良い匂いのする石鹸があったら……投げ込んでる所だよ……。
と考えていた。
「そ、そうだ! そんな事より」
彼女はそれどころではなかったことを思い出し、魔法を維持したまま少女の方へと急いで向かう。
少女の元へ駆け寄ったメルは改めて顔を引きつらせた。
その少女は衣服が所々破けており、最早服としては機能していなかった……だが、何処にも傷はない。
どうやらメルは間にあったようだ。
「……だ、大丈夫ですか?」
メルの問いに少女はゆっくりと顔を向けるとその瞳に溜まっていた涙をこぼし始めた。
「え、えっとあの……その!?」
メルはその少女に同性だというのに思わずドクンと心臓を跳ねさせた。
怯え濡れた瞳もだったが、綺麗で可愛い……そう素直に思った彼女は何とか落ち着かせようと言葉を発する。
「た、助けに来ました」
その一言は恐らく少女の不安を少しでも拭い取る事が出来たのだろう、今だ濡れる瞳のまま少女はメルに微笑む。
「ありがとう、小さな冒険者さん」
涙声でそう告げられたメルは不謹慎だとは思いつつも心を躍らせた。
それもそのはずだ……何故なら――。
「ここから出ましょう! 皆を外に連れて行きますよ!!」
彼女が成りたかったのは母達の様に誰かを救う冒険者。
たった一言でメルの心は満たされるようで声を弾ませ少女にそう告げた。
その時――。
「ど、どうしたんですか?」
メルの目の前にいる少女の顔は微笑みから怯えへと変わり、メルは疑問を浮かべた……。
魔法は解いていない……あの様子ではもがこうとも逃げる事は出来ないのは確かだ。
だからこそ彼女はそんなはずはないと思いつつもゆっくりと振り返る……。
しかし、そこにはあの男ではなく別の男だ。
「だ、誰?」
……その男はメルよりも遥かに大きかった。
メルなんか軽くへし折れそうな逞しい腕をぶんぶんと回しそれは近づいてくる。
「オイタが過ぎたなぁお嬢ちゃん?」
彼は魔族や森族、勿論天族とも違う肌の色をした大男。
「オ……鬼族? なんで?」
メルは呆然とした、この街に住む鬼族は近くの森に住んでいた者達だ。
普通は人間達と慣れ合わない彼らが鬼族と呼ばれるようになり人の街に住むようになったのはほんの五年前、メルの母であるユーリとその仲間で元鬼族のドゥルガが居たからだ。
彼の出身地も近くの森、そこから移って来た彼らは正義感が強く曲がったことが嫌いだ……犯罪者に手を貸すことは無い……はずだ。
だが、目の前に居るのは確かに鬼族……。
しかし、メルはすぐにこの地方の者じゃないと考えた。
「悪いことは言わん、旦那にかけた魔法を解けや」
その理由は二つあり、一つは彼の肌の色……彼は見た事も無い真っ赤な皮膚を持っていた。
そして二つ目は変な言葉遣いだ。
メルが聞いた事が無い訛りでしゃべる鬼族には興味がわいた。
だが、そんな事よりも彼女はすぐに――。
「――――ッ!!」
――剣を構え、赤鬼族に切先を向ける。
ここで引いたらまたあの部屋へ逆戻り、しかも抵抗出来ないよう口も塞がれ腕は拘束されるのは分かっていた。
なにより――。
「助けてって言う人が居るのにほっとけないよ!」
「言葉が理解出来んガキやなぁ……」
「お姉さんは下がっててください!!」
メルは少女へとそう告げると床を蹴り大男へと向かう――。
対する大男は巨大な拳をメルへと向け振り払う――が、彼女はそれを子供とは思えぬ身のこなしで避け、その場から離れた。
「ほー、なかなかすばしっこい、が」
元々、鬼族は俊敏な方ではない、だから大丈夫――メルはそう思っていた。
だが、彼女は自身が英雄と呼ばれた両親の娘であり、弟子である事も災いとなっていたのだろう……。
「え?」
赤鬼は避けたはずのメルの目の前にいつの間にか近づいていて、その拳を先ほどとはまるで違う速さで放った。
「残念やったな?」
魔法では間に合わない! そう感じた彼女は咄嗟に身を低くし、すんでの所で拳を躱す――!
そして今度は赤鬼の方へと迫り――赤鬼が驚いている内に剣を掲げ――。
「やあぁぁぁぁぁぁ!!」
目の前の赤鬼に向けて振り下ろす――が――。
「甘いなお嬢ちゃん……」
「……え?」
剣はいとも簡単に片腕で止められたかと思うと、メルはその手に掴んだ剣ごと宙に浮かされてしまった……。
「剣に迷いがある、無意識だったんやろうが人を斬るのを恐れたんやな? その年じゃ仕方がないじゃ済まないんやぞ? まぁ判断力やそしてそれを実行する決断力があるのは間違いない、が……まだまだガキやな」
赤鬼はそう言うと剣を握っている手に力を加えていく……すると簡単に剣は砕け、メルは地面へと落ちた。
「きゃぁ!?」
尻餅をついてしまったメルは慌てて態勢を整えようと顔をあげた。
しかし、そこで気が付いたのだ……。
赤鬼はメルよりずっと大きく強い……彼に見下ろされるだけで力の差を見せつけられているように感じ……。
「ぁ? ……ぁあ、ぁぁああ」
敗北と言う言葉にメルは恐怖を感じた。
先ほどと違い身体は全く言うことは聞かず、声は震え言葉になっていない言葉を放つだけだ。
にやりと笑う赤い鬼族は先ほど剣を握りつぶしたと言うのに痛みなど感じていないのか、手の平を見ることすらない。
メルは圧倒的な力の差に対抗すべく頭を働かせるが……何も思いつかなかった。
いや、正しくは思いついても……どんな手を使ってもこの立場が変わらないのではないか? と思ってしまい行動に移せなくなってしまったのだ。
「は、早くその子娘の四肢を潰せ!! ゼッキ!! 今すぐそのガキに女だと言うことを教え込んでやる!!」
「…………ひっ!?」
恐怖の所為か魔法が解けてしまっていたのだろう、水の檻から解き放たれた男は恐らくは目の前の赤鬼の名を呼び、叫ぶ――。
「あー、それはできんなぁ」
だが……。
「……え?」
「で、出来んだと!?」
部屋に居る者の耳に届いたのは予想外の言葉だった……。
「いやな、このお嬢ちゃん痛めるつける理由なんてもうないんや……殺されちゃーまずい思うて戦ったけどな、旦那も解放されたしな。むしろ、暴れ回ってくれたおかげでこの部屋見つけられたんやで?」
彼はメルへと歯をむき出しにして笑うと一変して表情を恐ろしいモノへと変え、男へと振り返る。
「それに、今の言葉もう逃げられんでぇ?」
「な、なんだと?」
「いやな? 子供集めてるんは親の虐待から助けるためやーって言い張ってたやろ? いくら冒険者っても証拠無しに取り締まる訳にはいかんやろ? ここでは別にかわいそうな子を助ける為やったら責められんしな?」
そう言うとメルの方に向いていた赤鬼ゼッキはくるりと身を翻し……。
「ガキ泣かせる事したらあかんで? 悪徳商人……ワシはそういうのがな、大っ嫌いなんじゃ……この拳、お嬢ちゃんには避けられてしもうたが、当たるとぐちゃりといくでぇ?」
「ひ、ひぃ!?」
「…………っ!?」
もうすでにメルの方へと向いていない赤鬼からは殺気が放たれ……メルは赤鬼の背中から放たれるそれに恐怖し声を失った。
そう、自分はあえて利用されたに過ぎない。
初めからゼッキと言うこの赤い鬼族にメルは相手にされていなかったのだ……。
「お、お前だってガキに手を……」
「そんなん、お嬢ちゃんがどんぐらい動けるか一回見れば十分や……傷つけんで戦うぐらいは出来るに決まっとるやろ?」
彼の言葉はまさにその通りだった。
メルは苦戦した、何度もひやりとした……。
だが、怪我は一切負っていない。
「う、嘘……」
メルは驚いた、彼は最初から彼女に危害を加える気などなかったことが本当だと気が付いたからだ。
「ま、思ったより動けて驚きはさせてもらったんやけどな」
「最初から……貴様……」
それは商人にも効いたんだろう、顔を歪める商人だったが……。
「お前にゃ……本気で行くで?」
「……ひっ!?」
赤鬼がただ拳を握り、脅しただけで男は意気消沈してしまったらしく、その場でガタガタと震えだした。
それを見た赤鬼ゼッキは腰から縄を取り出すとそれを男へと巻きつけていく……。
「良し、もう悪さ出来へんな……生け捕りやからな、これでええ」
彼は拘束を終えると再びメルの方へと振り向き……。
「ほな、お嬢ちゃん達は外に行こか? 勿論他の子供も連れてな」
笑みを浮かべ先ほどの恐怖が少し薄れるような優しい声を発した。




