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45話 イアーナ

 メル達が次に目指したのはイアーナと言う街だ。

 新たな街には何があるのだろうか?

 そして、追手はまた刺客を送り付けて来るのだろうか? 不安を抱えつつもメル達は街を目指して進んだ。

 カロンを出て途中休憩をはさみながら、メル達はイアーナという街へ向かっていた。

 そのイアーナもなんとか彼女達の瞳に映る場所まで来ており、後もう少し歩くだけで街には着くだろう……

 そんな中、メルはふとシュレムの方へと目を向ける。

 そこには先ほど治療を受けた傷が痛むのか、若干涙目になっている姉の姿があり……


「シュレム……大丈夫?」


 心配になったメルは彼女にそう囁いた。

 すると、メルの囁きが聞こえたのかライノが振り返り……


「大丈夫よ? ちょっと染みる薬を使っただけだから」

「ちょっと、じゃねぇだろ!?」


 うん、さっき治療されてたのを見たけど……シュレムが叫んでたし相当痛かったはずだよ……

 もしかしたら、私が使った火傷薬なんかより、ずっと染みるのかもしれない。


 メルはそう思うと思わず苦笑いと共に尻尾を丸める。

 そんなメルの姿を見てかライノはふふっと笑うとシュレムの方へと向き指をさした。


「あら、反省には丁度良いわ薬もタダじゃないし、限りがあるの……薬師が付いているからと言って怪我ばっかりされたら困るわ」

「……くっ」


 それを言われシュレムは脇腹を押さえつつがっくり項垂れた……

 でも、カロンに着くまでの様な無謀な特攻は減った、とはいえ身体が勝手に動いてしまうらしく特攻する時は特攻していた事もあり……

 何度も治療をされる内に染みる薬へと変えられたようだ。


「言っても聞かないなら、身体に教え込むしかないわ……嫌なら特攻を辞めなさい?」

「く、くっそ……この男女めぇ……」

「おい、怪我治してもらっておいてその言い方は……」


 それにはメルも同意見だったのだろう頷いたのだが……


「あら……誰が男女ですって?」


 リアスの言葉に割り込む様にライノはそう言うとメルとシュレムへと迫ってくる。


「「ひっ!?」」


 その顔は笑顔だったが、とても怖く……シュレムは黙り込み、メルとエスイルは同時に小さな悲鳴を上げた。


「アタシは男でオカマだ! それに男女じゃ男みたいな女って意味でお前の事だろうが!!」


 彼はシュレムへと詰め寄り、その額に人差し指を突き立てる。

 当然その近くに居るメル達はその異様な空気に怯える事になる訳で……


「……オ、オレは! 女じゃなくて漢――」

「ぁあああ?」


 シュレムの反論に怒声を上げるライノ、その様子に怯えるメルとエスイルだったが――


「いえなんでもありません、すみません……でした」


 流石のシュレムも今のには堪えたのか素直に謝ると――


「分れば良いのよ」


 っとライノはいつも通りに戻る。

 それを見たメル、いやリアスとエスイルまでもが、彼の事を女性とか女性っぽいとか言わない方が良いかもしれない…………と心に刻むのだった。


「あら、メルちゃんもエスイルちゃんも怖がらなくて良いわよ?」

「「…………」」

「ふふふ、ごめんね? 相当怖がらせちゃったみたいね……あたしは女ではなくてオカマだからそこははっきりさせないと気にくわない性分なの」


 笑みを浮かべるライノにメルとエスイルは無言で首を何度も縦に振る。

 そんな彼女達に気を使ったのか、リアスは咳ばらいをすると街の方へと指を向け――


「と、とにかくイアーナまではもう少しだ。街に付いたら酒場と情報屋を探そう」

「う、うん……って情報屋?」


 酒場は寝泊まりする場所でもある事から探すのは分かるけど……何故情報屋なのかな?

 メルは気になり首を傾げると――


「ああ、情報屋だ……相手の情報が得られたら得ておきたい……それに俺達の情報をかく乱するのにも使える」

「でも、情報屋だと私達がお得意じゃないなら……高いお金積まれた時点で情報を売っちゃうんじゃ?」


 情報屋であるクロネコが気をつけろとそう教えてくれたことをメルは思い出しつつ言葉にする。

 お金次第では秘密にしてくれと言われても売る、それが情報屋であり、決して気を許すなと釘を刺された覚えもあった……


「……絶対だとは言えないけど……大丈夫かもしれないわ」


 だというのにライノは胸の前に片手を持ってきて考え込むとそう呟いた。


「なんでだよ、メルの言ってる通り金次第ってのが情報屋だぜ?」

「僕もそう聞いたよ?」

「普通は、ね……ただ、あの街は商人の街……一時期あの街で薬を売っていたし、行きつけだった情報屋も居るの……」


 メル自身、自分が思うのはどうかとは思ったが安易に信じすぎるのは危険すぎると考えるも……


「全く知らない情報屋よりはマシのはずよ」

「……そうだな、まずはその人に会いに行こう」


 リアスとライノはその情報屋へと会いに行くつもりらしく、話を進める。


「リアス……情報屋は安易に信じない方が……」

「分ってる、メルの言っている事は正しい、だけどさライノさんが言ってる通り全く知らない情報屋よりもマシって言うのも確かだ……だから会ってから決めよう」


 だが、リアスにそう言われメルは確かに全く知らない情報屋よりもマシであり、見てから判断するのならば問題は無いはずだと考え直すと――


「分かった、ライノさん案内お願いします」


 ライノへとそう声を掛けた。


「ええ、分かったわ……」






 イアーナへと着いたメル達はその足でライノの言う情報屋へと向かう。

 辺りはもう暗いが、その人はまだ仕事をしているらしい……


「クロネコさんなら、家に行ったら怒る時間だよ……」

「だな……」


 メルの言葉に苦笑しつつ答えるシュレム。

 リラーグ王御用達の情報屋であるクロネコは時間によっては絶対に仕事を請け負ってくれないのだ。

 その事を思い出し、二人は懐かしいと感じていた。


「こっちよ?」


 ライノについて行くと、賑やかな道へと出る。

 周りには屋台が並び、美味しそうな匂いだけじゃなく何に使うのか分からない道具や綺麗な髪飾りなどが売られていて、その通りの店を見ているだけでも楽しそうだ。


「賑やかな場所……本当にこんな所に情報屋が?」

「この街は何処に行ったって大体にぎやかだよ、時間帯にはよるけどな」


 そうなんだ……と呟いたメルは辺りを見回す。

 するとメルの実家である酒場の冒険者バルドが飲んでいる酒を売っている屋台が目に入る。

 そこには何人か並んでいて、手には先ほど見かけた食べ物を持っている人が何人もいた……

 別の場所では女の子が店のアクセサリーを指差して隣の男性に何かを言っている。

 リラーグも賑やかだが、夜は殆どの人寝てるのが普通だ。それに比べてイアーナでは夜の方が賑やかなそうだなっとメルは物珍しく感じた……


「メル、そんなキョロキョロしてると――」

「――ご、ごめ――きゃ!?」


 メルは街を見るのに夢中になっているとリアスに呼ばれ振り返った所を誰かにぶつかったらしく、倒れかけ――


「危ないっ!」


 だが、寸前で誰かに支えられ転ばずに済んだ事にエスイルをシュレムに頼んでおいて良かったと思っていると……


「だから、あまりキョロキョロしない方が良いって言ったんだよ」

「ふぇ!?」


 近くから聞こえた声に慌てて顔を上げると其処にはリアスが居て……どうやらメルは彼に助けてもらった様だ……


「え、えっと、あの……あぅ……」

「はぁ、気をつけろよ?」


 慌てて体制を戻したメルに呆れているのか、少し笑った顔でリアスはそう言うと、支えてくれていた力を抜いて行くのが分かった。


「は、はぃ……」


 しっかりと自分の足で立ったメルだったが恥ずかしくなってしまい――


「メ、メル?」


 その恥ずかしさと同時にどうしたら良いのか分からなくなって顔を手で覆っているのだが、尻尾だけは嬉しそうに動いてしまう。

 幸い、尻尾の方は気にならなかったのかリアスはメルに心配そうな声を掛けてくれ――


「な、なんでもない、です……」


 メルがそう答えるとほぼ同時に……


「そこの兄ちゃん!」


 と言う声が聞こえた。

 屋台の呼び込みだろうか? 活気があるなぁ……と思いつつビックリしたお蔭で少し気が紛れたと密かに感謝した彼女は声が聞こえたであろう屋台へと目を向けると……

 そこの店主であろう魔族(ヒューマ)青年はこっちを見ている。

 しかし、彼が声を掛けたお兄さんとは誰の事だろうとメルが辺りを見回してみても自分とリアス以外は立ち止まっている人はおらず……


「そこの兄ちゃん、ほらその……夕日髪の彼女さん連れたそこのアンタだ! アンタだよ!」

「夕日髪……? って私……?」


 夕日色の髪と言えばこの辺りでは珍しい方だ。

 全く見かけないという訳ではないだろうが、周りを見てもメル位しかおらず彼女は自身を指差すと……


「……ってことは俺?」


 リアスも同じように自身を指差した。


「そうだよ、他に誰が居るんだ? どうだい! 彼女さんに似合うと思うんだけど」


 そう言って店主の青年が指を指すのは小さな髪飾りだ……それには小さいながらも青空の様な色の石がはめ込まれていた。


「か、彼女……?」


 だったが予想外の言葉にメルは目を丸くし自分を再び指差すと、青年はにこやかな笑顔で頷く。


「ぇ……ぁ……えっと……?」


 その店主は何を勘違いしているのか? リアスは確かに優しく良い人ではあるとは思っていたが、当然メルと恋人という訳ではなく――


「……すまない店主さんこの子は……」

「髪が綺麗だしあんま派手だったり、大きすぎると邪魔になるからな、こんぐらいが良いと思うんだけどどうだい? 初々しいお二人さんに特別価格! 銀貨五枚の所マケにマケて二枚、勿論そこらじゃ売ってないぜ、なんて言ったってオイラの手製だ! ああ、残念ながら石は小さいけど、まぁさっきも言った通りその髪の邪魔になっちゃうからな!」


 しかし、店主は二人の話を聞く前に商品を進め、手に取るとメルへと差し出す。


「これでも人気はあるんだ、どうだ彼女さん?」


 見せられた物は確かに宝石こそ小さいが装飾も凝っている上に綺麗に作られていて……メルは思わず。


「可愛い……人気っていうのも分かるかも……」


 と呟いた、これならば銀貨二枚と言うのは破格と言っても良い位だったが、はっと思い出したかのようにメルは顔を上げ――


「あの、私はリアスの――」

「そうかい、彼氏さんはリアスって言うのか! ほら、彼女さんも気に入ったみたいだぞ? ここで買わないと男が廃るんじゃないか?」


 訂正をしようとするがやはり店主は話を聞いてくれることは無く――


「はぁ……」


 リアスもため息を付き……その様子に少し胸が痛むような気がしたメルははっきりと告げようと息を吸い込み――


「だから、私は――」

「分かった銀貨二枚だな?」


 口にした時、隣の少年から聞こえたのはどこか呆れたような声だった。


「おっ! 流石ぁ!!」


 メルの目の前でリアスは懐から銀貨を取り出すと店主へと手渡し、代わりに髪飾りを受け取る……それをメルへと差し出してきて……


「え、あの?」

「このままじゃ、買うまで騒がれそうだ……」


 そう耳元で囁かれ、髪飾りを彼女の手の中へと渡した……


「良かったなぁ! 彼女さん!! 毎度ありぃ!!」


 違います! メルがそう言おうとして青年の方へと向き直ると彼は屈託のない笑みを浮かべていて親指だけを立てている。

 その笑顔を見たメルは反論を言う気も薄れ……


「おーい! メル! 何処に行ったぁぁああ!!」


 姉の叫び声が聞こえてきた事でリアスとメルは苦笑いをしながら……


「逸れちゃったな……行くぞ」

「うん!」

「お幸せにぃ~」


 青年の悪気が一切無さそうな言葉を背にして……その場から離れた。

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