43話 薬草を持ちカロンへ
薬草を手に入れ、大きな虫の魔物を撃退したメル。
彼女は精霊を連れ何とか洞窟を抜けると協力のお礼に精霊達に景色を見せつつカロンへと急ぐ……
手に入れた薬草でリアスとシュレムの二人は救えるのだろうか?
三人の精霊を連れたままカロンへと辿り着いたメルは酒場へと急ぐ……
酒場の入口を乱暴に開けると店主は流石に嫌な顔をしたが、何も言わず目を向けるだけで――メルは彼に頭を下げつつ、部屋へと急ぐ。
「ライノさん!!」
メルは自身が泊まる部屋の扉をやはり乱暴に開けると其処に居るだろう薬師の名を呼んだ。
「メルお姉ちゃん! お帰りなさい!」
すると、こちらを向いた内の一人、弟でもあるエスイルは笑顔を見せ駆け寄ってきた。
そんな弟にメルは――
「ただいま、エスイル」
そう言って頭を撫でてるとエスイルは目を細めている。
二人とも無事だった事にホッとしつつもメルは今度こそライノへと視線を向けると、彼もまた笑顔を浮かべ……
「メルちゃん、良かった無事だったのね? 薬草は?」
「はい、ここにあります!」
メルが取ってきた薬草を手渡すと彼はうんうんと頷き――
「間違いなくカノンドね、すぐに取り掛かるわ。その前にメルちゃん……その手は?」
薬草を渡した時に気が付いたんだろう包帯に巻かれた手を指差すライノに彼女は答える。
「それが洞窟に薬草があったんですけど、大きなムカデみたいな虫が居まして……その毒に……で、でもすぐに洗い流しました」
「……薬は? 渡した物があるでしょ、それちゃんと塗っておきなさい効くわよ」
その言葉を聞きメルはやはりあの薬を使っておいたのは正解だったみたいだっと安堵を得た。
「その薬ならすぐに使いました。火傷の傷みたいだったので」
「そう、なら安心ね。お疲れ様大変だったでしょう? 自分と同じぐらいの虫と戦うのは」
「え? わ、私と同じぐらい?」
確かに大きい虫ではあったが、小さいのでもメルよりも大きかったはずだ。
ライノは別の魔物の事を言っているのだろうか? そう思うと薬ももしかしたら効かないのではないか? そう考えメルは顔を青くする。
「どうしたの? 大きなムカデってフランゼントでしょ?」
「フ、フランゼント!? た、確かに大きなムカデでしたけど、あれとは違う魔物です。私よりずっと、かなり大きかったですよ?」
「おかしいわね……人間の子供と同じぐらいのはずよ? 二人に渡した毒はあの虫から採れるの、他に似たような毒を持ってる魔物や動物は確認されてないし、間違いはないはずだけど……」
「そ、そうなんですか……」
メルにはライノが嘘を言っている様には見えず、ならば突然変異やただ単純にあそこまで成長するのが稀だと考えた。
それならば、大きなムカデの魔物と言う部分は同じではあり、不自然ではないからだ。
「まぁ、そんな事より今は解毒剤ね、此処からはアタシに任せてメルちゃんはしっかり休みなさい」
「は、はい! じゃぁお薬お願いします」
そして、今はそれよりも二人だ。
その問題も後は薬だけで解決する……そう安心したせいか、メルは眠気に襲われた。
先日しっかりと休んだはずではあったが、今日も魔法を酷使したからだろうか……それに気が付くと彼女はふらふらとし始め――
「メルお姉ちゃん?」
弟の心配する声が聞こえ、メルは再び彼の頭を撫でると微笑み――
「大丈夫、ちょっと疲れたから少しだけ……眠るね?」
「うん、おやすみなさい、お姉ちゃん」
「ゆーりまま? ゆーりままぁ!!」
夢だ……
小さい頃の夢……リラーグに来てすぐユーリママが倒れて戻ってきた時の事。
ナタリアは寝ているだけだと教えてくれたけど、怖くて辛くて……何度も名を呼んだ。
だけど、いつも私を撫でてくれた手を取ると……
「ひっ!?」
何かが見え私は慌てて手を引っ込めた。
左腕に赤い血の様なものがべったりついていたからだ……でも、もし怪我なら早く言わないといけない! そう思った私は恐る恐ると左腕を確かめる。
だけど、確かに見えた赤い血は無く……ただ不安と怖いと言う事だけが残り、ユーリママの顔を覗き……
「ゆーり、ままぁ……」
それからすぐにユーリママは苦痛をその顔に浮かべ目を覚ました……
暗闇に堕ち、また視界が広がる……今度は私が皆を待っていた時だ。
船に乗り込もうとした私は見つかってしまいシアさんに預けられた。
フィーナママまでタリムへと向かってしまうのが怖かった。
もしかしたら戻ってこないんじゃないか? そう、私は不安だった……
でも船が見えた時、私は嬉しくて嬉しくて誰よりも早く駆けつけた。
なのに、ユーリママのスカートにはべっとりとした血と無数の穴が開いていて……普通だったら立っていられないのは子供でも分かる位だった。
泣きわめく私を必死になだめようとするユーリママの手がひどく暖かくて……生きている事を実感できた私は別の理由で更に泣いたのは良く覚えている。
なんで、こんな夢を見るんだろう……? ふと疑問に思った時、頭になにかが触れる感触がした……
「……ん」
ゆっくりと瞼を上げ、何が触れたのか確かめるために寝ぼけた瞳を動かす。
そこには――
「迷惑かけちまったな、メル……」
私の頭を撫でるシュレムと……
「ごめんメル、助かったよ……」
何処か申し訳なさそうに謝るリアスの姿が見えた。
二人の言葉に何かを答えようとしたけど、更に眠気に襲われた私は――
「よか…………った……」
それだけ呟いて再び眠気に負けた――
「んぅ……」
瞼の奥に明るみを感じ、メルは瞼を持ち上げた。
光が眩しく感じ……もうずいぶんと日が高くなっているみたいだ。
だが、メルが覚えている限り、戻ってきた時にはすでに日が高かった覚えがあり……彼女は自身がずっと寝ていた事に気が付くと――
「リアス!! シュレム!!」
二人の名を呼び飛び起きる。
すると、当然――
「ぁ……ぅ……?」
急に動いたのが悪かったのか頭はぐらりとし、倒れ掛かった所を誰かに支えられた。
「メ、メルちゃん!? 駄目よ急に動いちゃ」
「ラ、ライノさん! 二人は――!?」
私は一体どの位眠っていたんだろう? いや、そんな事より二人は!? とメルは慌てて部屋の中を見渡してみたが……居るのはライノだけだ。
何故二人が居ないのか? そしてエスイルまで何処に行ったのか? 彼女が不安に思っていると――
「安心しなさい、三人で買い出しに行かせてるわ、それももうすぐ帰ってくるはずよ?」
ライノはそう答え……
「か、買い出し? 治ったんですか?」
メルがそう訊き返すとライノは頷き……すぐに首を傾げる。
「ええそうよ、でも昨夜に良かったって呟いたのに覚えてなかったの?」
「え……」
その事は覚えていた。
だが、夢の中だと思っていた事だ……というのにライノは聞いた覚えがあるのだろう、首を傾げたままで――
メルはそれに気が付くと――大きな瞳から涙をこぼした。
「よ、良かった……良かったぁ……」
当然だ、起きたら誰も居ないのだから……言葉を交わしたのを夢だと思っていたのだから……
不安から解き放たれた彼女はライノから離れベッドへと腰かけると服の袖で涙を拭い……丁度その時、部屋の扉は開き――
「メル、良かった。起きたのか」
「う、うん……」
部屋の中へ入って来たリアスと目が合いそう言われると、メルの心臓は何故かバクバクと鳴り始めた。
何故そんな事になるのかと疑問を浮かべる彼女だったが、そんな疑問もすぐに――
「メルが起きたのか!? おい、リアス退け! 其処退け!!」
姉の声でかき消された。
「シュ、シュレムお姉ちゃん!?」
「うわぁあ!?」
どうやらシュレムもすっかり良くなったようで、リアスを押しのけるとメルの目の前まで駆け寄って来て。
メルは彼女に申し訳なさそうな顔を浮かべた。
「メル! 良かっ――」
「シュレム、ごめんなさい!!」
「は――――?」
頭を下げ謝ると聞こえたのは間の抜けた一文字。
誰だって突然謝られたらそうなるだろう……だが、メルには謝らなければと思っていた事がある。
「その、フォルが居たら、シュレムもフォルの話なら聞いてくれたのにって……そう思って……ごめんなさい」
「……その話ならエスイルから聞いたよ……オレの方こそごめん、丸一日寝込むぐらい頑張ってくれたんだな助かったよメル」
メルの頭にはシュレムの手が乗せられ、いつもの姉に戻ったのだと実感した……
リアスとも恐らく話し合ったのだろう……喧嘩はしている様子は無く、きっとこれからも一緒に行けるのだろうと思った彼女は――
「でもシュレム、今度から特攻は駄目だよ?」
――姉にそう告げると、メルの目の前の女性はまるで石像の様に固まると……
「アア、ウン……アレハモウクセミタイナモノダカラナ」
メルが、いやメル以外も疑問を浮かべる程、不自由な言葉遣いになっていた。
「話を聞いたら気が付いたら身体が勝手に動いているみたいだな、メルの言うフォルって奴が居ても多分同じだったんじゃないか?」
「シュレム……」
今度からまず、一回深呼吸でもして! メルがそう言葉をつけ足そうとすると、何かを感じ取ったのかシュレムはメルから静かに視線をずらしていく……
「ふふ、ふふふ……」
そんなやり取りを見ていたからだろう、ライノは突然笑い声をあげ……
「……どうやら大変な旅みたいね?」
笑みを浮かべた彼にそう言葉を掛けられたメルは耳と尻尾を垂らすと……
「笑いごとじゃないですよ……」
っと呟き、それに続くようにリアスもため息交じりに――
「全くだな」
と一言を発する。
「いや、無意識は仕方ないだろ!?」
それに対し当然、反論をしたシュレムだったが……
「シュレムお姉ちゃん……意識して止めるって事はしないんだ……」
エスイルにそう言われると、今度は大げさに落ち込んだようなしぐさを見せ……
「それは漢じゃないんだよ! 気がついた時には守ってるそれが漢なんだ」
恐らくは、彼女の師であるケルムの言葉なのだろうそれを口にし……メルはそんな彼女を見て、余計な事は教えない方が良かったのにっと考えていると――
「……どうやら、怪我が絶え無さそうな一行ね? ならアタシもお手伝いしようかしら?」
「え?」
ライノの申し出で彼女は現実へと引き戻される。
「旅を続けるなら、薬が必要よ? 今回みたいなこともあるし、エルフの使いの様な魔法は無いんだから」
エルフの使い……メルの母であるユーリの通り名の一つだ……
その魔法と言うのも間違いなく「ヒール」の事だろうとメルは察した。
「なら、ここで出会ったのも何かの縁だし手伝うわよ? 何より大事な人の為に頑張ったメルちゃんには好感が持てるからね」
改めて褒められると恥ずかしく感じたメルだが、ライノの申し出は素直に嬉しかった。
腕の良い薬師だって事は証明済みであり、信頼も出来るだろう……だが――
「その、怪我は大丈夫なんですか?」
「そんなすぐには治らないわ、でも村医者に診てもらった所、激しく動いたり羽を動かしたりしなければ大丈夫って言われたわよ?」
見た目ほど傷は深くなかったのだろうか?
メルが今普通に動いている所を見ても、問題はなさそうであり……そうするとメルとしてはやはりついて来てほしい所ではある。
とは言っても、メルは自分一人では決める訳にはいかないと、リアスの方へと目を向け尋ねた。
「リアス……ライノさんは腕の良い薬師だよ、ついて来てもらった方が良いと思う……」
「…………確かにそうかもな、シュレムは生傷が絶えないだろうし、今回の事もある……薬の知識がある人がついて来てくれるのは心強い」
メルは答えを聞くとすぐにシュレムの方へ顔を向けると彼女も頷いている。
最後にエスイルへと目を向けた所、弟は笑顔で頷いていて……メルは再びライノへと向き直り――
「……ライノさんよろしくお願いします!」
「ええ、こちらこそよろしくね」
メルの言葉に薬師であるライノはそう答えると……
「さてと、じゃ買って来てもらった材料で疲労回復約を作るわね、すっっっっっっごく苦いけど、エスイルちゃん以外はちゃんと飲むのよ?」
「「「……へ?」」」
その後すぐ出来上がった薬を飲まされたメルだったが……ライノの言葉は本当で、恐ろしいほどに苦い薬はいつまでも舌に味が残っていた……
「ぅぅ……お肉、なのに……美味しくないよ……」
その後の食事に出てきたメルの好物……肉の味すら薄れる程に……




