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私の夢は冒険者だったのにっ!!  作者: ウニア・キサラギ
2章 旅立ちは唐突に
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38話 黒幕の紳士

 見事二人組の冒険者を押さえたメル。

 しかし、リアスとシュレムは一向に起きる様子が無く不安を募らせる。

 メルはその場から二人を移動させようとするのだが――

 その部屋にあったもう一つの扉が開く事に気が付き警戒をする。

 そこから姿を現したのは――裏路地で出会った紳士……

 彼は二人へ盛られた毒の解毒剤とと引き換えに首飾りを渡すようにメルへと伝えるのだが、メルはそれが解毒剤ではないと悟り、剣を構えたのだった――

 剣を構えたメルは……いや、メルと男は睨み合う……

 双方ともに隙は無く、動こうとしても動けないのだ。

 冒険者より依頼主の方が強いと言うのはおかしいと思われるが、そうでもなく良くある話だ。

 荷物持ちを任せたり、いざと言う時の手段として冒険者を雇い自分が自由に動けた方が良いと考える者も居る。

 メルの前に居る男もそういった者なのだろう……


「ふむ、やはり仕掛けては来ないか……」


 メルが構えを解かない中、男はワザとらしく構えを解き――


「メルお姉ちゃん! 今だ!!」

「………………」


 一見隙だらけに見えたのだろうエスイルは叫ぶが――メルには何処から打ち込んでも切り返される未来しか想像出来なかった。

 普通に戦っても駄目だ……かと言って闇雲に剣を振るうのは意味が無い。


「時間は多くはないんじゃないかな?」


 寝転がっている二人とは明らかに違う。

 怒り狂い我を忘れたあの男とも違う……その双眸はしっかりとメルを捉えたままで、彼女はまるで追い込まれた様な気分になる、が……メルにはまだ切り札ともいえる物がある。


「我が往く道を照らせ!!」


 そう……隙が無いなら作れば良い!


「ルクス!!」


 戦いの基本は裏をかく事……それなら何処をどう見ても森族(フォーレ)にしか見えない彼女が魔法を使うのは裏をかけるはずだ。

 メルは魔法の名を呼ぶのと同時に自身の目を庇う、そうすると視覚を共有しているシルフも当然見えなくなってしまうけど、問題はない――


「ふむ……初手としては良かったかもしれなかったな」


 これで隙は出来た! そう思うメルの元には……声が迫ってくるように聞こえ、ゆっくりと目を開けた時には……男性は詠唱を聞いて目を庇っていたのか、刃はメルの眼前に迫っていた……


「――くッ!」


 頭を動かし、ギリギリ避けることが出来……彼女はその場から離れる。

 何とか事なきを得た彼女は呆然としつつ何故? と言う疑問を頭に浮かべる。

 それもそのはず……普通、魔法は魔族(ヒューマ)だけの特権であり、一見森族(フォーレ)である彼女が使えるはずが無いと思うのが普通……


「疑問かい、では種を明かそう……君はそこの二人と出会った時に剣を振ったね?」

「……え?」

「私はあの場に居た、全部見えたわけではないのだが、精霊魔法は詠唱が長く隙だらけだ。しかし、森族(フォーレ)にとって切り札でもあるそれを使わずに二人を同時に抑えたのは驚いたよ……だからこそ君がもしかしたら魔法を使ったのではないかと疑問に思ってね」


 その言葉に彼女はぞっとした。

 たった一回、しかも冒険者が多数いる酒場では日常とも取れる小競り合い……それだけで目の前の男は魔法を使える()()しれないと推測を立てた事に……普通なら考えないであろうその事に行きついた事に……


「そこの二人も聞いたら、魔法を使ったと教えてくれてたよ。その時はまさかとは思ったが娼婦街、あれも直接見たわけじゃないが、あのルクスの光は君の仕業だったんだろう?」

「そ、そんな……」


 だが、彼女にとっては予想外の事だとしても、彼らが繋がっていたのだとしたら当然の事だ。

 情報さえあれば対策が立てられるかもしれないのだから……目を付けている者の情報は集めるだろう。


「さて……お遊びはここまでだよ……」


 故にメルが魔法が使える事が知られていた。

 魔法使いの弱点は詠唱だ……それを封じられてしまえば魔法は使えない。

 つまりこの先、メルは十分な距離が無い限り魔法を唱えるのは難しく……この男に対しそれは叶わないだろう。

 現にルクスを唱えた後、目を庇い反撃までもしてきたのだ。

 詠唱をしないですむ封光石があれば別かもしれないが、あいにく持ち合わせは無かった。

 なら――アクアリムで戦うしかない。

 彼女はそう思い、剣をしっかりと握りしめ顔を上げる――


「まだ戦う気かい?」

「あ――――」


 アクアリムの水の刃で戦おうそう思ったメルの瞳には……エスイルの姿が見えた。

 そのまま放ったとしても避けられたりしたらエスイルは怪我では済まないのは目に見えており、もし仮に無事だったとしても建物はそうはいかないだろう……

 メルはアクアリムの力も使えない、使ったら駄目だと気づき――


「おや、今度は諦めたのか? 忙しいお嬢さんだ……」


 男は呆れたような声で彼女にそう告げて来る。

 恐らく顔に出ていたのだろう、リアスにも言われた事だとメルは考える、が――諦めるつもりはなかった。

 弟……姉……そしてリアスを助けないといけないのだ、彼女はそう決意し――


「皆をお願いします店主さん! 逃げてください!!」


 この場で唯一の味方と信じ店主に叫ぶような声で懇願する。


「二人抱えた上でガキ連れてけってか!? 無茶言うな!!」


 無茶なのは分かっていた、だが……他に手が思いつかない……相手との距離が近すぎ詠唱は出来ず、せめてもう一人誰かいてくれれば状況は違ったはずだが、あいにく二人共手の内だ。


「お姉ちゃんに手を出すな!」


 メルがそう思考する中、そんな声が聞こえると少し遅れてコンッっという音が部屋の中に鳴り、それが石が床に落ちた音だと言う事に気が付くのは時間が要らなかった。


「エスイル!?」


 そして、メルがその声の主も間違えるはずもなく、小さな弟はいつの間にか男の近くまで向かっており。


「これはこれは、勇ましい騎士様だ」

「――!? 駄目!! 逃げてエスイル!!」


 男の目が彼女からエスイルに向けられ、慌てて叫び剣を振るうも軽く避けられしまい、彼は真っ直ぐにエスイルへと向かって行く……

 彼女がいくら速いとはいえ、大人と子供……無情にもメルが追い付くことは無く――


「エスイル――!!」

「ひっ……」


 彼女がその場にたどり着いた時にはすでに服ごと身体を持ち上げられたエスイルはバタバタと宙に浮いた足を動かしていて……

 メルはそんな弟を見せつけられるようにされ――言葉を失った。


「丁度良い、取引の再開でもしましょう……この坊やを殺されたくなかったら首飾りを渡しなさい」

「……っ!!」


 先ほどの事もあったからだろう、素直に渡してもエスイルが助かる気がしなかった。

 だが、この場でメルが取る行動など一つしかなく……彼女は屈服し、鞄へと手を伸ばす……が――


「ぎゃぁぁああああ!!」

「――――エスイル!?」


 突然、聞こえた悲鳴に顔を跳ね上げると男はエスイルを手放し、叫んでいる。

 悲鳴を上げたのは彼で、エスイルは必死に走りメルの方へと向かって来ていた。

 たった数秒、目を瞑り首飾りを取り出そうとした間に……一体何が起こったのか?


「このっガキィィィィ!!」

「エスイルっ!!」


 男は走るエスイルへと手を伸ばし、それを見た彼女は慌てて魔法を唱える。


「我が意に従い意志を持て、マテリアルショット!!」


 何が起きたのかは分からない、だがエスイルが何かをして隙が出来たのは事実だ。

 今しかない! そう確信したメルは魔法をエスイルにかけ男から遠ざけると、すぐさま店主とシュレム達に当たらないかを確認をし剣を握り直すと男目掛け突進をし……アクアリムへと魔力を込める。

 アクアリムから放たれた水の刃は真っ直ぐに男へと向かって行き――彼を捉えた、が――


「嘘!?」


 男は未だ手に握っていた剣で水の刃を切り裂きメル達へと向かって来る。


 魔力が足りなかった? いや、十分に込めたはずだよ――


「何をしたぁぁぁああガキィィィィ!!」


 狙いはあくまでエスイルの様で彼は剣を構える。

 隙の無い構えの中やけに目立つのは片手はぶらんと垂れ下がり、赤く焼けただれている皮膚。

 メルの鼻を通るのは血の臭いに交じる変な臭いだ……エスイルが何かをしたのはあの手でまちがいないだろう……

 だが、手はない……このままでは弟が危ない……そう思う彼女の頭には――


「やぁぁぁああ!!」


 まだ、微かな希望が残っていた。

 それに賭けメルはエスイル目掛ける男の剣を弾くっ!! とは言え、相手は手練れだ。

 体勢を崩すことなく再び剣を構えようとした所を今度は体目掛けて渾身の蹴りを放つ――!!


「なっ!?」


 シュカとシア直伝の蹴りだ。

 今まで剣と魔法しか見せていなかったのが功を奏したのだろう、相手から剣を奪う事に成功し一瞬だが隙は出来た。

 ……彼女はその一瞬に祈るように賭け――


「撃ち放て水魔の弓矢!!」


 詠唱を唱え、右腕を彼へと向ける。すると――


「焔よ我が敵を――」


 男も詠唱を唱え始めた――が、メルの魔法の方が早く――


「ウォーターショット!!」


 魔法は生み出された。


「…………なんだこれは!?」


 彼の詠唱が止まったのも無理はない……メルが作り出したのは水弾(ウォーターショット)とは言えないただの水の塊。

 今魔法を唱えた彼女の母であるユーリが作り出す、攻撃魔法とはとても言えないそれを彼へと向かわせた。


「くっははははは、(ルクス)魔弾(マテリアルショット)しか使えないのか? それで良く――」


 失敗した魔法、そうとしか言えないそれを見て男は笑いを堪え切れず、腹を抱える。

 だが、メルは二人の師に褒められるほどの魔法の天才だ。

 教わった魔法は習得出来なかった闇属性の物以外は同年代の子と比べると大きな差があり、勿論それは――


「ワザとだよ……」


 彼女が口にした通りワザとそうした魔法だ。

 普通の水弾(ウォーターショット)は着弾して傷を負わせたら消える。

 恐らく、性質的にはアクアリムの水の刃も同じだったんだろう……それ故に剣に当たった時に消えてしまった。

 それもそのはず、それが目的であり、それだけの魔力しか込めないのが普通の魔法だ。

 しかし、これ(母の魔法)は違う――


「ワザと? そんな出来損ないの魔法で何が出来る!!」


 彼は剣を拾うと、出来損ないの水弾(ウォーターショット)へ刃を振るう……が――


「な、なに!?」


 水の球は形を揺らしただけで剣を通り抜け進んで行く……

 そう、これは攻撃魔法が苦手なユーリが得意な魔法、メルではそこまで長続きはしないが……それでも効果はあるはずだ。


「例え失敗でも使い方次第だよ」


 彼女は母より教わった事を思い出し、そう言葉にしたと同時に水球(ウォーターショット)は目標へと辿り着いた。


「――っ!? が、がぁぁああああ!?」


 そう、狙ったのは左手。

 余程痛かったのか、剣を右手から離した男は焼けただれている場所に纏わりついた水を振り払おうとあがく、が水を掴めるはずもない。

 痛みに悶えるばかりで、その隙を見逃すはずもないメルは――


「二人は返してもらうから!!」


 その言葉と共に放ったメルの脚は――見事に男の頭を捉えた。

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