表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私の夢は冒険者だったのにっ!!  作者: ウニア・キサラギ
1章 冒険者になりたいっ!
4/486

3話 小さな魔法使い

 メルが捕らえられた場所には年頃の同じぐらいの子供達が居た。

 そう……メルは信じたくはなかったが、どうやらリラーグで人攫いが居た様だ。

 その事を事実と受け止めた彼女は一人立ち上がり、なんとかしようと動き始めるのだが……。

 捕らえられたうちの一人が「子供には無理だ」と言い、メルは反発し外への道を探しに行くのだった。

 捕らえられていた部屋から暫く歩き続けると、目の前に恐らくは錬金術師が作ったであろう扉が現れた。

 彼女がそれが分かった理由はその扉が金剛石で出来ていたからだ。

 一瞬、魔法鉱石(アダマンタイト)で出来ている事を疑った彼女だがすぐにそれは絶対に無いと判断した。


「あの魔法はユーリママしか使えないし、作る時はナタリアも一緒だからありえないよね……」


 そう呟いた時、彼女はふと気が付いた……気が付かない内に左腕を押さえていたのだ。

 メルがその腕を覆う袖をめくり上げると其処にあるのはユーリの左腕にある本の精霊ソティルと同じもの、人々が太陽の聖紋と讃えるそれと全く同じ魔紋だ。

 いや、正しくはただの模様だ……メルが無理言ってナタリアに彫ってもらった偽物……そして、彼女の宝物の一つだった。

 知らない内に触れていたのは不安からなのは理解していた。


「でも、私がやらないと!」


 声は若干震えていて……それでも彼女は自分を奮い立たせると右手を扉へと向けた。

 世界一固い鉱石と聞いている金剛石だが完璧ではない。

 メルはそれを鍛冶師であるリーチェに聞いていた。

 金剛石の弱点、それは……衝撃と、熱。


「焔よ我が敵を焼き払え!」


 魔法の強さは目の前の金剛石を壊す位、形は矢のように……メルはそう頭で想像する……。


「フレイムボール!」


 魔法の名を発すると炎の矢は扉へと真っ直ぐに飛んでいった。


 ……熱と衝撃を一度に与える魔法である火球(フレイムボール)なら、簡単に壊れるはず……!


 そう考えていた。

 しかし、メルの目の前には傷はついているものの金剛石の扉が今だ残っていた。


「え? ど、どうして? 確か熱に弱いってリーチェさんが言っていた。色々加工しようとして窯に入れたら駄目になったって言ってたのに……」


 という事は熱さが足りない? そう考えた彼女は強い魔法を唱えようと思うが、屋内ではこれ以上強力な火球(フレイムボール)は危険だと判断し、辺りを見回すもののため息をついた。

 だが、すぐになにかを思いついたようにくるくると回りながら自身の身体を確かめていく。


「いい物があった!」


 彼女が手に取ったのはフードについていた金具だ。

 それは前についていたのが壊れてしまい、母達の知り合いの錬金術師に作り直してもらったものだった。

 その時にその錬金術師から言われていたのだ。


『もし、何かの時には魔法で飛ばすと良い、護衛道具になる様にしておいたよ』


 いま、まさにそれが活きる時だとメルは思い――それを手の平の上にのせ再び魔法を唱える。


「我が意に従い意思を持て!! マテリアルショットッ!」


 彼女は後ろへと飛びながら魔法を金具へと掛ける。

 扉に吸い込まれていくように飛んで行った金具は大きな音を立て金剛石の扉へと当たり……先ほどまでは其処にそびえ立っていた扉にはヒビが入り、簡単に砕けてしまった。


「…………本当に衝撃に弱いんだ……」


 それを武器として使えるぐらいまでにしてしまう母の魔法は一体なんなのだろうか? と考えていると……。


「だ、誰だ!!」


 扉の前にいたのだろう男はメルに向かい、声を張る。

 メルはガラガラと崩れる扉越しに聞こえる声に備え、剣を抜き構え――ふと考えた。


「くそ! なんだってこれが壊れるんだよ!! 特別じゃなかったのか!!」


 メルの目の前には先ほど砕いた金剛石の塊、運が良い事に使えそうな形になっている。


「だが……なんだぁ……ガキ一人か?」


 大男は焦っていたが、メルを見るとへらへと笑った。

 メルはと言うと彼を見上げつつも冷静だった……それどころか酒場の冒険者であるドゥルガ程ではないなぁ……と悠長なことを考えていたが、とてもじゃないが、彼女の力では敵わなそうだ。

 しかし、彼女はそう言う時の対処を祖母から聞いていた。


『良いか? 相手が女だ子供だと油断している馬鹿であればあるほどかかりやすい。そうだな魔法は魔弾(マテリアルショット)が良い小声で魔法を発動させろ、そして――』

「我が意に従い意思を持て、マテリアルショット」

『隙を窺うんだ。相手に悟られぬように我慢し……』


「へへ、なんだ? ガキとは言え結構将来が楽しみな顔をしてやがる……旦那にゃ悪いが遊ぶぐらいは良いよな?」


 近づいてきた所を……。


「『狙う!!』」

「――ぁあ? なっ!?」


 今日何度見たか分からない驚いた顔、それも当然だ。

 男は突然動き始めた金剛石に反応するのが遅れ、腹部に思いっきりめり込んでしまった……。

 そのせいか驚いたというか目が飛び出したように見え、メルは慌てるものの息をしている事を確認するとほっと息を付いた。


「と、とにかく前に進もう」


 安心したメルは前に進むことを考え、歩き始める。

 目的はあくまで全員での脱出――そこまでの安全な道を見つける事。

 メルは思考しつつも速まる足を止めることなく進んでいると目の前には豪華な扉が見えてきた。


「これ、出口かな?」


 そう呟いた彼女は扉へと手をかけ力を入れていく……。


「ん……しょっと……」


 すると扉は抵抗なく空いて行き、立て付けが悪いのか酷い音を鳴り響かせる。

 けれどメルは気にする事は無く後は外に捕まっている人々を連れて来るだけだと考え、一応危険はないかと扉の奥を覗き込んでみると――。


「ほ?」

「え?……ほって?」


 声が聞こえメルはそっちの方へと顔を向ける。

 そこには服を掴まれた涙目の少女と、殆ど裸の醜い男が居て……。

 彼女達は二人とも目を丸くしてこちらを見ている。


「…………」


 見てはいけない現場を見てしまった気がしてメルはゆっくりと扉を閉じる。

 

「ここは出口ではなかった。うん……他を……って!?」


 そんな事を言ってる場合ではないと気が付いたメルは慌てて扉を開け中へと飛び込んだ。


「大丈夫ですか!?」


 すると、先ほどよりも衣服が乱れている少女は再びこちらへと目を向け――。


「た、助けて!」


 手を伸ばし叫んだ。

 メルは助けを求められると高揚感を感じた。

 冒険者に……冒険者になれる。

 そう思ってメルは醜い男を睨んだ。


「ほ……なんだ、冒険者か?」


 そう言ってメルの方へと目を向ける男はどこかその目がいやらしい。


「いや違うな、さっき連れてこられた娘か……元気なのは良い、ふむ……もう一、二年成長してからと思っておったが……たまには良いかもしれんな」

「…………ひっ!?」


 意気揚々としていたメルだが向けられた言葉と視線に何か怖気を感じ小さく悲鳴を上げる。

 ボロボロの衣服、泣いていた少女達、今見えている現状――流石の彼女でも何が起きていたのかは理解出来、それが自分へと向けられたものだと理解し怖気はさらに増す。

 男は涼しい部屋だというのに汗にまみれで涎を垂らし……メルへと近づいてくるのだ。


 気持ちが悪い……怖い……。


 まだ少女であるメルはその二つの言葉が頭の中へと過ぎては繰り返し、首を左右に小さく振った。


「い……嫌……来ないで……」


 先程の異性は何処に行ったのか? いや、それが彼女の本能なのだろう。

 剥き出しの感情にメルは屈していたのだ。


「ひひっ、可愛い声だ……まるで子犬だ……おお、そうだ森族(フォーレ)を飼う時は首輪をと思っていたが早く用意させんとな」


 足はガクガクと震え、歯はかみ合わずカチカチと言う音を鳴らす。


 怖い、嫌だ……気持ち悪い……。


 その言葉が頭の中で繰り返されていて、やがて彼女は近づいてくる男の臭いに気が付いた。


「…………ぅぐぅ……」


 それは耐えがたい物で、思わず鼻を覆う……。

 しかし、不幸な事にメルは森族(フォーレ)それも狼である母フィーナの血を引いている。

 いくら鼻を覆ったところで臭いを断ち切る事は出来ず不快感もどんどんと膨れ上がって行った。


「どうした?」


 男は目の前まで迫り彼女に手を伸ばす……それが服でも腕でもなく頭に向けられているのだと気づき、とっさに思い浮かんだのは彼女がもっと小さい頃の事だ。

 彼女と同じ髪の色をした母、ユーリが微笑みつつ撫でてくれた記憶で……。


「ッ!! 触らないで!!」


 思い出が汚される、そう思ったと同時に身体は勝手に動き、迫りつつあった手を振り払う。


「……ほ」


 男は払い落とされた手とメルを交互に見つめ呆けていた。

 恐怖はある、だがそれ以上に触れられたくはなかった、彼女がフィーナの子供であるのは母と似ているため誰もが認めた。

 しかし、ユーリの子であるとは家族達以外は疑問を浮かべるのだ。

 それも当然だろうユーリもフィーナも女性なのだから……。

 だが、瞳の色と髪……そしてナタリアに無理を言って手に入れた太陽の聖紋……。

 これがメルにとって魔族(ヒューマ)であるユーリとナタリアの血を受け継いでいると言う証拠であり、彼女の誇りでもあった。

 だからこそ、母ユーリと同じ色の髪が大事で大好きなのだ。

 いざと言う時には駆けつけてくれる、頑固で決めた事は曲げないが約束は守ってくれる……大事なもう一人の母と同じ髪。

 それを汚されるのはメルには我慢が出来ない事だ……。


「お転婆だ……」


 だが、男は再び頭を撫でようとし手を伸ばす。

 恐らく彼女に恐怖心を与える為なのだろう、動きはやけにゆっくりとしていてメルは怯えた表情を浮かべる。

 しかし、先ほどと違って彼女の足の震えは消えていた、歯も音を立てておらず。

 相変わらずの酷い臭いだけは鼻が曲がりそうではあったが、冷静さは取り戻していた。


「撃ち放て水魔の弓矢――」

森族(フォーレ)が魔法? これは怖い怖い……」


 彼女の母ユーリは魔法が苦手ではあったが、ある意味得意でもあった。

 そして、それはメルへと確かに受け継がれてもいたのだ……。


『魔法って言うのは想像力で創造する物なんだ……つまり水を作り出し弾丸とする魔法でも想像次第では違うものへと変わる……つまり水たまりや水の塊を浮かすだけの魔法に()()()()()()()。ナタリアはそれをただの失敗と言っていたけど、用途に合わせれば物は考えだよ』


 そう、例え失敗だろうと目的が達成されるなら……それは失敗ではないと言う事。


「ウォーターショット!!」


 大事な記憶の一つであるそれを頭に浮かべ、そして想像し……メルは魔法の名を唱えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ