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私の夢は冒険者だったのにっ!!  作者: ウニア・キサラギ
2章 旅立ちは唐突に
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32話 別れと出会い

「フォルが居たら良かったのに……」

 弟ならばきっと姉は話を聞いてくれた。

 そう思うメルが思わず口にした言葉――それにショックを受けたシュレムは怒り酒場を後にした。

 メルは自分の失態を知り、リアスをベッドに寝かせると姉を探しに向かうのだが――?

 リアスをベッドに横たわらせたメルは首飾りや大事な物をバックへと詰め込むとエスイルの手を引き入口の方へと向かう。

 そこには人があふれかえっていて、メルは実家を思い出す……


 今朝旅だったばかりなのに、何か家が懐かしいな……


 だが、感傷に浸っている時間はないと頭を左右に振ると酒場の店主の元へと彼女は急いだ。


「お、なんだ? 部屋の愚痴なら――」

「そうじゃなくて……今から護衛を雇いたいの、信頼できる人が良い……」


 店主さんは一瞬目を丸めるとその表情を崩し、大きな笑い声を上げ始め――

 その所為で注目を集めたのだろう……


「さっきもう一人の嬢ちゃんが凄い顔して出て行ったが、面倒事か何かか!?」


 と言う声がメルの後ろで聞こえた、が……彼女はその言葉を聞きほっとした。

 それならシルフが気が付いてくれる可能性があると……


「なんだ? 一人出て行ったのか? 全然気が付かなかったな……で、何で護衛なんだ?」


 店主は見ていなかった事にこれだけ人が居れば仕方が無いか、とメルは考え用件を伝える。


「彼が倒れた……今から姉と医者を探しに行きたいから、その間彼の護衛が欲しいの……それだけだよ」


 店主はそれが正式な依頼と受け取ったのだろう、表情を少し柔らかくし……


「…………いくら出す?」

「まずは人を用意して、依頼金はその人と話して決める」


 依頼をする際、気を付ける事の一つは依頼金の話だ。

 何故彼女がそれを知っていたかというと、昔メルに話をしてくれたお客が居たからだ。

 龍に抱かれる太陽以外の酒場に行ったらしいそのお客は出したお金じゃ足りないと言われ、さらにお金を要求され、明らかに新人の冒険者をつけられたと嘆いていた。

 素人目に見ても新人だと分かる冒険者が高いなんていう事はメルは勿論聞いた事が無い。

 だからこそ、まずは紹介された人を見て料金を決めようと思ったのだが……当然店主はそれに苛立ったらしく、こめかみの辺りを動かしつつ店の中へと目を向ける。


「おい!! ロウ、ウェン!」


 メルの目の前に来たのは、見た目からして新人ではないだろう二人組の少年……


「こいつらが自慢の冒険者だ」

「へへへ、依頼かい?」


 一人はぼさぼさの赤い髪の少年で――


「任せておけって」


 もう一人はやはりぼさぼさの青髪の少年だ。

 へらへらとした態度で自慢と言う割には隙だらけではっきり言ってしまえば、メルにはとても強い冒険者とは思えなかった。


「別の人は? もっと強い人」

「ああ!? そいつらで十分だろうが実力も知りもしない内から文句を言うんじゃねえ!!」


 確かにその通りだ。

 だが、万が一リアスの言う追手と言うのが襲ってきた場合、メルでは太刀打ちできないかもしれない……

 ましてや、その彼女よりも弱く、判断も鈍い者をリアスの護衛にする何て言う事は考えられなかった。


「ごめんね……」

「――――ッ!?」


 彼女は店の床を蹴り、鞘に入ったままのアクアリムを青髪へと向け――


「――ロウ!? このガキ!!」


 小声で詠唱を唱え――


「マテリアルショット……」


 料理に使うために持ってきていたナイフをやはり鞘に入れたまま魔法で浮かし、赤髪の首元へと当てる――


「っ!?」


 勿論怪我はさせるつもりはないし、脅し程度ならこれで十分だと感じた彼女は店主へと目を向け言葉を告げる。


「――――弱すぎる……別の人にして」


 求める実力じゃない冒険者を紹介された場合、こうやれば別の冒険者を出す……

 バルドから教わった方法で初めて聞いた時は乱暴だと思ったものだ。


 でも、まさか本当にやるとは思わなかったよ……


「なぁ、嬢ちゃん? なんのつもりか分からんがそいつら以上は出ねえ!! 嫌なら他に当たんな!!」


 ――しかし、これはバルドから教わった方法だ。これで、きっと変えてくれるメルはそう思っていたのだが――目の前の店主は明らかに不機嫌になった顔を浮かべそっぽを向いてしまった。

 この二人もこれ以上の危害は加えられないと悟ったんだろう、再びへらへらとした態度へと切り替わり――


「へ、へへへ……これちょっと高くなるぜ」

「どうするんだ? なぁ?」


 もしかして、本当にこの二人が自慢の冒険者なのだろうか? メルは呆然としながら二人を見つめる。


「子供の依頼に子供に負けるような冒険者を出すのかしら、この酒場は?」


 そんな中、彼女が起こした騒ぎで静まった酒場が再びざわつき始めた時、メルの耳には男性の声が聞こえた。

 メルが声の正体を探ると二枚の白い羽を背負った男性は席から立ち上がり、ゆっくりとこちらへと向かって来る――

 背が高く男性にしては長い髪を肩から払った彼は眼鏡の位置が気になったのだろう、慣れた手つきでそれを直す。


「その子、依頼主ちゃんは怪我をさせてはいない、つまり手加減してたって事よね? それに対してそこの二人は手加減された攻撃にさえ対処出来てないのよ?」

「なんだテメェ、ウチのガキどもに文句があるのか?」

「ええ、あるわ……依頼主ちゃんもいきなりだったし、危ないから誉められたものでないけれど、その前にはっきりと変えてって言ってるわよね?」


 何処か怒った顔をした男性はなぜか女性の様な話方をし、メルとエスイルへ目を向けるとにっこりと微笑む。

 メルは何故か、この人には逆らったら駄目だと言う感じがし、別に嘘でもない事だと頷くと――


「それなのに――」


 彼はメルの答えに満足したのかゆっくりと彼女から目を逸らし――


「明らかに実力不足の冒険者を押し付ける始末よね? 聞いててイライラしたのだけど……お前らは客の求める人材すら用意出来ないのか?」


 温厚だった言葉遣いは途中で崩れ、地を這うような声へと変わり、何処か恐ろしい声が伝わってくる。

 正直に言って固まってしまったメルへと男性は顔を向けるとその強張った表情を崩し――


「依頼主ちゃん、もし良ければアタシが依頼を受けるわ冒険者じゃないけれど、これでも一人で街を渡って薬師をしているの。実力にはそれなりの自信はあるし、倒れたと言うなら診て上げる事も出来るわ」

「そ、それはありがたいんですけど……」


 彼の申し出はメルにとって嬉しい物だった。

 元より薬も医者も必要なのだ……だが人間の中で最も力が無いとされるのは天族(パラモネ)だ。

 その代わり白い羽と黒い羽どちらかを背負った彼らは錬金術や薬学に通じている。

 事実メルの知る天族(パラモネ)の姉妹もそうだ。

 薬師であるシンティアは薬を作らせたら天才だが、戦いとなると違う。

 錬金術師であるテミスは錬金術で武器を作り戦うことは出来るが……正直に言ってしまえば錬金術さえ封じてしまえば新人冒険者だって勝ててしまう……

 だとしたら――


「あら、アタシが天族(パラモネ)だから心配してるのね? 確かに依頼主ちゃんの様には動けないし、貴女の持ってるその剣でも重いわ」


 メルは分かっていた事実だというのにその言葉に肩を落とす。

 だが、薬師はやはり必要だ……せめて護衛が見つかるまで酒場に居てもらおう……そう思って口を開きかけると長身の男性はメルの耳元でささやいて来た。


「だけど、錬金術や薬も使いようによっては攻撃手段になりうるのよ? 即効性の毒を針に仕込んだり、錬金術でそれを撃ちだす道具を作ったりね? 何より、あの子達よりは強いわよ?」


 そう聞かされると彼女は迷ってしまった。

 こうして出てきていると言う事は確かな自信はあるのだろう……そして、酒場はこの村に一つしかないと聞いていた。

 宿を当たれば冒険者自体には会えるかもしれないが……シュレムを探す事が当然遅れてしまう……と……


「おい! そいつはウチに依頼してたんだが?」


 彼女が悩んでいると店主は相変わらず機嫌のよろしくない声で男性を威嚇する。


「あら、嫌なら他に当たんなって言ったのはそっちよ? それに決めるのはこの子でアタシじゃないわ」


 ね? っと言われたメルは思わず首を縦に振った。

 あの二人では先ほど彼女が思った通り、役不足……流石にリアスを背負ったままシュレムを探すのは無理だ。

 だが、目の前の男性が騙している可能性もまだあり、リアスの安全が保障される物でもない……とは言え、やはり薬師は必要で勿論護衛もだ。


「で? どうするの依頼主ちゃん」


 メルはその言葉に散々うんうん、と唸った後に――


「分かりました、お願いします……」


 ――そう答えると男性はにっこりと微笑み。


「はい、任されましたアタシはライノ・ツィードよ、よろしくね」

「は、はい……メアルリース・リュミレイユです、メルって呼ばれてます……この子はエスイル」


 名乗ってもらった以上はっと彼女も名乗り返すと彼はうんうんと言って頷く。

 見た感じでは悪そうではなく、逆らわない方が良いだろうという気も今だあるが……不思議と危険だとはメルは思えなかった。


「メアルリースちゃんにエスイルちゃんね? それでその患者さんは何処に居るのかしら」

「一番奥の部屋です、そのリアスの事お願いします」


 酒場の人達の前でこのやり取りは申し訳ない気がしたが、今は仕方がないと思う事にした。


「分かったわ、じゃ早く出て行った子を探してきなさい」


 彼はそう言うと奥の部屋へと向かってくれた。

 今は彼を信じるしかない……だが……


「ウンディーネお願い、すぐに追いかけて……それとなにかあったらシルフに伝えて」


 メルは手に持った水袋に居る精霊に声をかける。

 精霊は人の言葉を理解してはいるが森族(フォーレ)鬼族(オーク)としか会話できない。

 当然、その姿も実体化させないと見る事は不可能……だがこの世に確かに生きており、彼女達の住処は何処にでもある……そしてその一つである水は部屋にある水樽でも問題は無い。

 見張り役にはうってつけだろう。


『分かりました、メル……なにかあったらすぐに……』


 ウンディーネは頷くと彼女のお願い通りに彼の後を追っていった。

 何も無ければいいんだけど、そう願いながらメルはエスイルの手を引き酒場を後にし、姉を探すために夜の村を駆け始めた。

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