31話 シュレムとの別れ?
カロンへと辿り着いたメル達。
しかし、リアスは宿を取るなりシュレムに対し旅を降りるように告げた。
確かに彼女は戦う必要もない魔物に向かって行きメル達を危機に導いてしまったのだが、果たして彼女は一体どうなるのだろうか?
メルはどうするのだろうか?
確かにメルから見てもシュレムはリアスの言う通り話を聞いていなかった……
だが、同時にメルもうまく動けなかったのだ……弟をエスイルを助けると誓ったはずなのに……
たった数時間で変われる訳が無いと言われてしまえばそうなのかもしれないが、少しぐらいなら変われたはずだ……
「メル、こんな奴について行く必要はない。エスイルだってオレ達が届ければ良い」
「…………」
長い沈黙の後シュレムはやっと声を出しメルにそう告げて来る。
だが、それでは駄目だと彼女は理解していた。
……動けないメルに声をかけてくれたのは、魔物へと突っ込んで行くシュレムを助けたのは……リアスだ。
カロンに無事皆が付けたのは彼のお蔭なんだ……そして、彼は恐らくメルも使い物にならないと判断したらきっとリラーグへ戻れと言うんだろう。
もしかしたら、その時わざわざ送っていってくれるかもしれない、そんな気がした。
だが、そんな事よりこの旅からシュレムが居なくなるって言うのは単純に考えても好ましくない、何故ならシュレムの強さはリラーグで見た通りだ。
だから、メルは――
「お姉ちゃん、お願い……」
「うんうん、そうだよな! じゃ明日から三人で――」
「これからはちゃんとリアスの言葉を聞いて」
姉にそう告げた。
シュレムは目を見開き、メルの肩へと手を置く――彼女の言葉が信じられなかったのだろう。
しかし、メルは姉がなんの考えも無しに行動してるとは思ってない、事実魔物に気づかれた時のリスクを考えて倒してしまった方が良い! っという考えはそれはそれでありなのかもしれない。
だが、それではいけない時もあるのだ。
だからメルはシュレムが肩に置いている手に力が入り、その所為で痛みを感じつつも言葉を続ける。
「ここにはユーリママが居ない、大怪我は私の魔法じゃ治せない……私はフィーナママより剣が下手でナタリアより攻撃魔法が下手でユーリママより補助魔法が下手なんだよ?」
メルは自分自身で下手と言ったのは初めての事だった。
何故なら皆が皆――
「メルは天才だろ? フィーナさんもユーリさんもナタリアも! オレ達の親だって褒めてたじゃないか!!」
そうやって褒められていたからだ。
才能があると……事実、彼女が使えなかった魔法はバルドから教わった闇属性の魔法だけだ。
これに関してはナタリアもユーリも使えないらしく、家系的な物なのかもしれない……
しかし例え闇魔法が使えなくとも、メルほど剣も魔法も使える人は稀だとも言われたのは確かだ。
だが、メルは自分が特別なんかでは無い事は理解していた。
「……私はたったの二日で二回も捕まった……力じゃ敵わない人にも会ったし、見た目で騙されたし、助けに来てくれたリアスを助ける事が出来なかった……」
……今彼女が自身で口にした通り、何も出来なかった。
何が天才だ、何が稀だ! 自分は何も出来ないただの子供だった! だけど、そんな私でももしかしたら助けになれるかもしれない。
彼女はそう思ってついて来る事にしたのだ。
「リラーグを出て来て何か変われると思ったけど、私は何も変わってないんだよ? リアスに言われないと行動できなかった……」
先程も思った通り、現実はそう簡単に変われるものでは無かったのだ。
しかし、シュレムはメルの話を聞き――
「だから、オレに任せろって、な?」
その言葉にメルはゆっくりと首を振る。
情けない事に涙は瞳に溜まり……自分はただの泣き虫なだけな事も十分に理解出来た。
「リアスの言った通り今のままじゃきっと死んじゃうよ……だから――」
「メルお姉ちゃん!!」
メルはシュレムの顔が普段を見る物と変わっていくのを感じつつ再度言葉を告げようと思った時、エスイルの悲鳴に似た声が聞こえ、部屋の中に音が響く――
「……え?」
嫌な予感がして、彼女は音の正体を見たくはないと思いつつ目を向ける。
すると――
「リ、ア……ス?」
彼は其処に倒れていて、メルは肩から姉の手を跳ね除けると彼の方へと向かった。
「リアス? リアス!!」
慌てて彼の名を呼び体を揺すっても一向に目を覚ます気配はない。
まさかと思い心臓の音を確かめるとちゃんと動いてはいて呼吸も問題はなさそうだ。
生きてはいる……その事に少しの安堵を得た彼女はベッドへと彼を運ぼうとし――
「何だよ偉そうな事言ってぶっ倒れるなんて情けない奴だな」
その言葉にメルは呆然とした……私の姉はこんな事を言う人だったんだろうか? それに彼が倒れた理由は元はと言えば自分たちの所為なのに! と……
「リアスは、私を助ける時に怪我をしたんだよ? まだ完全に治った訳じゃない、それなのにエスイルの事も考えてすぐにリラーグを出たんだよ? 当然疲れが溜まってるんだよ?」
自分が彼の荷物を盗みさえしなければ、彼は万全の状態でエスイルと出会い護衛を探し、きっと龍に抱かれる太陽に来ていた。
そうなれば事情が事情だ。
酒場の冒険者が手を貸してくれてたはずだし、安全にカロンにたどり着いていたのではないか? メルはそう思うと罪悪感を覚えた。
「その怪我はユーリさんが治したんだろ? それなのに――」
「ヒールじゃ失われた血や体力までは戻らないんだよ!? リアスはそれでも私達を見捨てないでここまで連れて来てくれたのに何でそんな事……言える、の?」
溜まった涙が瞳からこぼれるのを感じ、メルはそれを袖で乱暴に拭うと近くに居る弟へと声をかけた。
「エスイル、手伝って……荷物外してあげないと……」
「う、うん」
力が抜け、余計に重くなった彼の身体を支えながらメルは思う――
ユーリママだったら……彼が倒れる前に休ませていたはずだ。
フィーナママやナタリアだったら彼の負担は無かったはずだ……
もし、この状況でも――
「フォルだったら……もっと安全な方法を思いついてたかもしれないのに」
血の繋がらない兄妹の中でも飛びぬけて頭の良いフォルであれば、もしかしたら魔物から逃げる術を考えていたかもしれない。
そうなれば姉シュレムも無駄な特攻は控えただろう……
彼女はそんな考えを今更何を思っても遅い事だ……元はと言えば老婆の正体に気が付かなかった自分が悪いのだから――
そう悔やんでいるとメルの目の前を何かが通り過ぎ、壁に当たると大きな音が鳴り響き、メルとエスイルはビクリと肩を震わせた。
音の正体はどうやらシュレムが椅子を蹴り壊したものらしく――
「そんなに足手まといの方が良いのかよ?」
「……リアスは足手まといじゃないよ、私達の方が足手まといなんだから……」
人が倒れたと言うのに何故姉は手伝ってくれないのか? こんな時なんだから手を貸してくれてもいいのではないか?
そう苛立ちを覚えた彼女はやや乱暴な言葉使いで彼女にそう答える。
「そうかよ……良く分かった」
するとシュレムはそう言うと扉の方へと歩いて行き――
「シュレム!? 何処に行くの!」
「…………」
いつもだったら何か言うはずであるメルの姉は怒った顔のまま扉を開き大きな音と共に部屋を去って行った。
水を入れる桶でも取りに行ってくれたのか? と考えるもそんな様子ではなく……
「なんなの……」
「メルお姉ちゃん」
一人困惑しているメルはエスイルに名を呼ばれ、弟へと目を向ける。
「そんなに不安そうにしないで、ね? 大丈夫だから……」
現状大丈夫とは言えないだろうが、不安にはさせたくない……彼女はそう思いエスイルへとそう言葉を掛けたのだが――
「今のは酷いよ、フォルの方が良いって……」
「え?」
彼女に告げられた言葉は不安とは違う物だった……
「フォルだったらもっと安全な方法を思いついてたのにってメルお姉ちゃん言ったから……だから……」
「え……私そんな事……私はただフォルだったら……あの子の話ならシュレムも話を聞いてくれていたかもしれない、そう思っただけで……」
口にした覚えはなかった……だが、エスイルが心を読んだという事はまず考えられないだろう。
もしそうであれば、もっと前に気が付いているはずだ……そう彼女は自分のしてしまった事に気が付くと途端に血の気が引いて行くような感覚を覚え――
「シュレム!!」
メルはリアスをゆっくりと横たえると慌てて扉を開けた……しかし、そこには誰の姿も無く……ただ静寂だけが広がっていた。
探しに行かないと! そう考えたが自分がここから離れるのならばエスイルを連れて行かないと心配だ。
そうなるとリアスは動けないのに一人にされてしまう……
しかしここは治安が悪いと聞いていたメルは鍵も無い部屋にリアスを一人残していくのは危ないかもしれないと考え立ち止まる。
だが、それはシュレムも同じだ……彼女もまた一人では何があるか分からないのだ。
そして、メルはそれを自身の身で味わっていたからこそ……どうするべきかを考えた。
「…………」
「メルお姉ちゃん?」
メルはゆっくりと部屋に戻り、再びリアスを抱えるとベッドへと横たわらせようと動かし始めた。
シュレムを放って置くなんて出来ない、だがリアスだって同じだ……幸い彼女の姉は決して弱いという訳ではない。
だったら今は動けない彼の安全を確保してから姉を探せば良い。
それにここは酒場であり、入口には大勢の冒険者達がいるだろう……リアスの護衛は雇うことが出来る。
「まずはリアスを休ませてあげよう? それからシュレムを探して謝らないと」
「……うん」
それに探すだけならメルの得意分野でもある。
実際には彼女のというのは違うのだが……
「シルフ、お願い……シュレムを探してきて、私達もすぐに行くから」
『分かったよメル! でも、シュレムには声が聞こえないから早くしてね?』
彼女の声に答えてくれた精霊シルフに頷いたメルはリアスをずるずると動かす。
やはり、リアスは男というだけあって見た目よりずっと重く、メルが疲れてるのもあって余計重く感じた。
だが、床に横たわらせたままというのは彼女の選択肢の中には無く……
ごめん、シュレムすぐに探しに行くから……そうしたらちゃんと謝るから……
そう心の中で姉に告げリアスをベッドに横たわらせた。




