28話 メルの旅立ち
王シルトに許可をもらったメル達。
彼女達は遠い地にエスイルを届けるための旅に出る事になった……
その為、まだ幼いエスイルは母と別れる事になるのだが……
クルムを家へと送り届ける事にしたメル達は彼女の家の前まで来た。
彼女は何も言わずにエスイルを抱き寄せると、何か言おうとして唇を震わせる。
そして、何も言わないままそっと手を放し――
「行ってらっしゃい、エスイル」
ただそれだけを自身の子供へと告げた。
そして、メル達に顔を向けその頭を下げる――
エスイルはメルの方へと来て服の裾をギュッと掴み……
「いってきます」
泣きそうな声でそう言った……
メルもついさっき家を出た事を思い出し、目頭が熱くなったのを感じたが……この子はもっと辛いんだ、そう思い自分の心を押しとどめ。
「クルムさん、待ってるからね!」
「必ず……」
彼女なら母達に頼む事が出来る。
それなら安心だし、きっと大丈夫だろう……メルはそう思う事にした。
そしてクルムへ別れを告げた彼女達は街の出口へと向かう……
エスイルは相変わらずメルの服の裾を掴んでいて若干歩きづらさを感じた彼女は少年に向かって手を差し出す。
すると、その小さな手は彼女の手に重なった……
街の中、警戒しつつ進む彼女達は出口に立ちほっと息をつく……
どうやら、ここまでは何とか無事に着く事が出来たみたいだ。
目の前には大きな門があり、それを潜り抜けるとこの街の象徴ともいえるユーリのドラゴン――デゼルトが顔をのぞかせる。
『ぐるぐるぐるぐるぐる……』
デゼルトはメルを見るなり、すぐに喉を鳴らし擦り寄ってくる。
くすぐったさを感じつつも空いた方の手で喉元を撫でると気持ちが良いのか目を細める姿はメルにとってなんとも愛らしい姿だ。
「だ、大丈夫なのか? メル……」
「へ? 何が?」
だが、それを見たリアスは明らかに引いた顔になり、メルの事を心配した。
「あーこいつはメルに懐いてる……噛みついたりはしないよ」
「へ? え?」
「そ、そうなのか、ドラゴンなんて間近で見たのはこの街に来て初めてだからな、何も問題が無いならそれで良い」
「えっと、デゼルトは大人しいし可愛いよ? リアスも撫でて大丈夫だと思うよ?」
メルはそう言うがリアスは首を振った。
それを見た彼女は瞼を半分降ろす……事実デゼルトは大人しく、メルの母であるユーリも可愛いと言っていた。
そして、メルが幼い頃から懐いてくれたこともあり、メル自身も可愛いと思っているのだが……
「ドラゴンを可愛いって言うのはユーリさんとメル位だって……とにかく急ぐんだろ? さっさと下に降りよう」
家族である、シュレムにまでそう言われメルはがっくりとしながらデゼルトを撫でた。
「メル、名残惜しいだろうけど良いか?」
もうしばらくそうしていたい気分だったが、そうもいかない。
リアスの言葉を受け、メルは頷くと撫でていた手を離す……
「うん……」
すると青空と同じ色の龍はどこか寂しそうな瞳をメルへと向ける。
デゼルトは賢いからね……だから分かってるのかもしれない……
「デゼルト、私はちょっと出かけて来るから……またね?」
『…………ぐるる』
メルの言葉に寂しそうな声で答えたデゼルトの頭をもう一度撫でると彼女は出口へと向かう。
そこにはナタリアが施した転移陣が描かれていて、ここに足を踏み入れれば下に行くって言う仕掛けだ。
勿論、下から街へと昇ってくるのも同じ方法だ。
メルの前に立つ二人は彼女を待っていてくれたのだろう、まだ転移陣の外に居て――
「行こう!」
メルは二人へとそう声をかける。
頷き答えてくれたリアスとシュレムと共に転移陣へと足を踏み入れると彼女達の周りには光の道が現れ、そこを歩いて行く……
すると……メル達の視界は切り替わり小さな部屋のような場所へと辿り着いた。
「…………」
転移陣がある祠、そこから一歩出ればそこは地上だ。
――そこには空の魔物だけでなく、ゴブリンやエイシェントウィローを始めとする地上の魔物達も居る。
彼女達は外へとつながる道を歩いて行くとリラーグを守る兵士の人が目に入る……
「メアルリース・リュミレイユ、そしてシュレムローネにリアス・アルリッドだな? シルト様から鳥は届いている。気を付けて……」
「はい……」
もう話は通っていたみたいで兵士の人はメルが返事をするとすぐに道を開けてくれた。
祠の外に出ると緑は溢れ……遠くには森も見える。
ドリアード達はメル達を見て笑みを浮かべ、シルフは彼女の周りを飛び回っていた。
ふと空を見上げると、青空は街に居た時よりもずっと遠くにあり……ただそれだけで、随分と遠くに来てしまった様な気がした。
「それで……リアス、まずは何処に向かうの?」
彼女はそう言えば目的地を聞いていない事を思い出し、彼へと尋ねた。
「まずはタリムの村に行く」
「タリムって、ずいぶんと遠くだな? それにあそこは途中に村や街が無い。食料や水の確保が難しいんじゃ……」
リアスの言葉に渋い顔をしながらシュレムが答える。
そう、タリムは遠いし、近くに村は無い。
嘗てはトーナやアルムがという村があったが、その住人は今はリラーグに移住してしまい今あの地に住んでいるのは頑なにタリムに残ると言った人達だけだ。
それに辿り着いたとしても、現状タリムは裕福とは言えない村……
「タリムに着いた時に食料や水を買えると良いんだけど……」
「そこは問題は無い、安心してくれ」
なんでそこまで言い切れるのかが疑問ではあったが、メルが見る限りどうも自信がある様だ。
なら、彼に任せた方が良いだろうと考えた彼女だったが……
「問題はタリムにどうやって着くかだ……リシェスを過ぎたらそこから村や街が無い。道も荒れてるから馬車も無理だ……幸いエルフの使者のお蔭で緑はあるから動物達が居るが魔物も多い……」
そう、その先には人が住んでいる村が無いと言われている。
彼の言った通り、エルフの使者……メルの母ユーリの魔法のお蔭もあり、狩りには困らないだろうが……出来れば安全に寝泊まりできる場所が欲しい。
「うーん……」
メルは少し迷うそぶりを見せたが、やはり他には何も思いつかなかったのだろう……
「それなら私に考えがあるよ」
「メ、メル!?」
その考えはシュレムには気づかれてたのだろう、驚いた声を上げる彼女に対し、メルはしょうがないよっと告げた。
「考え?」
「うん、絶対安全とは言い切れないけど……そのままタリムに行くよりはましだと思う」
なにせ、弟同然のエスイルの為だ。
どんな手でも使える物は使った方が良いだろうとメルはその考えに至った。
「それは一体どんな事なんだ?」
「うん、今は言えないけどその時になったら分るよ?」
そう口にしたのはなるべく内緒にしておきたい事だったからだ。
何せメル達が話しているのはリラーグへと続く祠の近く……そこに居る兵に聞かれれば大騒ぎになる事は間違いないのだから……
「いや、ちゃんと話してくれないとどう判断して良いか困る……なにせ命に関わる事だ」
「分ってるよ、でもここじゃ言えない事だから……ね?」
メルとしては彼にはすぐに告げた方が良いとは思っていた。
だが、近くには先ほどの兵も居る。
なるべく知られたくはないと母達と祖母に言われても居るのだ……メルはその約束を違えたくはなかった。
「メルが言いたい事は安全性は確かに増す。だけど人に聞かれると面倒なんだよ……ただそのままタリムに行くよりかはマシって言うのは本当だ……」
二つの思いの中、メルが葛藤しているとシュレムはリアスへと告げる。
そんな姉に感謝をしつつ、メルは願うようにリアスの顔を見つめた。
「…………分かった、だけど他に良い方法が見つかったらそっちに切り替える。二人は知ってても俺は知らない事だしな」
すると――彼は彼女の案を受け入れてくれて――
「うん、私達としても良い方法があるならそっちが良いからそれでお願い」
頷きつつそう答えるも、その時は個人的に残念な気持ちになってしまうなっと彼女は心の中でつぶやいた。
「よし、じゃ……そろそろ行くぞ」
彼の言葉に従いメル達は一歩を踏み出す……手には先ほどよりも強い力が加わり、ふとその手の先……エスイルを見ると小さな少年は唇をかみしめていた。
すぐにでも泣きたいんだろう……目は潤んでいてそれでも我慢しているのにメルは驚いた。
泣いても誰も責めない、寧ろ仕方が無いと言われるこの状況に彼女が置かれたのが多分、いや絶対にすぐに泣いて戻りたいって言ってたはずだ……と……
「…………」
まだ小さいながらも強い少年へと目を向けた彼女は握られた手を握り返し――前へとその双眸を向け歩みを進めた。
目の前に広がるのは草原と森……そして空。
嘗てママ達が不死の王と呼ぶ人が居たタリムへと私達は向かう……
今はリラーグから出た所だし、まだまだ遠い場所。
でも、そこが旅の終着点ではないのは分かってる……私はまだ弱い、だから……だけど、きっと全力でやれば何とかなるよね?




