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私の夢は冒険者だったのにっ!!  作者: ウニア・キサラギ
2章 旅立ちは唐突に
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26話 シルトの元へ

 駆けつけたシュレムローネの活躍により老人を見事退けた一行。

 メル達は老人を兵へと渡し、リラーグ王シルトの住む屋敷へと向かうのだった。

 果たして仲間は得られるのだろうか?

 ゴデスを憲兵へと引き渡したメル達はその足で予定通りシルトの所へと向かう。

 その途中、メルはリアスへと声をかけた。


「危なかったけど、これで安心できるね?」


 彼の言う追手と言うのはあの老人たちの事だったんだろう、残る一人も老人が手にかけてしまったのは分かっている。

 これでエスイルは安心だ、とメルは安堵していた。


「そうは言ってられない、アイツ等は何処かで情報を仕入れて来ただけだ……」

「……え? じ、じゃあ……急ぐのは変わりがないって事?」

「そう言う事になるな、だけど街に居たとしても流石に王の屋敷までは追って来ない……はずだ」

「はず……って……」


 メルは彼のはっきりしない言葉に顔を引きつらせた。

 しかし、王の屋敷には腕の立つ兵も居る、比較的に安全だと言えるが……そう言われてしまうとメルも自身が無くなってくる。


「大丈夫だって! オレが付いているからな……」


 そして、元気を失ったメルの元に来たシュレムに彼女は密着され……


「ちょっとシュレム歩きづらいって……ばぁ!」


 危うく転びそうになり、彼女はシュレムを引き剥がそうとする。

 だが、その抵抗は虚しい物で……

 本気でやればすぐに出来るのだが、以前にそれをした時にメルは姉のこの世の終わりかの様な顔をを見てしまい、どうにも本気でやる事に抵抗を覚え、その所為かシュレムは一向に離れようとはしなかった。


「シュレムちゃんはメルちゃんが大好きなんだね? 可愛い妹だもんね?」

「ああ、オレの未来の嫁さんだからな!」

「うん、それは絶対にない!」


 その言葉さえなければ、窮地に駆け付けてくれて助けてくれたかっこいい姉として自慢が出来るのに……とメルは残念に思いつつ、ようやく彼女を引き剥がす。


「いつもそうなのか、その……シュレムさん、だっけ?」

「うん……いつもこうだよ」


 リアスの問いにメルは正直に答え、がっくりと項垂れた。

 それから暫く歩くと一行は王の住む屋敷へと辿り着く……


「そこで止まれ、いくらユーリ様の娘でも理由を告げずここに立ち入る事は許されない」


 メル達は扉の前に居る兵に足を止める様に言われ、その場で止まる。

 すると、彼女達の様子に頷いた兵は口を開いた。


「それで良い、要件はなんだ……」


 メルは目の前に居るその人の名を知らなかったが、その声は何度も聞き、顔も見慣れた人だった……会う度に母、ユーリの武勇伝を聞かせてくれた。

 それは首無しのグリフィンをたった一人で……それもたった一つの魔法で倒したという物だった。

 攻撃魔法が苦手の母が居るはずもなかった首無しの魔物に勝った。

 しかも、この街を救ったと聞いてはその子供であるメルは勿論大はしゃぎだった。

 今は無いトーナやアルムを始めリラーグやオークの森、フィーナの故郷であるフォーグ……

 他の人にも話を聞いた事はあるが、メルが好きだったのはこの話だった……


「メアルリース・リュミレイユ……要件は?」

「あ、はい……その、私がリラーグを出る件で一つ話しておかないといけない事が出来ました……状況が状況です、すぐにでも王、シルトさ……まにお会いしたいのですが」


 そんな事を思い出しつつメルは思わず『さん』と言いそうになるのを堪え用件を伝える。


「そうか、すぐに取り次ぐ……ここで待っていてもらえるだろうか?」


 彼は要件を聞き入れてくれて扉を叩く、すると中から一人の兵士が出て来て彼へとメルの要件を伝えるとこちらへと向き直った。

 メルはその向けられた顔、それも複雑そうな物に首を傾げる……


「噂だとは思っていたけど、出ていくと言うのは――」

「……本当です」


 その前に……エスイルの事を話して誰か強い人について来てもらう。

 そうしなければ、この小さな子は危険を避ける術がない……メルだけではなく、クルムは勿論リアスも分かり切っている事だ。

 だが……目の前の人に話せない、メルはそう思った。

 リアスに言われた事も理由ではあるが、あれ程危険な人物が狙っているのだとしたらと考えての事だった。


「そうか……そうだ、これを持っていくと良い」


 そんなメルの思いを知る由もない彼は懐から小瓶を取り出し、差し出して来た。


「え? これって……」

「一つでもあるのと無いのとでは違うはずだ」


 メルは兵士に手渡されたそれが何なのかは知っていた。

 薬師シンティアの作った薬で生産数がかなり少なく、高価な物。

 その分、効果は十分すぎる程の物だ。


「そんな、悪いですよ!」

「私はこのリラーグからあまり外には出ないし、悪くなる前に使うべき人が使った方が良い」

「でも、ユーリママだってすぐには駆け付けられないかもしれないんだよ!?」


 メルの言葉に門兵さんはハハハと笑い大丈夫だと答えた。

 彼女はその様子に不安を覚え、薬を返そうとするのだが……兵士は断固として受け取らず……

 そんなメル達のやり取りを見てかボロボロのローブに身を包んだ男性、リアスはそっと彼女の肩に手を置いて来て囁く。


「メル、それは受け取っておこう、安全の保障にはなる……それにその人が無駄に心配するだけだ」

「それは、そうかも……だけど」


 リアスの言う事は最もだった。

 メルの魔法でもちょっとした傷なら癒せる……そう、ちょっとした傷だけならだ。

 魔物の攻撃をまともに受けたりしたら治せない、だが、薬草や薬さえあれば魔法の効果を高めることが出来る。

 そう考えると、手渡された薬は喜ばしい物だ。

 何せ普通の薬草や薬は三個で銀貨一枚……渡されたのは一個で銀貨五枚だからだ。

 だがメルはそう考えると、やっぱり……と思ってしまった。


「あの……これ……」

「なに、私はまた買うさそれ位の給料はもらっているからね」

「そうだぜ、門兵って夜毎晩飲んだくれる金ほど貰ってるってエロ師匠から聞いたぞ」


 メルはいくらなんでもシュレムの言い方は失礼ではないだろうか? と思ったが、兵士がそれに笑い声を上げた為、言葉を飲み込んだ。

 彼はひとしきり笑った後に――


「その通り、薬より毎晩の酒代の方が高くつく一日我慢すればいい事さ」


 とメルは告げられ――


「その、じゃぁこれ受け取っておきます、ありがとうございます!」


 彼女はそう礼を告げた。


「ああ、道中気を付けて……ん?」


 兵士の言葉が終わると同時に扉はゆっくりと開き――

 中からは先程、用件を伝えに行った兵が顔をのぞかせた。


「お会いになるそうだ、メアルリース・リュミレイユ……今から案内する」


 そう告げられたメル達は門兵へと礼を告げ屋敷の中へと足を踏み入れる。

 先程ナタリアと来た時はこんな事になるとは思っていなかった……

 勿論、やってはいけない事をしてしまった訳でそれなりの罰を受ける覚悟はあったのだが……メルはこの二日間で身の回りが変わってしまった事を改めて感じつつ――


「大丈夫だとは思うが、無礼の無いようにな」


 ――王シルトが待つ部屋へと通された。


「旅支度をしていたと聞いたけど、挨拶に来た……という訳ではなさそうだね」


 シルトは椅子に座ったまま顔を動かし、クルムとエスイルの方へと向ける。


「は、はい、その問題がありまして……」

「問題って言うのは?」

「その、首飾りはエスイルに届けられるものでした。ですが、この子は遠い所に行ってやらなければいけない事があるみたいなんです……」


 それはもう避けられない運命なんだろう……だからせめてとメルは祈る様に次の言葉を告げた。


「それで、強い冒険者を例えばママ達とか連れていくのを――」

「メアルリース!」


 突然名前を呼ばれたメルは背筋を伸ばし、シルトの方へと向く――そこには真面目な顔の男性が居て……


「言ったはずだ、首飾りを届けろと……エスイルに届けたのなら、それで君に言いつけた罰は終わりのはず、違いますか?」

「………………」


 彼女は言葉を失った。

 彼は言ったはずだ、特別扱いは出来ない、と……なのに――


「それ以上、自ら危険な事に首を突っ込む必要はない、それにエスイルもまだ子供だ……旅に出る必要は――」

「でも、それじゃ精霊が居なくなっちゃうんだよ? それを助けられるのがこの子だけなんだよ?」


 彼女がそう言うとシルトは視線を動かし……


「君は?」

「……お初にお目にかかります、リラーグ王……リアス・アルリッドと申します、この度この少年に首飾りを届けに参りました……勿論その護衛も……」


 リアスの言葉を聞いた、シルトは頷き――


「ならば、この者に任せれば良い」


 メルはそう告げられ、頭の中が真っ白になった気分に陥る……目の前に居るシルトは何を言っているのだろうか? と……

 そして、徐々に思考は蘇ってくる中、メルの頭に浮かんだのはリアスを死なせたくないと言う旅立ちを決意した理由だった……


「……ああは言った手前だ、納得はいかないだろう。だが、個人的には恩人達の娘に死んでほしくは無い」

「――――ッ!!」


 メルもシルトの言いたい事は分かってるつもりだ、気持ちも嬉しくないなんて事は無かった。

 だが、メルは――


「私は……彼一人じゃ危ないと思います、私が行けないならせめて――」

「冒険者は依頼と金で動く、それは誰であろうとも変えられない、私だって頼み事がある時にはちゃんと依頼と金を用意している」


 そんな事は知っている、だが、メルの母達はそうとは限らない事も彼女は知っていた。

 精霊を助ける旅、それに付き添った彼女は見たのだ……

 ある村の近辺で魔物が巣を作り不安に思っていた人々を無償で助けるのを……

 金にうるさいバルドでさえ、本人は落としたと否定していたが孤児院に金を置いてきた事を――

 誰かの為になるなら例え無償でも依頼をその人達の為になる事をこなす……そんな冒険者になりたくて彼女は両親(冒険者)達に憧れた。


「リアスと言ったね、残念だけど私の一存では冒険者をつける事は出来ない、すまないが自身で依頼を出してくれないか?」

「……そうですが、では――」


 そう言って去ろうとするリアスはメルの横を通り過ぎ――


「メル、ありがとうな……」


 魔族(ヒューマ)であれば聞き取りづらいであろう声で囁いた――

 慌てて振り返ると彼の手には彼女が鞄に入れておいた首飾りを入れた箱が握られている。


 それを見たメルは――嫌な予感がし、声を張りシルトへと告げた。


「私はついて行きます!」


 まだまだ力不足、そんな事は分かっていた。

 彼女自身、驚くほどの声だったからだろう、周りに居る人達だけではなく、離れて行ったリアスもメルの方へと振り返って目を丸めていた。

 その場に居る殆どの人間が呆然とする中、溜息が一つ聞こえ……


「…………メルが行くならオレも行くとしますか」


 メルの血の繋がらない姉シュレムのそんな言葉が耳へと入った。


「メル!? それにシュレムまで! 君達は――」

「うるせぇな、依頼だの金だの知らないって! オレらの親はそんなの取らずとも人助けしてたぜ? 第一弟と言っても良いエスイルに関わる事だ、オレらが行っても問題ないだろ? オレらはエスイルの姉とも言えるし、なにせ――」


 シュレムはメルの方へと向き、片目を瞑る……彼女がメルに味方してくれる時にいつもやってくれる合図だ。

 この後メルには彼女が何を言うかは分かった……そう、彼女達は――


「「冒険者じゃないんだから」」


 それは憧れたものでは無いと言う事……だが、彼について行ってもそれは彼女達の自由を現す言葉だ。

 だからこそメルはこの時ばかりは言葉通り憧れたモノじゃなく、憧れた人達になるべく……そうはっきりと口にした。

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