24話 追跡者は?
シルフとクルムにより母ユーリでは精霊を救えない事を知ったメル。
だが、唯一の手であるエスイルの力を頼るには彼は幼すぎた……
メルはリアスとエスイルの母クルムと共に王へと相談するべく屋敷へと向かう事にしたのだが、どうやら何者かが彼女達を追って来ている様だ……
メル達は賑わう街の中を歩く……だが、先ほどの足音と匂いはずっとついて来ているままだ……
不安を覚える中、メルはふと気が付いた。
石鹸の匂いに交じり、一度嗅いだようなものがある事に……それは勿論ユーリ達の匂いでは無い事はすぐに分かり何時嗅いだのか、必死に思い出そうとする。
「…………」
「メル、どうした?」
メルがそれを思い出そうと考えこんでいるとリアスに声を掛けられ……彼女は彼の方へと向かずに答える。
「うん……ちょっと――ッ」
今追って来ている人を知っているかもしれない……そう言おうとして言葉に詰まる。
もし、自分の知り合いであったらここまで悩むだろうか? と……今横に居る少年の匂いだって覚えている。
例え数日離れたとしてもすぐに分かる、そんな自信が彼女にはあり……視線だけを動かし、リアスの方を見て……彼女は思い出した。
だが、その人物はそこには居ないはずだ。
来れる訳が無い――
「――――っ!!」
「メル?」
だが、その臭いは間違いなくソレだ。先ほども感じたが微かに鉄の臭い……恐らくはそれは血の匂いだったのだろう……
それもメルの思い出した人物であれば納得が出来た。
同時に最悪の状況に怖気を感じ、冷や汗は背中を流れる、もう少し、たった数十歩足を動かしてしまったら人が少なくなっていくだろう……
「おい……どうした?」
メルはリアスの声で意識を取り戻し、彼へ事実を伝えようと口を動かす。
すると――彼女の動かした視線の先――彼へ迫っているのは銀色の線。
それが何なのか理解するのに彼女には時間は要らなかった――だが、それを伝えようとする彼女の声は出ず……
「―――――ッ!!」
刃は無情にも彼へと近づいて行く、メルだけではなく彼も警戒していたはずだがメルに気を取られたのか気が付いていなかった。
だが……それに気が付けたメルは違った。
声は発せなかったが、腰にある剣――祖母ナタリアから受け継いだアクアリムへと手を掛けた彼女はそれを引き抜き――
それと同時に周りの人々は気が付いたのだろうメルの耳には悲鳴が届く、だがそんな事は彼女にとってどうでも良い事だった。
『その気になれば水の刃を飛ばす事も出来る』
ナタリアが言ったその言葉を信じ、彼女は祖母と同じ名の剣へと魔力を込め振り下ろす――
「リアス、避けてぇぇぇぇぇぇ!!」
メルがやっとの思いで出した声を聞きリアスは即座に避けるが、中途半端に避けた所であの巨剣から逃れる事は出来ない。
だが、メルの放った水の刃からは見事に逃れる事ができ、彼女はそれに安堵する。
何故なら彼女の放ったそれは音を立て、鋭利な刃へと当たると凶刃の勢いを殺すまではいかなかったが刃を逸らす事は出来たからだ。
そのお陰もあってか、リアスは危機一髪……刃から逃れる事が出来た。
「チッ!! やっぱり出てきやがったか……」
「やっぱりって……どういう事!?」
メルが覚えている限りではあの時、動けたのは一人であり、残った二人は亡くなったか、捕まったはずだ。
疑問に思うメルだったが、もう一つ気が付いた。
捕まったのは二人……目の前に居るのは老人の方だ、ラゴンと言う男が居ない事に彼女は気が付き
嫌な予感を感じた彼女は慌ててクルム達の方へと目を向ける……
だが、あの大柄の男性の姿は見当たらず、それに対し彼女はますます焦りを覚えた。
「お嬢ちゃん、ラゴンを探してんならもうこの世じゃ見つからねぇよ……」
そんなメルの疑問に答えるかのように老人の声が聞こえ、彼女は老人の方へと目を向ける――
するとなにか黒い球の様な物が投げられてきて、彼女は咄嗟にそれを剣で払った。
地へと落ちたそれは粘りのある音を発し、周りからは先ほどよりも大きな悲鳴が聞こえ始め――メルはそれへと目を向ける。
「――――ひっ!?」
以前ならこれを見て悲鳴をあげるなと言われたら無理だと答えただろう。
現に今だって彼女は手で押さえた事で悲鳴を飲み込んだ。
周りに守る人が居なければ、それさえ出来なかったと彼女は思う――
それが視界に映る度に仲間じゃなかったの? と言う疑問が浮かび上がるそれは――
「俺の言う事聞かねぇ子には用がねぇ……」
ラゴンと言う人の頭だった……
「だが、可愛い方のガキの仇は取ってやらねぇとなぁ!?」
その言葉と同時に老人は大地を蹴り、メルへと近づいてくるとその刃を振り下ろす……
メルは慌てて剣を構え、身を守るもののアクアリムから伝わる衝撃の強さに恐怖を覚えた。
幸いメルの持つアクアリムというアーティファクトは頑丈だったんだろう、折れはしなかったがリーチェの作品でも折れていたのでは? と思えるほどの衝撃だ。
「どうしたお嬢ちゃん? このゴデスに恐れをなしたか?」
「――ッ!! くぅ……」
剣から伝わる力は重く、彼女の力では押し止める事すら出来ず……
じわりじわりと老人、ゴデスの刃は首へと迫る……
「ルッツの野郎をやったのはお前だろ……まずはその首切り落としてやる……」
「させるかよ!!」
不意に声が聞こえ、メルの持つ剣に加わる圧が少し軽くなる。
メルはその一瞬の隙を本能で動いたのだろうか? 刃から逃れると声の主を探す。
彼は……リアスはすぐに見つかった。
何処から取り出したのか長い棒を手にした彼は彼女とは反対の方へと立ち、それを構えている……
「そういや、お前にも礼をしないといけねぇな? だが、お前は後だ。どうせここじゃまともに動けないだろ?」
「――――ッ!!」
その言葉は図星だったのか、彼の表情は一瞬固まった……
対しメルはなぜまともに動けないのか? という疑問しか浮かばなかった……彼は強い、たった一人で三人の内二人を黙らせたのだから……そんなリアスが動けない理由が無い。
「…………言ってろよ」
メルがそう思い、それに答えたかのようにリアスは片手を懐へと持っていくと何かを取り出す。
「おいおい、やるきなのか? ガハハハハハハハ!!」
しかし、それを見たゴデスは豪快に笑った……
こんな所で仕掛けてきたのは彼だ……周りの人達もメル達が襲われたのを目にし憲兵を呼びに行った者も中に入るはずだ。
だが、老人には姿には余裕すらあった……
「針、だったか? 神経毒や麻痺薬を塗った物でツボを狙うんだろ? だがそれはあくまで手段がばれてなければの話だ、そうでなくても今ここで投げて的から外れるか、この老いぼれが避けたら被害がどうなるか分かるよなぁ?」
「は、針が……武器?」
メルは口を開け呆然とする。
それもそのはず、吹き矢などの針は知ってはいたが手で投げる物は聞いた事が無かったのだ。
何より針と言われまず最初に思いつくのが裁縫道具だ……
メルが知る限り魔物の中には針を飛ばすものも居るには居るが魔物と人間では力の差がある。
「大方、そのローブの中には仕込んであるんだろ? 針、糸、他にも暗殺の為の武器がな……」
暗殺の武器と言う言葉を聞き、メルはゾッとしリアスの方を見る。
リアスの表情を見る限りではなにも分からなかったが、もしゴデスという老人は何処か勝ち誇った様な表情だ。
ゴデスと名乗った彼の話が本当ならば、老人はあの家の一件でリアスの武器が戦いにくい状況を判断したのだろう……
そして、その不利な状況……つまり人混みの中……同時にそれが私達が安心出来る場所であることすら見抜いていたんじゃ?
「種さえ分かっちまえば、力のないガキが使いそうな手だ――だからよ……」
「……あ」
メルは老人に顔を向けられ、呆けた声をだす……
「魔法を使い、剣を扱えるお嬢ちゃんさえ殺せば後は楽って事だ」
相手はドラゴンを殺すとまで言いその自信もあった男だ。
メルは老人に睨まれ竦み上がりそうになった――
だが、視界の端に映ったリアスの顔を見て、後ろに居るであろう少年エスイルとその母クルムの顔がよぎり、再び剣を構えた。
「ほんの少し目を離した隙に面白い目をするようになったじゃねぇか……てっきり今ので動けなくなると思ったんだがな――!!」
メルの行動が意外だったのか老人は口元を歪めて笑い、再び剣を振るう――
剣で受けては駄目だ! メルは先程の事を思い出し咄嗟に大地を蹴るとその場から離れ避ける。
だが、凶刃から逃れられた事に安堵したのも束の間――彼女の目の前にはゴデスの姿があり――
「……う…………そ……」
刃は再び彼女に向かって落ちて来た……
メルが両手で扱った巨剣を軽々と片手で操る老人に、彼女は力の差を叩きつけられた――
「メル!!」
彼女だけではなく、リアスもだ。
メルを助けようと駆けてきた彼の棒を老人は片手でいとも簡単に凌いで見せたのだ。
「――――くっ!!」
だが、そのお陰でメルには一瞬だけ時間が出来た。
死にたくない、その一心で剣を構え凌ごうとするが、メルは先程と同じ様にはいかないだろうとも感じた。
先程は会話をするために手加減をしていたかもしれないと……今度こそ殺すために本気で掛かっているはずだと……
そして、それでは自身の力では無理だと言う事も――彼女には分かってしまった。
だが、このままでは自分は愚か、リアス、それにクルムにエスイルまでも殺され……
恐らく街の人も犠牲になってしまうだろう……そう考えたメルは奇跡が起こる事を信じ剣を握る手に力を籠める。
しかし、無情にも刃はメルの首へと迫っていき、彼女は恐怖で頭がどうにかなりそうになってしまう中、唇を噛む事で意識を保った……
口の中には鉄の味が染み出し、瞳は熱くなって頬へと涙が流れ落ち――
「じゃあな、お嬢ちゃん」
メルの耳に届いたのは、最後を告げる言葉だった……
そして、その言葉で彼女は奇跡を信じることが出来なくなり、手からは徐々に力が抜けていく……
「メル!!」
リアスの声が頭へと響き、どうにか彼らだけでも助かって欲しいなと甘い考えを残し……もう首の傍へと近づいた刃を悔しそうに睨みつつ……メルはそれを待つしかなかった――
「テメェ!! 人の女に手を出してるんじゃねぇぞぉぉぉぉぉぉぉぉ!! このクソ爺がぁぁぁぁあああ!!」
だが、メルがそれを受け入れ、短い命が終わったと完全にあきらめかけていた時――
辺りに声と音を響かせメルの目の前に割って入ってきた影は――
「…………え? シュ……レム……?」
「…………シュ、シュレムちゃん?」
「シュレムお姉ちゃん!」
「な!? 誰……だよ……」
――メルの首を切り落とさんとする刃に巨大な盾を叩きつける女性の姿で……それはメルの家族でもある――シュレムローネの姿だった。




