23話 精霊
リアスの目的は首飾りをエスイルという少年に渡し……遠い地に導き精霊を助ける事だった。
だが、メルはそれならばわざわざエスイルを危険な旅に出さずに母ユーリの力を借りれば良いと言うのだが……
それはクルムとシルフに否定をされてしまった……
果たして、その理由とは……?
クルムは自身のお茶の中に砂糖を入れ始めると口を開く……
『それは……ユーリの魔法はあくまで弱った精霊を元気にするだけなんだよ』
シルフが口にした事はメルも知っている事だ。
だが、その上で彼女は疑問が晴れなかった……
「リアスは……精霊が弱ってて神子は精霊に活力を与えるって」
そう、確かにそう言っていたのだ。
「待ってくれメル……誰と話してるのかさっぱりだけど、俺が言ったのは精霊に活力を与える存在が神子、そうしないと精霊を失うって言ったはずだ」
「だ、だからそう言ってるんだけど……」
メルは間違っていないはずであるのに、何故かリアスは首を横に振る……
そして……
「残念だけど失うって事は消えてしまう……精霊が死んでしまうって事なんだよメルちゃん……ユーリさんの魔法は確かに弱っている精霊に元気を与える事も出来る、だけど――」
それに答えたのはクルムであり……メルはその言葉を聞き目を丸めた。
彼女はクルムが言っている事に驚き、すぐに飲み込むことが出来ず……やっとの思いで発した声は……
「……え?」
と言うたった一言。
それに続く様にシルフとクルムの声は――
「『あの魔法じゃ新たに精霊を生み出す事は出来ない、それが出来るのは神子だけなんだよ』」
――重なって彼女の耳へと届いた。
「……え?」
間を置き、メルは先程と同じ声を発する。
今度は理解が出来なかったのだ……確かに精霊は生きている……その始まりつまりこの世に生まれているということはエルフが生み出しているとメルは考えていたからだ。
例えエルフの子と呼ばれる森族や鬼族だとしても……ましてや男であるエスイルでは無理なはずだ……と――
「俺には良く分かってない、だけど精霊が居ないと世界が滅びるってのは分かる、水は腐ったり気温は下がったりする……メルのお母さんがどんなに精霊を元気にする魔法があっても、元気にする精霊が居なければ意味が無いって事だ」
「それは分かってるけど……で、でも……その精霊はエルフが生み出してるんだよ……ね?」
メルはリアスの言葉に答えつつクルムの方へと向く、しかし帰ってきた答えは――
「確かに昔はエルフが精霊を生み出していたの、だけどその力はエルフに最も近い森族に与えられた……もうずっと昔の事だけど」
「そ、そんな事聞いた事無いよ!!」
母フィーナや森族だ。
メルの知人の中には森族も多く居る、なのにその話は聞いた事が無いのだ……
何故? と疑問に思う中、彼女は一つ自身母とジェネッタ、そしてエスイルが自分と違う事に気が付いた。
「だ、だったらエスイルじゃなくても良いんじゃ? ほらフィーナママやジェネッタさんだって私達には見えない精霊が見えるんでしょ? その資格は十分にあるんじゃ?」
思い出したのは母達だけが見れると言う精霊の話だ。
ソティルも含めその精霊はメルには見た事が無い、彼女はそれが条件なのでは? と思いもしかしたら二人なら、と考えた。
「生命の精霊の事ね? 確かにこの街の大人では私を含めて三人見れる人が居る……けどね、それとは全く違うの精霊を生み出す力というのは森族の中でもある村に住む者の中でも特別な力、その人達は村を出る事無く一生を終える。……恐らくだけど、その首飾りが外に持ち出されたのは今回が初めて」
「意味が分からないよ……」
メルはその言葉を身体で表しているのか頭を抱え力なく尻尾を垂らした。
何故同じ精霊が見え、感じ、会話も出来るのにエスイルでなくてはその力が無いのか……何故まだ小さく抗う力も無いエスイルなのかと……
「って生命の精霊ってクルムさんも見えるの?」
「ええ、その村の者は見える才能がある人が多いの……私は村の出……森で木の実を集めていた処を攫われたから……」
クルムはそう語ったが、メルは攫われて来た事は勿論知っていた……そしてそのお陰で母ユーリが彼女に救われたという事もだ。
同時に何故この話に彼女が詳しいのかが分かり……現状が覆らないのも理解した。
その証拠にクルムの顔は陰りを見せ……その瞳は何処も捉えてなかったのだ……
「正直幼いとは聞いてました……」
「ええ、さっきも言ったけどその首飾りは成人の儀が終わってから神子に渡されるの……村の中での事だし、魔力が無くなれば命にかかわる魔族と違って精霊力を失っても森族が死ぬ事は無い……だけど、成人する前に渡されるなんて……」
辛そうに話す彼女を見て、メルは隣に居る少年へと言葉を掛ける。
「ねぇ、リアス……その、やっぱり王様に頼んで強い冒険者について来てもらおう? それならクルムさんも安心だし、私も安心できるよ」
話を聞く限りもう避けられない事なのだろう……ならせめて強い冒険者がついて来てくれてばとメルは思った……
そして、強い冒険者と言えば彼女は自分の家の冒険者が適任だとも感じていた。
例えばユーリが意外な時や土壇場に頼りになると言っていたケルム、メルとしては少々の身の危険を感じるが彼にでもついて来てもらおうと……
「そうだな……三人なら何とかなるかもしれない……どうでしょうか?」
メルの案にリアス首を縦に振るとクルムは首を傾げ……
「三人って……それってまさかメルちゃん?」
「えっと……その事は後でちゃんと話すよ。それよりもシルトさんの所に行こう?」
こうなった以上、クルムにもちゃんと話すべきだと感じたメルはシルトの所でこの話を伝えようと心に決めた。
護衛対象が子供だと言う事が分かったのだ……危険だと分かっているなら彼もきっと話を聞いてくれるはず、メルはそう思いつつ、目の前にあったお茶を飲み干す。
「――――っ」
全く砂糖を入れてなかったお茶は苦くその渋みに顔を歪めるメルだったが……
「え、ええ、そうね……神子の事は私が話をした方がよさそうね」
そんな、メルに釣られたのだろう、クルムもすっかり冷めてしまった自分のお茶へと口をつけ――
「っ!? 甘っ!?」
っと叫んでいた……
家を後にした彼女達はその足で王の屋敷へと向かう……護衛対象が近くに居るからだろうリアスは先ほどより張り詰めた空気を纏っていてメルは話しかけづらく感じた。
だが、彼女自身ここで和やかに話す気分にもなれなかった……
鼻を利かせ辺りに警戒するのは彼と一緒だ、なにせもしかしたら彼の言う追手が今エスイルを狙うかもしれないそう思えて仕方がなかったのだ……
勿論、首飾りも大事だ……なにせそれは精霊の命に係わる物なのだから……更には酒場に居る弟よりも可愛い弟と思えるエスイルを守らないといけないと気を張っていた。
「メル……」
そんな中、メルの耳に聞こえたのはリアスの声だ。
その声は小さく、何かに注意するようにと言っているかの様で――
「うん……」
メルは彼の声を聞き耳を立てそれには気が付いた。
何者かがついて来ている……これまで気が付けなかったのは相手が相当な腕前なのだろう……しっかりついて来ているというのにその追手の足音だけが聞こえない……メルもそれなりに修業を積んできてはいたはずだ……だが、彼女では言われないと気が付けない程の尾行……
しかし、気が付いた今となっては逆に不自然にしか思えないその音は一瞬だけ音が遅れ……慌てた様にまた重ねてきた。
やはり変だ……メルはそう感じ鼻を利かせてみるが……嗅ぎなれた街の匂いの中に変な所は無かった……
そう、変な所は無い、いつも通りの人が歩き……屋敷で嗅いだようなニオイもある。
だからこそ、彼女は横を歩く少年へと問う。
「どうする……?」
メルは彼の言葉が返ってくる間も警戒をする……すると足音も匂いも彼女達が気が付いたと知ったのだろうか? 近づいてきた。
その音に動揺をするメルだったが、リアスは冷静で――
「俺とメルが一緒に居る所はすでに見られてるかもしれない……下手にばらけるのは危険だ……」
「うん……なら二人に先に行ってもらうのは?」
メルの提案にリアスは首を振る。
良い案だと思ったんだけどな……と残念に思いつつもメルは続いたリアスの言葉を聞きそれを諦めた。
「万が一、金で買われた奴が情報を流してるとマズイ……このまま相手が仕掛けてくるのを待つ……警戒を怠らない様にしよう……」
クルムは精霊魔法を使えるかもしれないが、使っている所を見た事はなくその方が二人の安全につながると思ったからだ。
「分かった」
メルは頷かず小さな声で答える。
この道の先には人通りが少なくなる所もある……もし、仕掛けて来るなら其処のはずだ。
メルはそう思い彼の言う通り警戒を怠らない様に再び耳と鼻を利かせる事に集中した。
この匂い……石鹸だよね? って言う事は酒場の誰かが来たのかな……でも石鹸で臭いを消してるのかも……血の臭いも交じってるし、なんか嫌な予感がする……
そう、疑問を浮かべながらも彼女は歩みを進めた。




