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私の夢は冒険者だったのにっ!!  作者: ウニア・キサラギ
2章 旅立ちは唐突に
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22話 母の恩人の家へ

 メル達が向かった家はメルの母であるユーリを救った恩人の家だった……

 そして、リアスの発言から察するに今回の目的であり、ボ営対象は幼い少年……エスイルだとメルは気づいたのだった……

「メル……頼む」


 自分よりも小さな……それも無力な子を連れて行く……メルはこの時ばかりは彼にナタリアと同じ力があって欲しかった……

 それならば、リアスがメルの声に出していないクルムに別れを告げたいという願いを尊重してくれた可能性もあり、子供を連れて行くのが冗談だとも取れたからだ。

 だが、現実は非情だ――


「メル? 聞いてるかメル!!」


 彼の声は近いはずで彼女は狼の森族(フォーレ)の血も引いている。

 かなり遠くの音を聞き分けるぐらいの聴覚はあるはずで自信もあった……なのに今は近いはずの声が遠く感じた……

 だが、彼女が我に返ったのはすぐの事だ。家の中から物音が聞こえ始め、それは徐々に扉へと近づいてくる。

 恐らく……彼女が気が付いてしまったのだとメルは気づき扉から視線をずらす……


「メルちゃん!?」


 だが、視線をずらしたメルの視界に一瞬移ったのは慌てて扉を開け心配そうな顔を浮かべる女性、クルム。

 彼女は兎の森族(フォーレ)、勿論純血だ……当然メルよりずっと耳が良い、だから彼の言葉が聞こえて何かあったのではと心配になって出てきたんだろう。

 そして……


「おねえちゃん!」


 当然のように飛び出して来た少年はメルの目の前に来るとリアスの方へと向き、両手を広げた。

 きっとそれはメルを守ってくれるためなんだろう、彼女はいつもは可愛らしく思えたその行動も今はただ辛く感じた……


「幼いとは聞いてたけど、まさか……メル、君が呆然とした理由がこれか?」


 リアスの声にメルは頷く、すると彼は困ったような表情を浮かべ……


「参ったな……ここまで小さいとは思わなかった」


 彼はエスイルの事を聞いていたとはいえ予想外だったのだろう……頭を抱えている。


「小さくてもメルぐらいだと思っていた……それに特別だって聞いたからな、これじゃまるっきりの子供じゃないか……」

「私は小さくないよ!! これでも十二なんだからね!!」


 一人悲しむ中でも聞き捨てならない言葉を聞き、メルは反論する。

 確かにメルは年相応と言うには小さすぎるのだが……


「うそ、だろ……?」


 嘘などではなく、彼の発言に彼女はますます悲しみよりも怒りの方が膨れ上がり始めた……そんな時だ。


「ええっと……メルちゃん?」


 突然肩に手を置かれる感触がし、彼女が振り返ると其処にはクルムが当然居て――


「この人は?」


 首を傾げ訊ねて来た彼女に対し、メルは彼の事を伝えようとするが先に答えたのは――リアスだった。


「貴女、いや……正確には息子さんに用があって来たんだ。突然の訪問で申し訳ないけど家に入れてもらっても良いですか?」


 彼は警戒させない様になのか柔らかい口調だ。

 というよりは多分、彼女との出会いが悪かっただけで本来はこっちなんだろうな……とメルは思っているとクルムが再びメルへと視線を戻した事に気が付いた。


「本当だよ、そのちょっと……ううん、かなり問題があるからクルムさんも聞いてほしいんだ……」


 メルはクルムにそう告げながらももし、ちゃんとした理由でなければシルトさんに告げてでも止めようと考えた。

 護衛する者が本当にエスイルなら親であるクルムに話は通さなければいけない……

 だが、こんな小さな子を連れて行かなければならない依頼ってなんなのか? 本当にこの少年でなければならないのか……そんな疑問を浮かべていると――


「……分かった、どうぞお入りください」


 クルムは彼女のお願いもあってリアスを手で家へと誘う。

 彼は頭を下げた上で言葉を添え礼を告げた。


「ありがとうございます」


 それを聞いたクルムは家へと入り、彼女達も続く……問題のエスイルは彼女にくっ付いて来ていてメルは懐いてくれるのは嬉しく感じたが同時に歩きづらさを感じていた。

 困った様な笑みをエスイルへと向ける中……後ろから小さな声で――


「どうしたら良いんだ……」


 と呟くリアスの声がメルの耳に聞こえた。





「お茶を用意しますね」


 彼女の旦那であるカロティスは仕事中なのだろう家の中にはおらずメルは少し残念に思いつつ勧められた椅子へと腰を掛けた。

 するとお茶を取りに行ったのだろう、クルムはその場から去り残されたのは三人だ。


「…………」


 しかし、その中でも相当困っているのかリアスは頭を抱えたままで――


「リアス、だ、大丈夫……?」


 彼女は心配になり声をかけると彼は力なく首を横に振った。


「駄目だ、少しでも戦えるメルぐらいならまだ何とかなった……」

「す、少しって……」


 メルは確かに芋虫の様にされてしまい、それを救ったのは隣に居る少年リアスだ。

 だが、同時に彼を救ったのも彼女……もう少し評価してくれても良いのではないか? とメルは不満を覚えたが、目に映るリアスは頭を抱えていた手を顔をへと移動し、深いため息をついた後に手を降ろしたかと思うとエスイルの方へと目を向け再びため息をつく……そんな様子を見て言葉を飲み込んだ。

 彼の様子を見なくとも状況は最悪だ……それぐらいはメルでも理解が出来た。

 いや、誰でも分かる事だろう……だが――


「ね、ねぇ……どのぐらい良くない状況? 二人じゃ無理?」

「最悪だな、守りながら追手をどうにかして大陸を渡り、目的の場所まで行かないと……そこが近いならまだ話は簡単だった」

「状況が状況ならシルトさ……王様に頼んでデゼルトの翼を借りるとか……出来るとは思うよ?」


 メルは首飾りを見た時のシルトの反応を思い出し、提案する。

 母の龍に乗るのに王の許可が必要と言うのはメル的には疑問ではあったが、……空を駆ける龍であるデゼルトの飛龍艇ならば、安全にそれも早く移動することが可能であり、恐らく現状であれば許可も得られるだろうと思ったからだ。


「それが出来たら最初から噂の大魔導士に頼んで転移陣を作ってもらってるって……」


 大魔導士と言われると……メルが思い当たる人の中では祖母であるナタリアしかおらず、転移陣を使えるのもその人だ。

 彼女ぐらいしかそんなことは出来ないだろうが、メルは自分が関わってしまった時点でその案が取り消しになっている事を心の中で謝罪した。

 そして、彼の言葉から推測し――一つの答えに行きつく


「龍も転移も駄目なんだ……」

「ああ……」


 恐らく確実に安全だと言える二つの方法が封じられ、メルも彼と同じように顔を手で覆う……


「お待たせ……って二人ともどうしたの?」


 彼女達が項垂れていると戻ってきたクルムは心配そうな声を出し……


「おねえちゃん?」


 エスイルは疑問を浮かべ、今頃メルの顔を見上げている事だろう。

 弟よりも弟らしく可愛らしいこんな少年が弟だったら良かったのにと感じつつも彼女は今回はエスイルが無力である事に悩んだ。


「メルちゃん? それに君も……大丈夫?」

「え、ええ……すみません、大丈夫です。その、訪ねて来た理由をお伝えします……」


 とはいえ、リアスは覚悟を決めたのかクルムの方へと顔を向けそう話しかける。

 するとクルムさんは彼女達の目の前にお茶を出してくれて自身も椅子へと腰を掛けた……


「その……初めまして、ですよね?」


 当然、クルムはリアスの事を知らないのだろう、そう口にするとリアスは頷き答える。


「ええ、今回と言うか……本来は別の方が来るはずだったのですが、急遽俺が……それはともかくメル、アレを出してくれるか?」


 アレと言うのはメルが持っている物の事だろうと察した彼女は懐から首飾りが入った箱を取り出し、クルムに見える様に蓋を開けた。

 そこまでしたら注意されるかと思ったが、リアスは何も言わず……それをクルムに見せるのには何の問題も無さそうだ。


「えっと、これはリアスが持ってたの私は良く分からないんだけど……大事な物らしいんだ」


 そう伝えつつメルは彼女の顔をうかがう。

 そこにはいつもの笑顔はなく目を丸くし明らかに驚いている様子の女性の姿があり――


「――――え?」


 彼女は暫くの沈黙の後その言葉を発した。


「本当は村の人が来る予定だった……だけど、途中魔物に襲われてた俺を助けて……そのまま……俺は彼が死ぬ前に話だけは聞けてここまで来たんだ……勿論それを受け取る人間が誰かは貴女は分かるはずだ」


 リアスの言葉にクルムはゆっくりとエスイルの方へと目を向ける。

 彼の言葉通り誰に対し渡されたのかが分かっているみたいだ。


「で、でもこの子は……それにこれってこの子には早すぎる、と思うんだけど……」

「俺は良く知らないよ……ただ、世界の危機で精霊の危機とも聞いた……まだ、変化はそれほどないって言ってたけどな」


 世界と精霊の危機? 一体何の話をしているのか、メルは分からなかった。


「ええっと、リアス……どういう事なの?」

「だから、俺も詳しくは知らないが、どうやらこの首飾りは神子(みこ)に渡される物で神子は精霊力が豊富にあって、その力で精霊に活力を与えるらしい……良くは分からないが、そうしないと世界はいずれ精霊を失うって言ってたな」

「そんな! それなら早く言ってよ!! 一回家に戻ろう!? ユーリママなら何とかしてくれるはず!!」


 メルは慌てて席を立ちあがる。

 そんな状況を打破できる人物は自分の母しかいないと分かっていたからだ。

 現にユーリの魔法には精霊に活力を与える事が出来るものがあり、それさえ唱えれば例え腐った水であろうが枯れた大地だろうが精霊の住処となるまで回復できる。

 それのお蔭で今リラーグは……いや、このメルン地方は救われたような物なのだから……


『駄目だよメル』

「――っ!!」


 きっとなんとかなる、メルがそう思った矢先聞こえたのはシルフの声で……


「あのな、ユーリママって人は確か魔族(ヒューマ)だろ? どうするって言うんだ」

「なんで?」


 リアスの声はしっかりと聞えている、だけどそれよりも彼女が気になったのはシルフの声で……


「なんでってお前……」

「ええっと、メルちゃんはリアス君に聞いてるんじゃなくてね……」

「へ?」

「なんでダメなの? シルフ……」


 彼女は相棒である精霊に問う……

 いつもならすぐに答えてくれていたシルフは珍しく少し沈黙を保ち――


『それはね――』


 ゆっくりと言葉を紡いだ。

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