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私の夢は冒険者だったのにっ!!  作者: ウニア・キサラギ
2章 旅立ちは唐突に
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21話 護衛対象は?

 出かける前にメルは肉巻き屋へと寄ろうと提案した。

 勿論、別れを告げたかった事もあるが、リアスの事もあり向かったのだが……

 そこに待っていたのはメルの特別扱いに対する不満だった。

 メルとリアスは何とか彼らに去ってもらうと店主に事情を説明し始めたのだった……

 肉巻きを食べつつメル達はその日に起こった出来事を店主へと話した。

 メルの話が終わりに近づくにつれ店主の顔色は段々と変わっていき……


「って事はメルちゃん、まさか二人で旅をするって事か!?」

「えっと……」


 護衛対象が居るから二人と言う訳ではないが、メルはその言葉を飲み込んだ。


「ほ、本当に二人なのか!?」


 何故店主が二人と言う部分に固執しているかが分からなかったからだ。

 もしかして、いくら英雄の娘だと言ってもメルは子供、二人だと言う事を心配してくれているのだろうか?

 それとも単純に二人で旅立つ事を危惧しているなら護衛対象が居る事を告げておいた方が良いかもしれないし、もしかしたら人を紹介してくれるかもしれないと考え彼女はやっと口を動かした。


「えっと護――」

「後で仲間と合流する……勿論女の人も居るよ」


 その言葉にメルは目を丸くし驚いた。

 仲間が居るとは一切聞いてなく……いや、そもそも居る訳が無い。

 もし居るのならメルが協力を申し出た時に告げるはずだ。

 しかし、メルは彼の嘘が店主を心配させまいという事だと理解し……その場は口を閉ざした。

 

「な、なんだ……そうだったのか……坊主、メルちゃんを頼むぞ」


 メルの横で店主の言葉を聞き、残っていた肉巻きを口へ放り込んだリアスは――


「分ってるさ……これ美味かった。またリラーグに来た時は立ち寄らせてもらうよ」


 そう言って立ち上がる。

 それを見てメルも残ってた一欠片を口の中へ放り込むと慌てて立ち上がった……


「なんだ、案外良いやつじゃねぇか! しっかり仕事して来いよメルちゃん!」

「うん! 頑張ってくる!!」


 仕事ではないんだけど、手を抜く理由は無い。

 何せ野盗や強盗だけではなく魔物も居る外に行くのだ……手を抜いたらその場で死んでしまう事は目に見えている。

 その事をメルは改めて心に刻むとリアスの方へと顔を向けた。


「行くか?」

「そうだね」


 メルは彼の言葉に同意し歩みを進める。

 勿論――


「おじさん! 行ってきます!!」


 仲の良い屋台の店主にそう告げながら……




 それから暫く歩いた所でリアスは小道に入った。

 この先には何も無かったはずだと思いつつメルは彼の後を追うと……

 小道を少し進んだ所で彼は辺りを見回すと突然振り返り、彼女を壁へと追い詰め人差し指を向けて来る。

 メルを追い詰める彼は少し怖い感じがし、……それでも心臓は何故かバクバクと鳴り始めた。


「ど、どうし、たの?」


 そんな中、若干震えてはいたもののなんとか声に出した質問に彼はすぐに答えてくれた……


「良いかメル? 俺達は人を守るのが仕事だ……対象もまだ幼いって聞いてる。あまり外でしゃべらない方が良い」


 だが、その声はあまりに小さく……近くにいるメルが狼族の血を引いていなければ聞こえない位だろう声だった。


「おじさんは――」

「あの人は人を騙せそうではない、無害だろうだけどあの人が仮に俺達の為に人を紹介してくれたとしてそいつはどうだ? 彼の知り合いが善良とは限らない」


 彼の言葉にメルは思わずドキリとした……

 あわよくば人を紹介してもらえたら……彼女はそう思っていたからだ。

 同時に店主の紹介してくれる人が悪人かもしれないと言われ、彼女は理解出来なかった。


「メルが騙されたように一見善良な老人が悪人だって事もある」

「ぅぅ……」


 それを言われるとメルは何も言い返すのは無理だ。

 結局それで彼を悪人と勘違いし、メルは自分で盗んだ鞄を取り返しに行き捕まってしまったんだから……

 恐らく世界中を探しても変人に捕まった次の日に別の人に捕まる人なんていうのはメルぐらいだろう、そう思うと彼女の気分は沈んでしまい尻尾をくるくると丸めた。

 尻尾はリアスからは見られていないはずだが、顔には出てたようで彼は大きなため息をつくと……そっと頭に手を置いて来た。


「それに追手が来る可能性がある以上、情報の漏洩は防ぎたい……出来るだけな?」

「分かった……」


 メルが頷き答えると、彼は微笑み来た道を引き返していく……

 彼女は自分が街を離れるという辛さを感じていた中でも外を冒険できるって言う嬉しさもあって少しはしゃいでたのかもしれない。

 そう考え反省しつつ、彼の背中を眺める……すると、メルの目の前の少年は振り返り――


「メル! 早く行くぞ」


 メルはリアスがなんだかんだ言ってやはり優しい人だと思った。

 今だって首飾りを返せと言って取ってしまえば良かったのにそれをせずに先ほどの事を注意し、更にはメルがついて来ていない事に気が付き彼女の名を呼んだ。

 メルはもうちょっとしっかりしないといけない、そう心に刻み彼の後を追いかけた……


 街の中を歩いて行くと広場を抜け住宅が多くある場所へと辿り着いた。

 そこは彼女もよく来る場所だ。

 昔、メルの母ユーリを救ったと言う女性が住んでいて、その人はシュカの友人である事も聞いた。

 優しい人でメルのもう一人の母フィーナと同じ森族(フォーレ)の人だ。


 クルムさんにも会って行ってきますって言いたいな……でも私の為に何度も寄り道するのは悪い気がする。


 メルはそう思い、後で鳥でも出しておこうと決めた後、彼が立ち止まった事に気づく――

 彼が見ているのは一つの建物で視線を懐から出した紙へと向けた。

 なんだろうと思い彼女が横からその紙を覗くと……


「なに……これ、読めない?」

「そりゃ暗号だからな、簡単に読まれちゃ意味ないだろ?」

「な、なるほど……」

「とにかく目的の場所には着いた。この家に居るはずだ」


 彼が言っているのは目の前の家の事だろうとメルがそこへ目を向けると其処には見慣れたと言っても良い家が建っている。


「この家って……」


 ユーリの恩人でシュカの友人……先ほど挨拶をしたいと思った人……クルムの家だ。

 まさか、本当にナタリアと同じ力を持ってて自分の考えを見透かした……とかじゃないだろうか? メルはそれを疑い恐る恐る彼に問う。


「ね、ねぇ? リアス」

「なんだ?」

「人の考えてる事って分ったりする?」


 もしそうだとしたら、メルは気が気ではなかった。

 先ほどから顔が熱くなったり、心臓が激しくなったりしているのもばれそうだし、自分でも良く分からないそれをこの人にバレてしまうのは良くない気がしたのだ。


「分ってたら、メルを泥棒扱いしたりはしてないよ」

「そ、そっか……」


 そう言えばそうだっと彼女はほっとするとその様子を変だと思ったのかリアスは


「所でメル、何でそんな事を?」


 怪訝な表情を浮かべメルに聞いて来た。

 彼の質問にメルは困ってしまった……理由は言えないし、何せ彼女は今気が付いたがそうそうある力では無い事に気が付いた。


「えっと、えへへ……その~」


 そんな特殊な力は世界中を探したってナタリアだけの可能性もある。

 なのに彼がそうだと思った原因、ばれたくない事を言うのは恥ずかしくどう言ったら良いのか分からずに彼女は半分笑ったような声を出す。


「もしかして、ここもお前の知り合いが居るとかか?」

「!! そ、そうなんだよ!! その知り合いと言うか、ユーリママを助けてくれた恩人と言うか!」


 彼の予想も凄いと感じたが彼女は慌てて答えると彼は口元に手を当て少し笑い始める。

 出会った当初なら少し腹が立ったかもしれないその笑顔にメルは何故か少し可愛いのかもしれないと思いつつ、顔を伏せ――


「そ、そんなに笑わなくても……」


 そう呟くと少し頬を膨らませた。


「悪い、悪い……なんか慌ててたからさ……さて、ここの人が知り合いなら丁度良いメル頼むよ」


 頼むよっと言う事はこの家に用があるのは本当なのだろう……

 そしてその用は恐らく、護衛対象が居ると言う事に気が付きメルは驚いた表情で顔を上げた。

 先ほどリアスに言われた言葉を覚えていたからだ。

 護衛対象は幼い、つまりここにいるクルムではないと言う事だ……そして、幼い子と言えば彼女にはたった一人しか心当たりが無かった。


「ちょっと待って!? リアスが探しに来たのはエスイルなの!?」


 彼女はその思い当たる少年を思い浮かべ、名を発する――

 先ほど注意されたばかりだ声は何とか抑えた……


「名前は知らない……だけど、ここの家の一人息子だって言うのは聞いたよ」

「そんな……」


 それではやはり、エスイル事だ……メルはその事実を聞き呆然とする。

 何せ同い年のフォルとは全く違うのだ。

 メルが知る限りエスイルと言う少年はただの子供、フォルの様に知識が豊富な訳でもない。

 そんな子を外に出し……万が一逸れでもしたらエスイルに待っているのは死だけだ……

 優しいリアスが何の理由もなくそんな事をするはずはない……彼女はそう思いたかったが言葉は出ず……頭は真っ白になった……




 メル達が去ってどのぐらい経っただろうか?

 ユーリは酒場の中を見渡しながらため息をついた……


「ユーリ、子はいずれ親から離れる……仕方の無い事だ」

「ナタリア……それは分かるけど机から目を話して言った方が良いと思う……」


 余程、孫が居なくなってしまった事に衝撃を受けているのであろうナタリアは椅子にも座らず机と会話をしている状況だ。

 そんな彼女を見てユーリは本当に娘が行ってしまったんだと感じ……横に座る自身の愛しい人へと目を向ける。


「……フィー」

「だ、大丈夫だよ!? 剣なら私が教えたし、魔法ならナタリーとユーリが……」

「そう、だよね? きっと大丈夫だよね‥‥‥」


 すぐにでもついて行きたい、そう考える三人は揃ってため息をつく……

 そんな彼女達を見て、ゼファーがお茶を淹れ始めた所――


「ユ、ユーリさん!!」


 叫び声と共に乱暴に扉を開け入ってきたのは――


「ノルド君?」

「す、すみません! あの大男の老人が!」


 彼は相当焦っているのだろう、数歩の距離も煩わしいと言っている様にその場から話を始め彼女へと近づく……


「老人……三人組の?」

「はい! そいつが牢を壊して逃げました――! 看守は……」

「――っ!!」


 その言葉で彼女は何が起きたのか理解したのだろう、乱暴に椅子から立ち上がると――


「フィー!!」

「うん!」


 フィーナへと声を掛け、すぐに酒場の中へと目を向ける。


「はぁ……やれやれ悲しんでる暇位あっても良いだろうに……動けるものは集めて置く二人は先に探して来い」

「ありがとうナタリー」

「行ってくるよ!」


 二人の冒険者は母でもあり親友でもあり姉でもある女性にそう告げると兵と共に酒場の扉から飛び出した。

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