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私の夢は冒険者だったのにっ!!  作者: ウニア・キサラギ
1章 冒険者になりたいっ!
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1話 メアルリース

 冒険者に憧れる少女の名はメアルリース・リュミレイユ。

 嘗てタリムに巣くっていた不死の王と言う魔物を倒したユーリの娘だ。

 だが、そのユーリはメルに冒険者になって欲しくないようで……?

 メルは龍に抱かれる太陽と言う酒場の中にある家へとユーリに連れて行かれた後、もう一人の母フィーナ、とても祖母とは見えない若く美しい女性ナタリアの四人で食事をとっていた。

 いつもは酒場で食べる事が多いのだが、今日は家族が揃っていた事もあり屋敷の方で食事にしたらしい。

 長机の上に並べられた手料理は酒場の店主ゼファーではなく、屋敷のメイドであるシアが作った料理であり、彼女はそれを口に運びながら考える。

 勿論、どうやって冒険者になるかだ。


 考える中で一番早い方法は別の街……それもギルドの冒険者になる事が思い浮かんだ。

 それならば簡単に冒険者になる事は出来る。

 メルの目的も達成されるだろう、だが……同時にギルドは犯罪者集団であり、平気で人を殺す事も売る事もあるというのを彼女は両親や知り合いに聞いていた。

 メルは勿論そんな事はしたくはない、それ以上にがギルドの冒険者になる事が無理と言う理由もある。

 この街に居る龍……ユーリの手懐けた龍であるが、メルが幼い頃から良く懐いていて、恐らくこっそり抜け出す事があればついて来てしまうだろう。

 そうなれば母達がすぐに気が付く事もメルには容易に想像が出来た。


「メル? どうしたの?」


 メルは知らない内にぶつぶつと呟いていたのだろう、彼女の母であり、森族(フォーレ)の女性は心配そうに顔を覗き込む。


「そうなったら……って何?」


 メルは呼ばれた事に気が付くと彼女の方へと目を向けた。

 するとフィーナはメルの顔を覗き込む。

 やがて、体調が悪い訳ではないと気が付いたのだろう、にっこりと微笑んだフィーナはメルの前にある皿へと指した。 


「それちゃんと食べないと駄目だよー?」


 メルがゆっくりとその指の先を辿っていくと、そこには彼女が嫌いな橙色の野菜が目に見え、メルは思わず顔をしかめた。


「えーだってコレ変に甘いよ? それに風味残ってて変な感じだし私これ嫌いだよ!」


 目の前にある物をつんつんとフォークで(もてあそ)びながらメルはそう口にする。

 事実メルはその料理が苦手……いや、嫌いなのだ。

 甘いのは砂糖を使って煮込んでいるからであり、ただ焼いていたりスープに入っているのには文句は言わないのだが……どうしてもこれだけは嫌いで避けていたのだが……母フィーナは許してはくれないようで……。


「シアが一生懸命作ってくれたんだよ?」


 笑顔のままでそうメルへと告げる。


「それはありがたいけど……食べれない物は食べれないの!」


 笑顔の内に食べておいた方が良いのはメルも理解していたが、今日はメルの機嫌も悪かった。

 冒険者になる事を否定され、野菜を食べろと言われ……納得がいかないのだ。

 それに野菜の方は大人でも食べない人が居て彼女はそれを知っている。

 ドゥルガ、シュカ……血のつながりの無いメルの家族は食べれない物を好き嫌いの無い母ユーリに食べてもらっている所をメルは幼い頃から見ていた。


「ちゃんと食べないと大きくなれないよー?」

「……ぅぐ」


 メルは年相応の身長だが、そう言われると気になるらしく背の低いユーリへと目を向け、すぐに祖母であるナタリアへとその視線を移す。

 その時、彼女は明らかに皿の隅へと避けられた橙色の野菜を見つけ、ニヤリと笑みを浮かべた。


「ナタリアだって食べてないよっ!」

「い、いや……これは、だな?」


 珍しく祖母の口が割り込まない理由を見つけた少女は祖母ナタリアの皿へと指を向けるが……。

 母フィーナは困った様な笑顔を浮かべつつ……。


「え、えっとナタリーはもう大人だからね?」


 そう告げた……。

 これには更に納得がいかなかった。

 彼女はもう十二、冒険者としてなら早くて十歳から試験を受ける者も少なくはない。

 勿論なれるのは実力がある者に限られるが……冒険者に限らず、簡単な仕事ならもう働いても良い歳だ。

 当然それよりも二つも上のメルは大人と言っても周りが納得するだろう。

 そして、彼女は冒険者という夢を持つ一人であり、剣術なら目の前のフィーナ、魔法ならナタリアとユーリに……それだけじゃなく、必要と思われる知識は夢の為に学んできた。

 なのに、子供だから駄目、大人だから許されるという言葉を向けられ、座りながらも身を乗り出し叫んだ。


「私はもう子供じゃないよ!! これじゃなかったら食べるし! それにフィーナママもナタリアも私ぐらいの時には冒険者だったんでしょ!!」

「その、それはそうだったよ? でも、食事とそれは関係ない――」

「あるよ! 子供扱いされるし!」

 

 メルにそう言われ、フィーナは困り果てたのだろう……助け舟を求める様にユーリへと目を向けた。


「メル、今はご飯だよ、それに冒険者の事は後でちゃんと――」


 だが、メルはユーリが口を開いたのをきっかけに乱暴に立ち上がる。

 そして、黙って皿を持ちユーリの方へと歩み寄る。

 何かを叫ぼうとし、言葉を飲み込んだ。


「……メ、メル?」


 何故言葉を飲み込んだのか? その理由は彼女は以前、心にもない事を言ってしまいユーリ達を悲しませた事を思い出してしまったのだ。


「食べれないから食べて!」


 それだけ口にし、ユーリの目の前にお皿を置いて彼女は部屋から出るべく歩みを進め……振り返るとフィーナが立ち上がり声を投げる。


「メル!? ちゃんと――」

「好き嫌いしててもナタリアは背が高いもん! 逆に好き嫌い無くてもユーリママが大きいのは胸だけだもん!!」


 呼び止めるフィーナへそれだけ告げてメルは急いで部屋の中から出て行き……閉じられた扉を見つめながらナタリアは呟く。


「……メルも気にしていたか……やはり、抉っておくべきだった」

「……ナタリア、その目は怖いから冗談でもやめて、それよりもフィー……ごめん……」


 ユーリはフィーナへと申し訳なさそうな表情を浮かべ謝るとフィーナは首を横に振って答えた。


「ううん、ありがとうユーリ、それにしても……難しいね? 反抗期……なのかな?」

「かもしれんな……だが、メルは二人に憧れている……それに、意外と頭の固いユーリの娘だ…………覚悟はしておいた方が良いぞ」

「ぅぅ……出来れば他の事をやって欲しいんだけどなぁ……」


 ナタリアの言葉を受けたユーリはそう呟くとメルに渡された野菜を口へと放り込み、娘が去っていった扉へと目を向け――。


「食べ終わったら探しに行こう、その頃には少し落ち着いてると思うし」

「うん、そうだね?」



 メアルリースは瞳に涙をためつつ走る。


 ……私だってもう子供じゃないのに、いつもこうだ!!


 メルは頭の中でそう叫ぶと近くから彼女の名を呼ぶ声が聞こえ振り返る。


『メル、また喧嘩したの?』


 そこに居たのは風の精霊であるシルフ。

 普通、精霊は相手の顔を見ることが出来ず、声が聞こえなければそれが誰なのかも分からない。

 しかも声を掛けられるのは森族(フォーレ)だけだ。

 ……だが、彼女たち精霊はある事が理由でユーリとフィーナの子供であるメルの事は声を聞かずとも認知が出来る様だった。

 そのお蔭で小さい頃からずっと一緒であり、精霊達は彼女にとって友達で良き理解者でもある。


「喧嘩は……してない、嫌いな物食べろって言われた……それにまた冒険者は駄目だって」


 メルがそう言うとシルフは彼女の目の前に移動し眉を吊り上げる。


『危険だって言うならユーリもだよ! 空中で浮遊魔法を解いたりしたんだよ!? もうしないって約束したのに二回もやったの!!』

 

 ユーリの話なら色々聞いた事があり、実際……女性だというのに傷らだけで帰ってくることもあるので危険な事をしているのは十分承知だったが、メルはその事を今初めて聞いた。


「い、生きてるんだから、計算の内だったんじゃ?」


 先程まで怒っていたと言うのに顔を青ざめさせ、尻尾を垂らしたメルは声を震わせながらシルフにそう言うが……。


『一回目はね? でも二回目は魔法唱えられなかったんだよ!? 私が助けたの!』


 シルフは言葉の最後にえっへんと胸を張る。

 その様子にメルが思わずクスリと笑いをこぼしてしまうとシルフもころころと笑う。


『メルはいつもの場所に行くんでしょ? 私もついて行くよ! メルだけだと迷子になっちゃうからね!』


 そ、その言い方は他に無かったのかな?

 まぁ、その通りなんだけど……。


「……うん、一緒に行こうシルフ!」


 袖で溜まった涙を拭い、シルフにそう告げメルは走る。

 街の中を走ると所々で彼女に声をかけて来るのは顔なじみの人々だ。

 喧嘩したりなにかあったりすると彼女はこの先のある場所へと向かうため、仲良くなったようだ。


「メルちゃん! 肉巻きそろそろ出来上がるぞ!」


 街中で声を掛けられつつ走り抜けようとした所、メルはいつも寄る屋台のおじさんに声を掛けられ慌てて立ち止まった。

 その理由は今聞いた肉巻きと言う食べ物だ。

 他に名前が無いのか? と言いたくなるが名前が思いつかなかったらしく、肉巻きと言うのが定着してしまったらしい……。

 だが、リラーグの屋台でも人気な方で野菜が苦手な彼女でもこれに入っているものなら喜んで食べる。

 その野菜も決して少ない量ではないのだが、タレと肉汁が染み込んで野菜本来の味と絡み絶品であり、彼女は以前食べ過ぎて夕飯が食べれなくなってしまった事もある位だ。


「本当!? 一つ頂戴!!」

「っととと、相変わらず元気だな!」

「えへへ、えっと……あ……」


 メルは笑みをこぼしつつ、何時もの様に金を入れている布袋を取り出そうとし、気が付いた。

 家を飛び出して来ていたので部屋に忘れていた事を……彼女はがっくりと項垂れると鼻をくすぐる美味しそうな匂いに未練を残しつつも目の前の男性へ告げる。


「ごめん、おじさん……今日お金持ってきてなかった」

「なんだって……そうか、もしや……いつも通り親御さん達と喧嘩して急いで出てきたんだな」

「ぅぅ……」


 なんで分かるの? そう思いながら彼女が顔を上げると――。


「ほれっ!」


 屋台のおじさんは笑顔でメルに肉巻きを差し出していた。


「で、でも、お金ないよ!?」

「今日ぐらいは良い! その代わり将来立派な冒険者になって仲間を連れて来てくれよ! 沢山な?」


 その言葉に表情を明るくしたメルは差し出された肉巻きを手に取り、店主へと告げる。


「ありがとう! おじさん!」

「おう! その代わりその時は――」

「うん! 絶対仲間と来るねっ!!」


 そう答えると男性はガハハと豪快に笑う、メルが最初見た時は怖い人だと感じていたが実際に付き合ってみると良い人だと考えを改めた。

 そして、この男性はメルだけじゃなくユーリ達にも評判が良かった。メルが疑問に思い聞いてみた所、祖母であるナタリアはこう答えた。

 亡くなった大切な仲間にそっくりだと……。


「いただきます!」


 メルは渡されたそれにかぶりつくと甘辛いタレが絡んだお肉からは肉汁が溢れ、それは色んな味が絡み癖になる味、いやもう癖になっている味が口いっぱいに広がる。


 美味しい! やっぱり私はこれが大好きだ!


 メルは笑みを浮かべ肉巻きを咀嚼する。

 相当美味なのだろう、その証拠に彼女の尻尾も勝手に揺れ始めていた。


「どうだ、美味いか!」


 メルが肉巻きに再びかぶりつくといつも通り、店主は質問をしてくる。

 ここに来て食べる度に答えていたのだが、これを続けるのにはどうやら意味があるらしい。


「ふぉいしいほっ!」

「おいおい、頬張るほどってのは嬉しいが喉に詰まらせんなよ?」


 屋台の主はまた豪快に笑い、匂いとその声に引き寄せられた旅の冒険者達がふらふらと屋台に寄ってくる。

 メルはその様子を見ながら、同じ質問を続ける理由はこれだって言ってたっけ? と以前言われた事を思い出していた。


「美味そうだな……お、親父この子と同じの俺らの分も良いか?」

「おう! 毎度あり!」


 屋台には人が集まり、あっという間に今焼いた分の肉が無くなっていく……。

 メルは味わう様にゆっくりと食べながらその様子を見守っていると、先程まであった大きな肉塊は無くなっており、人がはけた所で店主は彼女に向けてニヤリと笑って見せた。


「ん? どうしたの?」

「いや、今日繁盛したのはメルちゃんのお蔭だな!」


 私は何か手伝った覚えないよ? メルがそう首を傾げると――。


「屋台の前で美味そうに食ってる可愛い子がいると人は興味を持つもんだ!」

「美味そうにじゃなくて美味しいと思うけど?」


 いくら年上だと言っても可愛いと言われた事は嬉しかったのだろう、若干恥ずかしそうな顔をし、尻尾を揺らしながらメルはそう答える。


「ガハハ!! そうか!! だが、今日はメルちゃんのお蔭だ! これは撤回しないからな」

「う~ん? まぁ、いっかそれじゃ私は行くね?」

「おう! 気を付けて行けよ? 親御さんのお蔭でリラーグは平和だが何も起こらない訳じゃないからな!!」


 メルが走り出すと店主は声を大にしてそう注意を告げる。

 ……そんな彼にメルは振り向きつつ手を上げて答えた。


「分ってるよー!」


 それから少し走ると目的の場所にはすぐに着くことが出来た。

 そこにあるのは時計塔と呼ばれる高い建物とそれを囲む様にある石像……それはメルが小さい頃にこのメルン地方を救ったと言う冒険者……つまり両親達を象った物だ。

 メルの聞いた事ではユーリ達はすぐに拒否したらしいが、王であるシルトはそれを聞かず無理やり作ったそうだ。

 像は最後の戦いに赴いた冒険者……ナタリア、フィーナ、バルド、ドゥルガ……ケルムと並びその中でもひときわ目立っているのがユーリだ。

 デゼルトにじゃれつかれている彼女の像の下には小さな文字で『龍に抱かれる太陽』と彫られていた。


 ここに来るとメルの思いは一層固くなる……冒険者になりたいという意志が……。

 母達の様に誰かを助けたい。

 だが何故、母達はそれを止めるのだろうか? と……ユーリには危険だからと言われたが、彼女の憧れる両親もナタリアもそしてその仲間達も立派過ぎた。

 タリムの王と言われた魔物……それはいずれ世界を蝕む存在だった。

 しかし、それを見事に討ち――リラーグへと戻ってからはメルを連れて旅をし……その先々で魔物を倒し、雨を降らせ精霊とその地の人々を助ける。

 そんな両親達の行いを見て彼女は純粋に憧れを抱いた。


『メル!!』


 像を見つめそんな事を考えていたメルはシルフに名を呼ばれ、いつもより焦っているようなその声に疑問を抱いた。


「シルフ?」


 精霊は慌てているのだろう、しきりにメルの後ろを指し彼女が振り返ると――。


「へ!? きゃぁぁぁぁあ!?」


 大きな何かが彼女の頭へと迫り、視界は遮られ像も何も観えなくなってしまい、薄暗い何かの中へと閉じ込められた様だ。


「な、なに!? やだ! 暗い……暗いよぉぉぉ!!」


 突然囚われた薄暗い世界にメルは恐怖を憶えその中で叫ぶ――。


「おい、黙らせろ!」

「安心しろ、眠り草を今入れた……」


 すると男性の声が聞こえ、なにかを喋っていたかと思うと、甘い匂いがし、彼女の意志は徐々にまどろみの中へと落ちて行く……その途中どこか遠い場所で――。


『メル――――!!』


 彼女の耳にシルフの声が聞こえた気がした……。

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