166話 魔物を倒し……。
突然現れた透明な魔物はシュレムの活躍により倒すことが出来た。
しかし、彼女の盾は壊れてしまった。
メルはシルフに連絡を頼むことにし、ついでに魔物の骨を使い盾を作れないか? と尋ねてもらう事にしたのだった。
突然現れた透明な魔物を退けたメル達はシルフに連絡を頼みタリムへと向かう。
その途中、メルは先程シルフに母に伝えるように言った事を思い出す。
あの魔物が何なのかママ達に聞いてほしいって言ったけど……。
でも、あんな魔物居るなんて聞いた事が無いし、ママ達にも分らないかもしれない。
だけど今まで聞いた事も見た事も無い魔物だとしたら、もしかしたらタリムの王が作ったキメラって魔物かもしれない。
そう考えるメルだったが、すぐに疑問を浮かべた。
「さっきの魔物の事か?」
リアスに声を掛けられメルはゆっくり頷いた。
「うん、あれってタリムの王が作ったのかな? でも――」
「そう言えば、魔物を作っていたって聞いたわね、だとしたらそうなのかも」
ライノは先程のメルと同じ事を考える。
しかし、メルは残った疑問を口にした……。
「タリムの王は魔物を作ってた……でも、あの魔物がそうだとすると太陽の光があるあの場所で動けるのがおかしいの」
「ん? なんでおかしいんだ?」
その理由を知っているはずのシュレムの言葉にメルは溜息をつく……するとエスイルがゆっくりと口を開いた。
「確か、タリムの王は太陽が苦手だったから……作った魔物も同じだったって聞いたような……?」
「そう、その通り……不死じゃない魔物は動きが鈍くなったりするだけだとは聞いたけど、あの透明な魔物は違う」
シュレムとの戦いを見ていたメル達。
確かに動きが鈍いと言う事は無く、メルがもし避けられなかったらと思うぐらいには危険な魔物だったのだ。
「何か嫌な予感がする……」
「嫌な予感か……つまり、あの魔物は進化や突然変異じゃなく、タリムの王の仕業でもないかもしれないって事か……」
「でもよ、魔物を作るなんてタリムの王だから出来た事だろ? 普通の人間が出来るのかよ?」
シュレムの疑問は最もだ。
しかし、逆に考えればタリムの王も元は人間、その彼が出来た事が他の人に出来ないと言う保証はどこにも無い。
メルはそれに気が付いたからこそ不安に思ったのだが――。
「それにリアスが言ったけど進化とか突然変異もあるんだろ?」
「私達だけじゃなくて精霊も気が付かないんだよ? 自然の物じゃないのは十分考えられるよ……」
メルの言葉を受けシュレムは頭をかくと屈託のない笑みを浮かべた。
「まぁ、俺にはよく分からないけど大丈夫だって! 例え作ったとしても結局倒せたじゃないか!」
「そ、それはそうだけど……」
楽観的すぎではないだろうか? そう考えたメルは口をとがらせる。
そんな二人の肩へと手を置かれ彼女達は目線を動かすと其処にはライノが立っていた。
「メルちゃんの言ってる事は最もだけど、シュレムちゃんの言ってる通り、倒せたのだから無理に深く考える必要はないわ……」
「そうだな、もしまた現れるようだったら考えれば良い。それにユーリさん達には伝えてるんだろ?」
「うん、ママ達には伝えたよ」
メルがそう答えると、リアスは頷いた。
「なら、それで十分だ……今はタリムに急ごう」
「そうだよ! シュレムお姉ちゃんの盾もボロボロだし、早めに着いた方が良いと思う!」
そう、だよね……リアスとエスイルの言う通りだよ……今ここであの魔物の正体を考えても私には分からない。
気になる事ではあるから調べたりはしたいけど……私達の目的は精霊を助ける事だもんね。
メルはそう考えると魔物の死体へと近づく……。
シュレムの血のお蔭でそこに魔物が居る事は分かるのだが、母達にも分かりやすくした方が良いだろうと考えた彼女は布を取り出し、魔物へと括り付けた。
「これで良しっと……行こう皆!」
「ああ」
メル達はその場を離れタリムへと足を向けるのだった。
「タリムまであと少しなんだよね?」
「ああ、この分なら今日中には着くはずだ。時間によってはシュレムの盾を見る余裕もあるかもしれない、とは言ってもそんな大きな物は無いと思うが……」
「そっか、なら早めに着けるようにして、一応目を通そう?」
メルはシュレムにそう提案すると彼女は眉をひそめる。
「いや、ありがたいんだが……なんて言うか、タリムだろ? 上等な武器防具があるとは思えないぞ!」
その言葉は失礼ではないだろうか? メルは恐る恐るシュレムの方へと向く。
すると彼は苦笑いを浮かべており――。
「その通りだが、いざ言われると来るものがあるな……とにかくないよりはマシだろ?」
リアスの言葉にうんうんと頷き、それを見たシュレムは口を尖らせる。
「まぁ、メルがそう言うなら一応見てみるか」
不本意そうに呟くのだった。
メル達が去ったトーナ廃村。
男性か女性か分からない二人組がメル達の倒した魔物へと近づいていた。
「これは……どういう事だ?」
「どういう事だってこういう事だろ?」
質問をする男性の声と質問に返す女性の声。
二人は共に同じように首を傾げると――。
「なるほど、つまり、そういう事か……とでもいうと思ったかこの馬鹿が……」
「馬鹿? 馬鹿なんて心外だな、私は事実を言ったまでだ。二人目の実験は失敗、まぁ……運が無かったんだよ」
男は大きく息を吐くと魔物の死体を睨み――。
「処分しておけ、下手に調べられても面倒だ」
「うわぁ、人使い荒いね、ここまで運ばせた上に処分まで……」
「何か文句でもあるのか?」
「ある……さっさとあれを手に入れればいいだけなのに」
あからさまに嫌な様子で声を上げた女性は魔物へと手を伸ばす。
そして、その魔物に布がまかれている事に気が付いた彼女はおもむろにそれへと手を伸ばし――。
「これは要らないね」
そう言ってそれを空へと放り、メルの残した布は風に攫われた。




