15話 メルの選択
リラーグ王シルトへ事の顛末を話すメルとナタリア。
だが、事態は思っていた以上に深刻な物だった……
メルが殺めたのは指名手配の男、だが――彼女達「龍に抱かれる太陽」の者達を良く思わない者達は決して少なくなく……
メルは自分の所為で母達まで暴言を吐かれていた事を知るのだった……
「……私としても、子供を外に出すと言うのは心苦しいです」
メルの涙を見て顔を歪めたシルトはそう言葉にし……
「なら何とかならんのか?」
眉を吊り上げた銀髪の女性は腕を組み、王に告げる――
「なる訳が無い! 事実は事実だ! ――ひっ!?」
その問いに答えたボルアをナタリアは鋭い眼光で射抜く――
そもそも、メルはまだ十二歳だ……確かに冒険者になれる歳ではあるが、冒険者ではない。
「私もどうにかしたい気持ちではありますですが――」
「私、行くよ」
だが、シルトの言葉を遮りメルは呟いた。
涙声で小さな声だった……だがその声は確かに聞こえたのだろう……
ボルアは笑い、シルトは呆然とし……ナタリアは顔を真っ赤にしてメルを見る。
そして、白い肌を怒りで赤く染めた祖母ナタリアはメルへと掴みかかり――
「メル! 何を言っている!?」
「私だって……怖いよ、でも――」
メルが行くと言った理由……それは単純な物だった……
「ママ達は皆を助けるために動いてたんだ……それなのに私の所為で私の為ならなんて言われて……そんなの我慢できないよ!」
「メル……」
彼女は相変わらず涙声だったが、今度ははっきりと伝えたつもりだった。
だが、祖母は孫である彼女が心配なのだろう、手に自然と力が入り……それを理解したメルは袖で乱暴に涙をぬぐうと――
「大丈夫、もし外だったとしても責任をもって届けるよ……」
真っ直ぐナタリアの瞳から逃げないよう、意識し言葉を放つ――
「…………」
だが、祖母は無言で首を横に振り――
「メル、自分で何を言っているのか分かっているのか? リラーグの外にはお前が見た事もない魔物だっている! フィーとは違うんだ、メル一人でどうにかなる問題ではない」
「……分かってるよ、嫌ってほどに……」
「いいや! 分っていない!」
メルの言葉を否定するのは勿論ナタリアだ。
心配してくれている事はメルは理解していたし、ありがたいとも感じていた……だが――
「……シルトさん、龍に抱かれる太陽に所属する冒険者は駄目なん……ですよね?」
「ええ、認める事は出来ません……新人だろうと、なんだろうと……これ以上の不満を募らせれば何をするか分かりません」
新人……つまりゼッキを連れて行ったりする事は出来ない。
だが逆に言えば所属していない冒険者は大丈夫だ……
しかし、運良く協力者を得ても、親の力を借りたと言われるのは目に見えてる。
つまり冒険者は望めないと言う事だ……
「メ、メル? 本気なのか?」
「本気も何も、もし外だったら私一人じゃ駄目でしょ? 協力者は必要だよ……」
「そ、そうではなくてだな? メルが行く――」
どうしても行かせたくないらしい祖母に彼女は過保護過ぎではないだろうか? と考えつつもシルトへと質問をする。
「もしその時は……すぐに出発しないと駄目ですか?」
……すぐに出ろって言われたら困ってしまうのだが、その時の事は考えておかなければならない、そう思ったからだ。
「その場合はすぐという訳ではないですよ、十分に準備し向かってください。ですが、その者達も爆発寸前です……あまり長い時間は時間が用意できないかもしれません」
いつもより強い口調の彼にメルは若干気圧されるが、頷き答える。
「では、メアルリース……その首飾りの届け先へと向かうと言う事で良いですか?」
「だ、駄目――」
「はい、私が届けます」
メルはナタリアの言葉を遮りそう伝えると――
「分かりました、ではメル……お願いします……」
「なっ――!?」
シルトは一言そう告げて来ると部屋から去っていく、もうこれ以上話す事は無く、聞くことも無いと言う事だろう。
「ちょっと待て! シルト!!」
だがメルの横に居たナタリアは納得がいかないのだろう、声を上げ追いかけようとし――
メルは彼女の服を引っ張るとそれに気が付いたナタリアはメルの方へと向き直った。
「ナタリア……帰ろ?」
「しかし、だな……」
街の人から不満も出ているし、ここで何を言っても変わらない、それはナタリアも分かってるはずだ。
メルは心配してくれているのは嬉しいと感じたし……もしかしたら旅をすると言うのにこれから何が起こるかと思うとわくわくするよりも恐怖を覚えている。
だが、メルはそれを悟られない様、笑顔を作りもう一度ナタリアへ告げた。
「ナタリア、お家に帰ろ?」
家へと向かい、酒場を抜け階段を上る。
いつもなら何か話しながら帰るはずのその道もメルとナタリアは黙ったままだ。
彼女達はそのままユーリ達が居る部屋へと向かう……恐らくまだあの少年も居る部屋に居るはずだ。
目的の部屋へと着いたメル達はゆっくりと扉を開ける。
するとやはりユーリとシンティアがまだ彼を看病していた。
「ただいま……」
彼女は小さな声でそう呟くと、部屋が静かだったのが幸いしたのかユーリがこちらへと振り返り……
心配そうな顔を浮かべつつも、すぐに笑顔を作ると――
「おかえり、メル」
その声が優しくて……暖かくて、彼女は押さえていた不安が一気に弾け、ユーリの元へと駆け寄ると胸に顔を埋め声を上げて泣いた。
嫌だ、怖いよ……私、ここに居たいよ……
皆と……ママ達と一緒が良い!
冒険者になると言う夢はもう目前と言っても良い、それなのに……彼女の脳裏に浮かぶのは襲われる恐怖と人を切り殺した感触、そして……死に逝く者に自分ではなにも出来ないと言う絶望感だった。
このたった二日という短い期間でメルはただの子供に過ぎなかったと言う事実を嫌と言うほど突き付けられた。
そんな私が外に? さっきはもしも外の場合は何て言ったけど、改めて考えると無理だよ……
そんなの出来る訳が無い……
「ぅ……ぅぇ……っ」
「メ、メル?」
いきなり泣きついたメルに困惑してるのだろう、ユーリはメルの頭を撫でながら名前を呼ぶ。
昔から知っている温かい手だ。もしかしたらもう――そんな事を考えるとますます涙は止まらなくなってしまった。
「ナ、ナタリア……一体なにがあったの……?」
「今から話す……だが、一旦部屋を移そう……怪我人の前で騒ぐのはな」
「え、で……でも――」
ユーリはメルをあやしながらも少年の方へと目を向ける。
そんなユーリの様子を見て、シンティアは微笑み。
「では私がここに残りますわ、もしなにかあったらすぐに呼びに向かいます」
「……分かった、お願いするよ。すぐに戻ってくるから」
「すまないな、行くぞ」
彼女が居れば安心だ、ユーリはそう思ったのだろう……
ナタリアの後に続き、部屋を出た。
太陽に抱かれる龍の三階……メル達の部屋に付いた三人……
そこでナタリアは先程あった事をユーリへと伝え終えた。
「そんな!! いくらなんでもメルはまだ子供だよ!! なんでナタリア止めなかったの!!」
部屋の中、ユーリは声を上げる。
メルはと言えばまだユーリの胸の中だ……流石に泣き止んだメルは次第に冷静さを取り戻し、今度は恥ずかしくなりそのままと言う状態で……
ぅぅ、あんなに泣いて恥ずかしい……それにしても、同じ女性なのに……これは不公平な気がするよ。
私のも大きくなるのかな? でもまだ小っちゃいし、同じ血は流れてるのに……全然成長しないのは納得がいかない。
「止めたさ、だが――」
ナタリアの声が聞こえるとユーリの腕に力が入り彼女はますますそこに沈んでいく……
当然、口を塞がれることになった彼女はもがくが母どころか祖母もどうやらメルの現状に気が付いてくれていなかった。
「駄目だよ! だってメルは……」
「納得は行かん、もう一度話すつもりではあるがあの様子では無理だろう……だがリラーグに住む以上、王の決定には従わなければならない……例えユーリ、お前でもな」
「そんな…………」
祖母の言葉にメルの父は相当なショックを受けたようで腕にはますます力が入る。
正直に言って腕力ではナタリアに劣るユーリでも子供であるメル相手では体勢の問題もあり抵抗できるはずもない。
幸い目の前にあるのは柔らかい物だから痛い思いはしないだが、すでにそれに押し付けられた上で更に抱きしめられたメルは――
「――ッ!? ――――――!!」
当然苦しくなる。バタバタともがいても当の本人達は議論に夢中で気づいてくれず、でも力いっぱい抵抗すれば引き剥がすことが出来るか? と考えたが、ユーリが怪我をするかもしれないと思うと何も出来なかった。
だが、そんな事を考えている間にもメルの意識は次第に遠くなっていき――
「ただいまー皆集まってどうしたの? って……」
もう駄目だ、そう思った時一人の救世主の声が聞こえた気がした――
「フィー聞いて!!」
「フィー聞いてほしい」
だが、メルの事に一向に気づかない父と祖母は同時に母の愛称を呼ぶ。
「う、うん、聞くけど……ユーリ、まずは……メルを離してあげてね?」
「「駄目だ! メルは――」」
母の言葉にやはり同時に答える父と祖母だが、遠のく意識の中、メルは離すの意味が違う! と必死に訴える。
「そのままだと、メル窒息しちゃうよ?」
「へ……? うわぁぁぁぁ!? メルごめん!!」
彼女がもう本当に駄目だ……そう思った時、フィーナの言葉のお蔭でユーリは慌てて拘束を解くとメルを自身の身体から引き剥がす。
ようやく自由になったメルは鼻と口を使い新鮮な空気を求め呼吸をし――
「…………けほっ」
吸い過ぎてしまったのか咳を一つ付いてしまった。
まさか旅に出るか出ないかの前に自身の母の胸で窒息死をするかもしれないという危機に陥ったメルは――
弓を引く邪魔になったりするらしいし大きな胸は考え物だよね。
でも……やっぱり羨ましい、このままナタリアの様に成長が止まるのはちょっと、いやかなり嫌だよ。
せめてフィーナママ位は欲しいなぁ……
など考え、自分で何を考えているのかと突っ込みを入れる様に頭を振った。
「で、どうしてユーリとナタリーは喧嘩してたの?」
フィーナはメルが落ち着くのを待っていてくれていたのだろう、彼女の様子を確認してから話を切り出す。
するとナタリアが複雑な表情を浮かべ口を動かした。
「実は――メルがリラーグを出なければならないかもしれん」
「ん?」
だがフィーナは何故そんな事になったのかと思っているのだろうか首を傾げていて――
それを見たユーリはメルをそっと抱き寄せる。
今度は胸を背にする形になったから苦しむ事はなさそうだ。
「荷物を届け先にメルが届けなきゃいけなくなって、それがもしかしたら外かもしれないんだって……」
それを聞くとフィーナはにっこりと微笑み、メルに目線を合わせる様に膝を折る。
この後の言葉は大体予想できたし、その言葉に二人がなんて言うかも分かっていた。
「そっかー、じゃぁ皆で行こうかー?」
「「それが無理なんだ」」
「――――――」
この時ほど、フィーナがまるで音を立てるかのように固まったのをメルは見た事が無い……多分、この先もきっとこんな表情を見ることは無いだろうなっと思えるほどに――




