147話 領主イリアの選択
魔物を倒したメル達。
一先ず脅威が去った事を悟った彼女達はほっとする。
そんな中、街の危機を知り駆けつけたのは領主イリア……しかし曾祖母が剣を握った事すらない事に気が付いたメルは危ないと咎める。
だが、街を守るのは領主の務めというイリア。
メルはそんな彼女を見つつ、何故ナタリアが何も対策をしていないのか気になるのだった。
「危険がある? そりゃ魔物が居るんだ危険は危険だろう……? それに中が安全とは……」
リアスはそう言葉にし、メルも頷く。
その通りなのだ……外には魔物が居る。
当然、今もどこかで襲われ、死んでいく者も居る……勿論今回のような事も稀に起きてしまう。
寧ろこの街が平和過ぎたのだ……。
「でも、魔物が現れなかったのはナタリアの結界を張ってからでしょ? その前からいた人は――」
「ディーネにもう外は安全だと結界を解いても大丈夫だと告げられた時は喜びました」
イリアの言葉にメルは首を傾げる。
「喜んだのに結界を解かなかったの?」
「ええ、若い子達には魔物を見た事も無い子が居てね、知らないならそのままの方が良いと言う声も多かったのです」
「だから結界を解かなかったのか……」
リアスの問いに頷いて答えるイリア。
でも、それじゃ……ママ達はそれを知っていて敢えてこの街を隠してた? と言う事は定期的に冒険者を派遣するつもりだったのかも……。
だけど、冒険者が居ない時にまた魔物が出たら、今度は助かるとは限らない。
ユーリママ達に連絡を取っても、もし間に合わなかったら意味が無いよ。
「ディーネも最初、魔法を教えようとしました……ですが、街の者が拒否したのです……たった数人を除いて……ですが、その子達はもう……彼らの意志を継ぐのも立った二人しかいません」
メルの疑問を知っているかのようにイリアはそう口にした。
その言葉からナタリア達に指導された者はこの世にいない事、そして、あの門兵達だけが頼りだという事を知ったメルは……。
「お婆ちゃん結界を解こう!」
「メルちゃん?」
このままでは街が危険だと判断し、そう口にした。
だが、その案にはリアスも納得したのだろう頷き――。
「もし、冒険者の様な戦力が必要ならタリムの奴らに頼もう……精霊を助けてもらったとはいえ野菜が暫くは育たなかったからよく狩りをしていた。当然、魔物との戦いもしていたからな、腕は確かだ」
「で、ですが……この街には人を雇うお金など……」
普通ならそれで話は終わってしまうだろう。
だが、メルにはある自信があった。
「この街は精霊が沢山住んでる。だから作物も一杯蓄えあるよね? それなら、それをお金の代わりに渡すの……どう、かな?」
リアスへと尋ねるメル。
その問いにリアスは頷き――。
「良いと思う、タリムは逆に野菜が育つようになったとは言ってもまだ数が少ないからな……近郊にこういった街があるのは助かるはずだ」
「で、ですが、それは対立なども――」
「俺が文句を言わせないさ、此処はエルフの使者の家族が住む町と言えばタリム連中が襲ったりはしない」
エルフの使者と言う言葉は初耳なのだろう、瞼を閉じたり開いたりするイリアに対しメルはくすりと笑い。
「ユーリママの事だよ! 本人は恥ずかしいし、いやだって言ってるけど……」
「ユーリちゃんがエルフ様の使者? それは凄い事ですね」
メルは頷き、尻尾を大きく揺らす。
自慢の母の一人なのだから当然だ。
「でも、これでタリムの人の力は借りれるはず、だから結界を解こう? このままだといつまた魔物が生まれるか分からないよ!」
恐らくはすぐに生まれると言う事はないだろう、メルはその事には気が付きつつもイリアへと告げる。
少なくとも十数年すればまた魔物が現れてもおかしくはないのだから……。
「…………勿論、ユーリママ達にもすぐに伝えるから!」
「俺もすぐに鳥を飛ばす。何人かは飛んできてくれるはずだ」
二人の言葉を受け、少し悩んだイリアはゆっくりと首を縦に振り――。
「そう、ですね……魔物が現れないと限らない以上、もう犠牲を出す訳には行かないのですから……」
その顔に悲しみと辛さを含んだ表情を浮かべる。
恐らくはライラの家族の事を思っての事だろう……。
「じゃぁ、黙って結界を解く訳には行かないから、皆にその事を伝えないと!」
「ああ、そうだな、独断でやったんじゃイリアさんの立場も悪くなるだろう、俺達が提案した事も含めて説明しよう」
リアスの提案にはメルは不安そうな表情を浮かべた。
何故ならこの街に来た時、メル達を見ていたあの目があるからだ。
事実魔物が現れた理由にまでされた事もあり――。
「信じてもらえるのかな?」
その事が気になり、メルはしゅんとしつつそう口にする。
リアスもその可能性を考えたのだろう、困った様な表情を浮かべ腕を組む。
「それはさせませんよ、私からちゃんと説明をしましょう」
彼女はそう言うとにっこりと微笑み。
「他の方を迎えに行きましょう」
そう告げた時だ――。
「奥様!」
慌てた様子の執事がメル達の元へと駆け寄って来て、メルは嫌な予感がした。
もしかして、まだ魔物が居るの?
だとしたら早くしないと――!
「外に出てまた迷子になられたらどうするおつもりですか?」
だが、執事より告げられた言葉は予想とはかけ離れた物だった。
それを聞き、笑みをこぼすのは曾祖母であり――。
「はぁ……民を思う気持ちは立派です。ですが、何かあってはと探す事になる私達の事もお考え下さい」
何時もの事なのか、メルには分からなかったが執事は頭を抱え告げる。
「……なるほど、メルも確か迷子になるよな?」
「え? ……う、うん」
確かにシルフ達が居ないと駄目だし、初めての場所は絶対迷子になる自信がある……けど急にどうしたんだろう?
「遺伝って訳か……」
「曾お婆ちゃんからだったんだ……これ、唯一で一番……受け継ぎたくなかった遺伝だよ……」
メルはがっくりとしつつ乾いた笑い声を発するのだった。




