138話 焼きそば
休息を堪能するメル達。
すると、目に入った店ではどうやらメルの母ユーリが料理を伝えたとの事だ。
その料理が気になり食べてみる事にしたのだが?
「出来たよ!」
木の器に盛られた料理は湯気をたて……メルはその香りをかぐと――。
「美味しそう!」
そう口にする。
だが――。
「や、野菜多くないですか?」
メルは決して野菜が嫌いという訳ではないが、どちらかというと肉の方が好きなのだ。
だが、目の前にあるそれには肉は少ししか入っておらず。
「今はお肉が貴重だからね、その分野菜は割増しで入れておいたから!」
「それは悪いわね、ね、メルちゃん?」
申し訳なさそうにする女性にライノはそう告げるとメルの方へと向く――するとメルは少し残念そうな顔を浮かべつつもすぐに笑みを浮かべた。
「あ、ありがとうございます」
やっぱり、お婆ちゃんが言ってた通り、お肉が無いんだ。
でも、魔物がどうにかなればきっとそれも解消するはず。
メルはそう信じつつフォークで焼かれた麺を口へと運ぶ。
「ん……」
「どう? このタレもユーリさんが考えてくれたんだけど!」
「これ、野菜にもちゃんと味がついてて……一緒に食べると美味しいですっ!」
「確かに、うまいなコレ! 流石はユーリさんだ!」
シュレムも同様の意見でそれへと夢中になるのだが――。
「でも、シュレムお姉ちゃん……これ作ったのはお姉さんじゃ……」
「その通りだな、料理は手順を知ってても出来ない人が居るんだぞ?」
二人の言葉に頷くシュレムは満面の笑みを浮かべ――。
「確かにそうだな! オレは丸焼きしか作れないしな! お姉さんオレと結婚してくれ」
「は、はぁ!?」
シュレムの何を思ったのかという発言に狼狽する女性と溜息をつく一同――。
「シュレム……シュレムも女の子でしょ?」
メルがいつも通りの言葉を告げるとシュレムは焦ったように笑い。
手をバタバタとさせる。
「ち、違うメル! 浮気じゃない、大丈夫だメルが一番の嫁だ」
「だから、なんでそうなるの!?」
そんな二人のやり取りを見て女性は苦笑いを浮かべ……。
「う、嬉しいけど流石に、ね? ほら……同性同士は――駄目って訳ではないけど、私は、ね?」
「そ、そうか……そうだな、まずは友達からだな」
「シュレムちゃん違うわ、そうじゃないの……」
話を理解していないシュレムに突っ込みを入れるライノ。
シュレムは当然首を傾げ腕を組むのだが――。
「悪い、店主さんこいつの事は気にしないでくれ」
「あ、ははは……」
乾いた笑いが聞こえ、シュレムを除くメル達は頭を下げると塩焼きそばという料理を再び口へと運び出す。
そして、すっかり空になった器を女性へと返し――。
「今度また来ますね」
「気に入ってもらえたようで何よりだよ! 今度はちゃんとお肉も沢山いれてあげるからね!」
その言葉にメルは嬉しそうに尻尾を振ると頷いた。
「ぜ、絶対にまた来ますっ!」
「あらあら、厳禁ねメルちゃんは」
「ぁ……ぅ……」
ライノに笑われ、メルはその顔を赤くしつつも相変わらず尻尾は揺れている。
「じゃ、また街の中を適当に歩こう」
「うん! 僕もそうしたい!」
リアスとエスイルの言葉に頷くのだった。
それから、メル達は街の中を歩く……とはいってもそこまで珍しい物は無く――。
「他の街とあまり変わらないね」
エスイルは辺りを見回しては笑みを浮かべる。
弟が笑う理由……それはメルにも分かった、そこには精霊達が居たのだ。
「どうした、エスイル?」
「うん、精霊がこっちに手を振ってんだよ」
嬉しそうにするエスイルを見てメルも微笑む。
恐らくリシェスでの一件でエスイルは以前よりより精霊に好かれたのだろうと思ったからだ。
そんな事を考えていると、笑顔で手を振る精霊の向こう側にある巨木の近くに居た少年たちがメル達に気が付き、彼女達の方へと駆け寄ってくる。
「あ、あれ?」
近づいてくる彼らに驚くエスイル。
「精霊が見えないから自分達に笑顔を向けてるって思っちゃったのかも」
メルは彼らの中に森族が居ない事に気が付くとそう伝える。
「僕達に何かよう?」
少年は近づいてくるなり、エスイルへと尋ね。
「え、えっと……」
「あ! 君お母さんが言ってた! 外から来た人だって!」
続いてメル達の元へと辿り着いた少女はエスイルの顔を覗き込みながらそう言うと――。
「ね! 外ってどんななの? 皆は魔物がいっぱいいるって言うの! それに怖い事もいっぱいだって!」
子供達はどうやら外から来た自分達と同年代のエスイルが相当気になるらしく、質問攻めにしていく当然エスイルは困った様な笑みを浮かべるのだが――。
「さっきこっちを気にしてたよね! もしかして仲間に入りたい?」
「へ!?」
エスイルは思わぬ言葉に驚き目を丸める。
確かにリラーグを出てからエスイルは同年代の子達との交流は無い。
当然、遊びたい盛りの子供である彼はそれを我慢しなくてはならなかった。
だからだろう、エスイルはメルへと目を向けて来て――。
「遊んできて良いよ? 今日はお休みなんだし、ね?」
「! うん!」
エスイルは嬉しそうに頷くと少年達に向き直る。
「僕エスイル! よろしくね!」
「うん! 僕はフェン、こっちがリディア――もうすぐで他の子も来るからあっちで遊ぼう!」
同じく笑みを浮かべている少年達に手を引かれエスイルは駆けて行く――。
それを見送る形となったメルだったが不意に肩に手を置かれ振り返る。
「オレ、一応見ておくよこの街では何かがあるなんて事は無いだろうがな」
「分かったお願いねシュレム」
彼女の提案に頷くメル……この時彼女達から見えない場所でライノは一人意味ありげな笑みを浮かべていた。




