124話 新たなる旅路
幻影の森、それは嘗てタリムの王が健在だった時、祖母ナタリアが施した曾祖母を守る為の結界だった。
そうと知ったメル達は一旦そこを目指す事にし、旅立つのだった。
リシェスから発ったメル達は谷底にあるような道を歩く……。
「な、なぁ落石とかないよな?」
上にはいつ崩れてもおかしくないであろう状態で岩が積み上がっていて、それを見たシュレムは顔を引きつらせながら問う。
「ああ、あれか……」
リアスは彼女が何を指して言っているのか分かったのだろう……。
真っ直ぐ前を見つつ答えた。
「タリムの王が居た頃、リシェスが積んだ岩だ……もし攻めてくるようだったら使うつもりだったらしいけど結局使わず、そのままなんだよ。確か確認はしに来てるとか聞いたが」
「て、撤去とかしなかったの?」
「タリムは村として復興はしてるけど、警戒はしておきたいんだろうな……色々言われて結局そのままになったんだ」
メルもその話を聞き不安になったのだろう、見上げると其処には確かに大岩が積まれており――。
「お、大きい……ね?」
「あれでも、タリムの王を止められたかは分からない、何相手は死体さえ操ってたんだからな……」
リアスの言葉にメルは頷く。
でも、そんな恐ろしい人がユーリママの親戚って本当なのかな?
メルは昔の事を思い出しつつ崖の上を見上げたまま歩く……。
すると、風の音がし……それに続く様に嫌な音が耳へと届いた。
『メル!!』
「メルお姉ちゃん!!」
それは兎の森族であるエスイルにも聞こえ、シルフもなにが起きてるのか理解をしたのだろう。
二人は焦った様子でメルの名を呼び――。
「皆早く走って!! 岩が崩れる!!」
メルもまた声を荒げ仲間達へと伝える。
彼女の声を聞き、その顔を青くしつつリアス達は走り――それよりも少し早く、頭上からは轟音が鳴り響き――。
「お、落ちて来るじゃんかよぉぉぉぉぉぉ!?」
シュレムの絶叫が辺りへと響き――。
「叫んでないで走れ!!」
エスイルを担いだリアスは彼女に注意する。
その間にも轟音はなり続け、それは確実にメル達へと近づいており――。
「は、早く!! もう近くだよ!?」
「うわぁぁぁぁああ!?」
メルの言葉にエスイルは岩の様子を窺うが、それはすでに近い所にあるのだろう青くなった顔を更に青くし狼狽すると――それはまるでドラゴンの咆哮の様な音を鳴らせ一行の背後へと落ちた。
「…………き、危機一髪だったわね……」
助かった事に安堵したのかライノはその場に崩れ、メル達もまた長く息を吐き出すと腰を下ろす。
「き、気が付いて良かった……そうじゃなかったら今頃……」
メルは後ろへと視線を動かす……そこにはメル達など容易く押しつぶせそうな大岩があり、彼女はぞっとしたのだろう身体を震わせた。
「ふ、不安定なんだし、どかしてくれてればよかったのに……」
その言葉に息を荒げ答えたのはライノで……。
「そ、そうね……メルちゃんと……エスイルちゃんが……いなかったら……死んでたわ……」
彼は地面へと座り込んで、水を飲み――。
「タリムの王と不死者怖いのは分かるのだけど……」
そう言って呆れた顔で大岩を見つめた。
「それってもう居ないのよね?」
「居ないはずだよ、なにより不死も闇の魔物もお日様の下では動けないから、此処なら問題ないと思うんだけど……」
メルはそう言うと空へと目を向ける。
そこには青空が広がっており、陽の光をさえぎる物は無い……だからもし、またタリムの王が生き残っていても問題は無い。
メルはそう思うのだが……。
「ここ陰になるだろ? だから心配だったんだと思う」
「そ、そうか……リシェスはタリムから近いもんな……仕方がないと言ったらそうなのかもしれない、が……死ぬだろ!? リシェスの奴も通ったら死ぬかもしれないだろ!?」
シュレムの叫びは最もであり、エスイルも疲れ切った表情で力なく頷く。
「……耳の良い森族の人がいないと気が付かないと思うよ」
「リシェスの人はこっちに来ないし考えてなかったんだろ……と、とにかく進もう……」
「そ、そうだね……この岩を退けたら上に気を付けて進もうか……」
メルはそう言うと右腕を大岩へと向け――。
「我が意に従い意思を持て――マテリアルショット」
魔法を唱えると人が通れるぐらいの道を開けるよう大岩を動かす。
そして岩が動かないよう他の石で固定をした。
「これで通れるし大丈夫だと思うよ」
「このまま道がふさがってたら不便だった……ありがとうメル」
「ぇぅ……」
リアスに礼を言われ顔を赤く染め変な声を出すメルはすぐにえへへと笑い。
「どうした?」
「ううん、なんでもない!」
嬉しそうにするのだが、そんな彼女を見て、微笑ましそうに見るライノと――。
「メ、メルが俺のメルが……男の魔の手に……」
「シュレム!? な、なななな何を言ってるの!?」
敵意をリアスに向けるシュレム……そんな彼女に真っ赤な顔を向けてメルは焦るが――。
「メル、駄目だ……男は変態ばかりなんだぞ? エロ師匠を見ろ!」
「見ろって、ここにケルムさん居ないけど……」
「思い出せ!」
そう言われメルはケルムの事を思い出す。
確かに彼は女性とあらば子供から老人までに声を掛け「俺が女性扱いしないのは非常識極まりない奴だけだ!」などと意味不明な事を言う人物だ。
しかし、そのケルムはナタリアが選び連れてきた人物であり、仲間からの信頼は厚く……。
メルの母ユーリにはいざと言う時に頼りになると言われ、忠義に熱くああいった男性が嫌いだろうと思われるシュレムの父ドゥルガが娘を預ける程の男性だ。
「……変な人だけど、悪い人じゃないよ?」
「メル……お前変な男に捕まるんじゃないかってオレ心配だ……良いから結婚しよう」
なぜそうなるのか? メルはそう疑問を浮かべるもシュレムの目は真剣そのもので思わず助けを求める様にリアスの方へとその視線を向けた。
「……はぁ、シュレム……ここに居たらいつまた大岩が転がって来るか分からない、早くここは抜けた方が良い」
「……チッ! メルを狙う奴に言われたくはないが、メルをまた危険な目には遭わせられないか……」
また喧嘩をするのではないか? 助けを求めた反面そう心配したメルはおろおろとするが、二人にその気はない様であっさりと引いたシュレムは――。
「お前との決着は村で付けてやる! メルを嫁にもらうのは俺だ!!」
「「いや、|お前も女だろうに《シュレムちゃんも女の子でしょう》……」」
ライノとリアスの突込みは無視され、シュレムは立ち上がると皆を待つように一歩進んだところで待ち……。
「早く行くぞ!」
っと仲間を急かすのだった。




