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私の夢は冒険者だったのにっ!!  作者: ウニア・キサラギ
1章 冒険者になりたいっ!
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12話 メルは二度捕まる

 侵入が出来たメルは鞄を奪う隙を狙っていた。

 だが、その隙は訪れないどころか……メルが普段使っていた石鹸の所為で泥棒達にばれてしまった。

 しかし、まだ彼女の使った魔法クリアトランスの効果は残っており、メルは鞄を手に取り走り出したのだが……。

 彼女は逃げ切ることが出来ず捕まってしまった。

 メルが捕らえられてからどのぐらいの時間が経ったのだろうか? 彼女の視界の中には男達は荷物をまとめているのが見える。

 ……先ほどメルの耳に聞こえた会話ではリラーグを発つとも言っていた。

 それを目にし、耳にした彼女は……もう駄目だ……そう諦めた時――。

 ガラスが割れる音が部屋の中に響く……まさか、母達が助けに来てくれたのだろうか?

 そんな淡い期待を求めメルは音のする方へと振り向いた……。


 その姿に思わず「え?」と呟きたかった彼女だが、声は口に噛まされた布の所為でちゃんと発せられることは無かった……。

 だが、彼女は唯一自由と言えるその双眸で侵入者……いや、救世主を捉えた。

 しかし、大きな音を響かせて入ってきた影に他の男たちが気が付かない訳もなく、三人の男達は()()()()


「……お前ら、俺の荷物盗っただけじゃなく女の子に何してるんだよ!!」

「おいおい、威勢の良いガキだなぁ……」


 少年を見たラゴンという男はへらへらと気味の悪い笑みを浮かべ近づく……。

 当然だ、少年はメルとそう変わらない歳であるのはその見た目から分かり、ガラスを割って入ってきた事にはメルを含めた四人は驚いたが、彼は丸腰……武器らしき物はなにも身に着けていない。

 だが、メルは彼がガラスを割って入ったと言うのに傷一つ無い事に気が付き、体術が得意なのだろうか? と考えるが……すぐにそれは考えられなくなった。


「逃げるだけが能のガキが……」


 その理由はラゴンがメルへと手を伸ばしたからだ。

 徐々に迫る手が髪を掴もうとしている事に気が付いたメルは慌てて身をよじるが全くの無意味だった……だが――。


「その手そこで止めろよ……痛い目に遭いたくないならな……」


 そんな時、響いた声は恐らくは少年の物で……それは……メルもゾッとする物だった。

 その証拠にメルへと迫っていたラゴンの手はぴたりと止まり、顔をゆっくりと少年の方へと向ける。

 メルはナタリアの様に心が読める訳じゃないが、少年の言葉が嘘ではないと……そう直感的に感じた。


「ガ、ガキが……舐めた事――」

「ビビったよな? たかがガキ一人に脅されて……そんな程度で尻尾丸めるなら、こんな事になる前に……もっと早く脅しておくべきだった」


 低く保ったままの声は紡がれ、彼の目はメルへとを向けられる。

 その目はどこか悲しそうで、辛そうな物だ。

 人殺したら、一生その罪を背負わなきゃいけない……ユーリが言っていた言葉を彼はその身をもって理解しているのだろうか?

 ただメルはなぜか彼が人殺しなんかではなく、尚且つ悪人にも見えなかった。


 もし、好き好んでやってる人なら……あの時も逃げずに襲って来てたはず。

 私はきっとそれで怖くなって動けなくなっちゃう……。


 メルがそう考えていると痺れを切らしたのだろう……。


「おいラゴン! ガキ一人にビビってんじゃねぇぞ!!」


 動きを止めた男に怒鳴り声を投げたのは鉄棍棒を手にしたルッツだった。彼は苛立ったように足で机を蹴りラゴンを急かす。

 しかし、ラゴンを急かすのはルッツだけではなく――。


「テメェがここまで使えないとは思わなかったな、ガキ一人殺せねぇのか!!」


 老人の罵声も飛び、ラゴンはビクリと身体を震わせる。

 すると彼はメルの方へと向き――。


「――むぅ!? む――!!」


 その顔はどこか切羽詰まっていてまともな思考じゃない事が見て分かった。

 汗はだらだらと流れていて、目はメルを見ているはずなのにどこか遠くを見ているようにも見える。

 

「お、俺は……もう、馬鹿にされるのは沢山だ!!」


 大声を出した瞬間手は伸び始め彼女へと向かって来る。

 その血走った眼に恐怖し、それでもメルは目を閉じる事しか出来ずにそんな自分が情けなく、悔しくて……閉じた瞼からは涙があふれ出た。


「忠告……したんだけどな」


 だが、そんな声がメルの耳に聞こえ……何時までも何もされない事に疑問を感じたメルはゆっくりと瞼を持ち上げた。


「……んむぅ?」


 涙越しに見えたのはラゴンが固まったように動かなくなっている姿で……周りを見てみると他の二人も固まっている。

 少年がなにかをしたのかと彼女は彼の方へと目を向けた。

 しかし、メルはそこで疑問を持った……彼は其処から動いていない。

 いや、正確には動いたんだろう……腕を伸ばしていて、ゆっくりとした動作でそれを元の位置に戻した。

 体術ではない、そもそも良く鍛えられてはいたが、体術を使える者の身体つきではなかった。

 メルが知る体術を主体とするバルドやケルム、それにシアとはまるで違って見えたのだ。

 それよりもずっとしなやかで……まるで彫刻と言っても良いぐらいの美しさだった。


 メルが疑問を浮かべていると、彼は歩み寄って来て硬直しているラゴンの身体を押す。

 すると巨体であるはずのラゴンは大きな音を立て倒れたのだ。

 普通ならば抵抗したり、倒れた時に声を上げるはずだが、ラゴンは固まったかのように動かず、そのまま倒れてしまった。

 メルはそれを見て大きな瞳を尚更大きくするも少年はその事に全く興味が無いかの様に彼女の拘束を解くと頭を下げ始め――。


「……ごめん」


 その表情はやはり悲し気で辛そうで……それでもどこか優し気で……先ほどメルと言い合っていた時とは全く違う顔だ……。


「俺がさっさと痛めつけてれば、こんな怖い目に遭わなかったのにな……」


 そう言ってメルの瞳に溜まった涙を彼は自身の袖で拭う。

 メルはそんな彼にされるがままになっていたが、そんな事よりも疑問だ怪我頭に浮かんでいた。

 彼は一体何をしたんだろう? それしか考えられない彼女は動かなくなった男達を順番に目を向け――。


「――――――っ!!」


 ――気が付いた。

 ルッツと言う男が鉄棍棒を握り此方へと向かっているのだ。


「駄目、駄目ぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


 男が狙っているのは勿論少年だ。

 その事に気が付き咄嗟に叫ぶが――。


「――っ!! ごっ!?」


 メルの目の前で……鈍い音を響かせながら鉄棍棒の餌食になった彼は壁へと叩きつけられる。

 腕は変な方向に曲がっていて口からは血を吐き出した彼は……。

 その場からは決して届くはずもない手をメルへと伸ばすと――。


「…………ろ」


 何かを呟いてがくりと力を失う。


「クソ!! 親父!! クソガァァァァこのガキィィィィ!!」


 メルは男の様子から二人の意識が無い事が分かった。

 死んだと言う事だろうか、いや……他に何があるのかと言う状況だが、怒っている理由は間違いなくそれだ。

 だが先ほどの一発じゃ気が済まないのかルッツは棍棒を振りかざし、彼へと向かう……。


 あの人が殺される――!!


『怪我じゃ済まない時だってあるんだよ?』


 このままじゃ……。


『人と殺し合わなきゃいけない時もあるんだ!』


 でも、もう血を吐いて……あの怪我じゃこのままでも――。


『仲間だって死ぬかもしれない……』


 私の目の前で……彼は死ぬ。



 少年の死を実感したメルの心臓が跳ねた。

 ……助けないと、ただそれだけが頭に残り、その時にはもうすでにメルは床を蹴り、目についた大ぶりの剣を手に取っていた。

 そして、鉄棍棒の男を双眸で捕らえると――。


「――――――――――――っ!!」


 メルはなにかを叫んだ気がしたが、その言葉も意味も理解が出来なかった。

 ただ、唯一分かったのは――彼女が振り落した剣はルッツと言う人の命を易々と奪ったと言う事だけだった……。







「………………」


 老人の剣は相当な切れ味で目の前に居た鉄棍棒のルッツという男は右肩から斜めにずるりと身体を真っ二つにされ、その場に落ちた。

 あふれ出る血と手に残る感触にメルは吐き気を催し、その場に崩れそうになる……手は震え、歯はガチガチと鳴り始め、大きな瞳からは勝手に涙があふれてくる……。

 初めて人を殺めてしまった感触は嫌に残っていて、怖いという一言では済ませられなかった。

 だが、自分でやっておいて気絶しそうな位の衝撃を受けつつも意識が保てたのは奇跡だ。

 そう言い聞かせ、彼女は血に塗れた剣を投げ捨て少年の元へと急いぎ、彼が吐き出した血で髪が汚れる事も構わず胸へと耳を当てると……心臓は微かだがまだ動いていた。

 呼吸もひゅー、ひゅーと言った感じでおかしいが、まだしている。

 まだ……彼は生きている! メルはそれを確認すると急いで窓の方へと顔を向け――。


「シルフ、……シルフ!!」


 ――相棒の名を呼び、彼女が窓から入ってくるのを確認すると叫んだ!


「フィーナママかジェネッタさんに早く!! ユーリママをここに連れて来てって!!」


 この怪我だ、下手に動かすよりここで微かにでも手当てをした方が良い、そう判断したメルは彼を助けられるだろう唯一の人をシルフに呼ぶように告げた。

 すると緊急だと分かったのだろう、強く頷いたシルフは返事をする事なくその場から去って行く――。

 メルはシルフを見送るよりも早く彼の方へと向き直ると右手を彼の胸へと押し当てる。


「我が友の傷を癒せ! ヒーリング!!」


 そして、一つの魔法を唱え、残った魔力を注ぎ込む……。

 しかし、その魔法はあくまで応急処置、薬さえあれば効果は上がるが内部の傷ではどっちにしても意味はないだろう。

 それでも何も出来ないよりはましだ! そう自分へと言い聞かせた彼女は魔法を維持し続ける。


「お願い、早く……早く来て、ユーリママ……っ!」


 そう……願いながら……。

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