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97話 治癒魔法

 メルはシュレムの話を聞き、一つの事に気が付いた。

 魔法がそもそも間違っていては治らない……そうではなく、何故魔法が使えたのだろうか? と言う事だ。

 母の言葉からすれば元は今の効果よりもずっと高い物……ならば何故効果は落ちてしまったのか……その事を調べるべく……メルはペンを走らせるのだった。

「……ふぅ」


 随分暗くなった頃、ランプの灯が揺らぐ部屋でメルは一息を着く……。

 目の前には書き出された二つの詠唱で……それは途中で止まっていた。


「確か傷を治す魔法を考えてるのよね? 出来たのかしら?」

「これが元になる式か? でもこっちは途中で終わってるな?」


 それを覗き込んだライノとリアスは首を傾げつつメルに問う、


「うん、こっちが元の式……それでこっちは短くなった方なんだ……でも……どこがいけないんだろう?」

「魔法ってやっぱり、ややこしいんだな? オイラには無理だ」


 丸でシュレムのような事を言うカルロスに苦笑いを浮かべたメル。

 だが、シュレムは――。


「やっぱりそうだよな!」


 カルロスを仲間と思ったのだろう満面の笑みを浮かべていて、周りの者達はメルと同じような表情を浮かべた。


「えっと、取りあえず、試したい事があるんだけど……」


 メルは気を取り直しそう切り出すと、ライノは頷き――。


「傷を治すのね? だったら協力するわ」

「え?」

「あら? 違ったの?」


 首を傾げ残念そうにするライノを見てメルは慌てて首を振る。

 勿論ライノに頼むつもりだったのだ。

 しかもライノは新しい魔法を作っていると思っているはずだ。

 だからこそ、メルは驚いたのだ……。


「本当に良いんですか?」

「ええ、大丈夫よ」

「ありがとうございますじゃぁ早速……」


 メルはそう言うと立ち上がり、ライノの後ろへと向かう。


 魔力も戻ってきたし、大量に使わなければ大丈夫。

 まずはちゃんと使えるか確かめないと!


「準備できたわよ」


 メルが少し考えている間にライノは傷口を見せており、大分塞がって来てはいるもののそれはまだ痛々しい物だった。

 それを見る度にメルは申し訳ない気持ちになる。

 この傷が出来た原因は忘れることなどできないからだ。

 メルは表情をこわばらせつつ、傷へと手を当てその口をゆっくりと口を動かし始める。


「我が前に倒れし者、我が友の傷を癒し、今一度立ち上がる活力を与えたまえ……」


 それはまだ長い元の詠唱。

 短くするのは何度も考えた……だが、元の効果が同じであれば短くしても意味が無いのだ。

 母は確かに効果が思ったより出ていないと言っていたが、彼女とメル以外誰も使えなかった魔法なのだから……。


「……ヒーリング」


 もし元言葉で紡がれる魔法で本当に使えないのならば想像力が足りないか、もしくは式が間違っている事になる。

 母の事だそれは無いだろう……。


 大丈夫、ユーリママの魔法は間違ってなんかない!


 ただ、そう強く願い……必死に傷が治る事を信じ目を閉じ想像する……。

 すると……メルは魔力が減るのを感じ、ゆっくりと瞼を持ち上げる。


「で、出来た?」


 でも、何で? だって……少なくともナタリアさえ成功しなかったのに……。


 確かに母の言葉を……魔法を信じたい一心で唱えた魔法。

 だが、心のどこかでは式が間違っているのではないか? と思っていた事はメル自身、自覚していた。

 しかし、魔力は以前のヒーリングより減っていくのが分かり、幼い頃母に賭けてもらった魔法よりはずっと遅いが徐々に治っていく傷を目にしたメルは――。


「出来た! ユーリママの魔法を私が出来た!」


 母の作った魔法を自分が成功させた。

 その事に喜びその表情を明るくさせ、メルは喜んだ。




 それから暫くし、メルは尻尾をぶんぶんと振り乱しながらライノの傷を癒し続けていた。


「あ、あの……メルちゃん?」

「えへへへ……ユーリママの魔法を私が完成させたんだ……えへへ」


 だが、その心はどこか違う所にあり――。


「メ、メル? 大丈夫か? 病み上がりでそんなに魔力を……」

「メルは天才だし、そん位は平気だって!」


 心配するリアスを余所に誇らしげなシュレム。

 だが、そんな彼女に呆れた顔を向けたカルロスが――。


「いや、天才なのと魔力の量は関係ないと思うぞ?」


 そう言った時だ。


「えへへ~……あ、あれ?」


 傷が大分癒えた所でメルの手の平に灯っていた光は消え、その場に膝を付く、


「ま、魔力切れ? あれ……思ったより」


 メルは自身の手の平を見つめ呆然としている。

 その様子からして思ったよりかなり早く魔力が切れてしまったのだろう……。

 幸い倒れるまで魔力を消費した訳じゃなさそうだが、立ち上がろうとしても力が入らない。


「そんな……天才のメルが……」

「へ? ちょっとシュレム? 私は天才じゃないよ!?」


 先程もそう言われたのだが、どうやら今の言葉で気が付いたメルは慌てて否定をする。


「そうか? だって剣術も魔法も、それに体術まで使えるじゃないか」

「元から出来た訳じゃないし……剣はフィーナママ、攻撃魔法はナタリア、体術はシアさんやバルドさん、補助魔法はユーリママの方が上だし……敵わないよ」


 それに……自分が強いなんて錯覚をしたから、私は人を殺す事になった。

 あの時、ちゃんと酒場の人にお小遣いを渡して対処してもらっていれば……ううん、ママ達に正直に言っていればそれだけで済んだはずなんだから……。

 だから私はもう絶対に自分が強いなんて思えない……でも――。


 メルはそう思いつつ、その表情を引き締めると盲目の少女の方へと目を向ける。


「リリアちゃん、もう少し待っててね? 魔力が回復したらすぐにその目を治して見せるから……」


 せめて、そうせめて母達の様にとはいかずとも自分の手が届く人達を護れるぐらいには強くなりたいと願いなら少女にそう告げた。





 それから数日。

 一向に動きを見せない手紙の主には不気味さしかないが、そのお陰もありメルの魔力は無事回復をした。

 そして、いよいよ……。


「いくよ、リリアちゃん」


 盲目の少女を目の前に座らせたメルはその瞳を手で覆い……。


「う、うん……」


 緊張した面立ちの少女は小さな声と共に頷き――。


「我が友の傷を癒し、活力を与えたまえ……ヒーリング」


 メルは魔法を唱え、その手に優しい光を灯す。

 部屋の中には勿論仲間達が居り、彼らは三人を除いて一様にその光に見とれていた……。

 何故なら今目の前で起ころうとしている事が……リリアの目が治ると言うのならば、それは魔法と言う物自体を変えてしまう事でもある。

 そう、ライノとカルロスはそれを目にするのが初めてなのだ。

 三人が驚かない理由それはもうすでに体験した事があったからなのだが――。


「…………」


 メルはそんな事を気にせずただ真剣な顔のまま魔法を維持する。

 時折自身の傷が痛むのだろう、顔を歪めても――彼女は魔法を解くことは無かった。

 そして、徐々に光が収まっていくと――。


「……どう、かな?」


 魔法が効いているのか不安なのだろう……メルは恐る恐るリリアに尋ねると、少女はゆっくりと目を開き辺りを見回す。


「お兄ちゃん?」


 少年の方へと目が向いた時、そう尋ねる。

 いや、今までもそこに居たのは分かっていたのだろう……だが、メルはもしかしてと思い心臓の鼓動が早くなるのを感じた。


「リリアちゃん、これ何だか分かる?」


 メルは近くにあった紙とペンと手に取り、リリアに尋ねる。

 すると――。


「……紙とペン?」


 リリアはそう答え――メルは表情を明るくした。

 やはり詠唱を短くした時の言葉を間違っていたのだと……だが、リリアの顔は笑顔ではあるがどこか浮かないもので――。


「リリア、どうしたんだ?」


 リアスが訪ねると、リリアは言い辛そうにメルの方へと目を向け――それがメルの不安を煽り……。


「も、もしかして霞んで見えるとか? ちゃんと見えてない?」

「違うの、はっきりは見える……でも……」


 リリアは慌てた様に首を振り否定をするが、ゆっくりと口を開き……。


「色が……ないの……」

「え……」


 その言葉にメルは鈍器で頭を叩かれたような衝撃を受けた。

 それはつまり……。


「失敗、した……の……?」

「で、でもちゃんと見えるよ? だから、もう大丈夫!」


 落ち込むメルに対し、リリアはその手を握りぶんぶんと首を振る。

 そんな彼女を見てメルは――。


「ごめん……ごめんね……」


 私の家の事で巻き込まれたのに……治して上げれなかった……。

 ううん、諦めたら駄目だ……どんなにかかっても治さないと……っ!!


 メルはそう誓うのだった。

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