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96話 太陽の魔法使い

 安静と言われつつもメルは視力を取り戻す魔法を研究していた。

 しかし、瞳その物ではなく神経が傷をつけられていたら瞳の構造を作るのでは意味がなく、それこそ回復魔法が無いと意味がないと行き詰っていたのだ。

 そんな時、シュレムは口にする。

「だったら、メルが作ればいいんだろ?」と……。

 ぽかんとするメルに胸を張るシュレム。


「え、えっとシュレム?」

「どうだ! これで解決だろ!」


 腰に手を当てさらに胸を張るとメルのそれよりも大きなものが目立ち、何故か祖母がよく口にする、母の胸を抉りたくなると言う言葉を思い出す。


「えっと、なんか寒気がしたんだが?」

「キノセイダヨ」

「何でそんな感情の無い声なんだ!?」


 びくりとするシュレムを見てすぐにメルははっとし……。


「えっと、とにかくそれは無理だよシュレム」

「なんでだよ?」


 メルは困ったような表情を浮かべ、兎を抱えながら椅子へと座るとシュレムに向き直り、その理由を説明し始める。


「だって、回復魔法ってユーリママの特権、ヒーリングはあくまでかすり傷を治すだけの魔法でそれを超える魔法を作るのは無理、元々ユーリママ達が作りたかったものもヒーリングとかけ離れてるんだよ?」

「…………それは知ってる」


 知ってるなら何故作ると言ったのだろうか? メルはそんな疑問を浮かべ尻尾を大きく揺らす。

 だが、それとは別にずっと頭に思い浮かんでいた言葉があり、それはすぐにシュレムへと伝えなければと考え、口にした。


「シュレム、ありがとう」

「ん? 急にどうしたんだよ」

「色々考えてくれて、嬉しいよ」


 メルが素直にそう伝えるとシュレムは納得がいかないような表情を浮かべ……。


「シュレム?」

「いや、知ってはいるんだけどさ、オレ出来ないってあきらめたら駄目だと思うんだ」

「駄目ってそれはそうだけど……」


 リラーグ一、いや世界一と言っても過言ではない魔法使いナタリア。

 そして、その弟子あり、娘である補助魔法では右に出る者が居ないユーリ……。

 その二人が作れなかった物をメルが作れるのか? そう思うと彼女は自然に無理だと思ってしまうのだ。

 いや、メル以外でもそうだろう……。


『あの顔は……シュレムはもしかして魔法って難しいの知らないのかな』

『いえ、知っているはずですよ?』


 精霊達も首を傾げる程で……メルはいよいよリリアの瞳を治すのがユーリ意外に無理ではないのか? と思い始めたのだが……。


「だからさ、ヒーリングを改良したら良いんじゃないか?」

「…………え?」


 シュレムは再びメルの予想を超える事を言い始めた。


「何を言ってるの?」

「ほら、昔かくれんぼに使ってた魔法! 憶えてるか?」


 驚くメルを余所に会話を続けるシュレム。


「それは覚えてるけど……」


 メルがそれを忘れるはずもない透明化(クリアトランス)の魔法だ。

 かくれんぼに使ってしまったら、行方不明と騒がれてしまい二人が両親に怒られたのは良く覚えている。

 だが……。


「それがどうしたの?」

「あれってユーリさんが式を変えたんだろ?」

「え? う、うん……」


 確かにあれはユーリママが式を変えた魔法、皆が使える様にって…………。


「だから、ヒーリングの式も変えても良いんじゃないか?」

「式を変える……」


 メルはシュレムの言葉を繰り返し……。


 でもあれは土壇場でユーリママが完成させた魔法。

 それまではずっと使えなかったって…………ん? 使えなかった? ……あれ? だったら、何で……。


「……何で詠唱が短縮されてるんだろう?」

「……は?」

「魔法って作る時は長い式を作るの! でも、ちゃんと使えるのを確認してそれに合った言葉を選んで短くするんだけど……」


 使えなかったのなら、何で最初から短縮されたの?

 もしかして、ユーリママは咄嗟の判断で覚えてる言葉を組み合わせたんじゃ?

 それじゃ……まさか……。


「メル?」

「ヒーリングは未完成……?」

「はぁ? 使えてるだろ?」


 シュレムの疑問は最もだ。

 魔法は確かに使えている……だが、メルは思い出したのだ。

 そう、未完成である理由にもなりえる言葉を――。


「ユーリママとナタリアが言ってたの、元々誰でも使える回復魔法をって作ったんだって……でも、結果は失敗使えなかった……式自体は合ってる何度も確かめたのに誰も使えなかった!」

「いや、今使えてるだろ? 何故か神聖……いや、太陽の魔法って言うのはメル達三人しか使えないけどさ……」


 そう、それも疑問の一つだ。

 だが、今はそれはどうでも良いとメルは考え――。


「うん……でも、タリムの王との戦いでユーリママが魔法を発動させた」

「それは聞いた。メルから何度も自慢のお母さんだってな」


 そう言われると若干恥ずかしく顔を赤らめるメルだったが、覚えていてくれたのが嬉しかったのだろう尻尾は左右にゆらゆらと振られ――。


「でもね、この魔法……元々想定してたのより効果が無さすぎるって言ってたの……」

「ん?」

「式は合ってる、二人が言うんだから間違ってる可能性は低い……でも、効果は見ての通りかすり傷を治すのがやっと、そもそも、魔法が使えなかった理由は誰も傷を治る過程を知らなかった!」


 メルの言葉を聞き、シュレムは難しい顔をする。

 それもそのはずだ……。


「いや、ユーリさんとメルは知ってるだろ? 使えるんだから……」

「うん、そこは疑問だよ? でも……ヒーリングって一番最後に出来た魔法だから……あんまり時間が無かったんだと思う……効果自体はナタリア程の魔法使いなら式を見ただけで危険かそうじゃないか解るし最初から短縮してたんだ」


 メルはそう口にするが、シュレムは首を傾げ――


「つまり、間違ってるけど使えて……間違ってるからちゃんと使えないって事か?」

「う、うん……そうだね、だからこそ、間違ってても使えるのは凄い事で私達はそれに勘違いしてたんだ」


 メルはシュレムに頷きつつ答えると再び机へと向かい、紙に式を描き始める。


「えっと……確か……」


 器用に片手で兎を抱きしめつつメルは式を一つ一つ書き出していく……。


「うわ……」


 それを覗き込んだシュレムは思わずそう口にし、顔を引きつらせる。


「こ、これなんだ? 明らかに詠唱と違う言葉がある、なんだこの変な文字」

「えっとこれは魔法を作る為の言葉に力を与える文字だよ、それのお蔭で魔法が使えるようになるんだよ」

「そうなのか、やっぱり魔法は苦手だ……」


 顔を引きつらせたままのシュレムを見て、メルは苦笑いを浮かべる。


「式は色々ごちゃごちゃしてるからね、今は魔紋があるから以前よりは簡単みたいだよ?」

「いや、いいそれより何でこの式を書きだしてるんだ?」

「必要だから……元の式が間違ってたら、そもそもの今の効果が限界なのかもしれないし……興味本位でナタリアに聞いておいて良かったよ」


 そうこう話している間も式を書き出していくメル。

 一方シュレムは紙から目を逸らし――。


「駄目だ、オレ文字とか見ると頭が痛くなってくる。意味分からないしな」

「シュ、シュレム? もしかして、シアさんの勉強に来なかったのって……」


 メル達がもっと幼い頃、読み書きを教えてくれたのはシアだ。

 彼女はシュレムの母でもあり、メルにとっても三人目の母と言っても良いぐらいなのだが……。

 何故か勉強の時にシュレムが居らず、後で怒られていたのは良く覚えていた。


「ああ、その後怒られてみっちり教えられた」

「怒られた上に結局やるなら、その時にやってた方が良いんじゃ?」


 メルが手を止め、シュレムを見上げると彼女はもうすでに明後日の方向へと目を背けており……変わらない姉の姿を見てメルはくすりと笑みをこぼす。


『メル達は勉強の話をしているみたいですね?』

『そうだね、でも勉強ってメルが遊んでくれないから私も嫌いだよ!』


 精霊達の言葉にメルは再びくすりと笑い。


「わ、笑うなよ……二度も……」

「ご、ごめん、今のはシュレムの事じゃないの」


 不機嫌そうなシュレムに誤りつつメルは「ふぅ」と息をつくと――。


「もしかして精霊か?」


 眉をひそめたシュレムの言葉に申し訳なさそうにメルは頷き……。


「なんて言ってたんだ?」

「ウンディーネが人は大変だねって言ってて、シルフが遊んでくれないから勉強嫌いって」

「オレ、シルフと仲良くなれそうだな」


 シュレムは何故か真顔でそんな事を言い始め、最後にはその顔を崩した。


「所で……」

「ん?」

「シルフってどんな姿なんだ? 精霊は可愛いってユーリさんが言ってたけど、実際に見た事が無いからな」

「シュレム……」


 メルは再び顔を引きつらせ、シュレムの名を呼ぶと彼女は焦りながら、手の平をメルに向ける。


「い、いや違うぞ? メル一筋だ。だけど漢って言うのはモテるものなのさ」

「いや、だからシュレムは女の子だからね?」


 呆れ顔のメルに何故か胸を張るシュレム。

 そんな彼女の顔を見てだろうか?


『メル、良く分からないけど……私寒気がする』

「し、知らない方が良いよ?」

「ん? どうした??」

「な、なんでもない、そのそろそろ作業に戻るね?」


 メルはそう言うと再び机へと向かうのだが……。


「その……メル?」

「何?」


 再びシュレムの方へと向いたメルの瞳には何処か遠慮がちのシュレムの姿があり――。


「どうした?」

「その、言いにくいんだが……兎、嫌がってるぞ?」

「へ!?」


 兎は抱かれ続け、嫌がり手足をバタバタとさせていて――。


「ご、ごめんね!?」


 メルは慌てて兎を床へと降ろした。

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