プロローグ
「メルーーー!!」
メルンという王国……主要都市リラーグの街の中、女性の声が響き渡る。
その声を聞いてか一人の少女はまだ見つかっていない事に安堵したのか物陰でほっと一息を付いた。
「もう私も十二なのに……」
いつまでも子ども扱いをしないでほしい、そう心の中で呟いた少女は祖母にもらったリボンで纏めた夕日色の髪をいじりつつこっそりと顔を出し女性が去って行った方へと目を向ける。
「自分だって冒険者のクセになんで私は駄目なの……」
そう口にした少女は納得がいかないと言った表情を浮かべ、尻尾を力なく垂らす……。
ナタリアもフィーナママもそうだ。
危ないから危険だからと……私が小さかったから分からない覚えてないと思ってるみたいだけど、私はしっかりと覚えている。
血塗れで帰ってきたユーリママの事を――。
あの時は不安で怖くて仕方が無かった……でも、後になって話を聞いて誇らしくも思った。
私の自慢の両親とその親は世界を救ったんだ! そう精霊たちが私に語り掛けてくれたんだ。
それを聞くたびに私の胸は熱くなり、純粋に冒険者にあこがれた。
母たちの様に、その仲間たちの様に……私も誰かの役に立ちたいと――。
「それが私の夢なのに……冒険者になるの事のどこが悪いって言うの!!」
少女は拳を握り、尻尾をピンと立たせると小さな声で叫ぶ。
「危ないからだって言ってるでしょ?」
「ひゃぁぁぁぁぁ!?」
すると突如後ろから聞こえた声に驚き跳ね上がる羽目になった。
彼女が恐る恐ると振り返ると其処には先ほど去って行ったはずの女性、母ユーリの姿があり……。
「い、いつの間に?」
「もう、メル帰るよ?」
「ちょ!? ひ、ひっぱらないでよ!?」
メルと呼ばれる少女はユーリに手を取られて慌てて立ち上がる。
逃げていたのに捕まった途端あっさりと言う事を聞くのは頭ではこれ以上の抵抗は無駄だと分かっていたからだ。
冒険者の都市、錬金術と医療の街、エルフの使者を送り届ける飛龍の翼――。
呼ばれ方が色々とあるこの街、リラーグは冒険者を目指す者には人気の都市。
だからこそ、この都市の試練は厳しく、王を含む数名に認められないと冒険者を名乗れない。
そして、その審査には彼女の目の前にいるユーリと言う女性も関わっている事も理解していた。
「分かったから……行くから!」
認めさせなければ意味が無い、そう思いながらも引っ張られながらついて行くメルはハッとした顔に変えると母に訴えた。
「でも、先に誰か探して!! えと…………また迷子になっちゃうでしょ!?」
「ぅぅ……そ、そうだね……フィーが探してるはずだから精霊にお願いしても良いかな?」
「はぁ……分かった」
メルは母にそう告げ精霊たちに声をかける。
彼女の瞳には大きな屋敷が目に入った……そこは国の王が住む場所で何故城ではないんだろう? といつも通りの疑問を感じた後に母の方へと目を向ける。
そして、夢を自覚した時から最早何度目かも忘れた事を心でつぶやいた。
どうにかして認めさせないと……私は冒険者になれなさそうだ……っと――。