ハッピーエンド
灰色に塗りつぶされた空と黒ずんだアスファルト。色を求めて窓の外を見渡しても、無機質な秩序が存在しているだけだった。
真っ白に照らされたオフィスで、仕事が上手く行かずに上司に怒鳴られ、その様子を見た同僚達には相手にもされず、完全に俺の居場所はない。
上司に謝り続けた後、定時になると誰にあいさつをすることもなく帰宅する。身体が重くて椅子を立つのに苦労した。
窓から眺めるよりも、外の世界は病的なほどに秩序を守っている。ビルの群れは等間隔に並び、行き交う人々は青い信号を見ると一斉に歩きだす。
簡単そうに秩序を守る。そんな誰にでも出来ることが俺には出来なかった。
生きているのがひどく不安定な状態で、揺らめきは身体の中を直接伝わり、俺はトイレに駆け込んで吐いた。
事が終わり、ふとトイレの床を眺めるとタイルの溝にミミズがいる。しかし何かが違う。それは頭でっかちで、しかもその頭には歪んだ猿の顔がついていて、キチチチチと妙な音を立てながら、こちらに近づいてくる。
気味が悪く足で踏み潰そうとした時に、素早くこちらの足を伝って、目の中へ飛び込んできた。
「おはようございます!」
俺は生まれて初めて、周りと同じようにあいさつができた。上司はニタリと笑っていった。
「やっと社会人らしくなってきたね。君にも仕事を回してあげるよ。」
同僚達も微笑みながらねぎらいの言葉をかける。世界中の人が俺を世界の一部として認めてくれていた。
全員、その目に例のミミズを泳がせながら。