119話 ルキフェルvsベリフェル
「紅色の短刀!実に美しい魔鬼剣だねぇ。」
ベリフェルが舌舐めずりして、何処からともなく二本の黒い剣が、両手に現れた。
「美しいものを壊すのは、心が痛むよね?ルキフェル。」
「生憎てめぇー壊すのには、心は痛まないな!」
ルキフェルは左腕を伸ばし、手のひらを上に向け魔力を放った。
すると、左手のひらから真っ黒な剣が、ゆっくりと浮き上がっていった。
「妖精魔剣・グラビティリアム・シャードック!」
左手を大きく横に振り払うと、浮いている剣がサタンの方に飛んで行った。
『拘束椅子を!?椅子にはエルフ様の拘束魔法が、かかっていますがあの黒い剣……嫌な予感がするよね。』
ベリフェルが剣を構えると、地面から足が一瞬弾かれて、直ぐに目の先の地面に吸い付いた。
「ウェイ・マニェ・ティスム!」
ルキフェルの飛ばした剣が、サタンに届く間も無く弾き飛ばされた。
弾かれた剣は壁を粉砕していった。
ガシャーン!と金属の砕ける音が、ベリフェルの背後から響いた。
『なに!?ルキフェルの魔鬼剣か…。』
直ぐに振り返ると、紅魔黒がシュヴァードとウルフードの拘束椅子を破壊していた。
『魔鬼剣がエルフ様の拘束魔法を破った!?本当に剣なのか……美しいね、それなら。』
ベリフェルが唇を噛み血を流して、左親指で拭き取り持っている剣の刃に塗りつけた。
左腕を伸ばして剣先を紅魔黒に向けた。剣に塗られた血がゆっくりと消えると、剣が変形し少し横幅が広くなり、細かな凹凸が刻まれて、より禍々しくなった。
「魔鬼剣・黒雷砲!」
剣先に小さく丸く黒い魔力が現れて、ゆっくりと膨張して拳ほどの大きさになると、突然数十倍に膨らみ、真っ黒な太い雷の光線が放たれた。
『くそ、ベリフェルの魔鬼剣め……あんな超高魔力を放つ剣なんてありかよ!』
「フードルコード……。」
『魔力が無い…。』
ウルフードが手のひらを見つめた。
「魔力は全部、吸い取らせて貰ったよ。」
ベリフェルが微笑んだ。
紅魔黒は2人の前に一瞬で移動すると、二刀を正面で交差させた。
それと同時に強力な黒雷がぶつかった。
それを見ていたルキフェルは、剣を操作しベリフェルに飛ばした。
ベリフェルは左手の体勢は崩さずに、右手の剣で攻撃を弾いた。
「前方注意な!」
ルキフェルが弾かれた剣を掴むと、思いっきり振り下ろした。
「後方だよねー。」
背後からの力の入った一撃を、軽々と受け止めた。
「クロワージュ!!」
紅魔黒は一瞬でベリフェルの腹を斬り裂き、左腕を斬り飛ばした。
「だから前方注意って、言っただろ?」
ルキフェルが悪そうにニヤケた。
「後方って言ったよねー!」
ルキフェルの背後に、腹に切り傷が無く左腕があるベリフェルが、左手に持つ剣を向けた。
「黒雷貫!」
黒い雷を帯びた剣が、ルキフェルの腹に突き刺さった。
「ちっ……グワッ…。」
口から血を吐き出した。
「背後の僕に気になってるのかな?
あれは砂鉄で出来た分身だよ。そして砂鉄を被った君の魔鬼剣も!!」
ベリフェルが剣を引き抜き走り出すと、紅魔黒は横向きの体勢のまま、引き寄せられていった。
途中で身体をひねり剣を構えた。
「遅いね、黒雷貫!」
横に回ったベリフェルが、紅魔黒の腰を貫いた。
「——ぐっ……ルキ……フェル様…。」
紅魔黒は自分の腰に刺さっている剣を、掴み強く握った。
ルキフェルは左手を上から振り下ろした。
「天地落架!!」
ベリフェルの脳天を真っ黒な剣が貫いた。
ベリフェルの真上にあった剣が、貫くまでわずか0.01秒、その衝撃で周囲の物全てが吹き飛んだ。
紅魔黒は吹き飛ぶ拘束椅子を、壊しながら移動し倒れた。
「……お…終わり…ましたね。ルキフェルさ…。」
紅魔黒が黒い煙に包まれて、元の剣の姿に戻り砕け散った。
ルキフェルは砕けた剣の破片をそっと握り呟いた。
「……ありがとう。紅魔黒。」




