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神さまの遺書  作者: ハタ
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射的

「大丈夫かい? あいつ危ないから、あんまり近付かない方が良いよ」

 助けてくれたのは、どうやら隣の屋台の青年のようだった。赤いスカーフを首に緩く巻き、牛革の手袋をしたその姿は、まるで昔のヒーローを思わせる。

「ありがとう、ございます」

「トウヤ、さっきはどうしたの。もう大丈夫なの?」

 心配そうに顔を覗き込むウミカゲに、申し訳無く感じて頭を下げる。冷静になってみれば、先程の自分の言動は理解しがたいものだった。

「ああ、ああ。大丈夫だ。ごめん、ごめんよ」

「トウヤ、青い客人、気を取り直して、射的なんてどうだい?」

 少しばかり気持ちの落ち込んだ僕らににっこりと微笑み、一つに束ねたブロンドの髪を靡かせる青年の手前には、射的用の銃が光る。背後には、悪趣味な人形が3つ、首を吊ってぶら下がっている。どうやらここは、射的の屋台のようだった。

「青い客人じゃあ無いよ。ウミカゲだよ。それから、僕はあんな人形の景品は不気味でいらないなあ」

「何? 名前があるのか。あまり好まれないぞ、伏せたらどうだ。見た所、”顔無しの客人”と似たような雰囲気だ。どちらも害は無さそうだけれど。

 さて、景品の話だが、勿論こんな人形を景品にはしないさ。何も、大事な景品を撃ち落とす事は無いだろう? だから、代わりにこいつらを撃って、景品を手に入れるのさ。

 彼らは罪人! 罪人は撃たれて然るべき!」

 そう話しながら、射的の屋台の青年は銃を置いた台の下からお菓子や玩具を取り出して、僕らに見せる。広げられたカードや戦隊ヒーローのフィギュア、ビイ玉にプラスチックのアクセサリー、スナック菓子は、まるで僕らには宝の山だった。人形に視線を移してみる。雑に作られた人形だ。縫い目も荒く、所々綿が飛び出している。布も経年による劣化か、元々良いものでは無かったのか、抱き心地が悪そうだ。

 人形には、魂が宿ると聞いた事がある。もしそれが本当なら、生まれてすぐに吊るされる彼らの運命は、なんと悲しい事だろうか。その身代わり人形には確かに、誰かの名前が書き込まれていた。

「……どんな罪を犯したの」

「そりゃあ、殺したのさ」

「さ、殺人犯! もう逮捕されたの?」

「いいや、彼らは罪に問われなかった」

「一体誰が殺されたの」

「……俺の、大切な親友さ」

 僕の最後の問いに射的の屋台の青年は悔しそうに答えて、ぐっと音が鳴るほど牛革の手袋を強く握り込む。

「なあ、トウヤ。俺たちの大切な親友は、殺されたんだ」

 切れ長の目が僕を捉える。僕の、親友が殺された?

 ざっ、ざざっ

『……僕はこの時、思ったのだ。自分は、2つも命を奪った。奪ったと言って……大差、無いのだ。僕は、愛されて良い、人間では、無い。これが、僕への罰だろうか……。どうであれ、僕は……もう、この涙を最後に、二度と……泣かない。僕は、なんて女々しいのだろう……。泣く事は、自分を慰める、行為だ。結局、自分が可愛いのだ。

 これが僕の、2つ目の、罪』

「……ねえ、今のって、神さまの言葉じゃあないの? 今、命を奪った、って……」

「「違う!」」

 ウミカゲの考察に、咄嗟に否定の言葉が出たと思えば、それは射的の屋台の青年の叫びと共鳴した。

「殺したのは俺じゃない、俺じゃあないよ! 殺したのはやつらだ!」

「あら、そうかしら。殺したのは貴方よ。貴方の弱い心」

 自らを抱きしめ、怯えたように震える射的の屋台の青年に、金魚すくいの屋台の青年が隣屋台から囁く。それは毒針から染み出る毒のようにささやかに、それでいてしっかりと体に浸透していった。

「違う、違う……っ俺は何もしてないんだっ!」

「そうよ、貴方は何もしていない。何も出来なかった。正義正義と宣いながら。加害者を模した人形を吊るし上げて英雄気分、いい気なものね」

「うるさい!! お前が、お前が悪いんだろ!?」

「……そうだわ。私も悪いのよ。皆悪いのよ。貴方も、悪いのよ」

「……俺は、悪くないっ……逃げろ、トウヤァ!」

 苦し紛れに青年がそう叫ぶ。それに何故だか従わざるを得ない気がして、僕は無理矢理ウミカゲの腕を引っ張って、黒い人の波の中へ突っ込んで行った。

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